第353話~野獣達と女神様~
かたこりまっくす!_(:3」∠)_(そろそろ整体とか行ってみようかな
エレンとエリーゼの二人と過ごし、皆の待機している場所に戻って暫くするとアマーリエさん――いや、アマーリエも無事に出産した。
「コースケ様……」
「アマーリエ、ありがとう」
「はい」
彼女の胸に抱かれている赤ん坊の髪の毛の色は黒だった。元々アマーリエさんは黒に近い栗毛、いわゆるブルネットヘアーの女性であったが、彼女が抱く赤ん坊の髪の毛の色はどこからどう見ても俺と同じ真っ黒の髪の毛である。
「男の子ですよ」
すやすやと眠っている黒い髪の毛の赤ん坊を胸に抱きながらアマーリエが微笑む。なんだろう、この赤ん坊を抱いている女性が放つ神々しさというか神聖な、冒し難い雰囲気は。これが母性か。
「そうか、男の子か。ならエリーゼの弟だな」
「お名前が決まったのですね」
「俺が提案して、エレンが了承してくれたんだ。この子の名前はどうしようか?」
「コースケ様に決めていただきたいです」
「そうか……そうだな、うーん。日本人っぽい名前ならともかく、洋名でコースケに似た名前ってあまり思いつかないんだよな」
コンスタンティンとかコンラッド、コリンとかならともかく、コー、あるいはコウで始まる名前ってあまり聞かない。日本人っぽい名前なら「こうたろう」とか「こうき」とかいくらでも思いつくんだがな。
「ニホンジンっぽい名前というのは?」
「俺の国で使われるような名前ってことだよ。やっぱ結構違うからな」
「そうですか……それではこの子はその、コースケ様の故郷で使われるような名前をつけて貰えば」
「いや、あまりこっちで聞き慣れない名前にはしないほうが良いんじゃないかな。一生ついてまわるものだし、最初の一文字だけ俺の名前から取って、こっちで馴染みやすい名前にしよう」
「そうですか。わかりました、コースケ様がそう仰るなら」
二人で色々と候補を出し合った結果、この子の名前はコンラッドに決まった。
「コンラッド、いい名前だと思います」
「そうだな。愛称はコニーかな?」
「可愛らしくて良いと思います」
二人ですやすやと眠るコンラッドを眺める。そうしていると、またシルフィ達が入室してきた。
「ご苦労。よく頑張ったな」
「陛下、ありがとうございます」
アマーリエがコンラッドを胸に抱いたまま頭を下げる。
「コースケの子を産んだお前ももはや私の身内だ。今後はシルフィと呼ぶように」
「はい、シルフィ様」
「アマーリエ、家族を呼ぶ時に様は余計だ」
「それではシルフィ姉様と」
「やれやれ……わかった、ではそう呼ぶが良い」
苦笑いを浮かべながらシルフィがコンラッドの顔を覗き込む。すやすやと眠るコンラッドを間近で見たシルフィの頬が緩んだ。
「うん、男の子も可愛いな。私も早く自分の子供を胸に抱きたいものだ。なぁ、コースケ?」
「そればかりは授かりものだからな。というか、このタイミングでそれ言う?」
「何を言っている、このタイミングだからだろう。これから一年以内くらいに生まれればアマーリエに乳母を務めてもらうこともできるのだからな。そろそろ当たると都合が良いんだがな?」
そう言ってシルフィがお腹の下あたりに手をやる。周りを見ると、アイラやメルティも俺に視線を向けていた。他の子達もだ。
「前向きに善処するから手加減してくださいお願いします」
「やはりコースケは外に出さずに城にいて貰うのが良いのではないか? 朝、昼、夜でローテーションを組んでだな」
「殺す気か?」
朝から晩までローテーションとか干乾びるわ。シルフィといいメルティといいグランデといいシュメル達鬼娘といいただでさえ底なしが多いのに。アイラは底なしではないけど怪しい薬や魔法を使うし、ハーピィさん達は群れで来る。ある意味でとても普通なのはエレンとアマーリエ、それにベルタさんだけだ。
え? セラフィータさん? あの人は……うん、タフなんだね。ドリアーダさんもね。あの二人はなんだろう。パワフルではないんだけどひたすらにタフ。底なし沼めいているので割と危険だ。
「そうは言うがな、コースケ。最近コースケはなんだかんだと外に出ていて、メリネスブルグにいる私やメルティ、アイラと過ごす時間が少ないだろう? これではできるものもできないのじゃあないか?」
「それはそうかもしれないけど、仕事振ってきたのシルフィとメルティだよね?」
「そうなんだが、こうやって赤ん坊を目にするとな……」
シルフィの視線がちらりとコンラッドに向く。メルティやグランデはずっとコンラッドの視線が釘付けである。魔神種と竜にガン見されてるのに気にせずすやすやと眠っているコンラッドは将来大物になりそうだな。
「コースケさん、欲しい。赤ちゃん欲しい」
「こーすけ、わらわもほしい」
「今の話聞いてた? こういうのは授かりものだから焦らずじっくり頑張ろうねって話してたよね?」
「そう、じっくりやるのが大事。だから頑張ろう」
そう言ってアイラがおの服の裾を掴んで引っ張り始める。シルフィやメルティ、グランデの目が爛々と光っている。アカン。これはアカン。
「待って、今はそういう気分じゃないから。今俺はパパモードだから。父性モードだから。性欲モードじゃないから」
「大丈夫、やる気を出す方法はいくらでもある」
そう言いながらアイラが微笑む。OKOK、落ち着こう。落ち着いて話し合お――ちょ、待て。メルティやシュメルが腕力を使い始めたら抵抗の余地が無いだろうが! やめて! 引っ張らないで!
「あっあっあっ、ちょ、待って! アマーリエ! 助けて!」
「ええと、ご健闘をお祈りしています。コースケ様ならきっと大丈夫です」
コンラッドを胸に抱いたままアマーリエが困ったような表情で微笑みながらそう言う。うん、我が子を守るために俺を信じて送り出したんだな。そういう風に解釈しておくよ!
☆★☆
それから三日間、俺は部屋に閉じこもっていた。理由? 察してくれ。何せお相手には事欠かない。しかも並外れてタフな人が多いのだから、自然とこうなる。回復魔法って偉大だよな。本当に。どんなに消耗しても、痛くなっても、擦り切れそうになっても一発で回復だからね。
「いい加減にしなさい!」
「子供が欲しいという気持ちは理解できなくもないですが、コースケのことも考えたらどうですか」
女神達の一喝によって俺のお籠もりは終わった。
「……」
「精も根も尽き果てた様とはまさにこのことね」
「私は勘違いをしていたのかもしれません」
今、俺は女神二人に保護されていた。赤い女神様と青い女神様は俺を守ってくださる。
「勘違いって?」
「私はこの人を節操なしの女たらしだと思っていたのですが」
「一側面ではあるわね」
「そうですね。ですが、それ以上に周りの節操も無さ過ぎますね」
「それはそうね」
「自分の撒いた種ではあるんだけどな……」
「ええそうね、撒き散らかした結果ね」
「イフ姉様、お下品ですよ」
アクアウィルさんからジト目を向けられたイフリータが肩を竦める。
まぁうん。実際に子供が産まれてシルフィ達の子作り願望が暴走した結果だな。
「あんたも。本当に無理な時はちゃんと拒否しなさいよ。何事も程々が肝心よ?」
「無理か無理じゃないかというと無理じゃないのと、結局俺も皆が好きだからなぁ……」
「それにしたって限度というものがあるでしょう」
「正直に言うと半ば無理矢理っていうのも嫌いなシチュエーションではないというのもある」
「そんな性癖を暴露されても困るんだけど」
「やはり助ける必要はなかったのではないかと思い始めてきました」
イフリータとアクアウィルさんが揃ってジト目を向けてくる。そう言わないでくれ。助け出してくれなかったらあと四日くらいは同じ感じで搾り取られてた気がするし。一週間耐久は流石に死にそう。まだまだレベル的な何かが足りないな。
「はぁ、まぁ良いです。とにかく、今夜私の部屋に来てください。話があります」
「……アクア?」
アクアウィルさんによる突然の夜のお誘いにイフリータが剣呑な雰囲気を醸し出し始める。
いや、俺を睨まれても。知らんがな。
「勿論二人きりではないですよ。レビエラも同伴ですし。良かったらイフ姉様もおいで下さい。ちょっと見てもらいたいものがあるのです」
「見てもらいたいもの?」
首を傾げる。何か面白いものでも手に入ったのだろうか? それなら今見せれば良いのでは?
「昼間でも見えないことはないかも知れませんが、夜のほうが都合が良いのです。ここまで話せば察することが出来るのでは?」
「夜、ってことは天体関係か。何か見つかったのか?」
アクアウィルさんには以前天体望遠鏡を作って渡したのだ。空の彼方に浮かぶ天体、オミクルに興味があるという話だったからな。
「そうでなければ呼んだりしません。色々と用意までしてもらったのですから、何か進捗があればパトロンに何かしらの成果報告をするのが筋というものでしょう」
そう言ってアクアウィルさんがツンとそっぽを向く。なるほど、何か仲良くなるきっかけになればと思っていたけど、こうして助けてくれるようになっただけでも大きな進歩かね。前までは遠くから冷たい目を向けてくるだけだったし。
「ちょっと、ズルくない? 私の方があんたのこと色々手伝ってるのにパトロンとかそういう話になったことないじゃない」
「えー、まぁ無かったけど要る? 研究開発部経由で予算とか取ってるじゃんか」
「研究開発部経由だと使途報告とか面倒なのよ。手続きも必要だし。私にも支援寄越しなさいよ」
「えー、どうしよっかなー」
「野獣達から助け出した恩人に向かって良い度胸ね。次も助けてくれる人が現れると良いわね?」
「OK、話をしよう。話せばわかる」
「良い子ね」
にっこり笑ってるけどお前、その指先のガスバーナーみたいな火は何に使うつもりだったんだよ。恐ろしい女だな、こいつは。そしてアクアウィルさんは何故面白く無さそうな顔をしていますか。怒る要素無いよね?
「しかし助け出した対価に金をせびるお姫様というのもいかがなものか?」
「それはそれ、これはこれ。私の個人的な研究に出資すればちゃんと成果を共有するわよ?」
「成果の共有ねぇ。そもそも何の研究をしているんだ?」
「あ、その話題は――」
アクアウィルさんが俺の言葉を止めようとしたが、遅かった。
「よくぞ聞いてくれたわ! 私が研究している分野はねっ!」
イフリータが目を輝かせながら早口で専門用語満載の魔法トークを始める。うん、わからん。
「こうなると暫く止まりませんよ」
「そっかー……」
その後、暫くの間アクアウィルさんと一緒にイフリータの魔法トークが落ち着くまでお茶を飲んで過ごすことになった。
あー、茶が美味い。話はわけわからん。専門用語を連発するのはやめてどうぞ。