第351話~落ち着かない時間~
短くてすまねぇ!
ちょっと私用で数日間あまり執筆に時間を割けません。ゆるしてね!_(:3」∠)_
「臨時かまどヨシ! 煙突ヨシ! 薪の備蓄ヨシ! 食事と飲み物の用意ヨシ! 清潔な布の用意もヨシ! ライフポーションの用意もヨシ! これで万全だな……? 大丈夫だよな……?」
「張り切ってるんだかなんなんだかよくわかんないっすね」
「コースケも動揺している」
俺が用意した軽食の一つである蜜飴玉――蜜酒に使われる花の蜜で作られた飴玉だ――をコロコロと口の中で転がしながら、ベラとアイラが何かを言っている。いや、ベラはコロコロしてなかったわ。バリバリしてたわ。飴玉はそう言う風に食うものじゃねぇから。
俺が設置したかまどではバンバンとお湯が炊かれており、エレンの出産を手伝っている女性達が忙しそうに働いている。出産の場は男子禁制ということで、もはや俺に出来ることはここでエレンと生まれてくる赤ん坊の無事を祈るくらいだ。
「物凄く落ち着かない」
「大丈夫。あれだけ回復の奇跡を使える神官がいれば何の問題もない。いざとなれば私も回復魔法で手伝えるし、ライム達もいる」
「ああ、そうだ。ライム達がいるとなんで大丈夫なんだ?」
ライムもポイゾがいるから大丈夫とかなんとか言ってたけど、ライム達の存在とその大丈夫っていうのがどうにも繋がらない。
「ライム達どんな隙間にも入り込める」
「うん、そうだな」
「つまり、やろうと思えば簡単に人体の中にも入り込める。当然、今まさに赤ちゃんが生まれようとしている女性のお腹の中にも」
「……なるほど」
そう言えば、少し前にアマーリエさんに話を聞いたときに穏便でない方法としてライム達の存在を頭に思い浮かべたんだった。そうか、当然出産を助けることもできるのか。しかもポイゾなら毒だけでなく薬にも通じている。なるほど。
「最後の手段ってことか?」
「ん。エレオノーラはアドル教徒だから、多分そうなる」
「アドル教徒だからか」
「そう。別に教義というわけではないけど、アドル教の信徒は自分の力と神の奇跡を助けに出産することをよしとする風潮があるらしい」
「へー……」
「でも、いざとなればライム達が出産を手伝うことになっている。エレンと子供の命が最優先。だからあの中にはライム達も待機している」
「なるほど。なら安心だな」
大量の神官にライム達もついているなら万が一ということもあるまい。
そうしてジリジリと待つこと三十分、そして一時間。
「まだ終わらないのか……」
「まだまだ。初産なら大体半日以上はかかる」
「半日……!?」
長丁場になるとは思っていたが、半日もか!? 分娩室となったエレンの私室からはエレンのものと思われる苦しげな声が絶えず聞こえてきている。こんな状態で半日……エレンの身体は大丈夫なんだろうか。
「……アイラは慣れてるんだな?」
「私は産んだこと無い。でも、解放軍として動き出す前に、何人もの子供が生まれた。黒き森のあの居住地で。その殆どは黒き森に逃げてきた際に犠牲になった男達の忘れ形見。私も何回も手伝った」
「そうか」
アイラは優秀な魔道士であり、錬金術師でもある。魔法や錬金薬を使った治癒はさぞや頼りにされたことだろう。
「本当に命懸けなんだな」
「うん。それでも子供は欲しい」
アイラが大きな目でジッと俺の顔を見上げてくる。
「それだけの覚悟がある。みんなそう」
「その重さを今改めて思い知ったよ。俺も重く受け止めないとな」
「ほどほどでいい。皆の覚悟をコースケが一人で全部受け止めたら潰れる。私達は私達の意思でそうしている。コースケ一人で全部受け止める必要はない。皆で一緒に支えあっていけばいい」
「そっか」
「そう。だから、エレオノーラが産む子供も、アマーリエが産む子供も、私達全員の子供も同然。何の心配もいらない。これは私だけでなく、全員の総意」
「……そっか」
まったく。アイラには頭が上がらないな。こうして俺の心配を先回りしてくれるんだから
「ここはもう大丈夫。産まれそうになったらまたライム達の誰かを行かせるから、コースケは自由にしてていい」
「そうは言うけどな、あの状態のエレンを放っておいて自由にってのは俺のメンタル的にかなり無理があるぞ」
「今後もこんなことが何度でもあるから、慣れたほうが良いと思う」
「何度でも」
「何度でも」
「何度でもだねェ」
「何度でもっすね」
「何度でもね」
アイラだけでなく、俺の護衛として傍に侍っていたシュメル達もそう言って頷く。そっかぁ、何度でもかぁ。まぁ一人につき二人か三人は俺の子供を産んでくれるとしたら、それだけでも結構な回数になるなぁ。二人や三人で済まない気がするけど。
「立ち会うのが最初だからこそ、ここにいることにするよ」
「ん、わかった。なら何かして気を紛らわせるのが良い。コースケの世界にあった赤ちゃん用の道具とかあるなら思い出して作ってみる」
「なるほど、それは名案だ」
何かに集中していれば、このジリジリとした焦燥感もいくらかは紛れるだろう。赤ん坊用の道具か。うーん、使い捨てのおむつとかはこの世界には合わないかな? おもちゃ方面で攻めてみるのはどうか? ああ、離乳食を食べさせる時に使う赤ちゃん用の小さな椅子とか良いんじゃないかな? 抱っこひもとかは……こっちにもありそうだな。
うん、焦燥感のあまりあまり頭が回らない。でもこれは良い考えだと思う。焦る頭を少しずつ冷やして、アイラやシュメル達の話を聞きながら色々と作ってみることにしよう。