第348話~親子水入らず(複数)~
わずかに間に合わなかった_(:3」∠)_
「というわけで、俺は世界で二番目に安全な場所で時間を過ごそうというわけだ」
ハーピィさん達用に作った専用住居で寛ぎながら、俺はそう言った。
キリーロヴィチとの世間話を終えた後、ハーピィタワーに送ってもらってそのままハーピィちゃん達の様子を見ることにしたのだ。シュメル達にはそのまま城まで一度帰ってもらった。
「ぱぱー」
「とうちゃー」
「おお、よしよし……まって、ちょっと手加減して」
予想以上のパワーで突撃してくるハーピィちゃん達を受け止めながら慈悲を乞う。子供はいつも全力で可愛いな。でも全力を出されると非力なお父さんは吹っ飛びかねないので手加減してね。
「二番目ですか? 一番じゃないんですか?」
僅かに頬を膨らませる皆のリーダーで青羽ハーピィのピルナであったが、俺は首を横に振った。
「流石にライム達と近衛の皆さんに守られているメリナード城内と比べるのは無理があるだろう」
「悔しいけど、それは間違いないね!」
俺の反論に茶色羽ハーピィのペッサーがケラケラと笑いながら俺の膝にへばりついているハーピィちゃんを引っ剥がす。そして君が俺の膝の上に座るんかい。大人気な――ああ、そして自分がその子を抱っこするのね。
「今日はここに泊まっていくんですか?」
「いや、エレンの予定日が近いからな。いつ生まれるかもわからんし、暫くは城で過ごす予定だ。こうやって顔は出す気だけど」
「そっかー。まぁ仕方ないよね。人間だと出産は大変らしいし」
「ハーピィはそうじゃないのか?」
「私達は慣れてますからねー」
「慣れてる……?」
「いつもこれくらいの卵産んでるから」
そう言って俺の膝の上に座っていたペッサーは赤ちゃんの頭くらいの大きさを自分の翼で示した。ああうん、そうね。確かに君達は月に何回だかは知らないけど産んでるよね。なんなら食べたこともあるわ、それ。この世界ではハーピィやリザードマンの産む無精卵を食べるのも、牛とかの獣人の女性から絞った乳を飲むのも普通のことだからね。俺は未だに慣れないけど。
「なるほど。理由はわかったけど反応に困るな」
「あはは、私達と旦那さんの仲なんだから今更今更」
「デリカシーの無い女は引かれますえ」
「親しき仲にも礼儀ありと言いますでしょう。女として最低限の恥じらいは持ちなさいな」
茶色羽ハーピィのカプリと白羽ハーピィのイーグレットがけたけたと笑うペッサーにジト目を向けている。うん、君達の言うことは正しいけど喧嘩はしないでね。
「あ、あの……これからどういう風に動いていくんでしょうか?」
少し離れた場所で眠りこけた子を撫でつつ、茶色羽ハーピィのフラメが聞いてくる。
「動いていくってのは俺のこと? それとも国のこと?」
「えっと……両方です」
「両方かー。まず、俺は暫くお休みだな。エレンの出産を見守りつつ、メリネスブルグに留まって雑務をこなしていくつもりだよ。冒険者ギルドや商人組合に中途半端に手を出した状態だし、缶詰や即席麺の生産体制がどんな感じになっているかも調べたいし、他にもやりたいことは色々あるからな」
「コースケさんは相変わらず忙しいですね」
「性分だから。で、国の方の動きなんだが……」
俺は少し考える。
「まぁ、俺の口からはなんとも言えんな。俺はメリナード王国の運営そのものには積極的に関わっていないから。シルフィに言われればこの前の北方戦役の時みたいに戦いには行くけど、ある意味で下っ端の兵士と変わらんし」
「下っ端の兵士は無理があると思うなぁ……」
「旦那はん、それは流石に……」
「無理があると思いますわ」
「気持ちはね、気持ちは。あくまで気持ちは」
総ツッコミを食らったので弁明しておく。本気で下っ端の兵士だとは思ってないから。
「で、そんな俺が考えるメリナードの今後の動きは……」
「動きは……?」
「なんもわからん」
言った瞬間、全員がずっこけた。うん、いい反応だな。そういう反応を期待していた。
「ちょっと、旦那さん?」
「ははは、まぁそれは冗談としてもな。俺の立場だとそういうのは軽々に口にはできないんだよな」
「なるほどー?」
俺の膝の上に座っているペッサーがわかったようなわからないような口調でそう言いながら首を傾げる。
「ここで話したことが外で漏れるとは思わないけど、万が一がある。王配という立場の俺が不用意なことを言って、それが巷に流れでもしたら大変だからな。まぁ、そうは言ってもそれじゃスッキリしないよな?」
コクコクと皆が頷く。うん、ハーピィちゃん達も頷いてるけど君達はわかってないよね。でも可愛いから良し。
「とりあえず、今後聖王国との大きな戦は無いんじゃないかと思うよ。少なくとも暫くはな」
「「「なるほどー」」」
一応これで納得はしてくれたらしい。今後シルフィがどのように聖王国への対応を決めていくかは俺にもわからないが、ここで侵攻軍を編成して攻め込むという手は……恐らくは無いだろう。やるとしても小規模の部隊を聖王国の領土に潜り込ませての工作活動がメインになるはずだ。
「私達はお役御免ですの?」
「まさか。聖王国との戦争が終わったとしても皆の活躍の場はいくらでもあるさ」
この世界の通信はまだまだ未発達だ。権力者や裕福な者でないと遠方に報せを届ける手段が殆どない。行商人に手紙を託すのが精々で、あおtは大金を払って冒険者などに配達を依頼するくらいだろうか? それにしたって届くかどうかは運次第である。帝国や聖王国にはちゃんとした郵便組織――聖王国の場合はアドル教の中だけで運用されている――があるようだが、メリナード王国にはそれがない。
エアボードによる都市間高速移動とハーピィさんによる三次元的な機動による市内配達能力を合わせれば、極めて優秀な郵便組織を作れるのではないかと俺は考えている。
「それなら安心だねー」
「そうだぞ。それにもし皆がお役御免になって軍の仕事が無くなっても俺が養うから大丈夫だ」
俺がちょっと本気を出せば一週間もせずに広大な農地が出来上がるからな。もしハーピィさん達と一緒にメリナード王国から放逐されてもどっかに適当に農地でも作って自給自足しつつ、俺が何か作るなり鉱石でも掘るなりすれば全員養うことなんて楽勝だ。
「「「……」」」
「あれ?」
などと考えていると、いつの間にかハーピィさん達が全員黙っていることに気がついた。いや待て、何故子供達をお昼寝部屋に連れて行くのかね? いそいそと布団を敷いているのは何故だ?
「なんでもないことみたいに全員面倒見るって言うの、かっこいい」
「流石は私達の旦那さんだなー」
「ほんに男らしいわぁ……」
アカン。全員目がヤバい。漫画とかだとハートマークになってるやつだこれ。
「寝かしつけてきたら交代ですわよ」
「夜までは大丈夫だよね? よーし」
「何がよーしか。待て、落ち着いて話し合おう」
「話はお布団の上で聞かせてもらう」
「ウワーッ!」
子供でも結構パワフルなのに大人が集団でかかってくるのはズルいと思う。勝てるわけがないんだよなぁ!
わぁいおうまさんたのしい(^q^)(手遅れ