第347話~帝国外交官との面会~
最近夜更しが多くて……生活態度を改めないと_(:3」∠)_
「毎回のことですが、王配という立場で他国の大使館に気軽に遊びに来るのはどうなんですか?」
「あれだよあれ、遠交近攻って言うだろ?」
「コースケ殿はたまに妙な知性を垣間見せてきますね」
と、話し合う俺とキリーロヴィチ――ヴァリャーグ帝国外交官――の視線の先。
「よォ、久しぶりだねェ……? 元気にしてたかァい?」
「へ、へへ……どうもシュメルさん」
至近距離で上からシュメルに見下され、震え上がっているキュービの姿があった。容赦なく刈られた全身の毛はとっくに生え変わっており、一度失ったが故にしっかりとお手入れをしているのか妙に毛並みが良い。
「随分と艶の良い毛並みになってるねェ……? コースケを売った金でイイモンでも食ってたのかい? 良い毛皮になりそうじゃないか、えェ?」
「そ、そんなことないっすよ。慎ましく、品行方正に暮らしてたんで」
「ふぅン? 品行方正、ねェ?」
「たすけて」
キュービがこちらに視線を向けて助けを求めてくるが、無視である。俺が奴に嵌められたのはもう二年近く前の話だが、一つ間違えば俺は死んでいたからな。この恨みはそうそう晴れんぞ。
「それで、今年も秋になりますが情勢はどうですかキリーロヴィチ氏」
「それがここ一年は妙に大人しいようですね。亀の子のように防御を固めているそうで、大きな会戦が発生する兆しがありません。ギレーズニク平野――帝国と聖王国の係争地となっている平野ですが、そちらに割く戦力はあまり変わっていませんが、どうも北方や南方の兵力を動かしている気配がありますね。これはそちらの方が詳しく把握しているのでは?」
「残念ながら俺は王国東側の事情に明るくないんだよなぁ。ただ、話によると小競り合いなども少なくなって、軍事行動らしき動きも縮小傾向らしい。はて、それは北方から南方から動かしている兵力は何をしているのかね?」
「何をしているんでしょうねぇ?」
お互いに顔を見合わせながらにこにこと笑みを向け合う。
つまり、聖王国が北と南から動かした兵力は帝国との前線である東にも、メリナード王国との前線である西にも送られている気配がないというわけである。
「……内乱か?」
「さて。内輪揉めか、それとも奴隷とされている亜人達の反乱か。どちらにせよ聖王国内で何かが起こっているのは間違いないでしょうね」
「何か掴んでるんじゃないのか?」
「その言葉はそのままお返ししましょう」
再びニコニコと笑顔を向け合う。俺は全く情報を知らないが、キリーロヴィチがこう言うならこいつはメリナード王国が聖王国内で起きていることに一枚噛んでいると思っているのかも知れない。或いは、俺にそう思わせるためのミスリードか、それとも俺から何か情報を引き出そうとしているのか。
「ま、答え合わせが出来る日はそう遠くはないかもな」
「そうかもしれませんね。それで、今後の帝国とのやり取りなんですが、海路を使えるようになると捗るかと」
「気が早い話だなぁ。海路は聖王国をどうにかしないと使えないだろう?」
メリナード王国にも港はある。レオナール卿が守護を担当しているメリナード王国東部、その南東に結構大きな港を擁する街があり、その昔は聖王国や帝国とも貿易をしていたのだという。今は帝国に向かう航路を聖王国に押さえられているため、帝国との貿易は出来なくなっているはずだが。
「しかし、聖王国に向けた食料輸送に船を使うのでしょう?」
「ヘーソウナンダー」
「声、声」
初めて知ったヨー、という体で流そうとしたが、スルーできなかったか。やるなキリーロヴィチ。
「隠す気が無いでしょう?」
「うーん、うちとしても亜人奴隷の変換を交換条件にされるとなぁ。その上ちゃんと金は払うって話だし。まぁ可能な限り毟ってやろうという話にはなってるみたいだな」
食糧品だけでなくエルフ製の蜜酒や工芸品、それに宝石類などの贅沢品を中心に聖王国との取引を行い、聖王国から資金を毟り取ってやろうというわけである。ただし、ミスリル製品や武器に使える鉱石類などの輸出はNG。宝石類も魔法道具などの素材にできないよう装飾品としての研磨を済ませた製品に限ることにしている。
研磨を済ませてしまっても魔道具などに転用することは不可能ではないが、その場合は研磨した宝石類を更に小さく砕くなり研磨なりしなければならなくなるので、費用対効果が大変に悪くなるらしいのだ。
「まぁそんな感じでな、うちとしては真綿で首を絞めるようにじわじわと聖王国を締め上げてやろうと思っているわけだ」
「そう上手く行くと良いですがね」
「ははは、まぁ何もせんよりはな」
聖王国だってこっちの意図は察しているだろうから、それなりに手を打ってくるだろう。しかしこちらもそれは同じこと。手を変え品を変え、じわじわと追い詰めていけばいい。こちらは似重年前に連れ去られた国民達――亜人奴隷という弱みがあるが、あちらにはあまりにも多い戦死者と捕虜、二正面作戦を強いられている苦しい状況、慢性的な食料不足といった感じで弱みが多い。今のところは有利にことを運べるだろうと俺は思っている。
それに、聖王国内で何かが起きているならそれを利用する手もあるだろう。それが内乱であるにせよ、亜人奴隷達の反乱であるにせよ、だ。こちらから対立を煽り、こちらにとって都合の良い勢力に助力することによって聖王国内の混乱に拍車をかけるという方法だってある。
「ああ、そうそう。ちょっと色々と出張してきたんでな。各地の特産品を買ってきたから皆で分けてくれ」
「それはありがとうございます。今度、帝国産の蒸留酒が届く予定なので、到着次第献上させて頂きますよ」
「それは楽しみだな」
なお、俺がキリーロヴィチと話している間、後ろでキュービがずっとシュメルにいびられていたが、徹底的に無視した。窓からはハーピィさん達もニコニコしながらそれを覗いていたので、傍から見るとかなりホラーな状況だったな。あの状況で顔色一つ変えず俺と話しているキリーロヴィチはやはり只者ではないと思う。
しかし、聖王国内に内乱の兆しね? 実際に聖王国内部で何が起こっているのかはわからんが、これは大規模な戦争でフィナーレという形にはならなそうな感じだな。内部崩壊を助長する形での干渉が今後のメインになりそうだ。
ただ、追い詰められると一発逆転でなにか碌でもないことを企てる可能性もあるからな。今後はより一層身辺に気を配ることにしよう。