第346話~ライム達とおしゃべり~
寝坊しました_(:3」∠)_(ゆるして
翌朝である。いや、正確にはもう昼時である。
え? 昨日の夜はどうしてたのかって? それはうん、聞かないでくれ。暫く城を空けていた俺に夜の自由がある訳がないのだよなぁ。この時間までベッドの上で身動きできなかったという状況から察して欲しい。
とにかく昨晩はシルフィがとても甘えてきて可愛かったです。ただ、最近デスクワークが多すぎるせいで体力が有り余っているのか……うん、大変だったよ。
朝風呂ならぬ昼風呂を浴びて身支度を整え、遅めの昼食を頂く。まぁ、頂くと言っても完全に他の人と時間が合っていないから、自分の部屋でインベントリから出したハンバーガーをパクついているわけだが。
「お昼食わんかったの?」
「ハンバーガーは別腹じゃろ」
「左様か」
食ってたらどこからかグランデが現れたので、グランデにもハンバーガーを出してやった。まぁ一人で食べるよりはずっと良い。食欲に釣られてきただけかもしれないけど、グランデに感謝だな。
「さーて、メシ食ったし出かける……ためにも先触れとか必要なんだっけ。めんどくさいなぁ」
「人族のお作法なんぞ無視すれば良いじゃろ。お主は妾の伴侶ぞ? つまり竜も同然じゃ。竜は人族の理など知らぬ顔で自由に行動するもんじゃ」
「それはそうなのかもしれないけど、人族の中で生きる以上は人族のルールにある程度従わないとなぁ。そうじゃないとメッてされるだろ。メルティ辺りに」
「やはり人族のルールには従うべきじゃな。うん」
メルティの名前が出た瞬間のこの熱い手の平返しである。メルティの場合は『メッ!』が『滅ッ!』になりかねないからな。だってメルティって鉄製の分厚い扉を素手で破った上に引き裂いて入ってくるんだぜ? そんなのにメッされたら死ぬだろう常識的に考えて。
「それで、どうするのじゃ?」
「うーん、まぁ行こうと思っていたのはヴァリャーグ帝国の大使館だからな。そっちには先触れを出しておくとして」
パンパンと手を打ち鳴らす。
「ふむ?」
唐突な俺の行動にグランデが首を傾げたが、そうしている間に部屋の隅からライムが現れた。
「よんだー?」
「呼んだ呼んだ」
「なあになぁにー?」
ライムがにこにこしながらするすると近寄ってくる。スライムって一般的に鈍いイメージだけど、ライム達は全然そんなこと無いんだよな。普通に速い。多分俺が走るより速い。
「ライム達にお土産があるぞー」
「わぁい」
インベントリからお土産用に買ってきたものを色々と取り出してライムに渡す。包んでもらった屋台の食べ物や果物、それに本だ。装身具の類はライム達は身につけることができないし、化粧品なども彼女達には使いようがないので、彼女達へのお土産は概ね食べ物か本である。
ベスだけは油の類が好みなので、特産の油――植物油や獣脂なども関係なく、色々と買ってきて渡していたりする。ポイゾは毒の類があると喜ぶんだけど、毒ってそうそう売ってるものじゃないからなぁ……毒を持っている魔物を狩った時に、その死体や毒袋などを渡すくらいか。流石にここでそんなものを出したら魔物の死体を体内に取り込んだライムが地下まで移動していくというホラーな光景が展開されるので、やめておく。
「んー、地下いくー?」
「そうだな。出かけたいから、ヴァリャーグ帝国の大使館に先触れを出すように言っておいてくれないか?」
「わかったー」
ライム達は城中に分体を潜ませているので、こうして言伝を頼めば良い感じに適切な人に言葉を伝えてくれる。とっても頼りになるスライムなのだ。
ちなみに、こうして城の警備をするのはその日によって担当が違う。今日はライムが担当であったようだが、その日によってベスだったりポイゾだったりするのだ。
「グランデは行かないのか?」
「遠慮しておく。この城の地下はそやつらの縄張りじゃからの。妾は足を踏み入れぬようにしておるのじゃ」
「そっか。それじゃあ行ってくる。誰かに聞かれたら俺は地下にいるって言っておいてくれ」
「うむ」
グランデと別れて地下へと向かう。当然のように大きくなったライムに抱っこされて運ばれているが、この城ではよくある光景なので既に誰も驚いたりしない。いつからだろうか? こうして運ばれていると「またか」みたいな目で見られるようになったのは。
「あ、あれ? あれ良いんですか?」
「気にしなくて良いです。いつものことですから」
途中、メイド服を来た獣人女性達に目撃されたが、レビエラさんがいつものことだとバッサリと切り捨てていた。はい、いつものことなんです。
そうしていくつかある――何故か本当にいくつかある――地下への入り口から地下道に降り、魔法の光で照らされたライム達の寝床に辿り着く。
「おかえり。昨日は忙しかったわね」
「それでポイゾ達を蔑ろにするとは良い度胸なのです」
「別に蔑ろにしてないじゃないか。起きて飯食ったらこうして来たわけだし」
「本当は大使館に出かけようと思ってたくせによく言うのです」
「行こうかとは思ったけど、先にポイゾ達に会おうと思ったからライムを呼んだんじゃないか」
その気がなければ部屋の外に控えている近衛兵にでも言いつければ良いだけの話だからな。
と、そんな風にポイゾとやり取りをしていると、ベスがパンパンと手を鳴らした。器用なことするなぁ。
「はいはい、そこまで。結果的にちゃんとコースケは私達のところに遊びに来たんだから拗ねない」
「うんうん」
嬉しそうに頷きながらライムが俺の身体を文字通り全身で包み込む。この冷たくも熱くもなく、不快でもない絶妙な加減は素直に凄いと思う。
「それじゃあ出張でどんなことがあったか話しながらお土産を開けていこうか」
「わーい、おみやげー」
出張先で買い集めてきた本――物語の本や魔導書など――や、地方の特産品、屋台の食べ物や狩った魔物などをインベントリから取り出し、これはどこの街のどんな店で買ってきたとか、その街ではあんなことがあった、こんなものを見たなんて話をしていく。基本的に彼女達は城の地下と城の敷地内でしか活動することができないので、外の話をすると興味深げに聞いてくれるのだ。代わりに、この一ヶ月間城であったことを聞いていく。こうして俺は俺が不在であったこの一ヶ月のことを、彼女達は外のことを聞けるというわけだな。
そうして話している間にどうやら大使館への先触れが終わったようなので、ライム達と別れてヴァリャーグ帝国の大使館へと足を運ぶことにした。
目的としては帰ってきたぞという顔見せと、帝国と聖王国の戦争の状況がどうなっているかという確認だ。まぁ、後は狐野郎の面でも拝んで茶でもしばこうかなというアレである。
いや、茶をしばくだけなら城にいくらでも相手がいるんだけど、基本的に女性ばっかりだしな……気軽にというわけでもないが、男同士で喋れるのって今だとあそこくらいしか無いんだよ。レオナール卿もダナンもメリネスブルグに居ないし、ウォーグとかの他のよく話してた面子も北方に行ってたり、国中に散って色んな場所で管理職として働いてたりするからさ。
そんなわけで、俺は護衛のシュメル達とハーピィさん達を引き連れて大使館へと足を運ぶことにした。
ハンター業はやる気はないです_(:3」∠)_(なんかあのシリーズは動きがもっさりしてて苦手