第341話~朝食と服選び~
間に合ったぜ!_(:3」∠)_
「いやァ、大変だったんだよォ? 命を助けてもらったばかりか、怪我や今後に響く傷まで治して貰った以上は……って完全に決意に満ちた顔でアンタの部屋に行こうとするあの子らを止めるのはさァ?」
翌朝、水場で顔を洗っているとシュメルにそんなことを言われた。
「よくやった。グッジョブ」
「まァ、流石に陛下と宰相殿と宮廷魔道士殿の許可も無い状態ではねェ?」
「許可があったら通してたのか」
「そりゃそうなるよねェ」
「そうなるのかぁ……」
一体八名のうち何人がそのような行動を起こそうとしたのかは知らないが、本当にそういうのは良いから自分の心と身体を大事にして欲しい。
「でもねェ? アンタも悪いんだよォ?」
「なんと?」
「施すだけ施して対価を要求しない。慈悲深い行いだけど、施された側にとっちゃどうかねェ? 勝手に施してくれたんだから知ったことかと開き直れるような根性のやつならともかく、そうでない奴はなんとか恩を返そうと思うだろォ?」
「ああ、まぁ、それはそうか」
「そうさァ。そうなると、今のあの子らには自分の身体くらいしか差し出せるものが無いわけさァ。幸い、アンタは男だしねェ?」
「む……」
そういったことには頭が回っていなかったな。
「でも昨日の今日だしなぁ……どうしたら良いと思う?」
「そりゃァ、恩を返そうとしてるんだから、恩を返せるような提案をしてやりゃァ良いんじゃないかい? アンタの下で働くように言うとかさァ」
「俺の下で、かぁ」
なかなかに難しい話だ。今までの俺の業務内容的に直属の部下を持つ必要ってのがあまり無かったんだよな。ハーピィさん達はちょっと特殊だし。
「うーん、なるほど。部下か、なるほど」
考えてみれば商人組合や冒険者ギルド関係でそれなりに城下町に行く用事がある。でもこの前暗殺未遂事件があったから、今後は外出も難しくなってくるだろう。そうなると、俺の手足となって商人組合や冒険者ギルドに言ってくれる人材が居ると助かるのでは? でも、最低限文字の読み書きと簡単な計算くらいは出来たほうが良いんだよな。あとは身分とかの問題もあるのか?
「パパっと解決できる感じではないけど、指針は出来た気がする」
「そうかィ」
シュメルはそう言って口元に笑みを浮かべた。
☆★☆
「はい、おはようございます」
「「「おはようございます」」」
身支度を終え、全員で集まって朝食を取る。これは昨日のうちに今日の朝食は全員で揃って取ろうという話をしておいてもらったのだ。
「まずは朝食。食べたら用意しておいた服を吟味して欲しい。布や裁縫道具もあるから、アレンジしたり何か作ったりしたいものがあるなら作ってくれても構わない。他に何か希望があったら用意するから、遠慮なく言ってくれ。大概のものは用意できるから」
俺の言葉に彼女達は互いに顔を見合わせた。大概のものは用意できると言っても、見たところ俺は大荷物を持っているようには見えないだろう。
「この宿泊施設を作ったのも旦那っすから。旦那はなんでもぽんぽん出せる魔道士みたいなもんなんすよ」
「なんでもではない。素材があるものだけだ」
「殆どなんでもじゃないっすか」
女性達はわけがわからないよ、という顔をしているが説明は……後で良いか。
「とりあえず朝ごはんを食べよう。いただきます」
というわけで朝ごはんである。今日のメニューは麦粥と食べごたえのある肉の腸詰め、それに千切りキャベツの漬物である。麦粥が蒸したジャガイモだったら実にドイツ風味の食事だったな。偏見かもしれんけど。
「たくさんあるから遠慮せずに食べてくれ」
「は、はい……」
太くて立派な肉の腸詰めは彼女達の目にはかなり高価な料理に映るらしく、なかなか手を出してくれなかったが、俺が彼女達の皿に一度配膳したらちゃんと食べてくれるようになった。うん、沢山あるから好きなだけ食べてくれ。
「食事中に申し訳ないけど、今後についての話を少ししておきたい」
そう言うと、彼女達の間に緊張が走った。うん、そんなに心配しなくても良いから。
「メリネスブルグで生活の場を整えるという話はしたと思うけど、もし良ければ俺の部下として働いてもらうという選択肢もある。一応女王陛下に諮らないといけないけど、今の所俺の直属の部下ってのは居なくてな。今は開拓村の解説のためにこうして出張しているけど、メリネスブルグに戻ったら商人組合とか冒険者ギルドとか城下の組織とやり取りをする機会が多いんだよ。だけど、最近色々あって気軽に城下にいけなくなりそうでな。俺とそれらの組織を繋いでくれる人員が居てくれると助かるわけだ」
八人の女性は全員が食事の手を止めて俺へと視線を集中させていた。うーん、そんなに見られるとなんだかやりづらい。
「陛下の許可が下りれば君達を俺の部下として、そういった役目を果たしてもらうこともできるかもしれん。まぁ、良く言えば俺の秘書。実質的には使い走りみたいなもんだけど、それでも良ければ考えておいてくれ。あと、ハーピィさん達も子供の世話が大変って言ってたよな?」
「そうですわね。誰か彼かは見ていないといけませんし」
「俺の秘書が難しいようなら、そっちで保母さんみたいな役割をしてもらうのも良いと思うんだけど、どうだ?」
「良いと思います。日中に面倒を見てくれるだけでも大いに助かりますわね」
「というわけだ。生活の場を用意する、と言っても具体的にどんな仕事になるのかわからないと不安も大きいだろ? とりあえずはそういう方向で俺は考えてるってことだな。勿論、別の仕事だっていくらでも紹介できる。何せ俺は王配殿下様だからな」
そう言って肩を竦める。王族万歳、封建制万歳だ。この世界で権力を持つということは多少どころか大抵の無理は通るということでもある。幸い、俺には権力だけでなくカネもモノもあるので、大抵のことはなんとかなるわけだ。
「今後の話についてはこれで終わり。ご飯を食べたら楽しい楽しい服選びの時間だ。ついでに言えば風呂だっていつでも入れるようになってるから、服を選んだらまたゆっくり風呂に浸かって身体を休めるのも良いと思うぞ」
そう言ってから俺は太めの腸詰めに齧りついた。うん、美味い。
☆★☆
「「「わぁ……!」」」
「選り取りみどり、とまで言うには少し数が足りないかもしれないけど、まぁ好きに見繕ってくれ」
食事を片付けた食堂の大テーブルの上、そこに積み重ねられた服、布、裁縫道具。中には下着の類もあるわけだが、まぁ俺がこんなものをインベントリに入れて歩いているのもこういった事態を想定してのものであるのだから、目を瞑って頂きたい。俺は別に女性ものの下着を持ち歩いて悦に入る変態ではないぞ。
「基本的に人間用だから、尻尾穴とかはついてないんだ。そこは裁縫道具でいい感じに調整してな」
上着はともかく、スカートやパンツ、それにショーツの類に関しては獣人が着るためにそういった部分の調整が必要である。その辺は彼女達も手慣れたものだろうし、任せても良いだろう。
「はい! あの、ありがとうございます」
「ええんやで」
最初期から俺に話しかけてくれる狐耳の女性――ビャクにそう言って手を振っておく。朝食の後、彼女達に自己紹介をしてもらったのだ。今まで名前も聞いていなかったからな。
まず、今回助けた女性の数は八名。全員が獣人で、獣要素は獣耳に尻尾だけという感じで非常に人間寄りな容姿をしている女性達ばかりだ。ついでに言えば、全員若い。まぁ、賊の連中もそういう女性を選んで拐ったのだろう。人間寄りの見た目の人が多いのも、きっとそういうことだろうな。
まずは狐耳獣人のビャク。まさに狐色とでも言うべき赤みを帯びた黄褐色の髪の毛を持つ美人さんだ。ピンと立った狐耳とモフっとしていそうな尻尾が実によく似合っている。
その他には犬系の獣人姉妹が一組。揃って黒褐色の髪の毛をしていて、その髪の毛に紛れるように垂れた犬耳が隠れている。尻尾が無かったら人間と見間違うかもしれない。二人ともよく似た顔立ちで、話を聞いてみると双子であるらしい。話を聞くと、犬や狼系の獣人は双子や三つ子で生まれてくる事が結構多いのだとか。名前はルナとラナ。大人しい性格で、助け出して以来いつも二人でくっついて歩いている。
四人目は鼠獣人のミト。髪の毛も耳も真っ白な小柄な女性で、人一倍臆病なのかいつも誰かの陰に隠れている。今の所名前を聞くくらいしか会話ができていないが、人に隠れながらもじーっと俺を見ているので、俺を徹底的に避けようとは思っていないようである。彼女が俺のことを安全だと確信できたらきっとコミュニケーションも取れるようになるだろう。
五人目は馬獣人のシェン。栗毛の背の高い女性だ。話を聞くと結構抵抗したようで、八人の中で一番手酷く痛めつけられていた。顔も殴られていたし、彼女だけは両足の腱を切られていたからな。そんな彼女も今は身体の傷も癒えたし、両足も治った。話してみると穏やかな人のように思えるんだけど、意外と頑固な正確なのかも知れない。
六人目は兎獣人のメメ。灰色がかった髪の毛の女性で、兎らしくピンと立った耳が特徴だ。俺の知る兎獣人は細身で小柄な人が多いのだが、彼女は結構身体が大きい。女性にこう言うのは失礼だと思うけど。結構力は強いようで、脱出の際にはシュメル達の力を借りずに手酷く痛めつけられていたシェンを一人で抱き上げてエアボードまで運んだらしい。賊達に嬲られながらも脱出の際に迅速に行動できたところを見ると、実は脱出の機会を窺っていたのかもしれない。結構強かな性格をしているのだろうか。
七人目は小さく丸い茶色の獣耳が特徴的なフェイ。尻尾を見ても俺には何の動物の獣人なのかわからなかったのだが、本人曰くイタチの獣人であるらしい。シェンと同郷で、シェンの怪我を治した俺に物凄く感謝をしていた。シェンが手酷く痛めつけられたのは彼女を庇った結果であったらしく、それをとても気に病んでいたようだ。今はシェンにくっついて色々と世話を焼いているようである。
そして最後の一人は反り返った二本の角を頭に生やしている山羊獣人のオリビア。今は二本の角がちゃんと揃っているが、昨日治療する前には片方の角が折られていた。治療するまでは極度の無気力状態だったのだが、グランデの血を材料に作った再生薬で角を治してやったら涙を零しながら感謝された。角を持つ獣人にとって角を失うことは大変な屈辱だって話だからな。治せてよかった。ちなみに八人の中で一番俺に感謝していて、昨晩俺の部屋に行こうと一番最初に言い出したのが彼女であったらしい。止めたシュメルには後で金一封でも渡そうかと思う。
「俺はあっちの部屋で色々作ってるから、何かあったら呼んでくれ。ここは任せた」
「はいよォ」
「了解っす」
「わかったわ」
各々返事をする鬼娘達にここを任せ、俺は自室に戻って女性用の小物でも作るとしよう。明日はとりあえずベリル子爵のいるコモランという街に行かなきゃいけない。ザミル女史から連絡は行っている筈だけど、さてどうなることやら。説明とか面倒くさいなぁ。
最近はヴァイキングもしています。
黒い森と拠点の間を何度も往復する日々( ˘ω˘ )