第340話~治療と今後の話~
今日も間に合った! ヨシ!_(:3」∠)_
グランデとだらだらしていると風呂上がりのベラが呼びに来たので、そのまま二人でお風呂をゆっくりと楽しんだ。
「良い湯じゃったのー」
「本当にな」
今日は色々あったせいか長湯になってしまった。やはり風呂は良い。悩みや精神的な疲労が湯に溶け出していくような気がする。グランデもどちらかと言うと長湯派なので、二人で入るとどうしてもこんな感じなんだよな。
「次はメシじゃメシ。主よ、妾は腹が減ったぞ」
「俺もだ」
食欲も出てきた。つまり多少は気分も持ち直してきたということだろう。俺は今回確固たる意志を持って賊を殲滅したが、だからと言って戦闘による精神疲労が無くなるというわけではない。相手が賊だろうとなんだろうとやはり人を殺すというのは大きなストレスを感じる行為なのだ。少なくとも、俺にとっては。
だからと言って奴らを殺さないという選択肢はあまりなかったが。どうせ生かしたまま連れて帰っても市壁や町のど真ん中で身長を伸ばされるだけの話だろうしな。苦労して捕虜にして連れ帰ってもどうせ死ぬなら手っ取り早くやってしまえというのもあった。単純にあまりに酷い襲撃痕を見て野郎ぶっ殺してやるってなったのもあるけど。我ながら短絡的だな。
グランデと二人で食事を済ませたらシュメル達に話を通して助け出した被害者達と顔を合わせておくことにする。今後について話す必要もあるし、身体に異常があるなら治せる範囲で治してやりたい。
「呼んできたよォ」
「ありがとう。どうぞ、皆さんも是非座ってくれ」
俺の言葉を聞いた被害者達が席に着く。全員若い女性で、種族は様々だ。さっき声をかけてきてくれた女性は狼か犬系の獣人かと思ったが、どうやら狐系の獣人だったようだな。
「まず自己紹介をしようか。俺の名前はコースケ。いきなりこんなことを言われても信じられないかもしれないが、メリナード王国の女王、シルフィエル女王陛下の伴侶――つまり王配だ」
俺の自己紹介を聞いた女性達は一様に困惑した。まぁそうだよね。賊から助け出されたと思ったら、それを指揮していたのが王配殿下でしたとか意味がわからない。俺が逆の立場でも何言ってるんだこの人って思うだろう。
「まぁそこは重要じゃない。俺がどんな立場だとか、それが本当かどうかだとかは些細な話だ。とりあえず、俺はコースケ。シュメル達を含めてここにいる君達以外の女性達の主人。おーけー?」
女性達は戸惑いながらも各々頷いてくれた。とりあえず頷いてくれたからヨシ!
「今日と明日はゆっくりと休んで欲しい。まずは移動に耐えられるだけの体力を取り戻して欲しいのと、精神的にもとりあえず丸一日くらいは落ち着く時間が必要だと思うからな。それで、今後の生活について不安に思っている人もいると思う。まずそこが解決されないと落ち着くも何も無いだろうからな」
「だろうねェ」
「うん。まず、君達の身柄に関しては当面の間、俺が保護する。俺が保護している間、生活に関しては何の心配もしなくても良い。ただ、もし帰る場所があって、すぐにでも帰りたいということであれば迅速にその場所へと送り届けることを約束する。そうでない場合、俺達と一緒にメリネスブルグまで来てもらうことになる。良ければそちらで生活の場を整えよう」
こちらでの仕事はどのみち今日で全て終わりだった。一度メリネスブルグに戻って少しのんびりしてエレンやアマーリエさん、ハーピィちゃん達の様子を見たいからな。その後はまた出張することになりそうだけど。
「あの、どうしてそこまでしてくれるのでしょうか?」
狐耳の女性がおどおどとした様子でそう聞いてくる。どうして、どうしてかぁ。
「これ、と言った理由はない。ただ、このまま君達を放り出していくのはあまりに寝覚めが悪いからだな」
「そんな理由で……?」
「そう、そんな理由でさァ。そんな理由でこいつは賊を数十人ぶっ殺してアンタ達を助けて、その後の面倒まで見るつもりなんだよォ?」
「おい」
「まぁちょっと度が過ぎたお人好しっすよね」
「今日びあまり見ない善人よ、この人」
「いや、数十人からぶっ殺して善人って無理無いか……?」
「無いっす。盗賊は皆殺し。普通っす。常識っす」
「あっハイ」
ちょっと悩んでいたのにバッサリである。この世界では賊の人命は塵芥よりも軽いものであるらしい。
「とにかく、心配は要らないよォ。コースケにとっちゃ養う相手の三百人が三千人、三千人が三万人になったってなんてことない話なんだからねェ。八人くらい増えたって何の問題も無いのさァ」
「三百人も面倒見てないぞ?」
嫁の数は俺の意思を他所に徐々に増えてきたが、流石に三百人はない。
「何言ってるのさァ? 黒き森を出た時、あたしらの人数はそんなもんだっただろォ? その後、どんどん解放軍の人数が膨れ上がっても全員食わせてたじゃないかァ?」
「そう言われればそうだったな」
確かにそっち方面は確かにそうだ。もっと言えば、今のメリナード王国の予算が普通では考えられないほどに多いのも俺の仕業だったわ。その原資である大量の宝石に鉱石、金属、魔煌石、食料、その他諸々を供給しているのは俺だったわ。
「ええと、何の話だったっけ……? まぁとにかくそういうことで、特に下心とかは無いから。君達をこの後どこかに売り払うとか、酷い目に遭わせるとか、そういうことをするつもりは一切無いから安心して欲しい」
「そんなことする必要無いくらいこの人お金持ちっすからね。多分世界一のお金持ちっすよ」
「それは言いすぎじゃないか?」
「だってそこら辺の岩にツルハシ振るだけで金銀宝石ザックザクじゃないっすか」
「それはそうだけども」
助け出された女性達は俺達のやり取りを見て不思議そうな顔をしている。まぁわけがわからないよな。あんまり身内ネタで盛り上がっても仕方がない。
「まぁうん、この話はこれくらいで。とにかく安心して欲しい。それで、まずは少し落ち着いたところで、怪我とかがあれば治療させて欲しい。というか治療しよう」
八人の女性達のうちの何人の顔には殴られた痕があるし、恐らく全員大なり小なり怪我があるに違いない。
そういうわけで、インベントリからライフポーションやキュアディジーズポーションを取り出し、いつもの添え木セットも取り出して彼女達の治療をすることにした。
「……キレそう」
「もう死んだ連中のやったことっすよ」
結論から言うと、彼女達は全員左右どちらかの足の腱を切られていた。なんか全員歩き方が不自然だと思ってたけど、そういうことか。なるほどね。よくもまぁここまでやるもんだ。
「大丈夫、治せるから」
欠損でないなら俺の添え木セットで治せる。女性達の足に添え木を当て、包帯を巻くとあら不思議、切られていた腱は元通りになって普通に歩けるようになります。ついでにライフポーションとキュアディジーズポーションをそれぞれ飲ませて、怪我も病気も治療しておく。特に病気は怖いからな。
「後は、あー……まぁ、デリケートな話だけど」
「まァ、そっちはあたしらで聞いとくよォ」
「そうしてくれ。どんな結果になったとしても面倒を見る用意はあるから」
彼女達がどのような扱いを受けていたのかはまぁ、今更の話だが、そうなるとついて回る現実的な話もある。その辺りの話は男の俺が聞くのにはちょっとデリケートな話なので、シュメルの申し出は単純に助かった。この世界、そっち系の便利な薬は無いみたいなんだよな。
「じゃあ治療も一通り終わったから、今日はゆっくり寝てくれ。明日は一日のんびりして欲しい。服とかも用意しておくから」
見たところ、全員が見た目人間寄り――つまり獣要素が獣耳と尻尾だけの獣人だ。尻尾穴があれば問題は無さそうだし、今晩のうちに服を色々と作っておくとしよう。全員分のヘアブラシとかそういう細々としたものも作っておくかな。
「あ、あのっ!」
「うん」
「ありがとうございます」
狐耳の女性がそう言って俺に頭を下げる。そうすると、他の女性達も口々にお礼を言いながら俺に頭を下げ始めた。
「うん。とにかく、まずは心と身体を休めてくれ」
こうして女性達の治療は終わった。後はまぁ、そうね。メリネスブルグに戻ってから俺があちこちに頭を下げて回れば八人くらいの働き口はなんとでもなるだろう。もしどうにもならなかったとしても、俺直属のメイドとして城で働いて貰っても良いわけだし。
うん、問題ない。ヨシ。