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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
異世界の森でサバイバル!
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第033話~決意を抱いて~

「もうお婿に行けない……」

「ふふ、私が貰ってやるから心配するな」


 翌日の朝、昨晩の決定的敗北を思い出してさめざめと泣く俺をシルフィが微笑みながら慰めてくれる。

 うん、まぁ嘘泣きなんですけどね。

 やっぱりシルフィは潜在的にはサディストなのではないかと思います。俺はノーマルですよ? 本当です、嘘じゃありませんよ。

 本日は二人で一緒に身体を清め、朝から少しキャッキャウフフ。今日のシルフィは非常に機嫌がよろしい。それがペイルムーン効果なのか、それとも昨晩の夜戦で自分が主導権を握り続けたからなのかは定かではない。できればペイルムーン効果であって欲しい……!

 本日の朝食はご主人様の忠実な奴隷である俺が作ることになっている。と言っても、俺のレパートリーは既に尽きてきているんだよな。ここは新しい事をする時期に来たのではないだろうか?


「朝食を作るのでは無かったのか?」

「勿論そのつもりだ」


 インベントリから取り出して設置したのは先日モツ焼きに使った簡易かまどである。それと鍛冶施設も用意する。


・簡易かまどアップグレード――:木材×10 石×30 鉄×10 まな板×1 ナイフ×1 調理器具類×4


 うむ、これだな。まな板は木材から簡単に作れるからクラフトメニューに予約を入れておく。ナイフはなんでも良いんだろうか? 一応キッチンナイフが鍛冶施設のクラフト一覧にあるからこれにしておこう。調理器具類は前にメルティから渡された鍋とフライパンがある。あと二つか……金属製のボウルとおろし金とかで良いかな? これも鍛冶施設でザクッと作る。そしてアップグレード!


「相変わらず眩しいな」

「……光るなら先に言え、まともに見てしまったではないか」

「ごめんなさい」


 簡易かまどは調理台になった! というわけでシルフィのキッチンから食材を頂いてくる。穀物粉、ギャベジ、オニール、ペパル、ガリケ、ディーコン、蜜辺りは今までも使っていたが、その他にも使い慣れていない食材や調味料はいくつかある。ギズマの肉もまだまだあるし、


・パン――素材:穀物粉×1 飲料水×1 塩×1

・乾燥パスタ――素材:穀物粉×2 飲料水×2 塩×1

・シチュー――素材:穀物粉×2 飲料水×2 野菜類×2 肉類×2 塩×2

・ステーキ――素材:肉類×2 ブラックペッパー×1 塩×1

・サラダ――素材:野菜類×3

・カレー――素材:穀物粉×2 飲料水×2 野菜類×2 肉類×2 塩×2 果物×2 香辛料類×4


 手持ちの材料ですぐに作れそうなのはこれくらいだった。というか、クラフトメニューに表示されているレシピが少ない上に極基本的なものしか無いように見える。これはアイテムクリエイションをメインで使う系の奴じゃな? というか、何につけても塩要求してきやがるなこの野郎。


「どんな感じだ?」

「とりあえず作れそうだな。朝からガッツリにしとくか?」

「そうだな、今日は遠出もするし」

「わかった」


 パンを二つ、シチューを一つ、ステーキを二つ、サラダを二つ作る。なに、余ったらインベントリに入れておけば良い。昼飯用にカレーとパンを多めに作っておこう。


「できたぞ、ここで食うか?」

「ふむ、たまには外での朝食というのも悪くないな」


 裏庭に椅子とテーブルを設置してクラフトした食事をテーブルの上に置いていく。シチューは鍋に入って……おい、鍋どこから出てきた? いや、突っ込むのはやめておこう、今更だし。

 ステーキやサラダも木皿付きだった。俺は何も考えないぞ。考えないったら考えない。パンはそのままだったけどね。


「ほう、朝から豪勢だな。それで、この肉は何の肉だ?」

「牛、かな?」

「何の肉を使って作ったんだ?」

「ははは、ギズマの肉に決まってるじゃないか」

「……考えるだけ無駄だな」


 シルフィも俺と同じ結論に行き当たったらしい。さすご主。俺の能力に慣れてきたね! 俺の能力の得体の知れなさというか、理不尽さはもう今更なので、俺達は考えることを完全に放棄してまずシチューをいただくことにする。食べるためのスプーンやフォーク、ナイフなんかは全部俺の手作りだ。少し前に作業台である程度の数を作っておきました。


「美味いな。この肉は鳥の肉のようだ。この赤いカロルみたいな野菜も甘くて美味しい」

「明らかに入れた肉と野菜が別物になっているのは気にしない、気にしないぞ俺は」


 ちなみにシルフィの言うカロルというのは黄色いニンジンみたいな作物のことである。ゴボウ並みに長いけど。他にも入れてないはずのイモが入っていたり、牛乳も入れてないのにホワイトソース系の出来だったりするけど、俺は気にしない。気にしたら負けだ。ギズマの肉がどう見ても鶏肉になっているが、俺は気にしない!


「パンも驚くほどふかふかだな。柔らかい」

「シチューをつけて食うと美味いぞ。ちょっとお行儀悪いけど」


 焼き立てのパンは確かに柔らかい。フランスパンっぽい見た目だが、丸型だ。バゲットみたいに長くない。なんて名前なのかは知らん。とにかくパンだな!

 ステーキは完全にビーフステーキ(焼き加減はミディアム)だった。普通に美味い。これが元々ギズマ肉だなんて考えられないね! まぁ、ギズマ肉のガリケステーキはアレはアレで美味しいと思うけど。どでかいロブスターのステーキみたいなもんだしね。

 サラダは普通のサラダだったよ。入れた中身と出来上がってきたものの中身が違うけどね! HAHAHAHA!


 ☆★☆


 というわけで愉快で優雅な朝食を終えた俺達はいつも通りに防壁へ向かい、いつもの場所に向かう。門のすぐ横の作業スペースである。そこには期待で目を輝かせたアイラが待っていた。大きなお目々がキラキラと輝いている。


「すまん、杖はまだ出来てないんだ」

「がーん」


 アイラは愕然とした表情をしてからガクンと肩を落とした。すまん、シルフィには勝てなかったんだ……。


「残念だけど、急ぐことじゃない……残念だけど」

「うん、できるだけ早くやるから」


 物凄く残念そうな顔をしながら言われると、いたたまれない気持ちになる。しかもその原因がシルフィとのキャッキャウフフとなれば罪悪感も沸こうというものだ。アイラの設計図面に目を通していると、シルフィがダナンを連れてきた。いつの間にか呼んできてくれていたらしい。


「壁を強化すると聞いたのだが」

「うむ、コースケがな。今の壁の高さではギズマはともかく、人間や他の魔物には心許ないだろう?」

「確かに。身体能力の高い者や魔力強化を使いこなす者であればあの高さならひとっ飛びです」

「高さはどうする?」

「今の三倍から四倍は欲しいですね」


 今は上部の狭間胸壁付きの歩廊部分も合わせて2.5mくらいだから、概ね8~10mくらいが良いってことね。資材の調達が大変だなぁ。


「里の防壁の高さに合わせるなら約三倍といったところだな」

「そうですね」


 エルフの里の防壁は木製だが、継ぎ目が殆ど見当たらない不思議な防壁だ。なんでもエルフの魔法で生きている木を強化して作った防壁らしく、火にも魔法にも物理攻撃にも強いらしい。高さは8mくらいだと思う。


「では、また粘土を?」

「うむ。そうだな?」

「うん、粘土が要るな」


 あと、鍛冶施設も増設したほうが良い気がする。材料はあるから作っておこう。製鉄用の鍛冶施設とレンガ焼き用の鍛冶施設を同時運用すれば作業が捗る。製鉄の用事がない時は二基でレンガを焼くことも出来るしな。木炭製造用の簡易炉も一つ作るか。


 それからはひたすら採掘と製鉄とレンガ焼きの日々であった。朝起きて身体を清め、朝食をとって防壁に向かう。昼過ぎまで渓谷で採掘をして、戻ってきたら王国民の皆さんが集めてくれた粘土をひたすら鍛冶施設に放り込んでレンガを焼く。


「吾輩もミスリルの名剣が欲しいなー」

「ミスリルの名槍があればもっと皆の役に立てるのだが」

「新しいクロスボウ、新しいクロスボウを要求するぞ!」


 欲望に忠実なおっさんとかトカゲ系女子とかネコ科女子に新しい武器を強請られたり。


「ふふ……ふふふ」


 出来上がったミスリルを使った杖に頬ずりしながら怪しい笑みを浮かべるアイラにドン引きしたり。


「人は肉だけでは生きられません。さぁ、粉を!」


 メルティに拉致られて石臼を挽かされたり。


「ハーピィでも使える新しい武器はまだですか?」


 ピルナを始めとしたハーピィ勢に新型武器を強請られたりした。他にも色々あったが、概ね似たような内容だ。


「最近、皆が俺の能力を徐々に把握してきて遠慮が無くなってきている気がするんだが」

「皆に頼られているんだ、良いことじゃないか」

「シルフィ、そういう台詞は俺の顔を見て言って欲しい」


 目を逸らしながら言うんじゃない。

 そしてまた、別の日には。


「孫はまだかの?」

「そんな無駄話をするために呼んだのか。というか、貴方達は私の親ではないだろう」

「ほほほ、つれないことを言うでない。儂等にとってシルフィちゃんは孫みたいなものじゃよ」

「なら孫ではなく曾孫ではないか? やはり耄碌しておるの」

「言葉の綾じゃ。それに儂のどこを見れば耄碌などという言葉が出てくるのじゃ? ピッチピチじゃろ、儂」

「若作りなだけじゃろ」

「お主の断崖絶壁は五百年前から変わっておらんの。哀れな」

「よし、その喧嘩買った。表に出ろ」


 長老衆に呼び出されたと思ったら曾孫を要求され、精霊魔法を多用したデスマッチめいた喧嘩を見ることになったりした。長老衆の精霊魔法やべぇ、やべぇよ……天変地異かよ。


 そして前回の襲撃から七日後、異世界に来てから十四日目の夜を迎えた。


「コースケ、月は赤いか?」

「……大丈夫みたいだな」


 改築の終わった新しい城壁の上から月を見上げる。今日の月はいつにも増して大きく見えるが、その色は黄色い、というか黄金色だ。


「月が綺麗ですね」

「そうだな、今宵の月は美しい。ペイルムーンのように青白い月というのも見てみたいが、やはり私はこの優しい光の月が好きだな」


 シルフィは満足そうに月を見上げる。まぁ、伝わるはずも無いね。でも、良いんだ。伝わらなくても、俺の中の気持ちは変わらないわけだし。


「これからどうする?」

「これから、か」


 この一週間の時間を使ってダナンとシルフィは黒き森とその先のオミット大荒野に斥候を放っていた。

 調査の結果、黒き森に入り込んでいるギズマはもう見当たらず、それどころかオミット大荒野でもその数を減らしていそうだということがわかっていた。


「メリナード王国を取り戻しに行くのか?」

「……そうだな。私はそうしたいと思っている」


 シルフィはメリナード王国の王家の血筋である。であるならば、そのシルフィが聖王国の支配下に置かれているメリナード王国を解放し、取り戻したいと思うのも自然な話だろう。


「やるなら俺は手伝うぞ。俺はシルフィの奴隷だからな、ご主人様を助けるのが俺の仕事だ」

「コースケ、お前は……」

「ははは、これ以上言わせるなよ。恥ずかしいだろう」


 今更シルフィと離れる気にはならないということだ。まったく、男なんて単純なものだよな。


「だが、現実的な問題もある。もし、エルフの里にいるメリナード王国民が皆私の意志に賛同してくれたとしても、我々は精々三百人ほどの小集団だ。メリナード王国に駐留している聖王国の軍を打ち破ることなどできるはずもない」

「なに、そこはそれ。いくらでもやりようはあるさ」


 集団戦闘において数は力だ。数で圧倒的に劣る集団が数で圧倒的に勝る集団に勝つことは非常に難しい。だが、それは集団に属する個々人の質や戦術が全く同じ場合に限る。


「数で負けるなら砦を作って戦えばいい。罠も使えばさらにグッドだな。それに、こっちにはクロスボウがある」


 汚い? 卑怯? ははは、そんなのは褒め言葉にしか聞こえんなぁ。

 いざとなれば虎の子を出せば良いしな。ここ一週間で、ちまちまと時間を見ては難民区画のトイレの土を回収させて貰っていたんだ。密かにアレとかアレの量産を始めているのさ。


「コースケがそう言うと、簡単なことのように思えてくるな」

「俺は楽観主義者なんだ」


 資材とクラフト品が揃ってきた今、俺とシルフィが生き残るだけならいくらでもやりようがあるとも思ってるしな。シルフィにこんなことを言ったら怒られそうだけど。


「……うん。私はメリナード王国を取り戻す。決めた」


 月を見上げ、暫く考えこんだ後にシルフィはそう宣言した。シルフィがそう決めたなら、俺は彼女に従い、彼女を助けるだけだ。なんと言っても俺はシルフィの奴隷だからな。


「そっか。ならまずはダナン達に相談しないとな」

「そうだな。よし、行くぞコースケ」

「アイアイマム」


 顔に決意を漲らせてシルフィは歩き始めた。俺はその後ろをついていく。

 黄金色に輝く月と青い海と白い雲を覗かせる大きな惑星。ラニクルとオミクル、人々にそう呼ばれる二つの星がそんな俺達を見下ろしていた。

打ち切りじゃないよ!

とりあえず一章としてここで一区切りです_(:3」∠)_

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― 新着の感想 ―
[一言] 漫画から小説に来ました ここで一区切り…え!? 打ち切り? ドキッとしましたΣ(; ゜Д゜)
[一言] 「月が綺麗ですね」 in other words, fly me to the moon.
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