第338話~陽動。誰がなんと言おうと陽動~
今日はちょっと短いけどキリが良いので!_(:3」∠)_
『こっちは配置に着いたよォ』
「了解。これからド派手にやる。逃げるか向かってくるかわからんが、突入準備を」
『はいよォ。怪我すんじゃないよ』
「大丈夫だ」
今の俺は鞣したワイバーンの革の上にミスリル装甲を貼り付けた鎧を装備しているからな。普通の弓から放たれる鉄の矢程度では全然通らない。というか、ゴーツフットクロスボウの鋼鉄鏃の矢ですら通らない。試してみたら単発でならボルトアクションライフルの7.92mm弾すら止めたからな。流石に軽機関銃の掃射だと破られたけど。まぁ破られなくても物凄い衝撃でダメージは食らうんだがな。
「で、どう攻めるのじゃ?」
「真正面から近づいていこう。こいつを被ってな。ああ、グランデはフードは付けなくてもいいぞ」
「ふむ?」
地味なフード付きローブをグランデに渡して被ってもらう。俺も被る。グランデは頭にフードを被っていないから、彼女の輝くような金髪は実に目を引くことだろう。逆に俺はローブを被ることによってキンキラキンのミスリル鎧を隠すことができる。
そうして近づいていくと、グランデが呟いた。
「どうやらこちらを見つけたようじゃな。門の上で見張りが騒いでおるわ」
「まぁ、隠れないで近寄ったからな。そうなるな」
「どうするのじゃ? 突っ込むのか?」
「逃げる素振りを見せよう」
「逃げるのか」
「フリだけな、フリ」
二人で賊どもの野営地の様子を窺いながら逃げ出すと、すぐに門が開いて騎兵が五騎出てきた。反りのある馬上刀を手にした軽騎兵だ。どう見てもこちらを襲う気満々である。門からの距離は……200m無いくらいか。まぁこんなもんだろう。
「来るぞ?」
「ならお相手しましょうねぇ」
インベントリからアサルトライフルを取り出して構える。真っ直ぐに突っ込んでくる騎兵なんぞ良い的だ。ボルトアクションライフルだと全員倒す前に接近されかねないが、こちとら装弾数三十発、発射速度600/分のアサルトライフル様である。まぁ、セミオートで撃つんだけど。
ズダン! ズダン! ズダン! と引き金を引くごとに豪快な発射音が鳴り響き、それとほぼ同時に騎兵が血飛沫を上げながら馬上から後ろに吹っ飛んでいく。突然の轟音に馬達は驚いて棹立ちになり、足を止める。そして射線が確保できたら更に射撃、射撃。五騎の騎兵は成す術もなく倒れた。
「開けた場所では滅法強いの。妾の助けは必要無いのではないか?」
「どうかな」
騎兵の出撃後、野営地の門は閉じられたままだ。見張りも何が起こっているのかわからず呆然としているのか? まぁ手加減をしてやるつもりもない。アサルトライフルをリロードしてから今度はボルトアクションライフルを取り出す。四倍スコープ搭載済みの狙撃仕様だ。即座に膝立ちになり、門の上に陣取っている門番を狙う。
「――ッ!」
ドウン! と先程よりも大きな銃声が鳴り響き、屋根の上の門番の肩が吹っ飛んだ。肩を撃たれた門番がそのまま門の上から落ちていく。それを見届けながらボルトを上げて引き、排莢。ボルトを戻して次弾を装填し、ボルトを下ろす。
「もう一人」
再びの銃声。もう一人の門番が首の下、胸骨の辺りに被弾して一人目と同様に野営地の中へと吹っ飛んでいった。
「お見事。次の手は?」
「これだな」
「それかぁ……」
グランデが嫌そうな顔をする。俺が取り出したのは対戦車擲弾発射器だ。射手を見つけた兵士が大声で名前を叫ぶアレである。グランデは出会った時にメルティにボコられた上にこいつを向けられたからな。嫌な思い出として残っているんだろうな。
まぁ、今はそんなことを気にしてやる場面でもない。右手で引き金のついている前側のグリップを握り、肩に担いで左手で後ろ側――丁度擲弾発射器の真ん中くらいについている――グリップを握って標準のアイアンサイトで木製の門を狙う。
「撃つぞ。真後ろに立つなよ」
「わかった」
グランデが俺の左側に移動したのを確認してから発射。バシュンッ! という音と共に発射された対戦車榴弾は固体ロケット燃料の燃焼によって亜音速近くまで加速し、狙い違わず木製の門のど真ん中に着弾した。
木製の門に着弾した対戦車榴弾はその威力を遺憾なく発揮し、門に大穴を空ける。爆圧で対象を破壊するサーモバリック弾頭が開発できていれば木製の門なんぞ綺麗に吹っ飛ばせたんだろうが、流石にまだ開発できてないんだよな。対戦車榴弾は貫通力はあるが、門を綺麗にふっ飛ばすような破壊力は無いんだこれが。
「穴が空いたの」
「破壊できるまでぶち込んでやるさ」
次弾を装填し、射撃。次弾を装填し、射撃。次弾を装填し、射撃。みるみるうちに木製の門がボロボロになっていく。
「ここらでやめておくか」
「いいのか?」
「弾切れ、魔力切れだと思わせよう。向こうとしてもこの場所が割れるのは避けたいはずだから、打って出てくると思う」
この場所が割れたら遠からず領主なりメリナード王国軍――この場合はザミル女史の部隊だろう――が送り込まれることになる。そうなると奴らはこの拠点を引き払って逃げるしかなくなるので、二人程度の目撃者なら多少無理をしても消したいと思うはずだ。
魔道士らしい俺が魔力切れになったとすると、もう一人はまるで子供みたいな体格のグランデだけだ。数に任せて叩けば制圧は難しくないと考えるだろう。
「ほら、出てきた」
「おうおう、わらわらと出てくるもんじゃな」
馬に乗れる者は馬で、そうでないものは徒で。手に剣や盾や槍やらを持った連中がグランデの言う通りわらわらと出てくる。総勢三十人くらいだろうか?
「次はどうするのじゃ?」
「そろそろゴーレムくんに働いてもらおうかな」
「あれだ、ほりょ? は取らんのか?」
「別にいいだろ。向かってきたやつは王配に刃を向けた罪で皆殺し。シンプルだな」
「それはわかりやすくて良いのぅ」
何故か満足げに頷くグランデをよそにインベントリからゴーレムウォリアー――ゴーレムサイズの鋼の武器で武装したゴーレム――を取り出して設置する。
「目標、向かってくる連中。蹂躙せよ」
「ヴォ」
ゴーレムウォリアーくんが短く返事(?)をしてズシンズシンと足音を立てながら賊の集団へと向かっていく。見た目はゆっくりに見えるが、歩幅が違う。あれで馬よりも早い。
「一方的じゃのう。あ、ゴーレムを避けてこっちに来るのが居るぞ」
「せやろな」
しかし俺の手には既に再びアサルトライフルが握られている。騎兵が数騎こちらに抜けてこようとしたが、適当に撃っておいた。戦闘が終わって生きていたら……まぁ気が向いたら生かしてやるかも知れない。多分殺すけど。
「散り散りに逃げているのぅ」
「右側に逃げたのを頼む。左側は俺がやる」
言いながらアサルトライフルからボルトアクションライフルに持ち替える。
背中を撃つのに抵抗はないのかって? 無いね。後で独善的と言われようが賊は賊。生かしておいて良いことなど何もない。やるからには徹底的にだ。