第337話~追跡~
今日は間に合った(`・ω・´)
「怖い顔してるねェ?」
ベラの運転するエアボードの中。俺の対面にどっかりと腰を下ろしているシュメルがそう言ってニヤリと笑う。
「そうだろうな」
対する俺が吐ける言葉なんてこれくらいものだ。今はまったくもって冷静になれそうにない。今まで戦場で良いだけ敵兵を殺してきたし、その度に凄惨な光景を目にしてきた。しかし、今日目にしたアレは別物だ。
逃げようとして背中から斬られた者が居た。
誰かを守ろうとしたのか、両手を広げたまま正面からばっさりと袈裟斬りにされた者が居た。
我が子を庇うように胸に抱き、その腕の中の子供ごと背中から刺し貫かれた母らしき者が居た。
俺は今まで散々殺してきたが、基本的にそれはこちらへと敵意を向けてきた相手だけだ。殺しに来ている相手を返り討ちにしただけだし、それでも俺は一応降伏勧告はするようにしてきた。
だが、あの場で起こったことはまるで別物だ。戦う力の無いものを一方的に殺戮するようなやり方はどうにも気に入らない。
開拓団が持っていた物資が狙いだったとしても、ああまで徹底的に殺す必要がどこにある? 奇襲で防衛戦力だけ殲滅すれば後は戦う力のない開拓民だけだ。殺す必要なんて無かったはずだ。
だが、奴らはやった。徹底的にやった。気に入らない。
「今度は難しい顔をしとるの」
胡座をかいた俺の膝の上に身を投げ出していたグランデが俺の顔を見上げながらそう言う。
「そうだろうな」
俺がやろうとしていることは自分勝手な復讐だ。直接俺の家族が殺されたわけでもない。ただの義憤だ。今の俺は自分を正義と確信して断罪の刃を振り下ろそうとしている身勝手な存在だ。
あの開拓団を襲った野盗にもそうする理由があるのかもしれない。俺達の、解放軍の、新生メリナード王国の成したことが原因で地位を、立場を奪われ、仲間や家族を殺され、その復讐のために、あるいはただ生きるためにするべきことをしているだけなのかもしれない。
だが、そんな俺達の、シルフィ達の行動も元はと言えば二十年前の聖王国の侵攻が発端だ。その復讐のため、やられたことをやり返すための行動だった。それに対して起こったのが今回の事件だとすれば、復讐が復讐を呼ぶ負の連鎖が起こっているということになる。
ここで俺が自分勝手に復讐をするのは本当に良いことなのか? そんな考えが脳裏を過るが――。
「復讐ってのはスカっとするよな」
「そっすね!」
「正義は我にありと賊相手に断罪の刃を振り下ろすのは気持ち良いよな」
「そっすね!」
「ならヨシ!」
「何がよしなのよそれ……」
トズメがそう言いながらジト目を向けてくるが、無視する。
「どっちにしろ放っておけばまた他の開拓団や村が襲われる可能性が高い。俺達には幸いどうにかできる能力もあるんだから、俺達がやるのが良いだろう。細かいことを考えるのはやめた」
「そうだねェ。賊相手にはそれくらいの気持ちがかかるのが良いさね。ちょっと知恵の回る魔物くらいに考えるのが気が楽ってもんだよォ」
「盗賊に人権は無いってとある高名な魔法使いも言ってるしな」
「物騒な魔法使いね……まぁ概ね同意するけど」
物騒さで言うと軽く山を消し飛ばすレベルだったような気がするし、下手するとグランデより上なんだよな。いや、下手するとっていうか確実に上か。ああいうトンデモが居ないだけでこの世界って平和だと思うわ。その代わり俺みたいなのが暴れてるわけだが。
「それで、計画はァ?」
「まずはハーピィが空から偵察して俺のゴーレム兵とグランデが正面から敵を引きつける。人質や虜囚が居る場合は俺達が陽動をしている間にシュメル達が別方向からエアボードで急速接近、急襲して助け出して急速離脱。ハーピィには爆装をさせておいて、そっちに追手がかかった場合は空爆で敵の出鼻を挫く」
「エアボードに乗り切れないくらい虜囚がいたら?」
「なんとか防戦して保たせろ。どっちにしろグランデとゴーレム兵が動けば連中がそっちに戦力を割くのは難しいし、トズメが調査した規模の連中ならそう時間もかからずに全滅するから」
開拓団が襲われた地点をトズメが調査した結果、襲撃者の数は恐らく三十人前後くらいだろうと推測された。攻撃部隊とは別に本隊が居たとしても、恐らく総勢は五十人ほど。多くても百には届くまいという目算だ。その程度の数なら重武装ゴーレム一体で鎧袖一触にできる。
「まァ、急拵えの作戦としては上等だねェ。逃げる足もあれば撤退支援もあるわけだし」
「虜囚の数が多い場合を考えて大型のエアボードを用意しよう」
インベントリの中に兵員輸送用大型エアボードの試作品が入っている。試作品といっても機能に問題はないし、テスト運用も終わっている。信頼性に関しては問題ない。
『旦那様、賊の陣地らしきものを発見致しましたわ』
作戦の詳細についてシュメルと詰めていると、先行しているハーピィさんから連絡が入った。
「良い仕事だ。気付かれないように接近して偵察してくれ」
『承知致しました』
何にせよここまで来ればあとはやるだけだ。
☆★☆
賊相手に降伏勧告もなかろうということで俺達はそのまま賊の野営地を襲うことにした。
「というわけで作戦開始前に最終確認だ」
砦から死角になっている場所に身を隠し、そう宣言する。雑に襲うにしても連携は大事だ。特に二手に分かれて行動するなら尚更な。
「あいよォ」
ハーピィさんが偵察したところ、盗賊の野営地は森の近くにある小高い丘の上に敷設されているようだ。近くの森では木が伐採されて切り拓かれた形跡があり、陣地の周囲は丸太塀や逆茂木で守られているという。
「西と東に門が作られておりましたわ」
今回同行しているハーピィさんのまとめ役――白羽ハーピィのイーグレットがそう言うので、棒きれで土に描いた陣地の図面に門を描き足す。若干歪だか、概ね円状に丸太でできた塀で囲んで陣地を作っているようだ。西側の門が森へと続いており、森で調達した資材を運び込むのに使われているようである。見た限りでは西門は固く閉ざされていて、あまり使われていないらしい。
「資材搬入用だな。破れるか?」
「壁を破ったほうが楽だし早いだろうねェ」
「所詮丸太っすからね。この斧なら一撃っすよ」
そう言ってベラが俺が以前に作って贈ったミスリル合金製の大斧を掲げる。
「別に門を破ってもいいけど、最短経路を取るならこれが一番ね」
野営地には虜囚が居ると思われる施設も確認された。さして大きいとは言えない小屋のような建物だ。鎧を身に帯びていない賊どもが頻繁に出入りしているらしい。中で何が行われているのかは想像に容易い。クソが。
「逆茂木とあたしとトズメで薙ぎ払ってェ、ベラが壁をずんばらりん。中に踏み込んで小屋の中身を改めて中の人を回収してさっさと逃げる。簡単な仕事だねェ」
シュメルの得物は大金砕棒、トズメの得物はミスリル合金製のウォーハンマー。ゴブリン程度の魔物を想定しているちゃちな逆茂木など一振りでバッキバキに折れてしまうだろうな。
「その間に妾とコースケで正面から敵を叩き潰すわけじゃな。まぁ楽勝じゃの」
「撤退支援は任せてくださいませ」
グランデとイーグレットの言葉に頷く。まぁ作戦というのも烏滸がましいような雑なプランだが、こういう作戦立案のプロでもなんでも無い俺達が立てた作戦にしては上等な類だろう。
既にハーピィさん達の爆装も済ませてある。後は配置が済み次第、イーグレットの合図で作戦を開始するだけだ。
「よし、行くぞ」
好き勝手やっている連中に目にもの見せてやるとしよう。
凶行に至った遠因が俺達にあるとしても、戦えないような連中を平気で皆殺しにするような連中は野放しにはできないからな。
最近7dtd熱が再燃して友人とマルチプレイ中……マルチって楽しいね!( ˘ω˘ )(昔やってた時はずっとソロだった