第331話~トラビス家~
遅れた上に短い! 雪かきのせいで調子が出なかったから許して!_(:3」∠)_
ザミル女史に案内され、俺達はメリナード王国西方軍司令部へと足を踏み入れた。どうやらこの施設は旧メリナード王国時代に作られた兵舎をそのまま利用しているようで、シュメル達も問題なく行動できるだけの広さを持っているようだ。
「早速仕事の話でアレだけど、ここの太守はどうだ?」
「そうですね。良くも悪くもミューゼベルグとトラビス家の利を追求するタイプといったところですか」
「なるほど」
ミューゼベルグとトラビス家の利を追求、ねぇ。
まだ顔を合わせていないが、太守としてこのミューゼベルグを治めているのはシモンという名の男で、トラビス家の当主である。聖王国における貴族階級は子爵であったらしい。
一応、新たなメリナード王国統治下においても恭順の意を示した貴族に対しては聖王国統治下で名乗っていたのと同じ貴族位を名乗ることを許している。いきなり貴族位剥奪、領地没収とかやらかすと反発、内乱への突入は必至だったからな。
当然、それだけだと舐められる可能性があったので、恭順しなかった連中に関してはレオナール卿とザミル女史を差し向けて徹底的に潰した。もし裏切ったらお前達もこうなるぞ、と示したわけだ。
「薬は効いてる感じだな」
「そうですね。少なくとも今のところはこちらに明確な叛意を見せることはないです」
ちなみに徹底的に潰すというのは物理的に、である。禍根を絶つために一族郎党皆殺しだ。残酷に思えるかも知れないが、こればかりは世の習いというやつなのでシルフィは徹底的にやった。中途半端に慈悲をかけても誰も幸せにならないからな。
俺は基本的にノータッチだったが、一応、三度までは翻意する機会を与えたらしい。それでも恭順の意を示さないなかった連中は処断したというわけだ。シルフィ側も交渉するつもりがなかったようだから、それなりに血の雨が降ることになったわけだ。
「やはりまだ早かったのでは?」
「そうも言ってられないだろ。いつまでも目を逸らしていてもな」
今まで俺があまり国内政治のあれこれに関わってこなかった、というか関わらないようになっていたのはシルフィ達の配慮によるものである。つまり、気を遣われていたわけだな。
国家の運営というのにはどうしたって闇の部分というものが存在してくるものだ。大を生かすために小を切り捨てる、禍根を断つために弱者を摘み取るなんてことが平然と行われる。そういったことを一切しないで国という巨大な組織を回していくのは不可能だ。綺麗事だけではやっていけないのである。特に、この世界では。
「覚悟はとうに決めているつもりなんだけどな。まぁ、慣れるには時間がかかりそうだよ」
「コースケ閣下はお優しいですから」
「そうなのかねぇ……まぁ、ここはまだ優しいところだろうから、少しずつ慣らしていくさ」
事前に聞いていた限りでは、このミューゼベルグを治めるトラビス家は早々に新生メリナード王国に恭順の意を示したのだそうだ。当主のシモンという男が時勢を読むのが上手だったのか、それとも他の要因があったのかはわからないが、メリナード王国西部においてトラビス家はどこよりも早く新生メリナード王国に降った。そのお陰で周辺領主も次々に新生メリナード王国に降ることになり、結果として新生メリナード西部に降った血の雨の量は非常に少なかった。
ちなみに血の雨が土砂降りになったのは新生メリナード王国東部と北部である。ザミル女史は西方の平定が思ったよりも早く終わったので、その後すぐに北部の平定に取り掛かることになった。
レオナール卿? 東部はガッチガチの聖王国シンパだらけだったらしいから、それはもう嬉々として暴れまわったらしいよ。あのおっさんの聖王国に対する怨みはマジモンだからね。仕方ないね。ちゃんと三度の降伏勧告をしてたってだけでも上出来だと思うよ。
「この後は太守に?」
「そうなるな。着いてきてもらっても?」
「勿論です」
ザミル女史は話が早くて助かる。
今度はザミル女史も一緒に再びベラが運転するエアボードに乗り込み、メリナード王国西方軍司令部からトラビス家の屋敷へと向かう。俺とザミル女史が話している間に西方軍司令部から先触れを出していたので、俺達は速やかに屋敷の中へと迎え入れられた。
屋敷の門を守っていた兵は見慣れぬエアボードに対して警戒心を顕にしていたが、ザミル女史の顔を見るとすぐに警戒を解いてくれた。ザミル女史の顔はちゃんと覚えられているらしい。
「急な来訪ということでなにか不手際があるかもしれません。その時には私がお叱りを受けますので、どうか我が家中の者に対しては平にご容赦を頂きたく」
「許す、と言うのが王配らしい返事なのかね」
ミューゼベルクの太守、シモン・トラビス子爵は身なりの良い中年の男性であった。派手過ぎず、それでいて高級感の漂う仕立ての良い服装をしていて、体格もそれなりに引き締まっていてなかなかに威厳が感じられる。
「そのように言って頂けるとありがたく思います」
シモンが恭しく俺に向かって頭を下げる。年の頃は三十――いや、四十くらいか? 西洋人系の顔立ちだから、どうにも年齢が測りにくいんだよな。まぁ、働き盛りの壮年の男性と表現するのが良さそうだな。
「この世界の礼節、というか王配としての振る舞い方というのを学ぶ機会があまりなくてね。不調法な振る舞いをすることもあるだろうが、どうか流して欲しい。それで、単刀直入に話をしようと思うのだがどうかな?」
「閣下がそう仰られるのであれば是非もありません」
そう言ってシモンが真っ直ぐに俺の目を見据えてくる。ふむ、あまり嫌な感じはしないな。上手く本心を隠しているのか、それとも単に二心がないだけか。
とりあえずはじっくりと話し合うとするか。