第327話~冒険者ギルド再訪~
明日は木曜で休みなので、今年の更新は今日で最後! 例によって遅れたけどね!
皆様良いお年を!_(:3」∠)_
「え? ギルド一階のどこかの床に穴をあけて城との直通路を作る? ちょっとそういうのは勘弁して欲しいんですが……あの、何か御用があるなら呼びつけていただければこちらから伺いますので」
「そうよね」
冒険者ギルドメリネスブルグ本部副本部長のバランが弱りきった様子で俺の提案を断り、その対面で当然だろうという顔をしながらイフリータが頷く。
商人組合や冒険者ギルドに赴くのが危険だというのであれば、わざわざ地下道や軌道車両などを用意するよりも、商人組合や冒険者ギルドの人間を城に呼びつけたほうが安全だし手間もかからない。言われてみれば当然の判断であった。
「出鼻を挫かれた」
「ガーンだな」
どうやって正確に城の方向へと地下道を伸ばすか、そしてどんな車両を作るか、ということを考え、話し合っていた俺とアイラは二人で肩を落とすことになった。いや、冷静に考えればそうなんだけどさ。
でも、城の地下道を拡張することによってライム達の行動範囲を拡張するという試みは是非やってみたいんだよな。今度実験してみるとしよう。
「……聞いていた通り、閣下はなかなかに愉快なお方であるようだ」
今まで俺達のやり取りを興味深げに眺めていた大柄な老人が重々しく口を開いた。
バランの隣に座している彼の名はクレスタ。冒険者ギルドメリネスブルグ本部の本部長で、バランの上司――肩書通り、冒険者ギルドのトップである。
歳による衰えというのを全く感じさせない偉丈夫だ。体格はダナンと同じくらいはあるだろうし、身体の厚みも凄い。しかも、肥え太っているような感じではなく筋肉でみっしりと鎧っているような印象だ。髪も髭も真っ白の爺さんなのだが、迫力がすごいな。
先日、バランしか顔を出さなかったのは丁度俺達と入れ違いで商人組合に出かけていたからであるらしい。今日は事前に俺達が訪れることを通知していたので、こうしてバランと一緒に待ち構えていたというわけだ。
「そろそろ本題に入ったらどう?」
「ああ、うん、そうだな。えーと、アレだ。通達していた通り、冒険者支援策の進捗はどうかなということで話を聞きに来たんだ」
俺の言葉を聞いたクレスタとバランは頷き、バランが口を開いた。
「はい。コースケ殿の働きかけによって商人組合だけでなくメリナード王国からも予算を確保することができまして、冒険者ギルドの支給装備制度はなんとか動き始めております。また、コースケ殿には使い途の少ない素材を大量に引き取って頂き、非常に感謝しております」
「ああ、ゴブリンとかコボルドの死体とかな。俺にかかればゴブリンの死体も有用な皮革と肉になるから」
ゴブリンの皮やコボルドの毛皮は薄かったり毛皮としては質が悪かったりしてほとんど使い物にならないし、肉は臭くて不味くて食べる人は殆ど居ない。しかし、俺の能力にかかれば質の悪いゴブリンの皮やコボルドの毛皮も普通の皮や毛皮と同じように使えるし、肉に関しても加工してしまえば他の肉と変わらない。
つまり、ステーキにすればビーフっぽくなるし、ハンバーガーやウィンナーなどにしてしまえば、美味しい合挽肉みたいになってしまう。この雑さの前には元の素材が何だったのかなどということは些末な問題になってしまうのだ。
「お陰で食糧のストックが大幅に増えたぞ。あと動物とか魔物由来の素材がな。腱とか腸とか」
未だに合成繊維やカーボン素材めいたものは開発できていないので、動物や魔物由来の腱や腸などは意外と貴重なのだ。作ることができないからな。皮革も同様である。
「……ゴブリンとかコボルドの肉なんて美味しくなるとは思えないんだけどね」
「コースケにかかればギズマの肉も普通の肉みたいになる。ゴブリンの肉も同じようになっても私は驚かない」
ギズマの肉も超でかいエビの肉みたいなのに、俺がステーキの材料に使うと牛の肉になっちゃうからね。仕方ないね。
「後は商人組合からの依頼が増えてるって?」
「はい、そちらもある意味ではコースケ殿のお陰ですな。新規の行商人が増えたお陰で冒険者ギルドに護衛依頼が増え、それを受けるのに問題ないレベルの装備が冒険者ギルドから貸し出しされるようになったことで受注できるようになったのです。また、メリネスブルグ周辺の農村などから出されていた魔物討伐依頼や街道警備の依頼などもこなせるようになり、全体的に物事がうまく回り始めています」
「確かに冒険者ギルド内の雰囲気は随分良くなってたわね」
前回冒険者ギルドを訪れた時には表情が暗く、仕事もせずに座り込んでいるような人々が多かったのだが、今日訪れた時にはそう言った冒険者の姿は見当たらなかった。人が少ないように見えたが、恐らく依頼で出払っていたということなのだろう。
「食事券もうまい具合に機能し始めております。食事券に対応してくれる食堂や宿も増えまして、結果的に食事処も切磋琢磨をすることになっているそうです」
「なるほど。物事がうまく回ってるのは良いことだな。それで、何か不都合や困ったことなんかは起きていないのか? 何かしらの対処をするためにも隠さずに教えてほしいんだが」
「それが今の所本当に無いのです。もう少し時が経てば何かしら出てくるかもしれませんが、今のところはまだそういった事例は報告が上がってきていませんな」
「そうか……どうかな、冒険者ギルドから見て俺の提案から始まった一連の活動は僅かにでも治安の向上に役立っているんだろうか」
俺の質問にバランとクレスタは同時に頷いた。
「少なくとも、うちで屯していた連中は仕事にありつけたし、飯も食えてる。まだ十分な稼ぎがあるとまでは言えないだろうが、コースケ殿が手を差し伸べる前に比べれば劇的に生活の質は良くなっただろう。あいつらが野盗に成り下がらずに済んだのだから、その分は間違いなく治安の向上に役立っているだろうな」
「私も本部長と同意見ですな。今、働き始めた者達が冒険者として力をつけていけば、いずれはもっと直接的に治安の維持に貢献することでしょう。それに、冒険者の羽振りが良くなれば冒険者を相手にする商売人が潤いますし、それは回り回って多くの雇用を生み出すことになりましょう。コースケ殿のなさったことはいずれ大きく評価されるのではないですかな」
「ならよし。俺に出せるのは金くらいだけど、今後も何かあったら頼ってくれ。より良くする提案があったりする場合には城の俺宛に提案書でも投げてくれると助かる」
俺の申し出に冒険者ギルドのトップ二名は恐縮しながらも首を縦に振ってくれた。こういうのの積み重ねでなんとか国を安定させていきたいものだな。俺が個人的にパトロンをやる分にはフットワークも軽くできるし、シルフィ達の手が行き届きずらいところを中心に今後もちょくちょく手を入れていくとしよう。何もしないよりは何かしたほうが助かる人は増えるわけだしな。
やってることは金だけ出して『良きに計らえ』だから、俺自身の評価が高まるのはなんか違う気もするけど。でも、こういうのは素人は分を弁えて、リソースだけ提供して現場の人間にやらせるのが一番だったりするからなぁ。方針自体は間違ってないと思うんだよな。
「それじゃあさっさと御暇するか。仕事の邪魔をするのもアレだし」
「ん、それがいい。さっきの奴らの様子も見たいし」
アイラに撃退され、シュメルやハーピィさん達によって対処された暗殺者達は今頃王城に運び込まれて尋問されているはずだ。王城には真実を見破る目を持つエレンが居るし、アドル教の審問官であるベルタさんもいる。それに、奥の手としてライム達もいる。暗殺者がどんなに抵抗しても情報は必ず引きずり出されることだろう。恐らくは自決することもできまい。
俺達はクレスタとバランに挨拶をして冒険者ギルドを辞し、王城へと向かった。やることは山積みだが、俺達を狙った暗殺者が現れたとなれば再び聖王国との関係は緊張することになるだろう。
じっくりと内政問題を片付けたいのに、難儀なことだ。まったく。