第326話~襲撃~
年末年始も月曜木曜以外は更新するよ!_(:3」∠)_(なお遅れないとは言っていない
「実際のところ、どうだろう? うちと和平を結ぼうかどうかってタイミングで大っぴらに暗殺なんて仕掛けてくるかな?」
冒険者ギルドへと向かう馬車の中で俺はアイラとイフリータにそう問いかけた。
俺の感覚からすれば、一時決裂したとはいえ外交交渉の最中とも言えるこの時期にメリナード王国の上層部と深い関係にある俺の暗殺を試みるのは悪手だと思うんだが。
「それはちょっと考えが甘いわね。聖王国だって一枚岩じゃないんだから、警戒するべきよ」
「ん。和平をしようとする勢力がいるなら、和平なんて絶対に御免、徹底抗戦だ、という勢力もいるに決まってる。そういった連中にとってはコースケはなんとしても排除したい対象」
「なるほどなー」
今は好戦派とも言えるタカ派の連中が俺達にボッコボコにされて勢力を失っているから、和平派のハト派の連中が主導権を握っているが、タカ派の連中は一発逆転を考えて俺を暗殺しに動くかもしれないと。
「微妙に抜けてるわよね、あんたは。平和ボケしてるっていうか」
「俺にとって暗殺だの謀殺だのなんてのは基本的にゲームか物語の中のお話だから。特に自分が狙われるなんて話はなぁ」
日常的に暗殺を警戒している人とか傍から見たらただのやべーやつだからね。仕方ないね。
などと考えていると馬車が急停止し、外の様子が急に騒がしくなった。
「え? まさか噂をしたらか?」
「わからない。私が外に出て様子を見る。コースケと姫様はここで待機」
そう言ってアイラが馬車の外に飛び出し――高速で飛来した何かがアイラへと突き刺さった。
「見え透いてる」
カランカラン、となにか硬質なものが石畳に落ちて転がる音が聞こえる。アイラに突き刺さったかのように見えたものは、実際には突き刺さらずに受け止められていたらしい。
「コースケは出てきちゃダメ」
そう言ってアイラが後ろ手に箱馬車の扉を締める。その瞬間に石畳に落ちていたものが見えた。それはクロスボウに使用される短く、太い矢であった。
「くっそ!」
「駄目よ。足を引っ張ることになるかもしれないから、護衛対象は大人しくしておきなさい」
ショートカットからハンドガンを取り出して馬車の外に飛び出ようとする俺の服の裾を、イフリータが引いて止める。
「ぐっ……でも、だからってアイラを危険に晒すのは――」
と俺が反論しかけたところで馬車の外からバチバチと激しい音が何度も響いた。恐らくアイラの放った雷撃魔法の音だろう。
「終わった」
ガチャリとドアを開けてアイラが馬車に戻ってくる。え、早くない? あっさり過ぎない?
「暗殺者は軒並み倒れた。何人か生きてると思うから、後は外の人達に任せる」
「外の人達って……」
箱馬車の窓を開けて外を見ると、全身からまだ薄っすらと白い煙を上げている暗殺者らしき連中を縛り上げているシュメル達と、何人かのハーピィさん達の姿が見えた。何人か衛兵の姿も見える。
「この手の奴らは自害するかもしれないから、口の中にも詰め物を突っ込んどきなァ。アンタは城に連絡して治療と解毒の用意もするように言うんだよォ」
「わ、わかりましたぁ。すぐに連絡しますぅ」
シュメルの指示を聞いた茶色羽ハーピィのフラメが飛び立っていく。俺の視線に気づいたのか、それを見送ったシュメルが気にするなとでも言うようにこちらに手をぷらぷらと振ってみせた。やはり影ながら俺達を護衛していたらしい。
「予定通り冒険者ギルドに向かって。あそこは今亜人が多いから人間の余所者は目立つし、何かあれば血の気の多い冒険者が介入してくる。暗殺に向かない」
「は、はい!」
鼠か栗鼠かハムスターかわからないが、御者を務めていたそっち系の獣人さんが怯えきった声でアイラに返事をして馬車を進ませ始める。
「アイラ、怪我はないのか? 大丈夫か?」
「大丈夫。私には何も届いていない。例の新しい障壁魔法で防いだから」
そう言いながら、アイラはローブの下から一本の矢――クロスボウ用の短矢を取り出した。
「何かわからないけど、矢尻に何か塗られてる。多分毒。このままコースケのインベントリに入れておいて欲しい」
「わかった」
アイラからクロスボウの短矢を受け取ってインベントリに入れる。インベントリに表示される生を見てみると『クロスボウの矢(バジリスクの毒塗布)』と表示された。
「バジリスクの毒が塗られてるらしい」
「なるほど。手間が省けた」
「しかし、クロスボウか……聖王国の暗殺者がクロスボウを使っているとはな」
「ん。でも、一部の冒険者の間で既に出回っている。不思議ではない」
クロスボウそのものはメリナード王国軍の正式装備だから、それなりの数が既に配備されている。
また、王国軍の部隊は各地で魔物の掃討なども行っているので、クロスボウが一般人の目に触れる機会はそれなりにある。コピー品が冒険者に出回っているのも既に確認されているので、暗殺者がクロスボウを手に入れていたとしてもおかしくはない。
「まぁ、それもそうか」
「受け止めた感じからすると、軍に支給されているものほどの威力じゃなかった。恐らくコースケが作ったものでも、軍で使われているものでもない。どこかの街の職人が見様見真似で作ったもの」
「なるほどな。後で詳細に調べてみたいもんだ……しかし、本当に暗殺者に襲われるとはね」
「今まで無かったのが不思議だったくらい。今後はより気をつけたほうが良い」
「そうね。特に、あんたの命はもうあんた一人だけのものじゃないんだから」
「肝に銘じるよ。他にも怪我人とかはいなかったんだよな?」
「この馬車を止めるのに荷物や材木を崩してた。何人か巻き込まれて怪我を負ってたけど、衛兵がすぐに応急手当をしてたし、シュメルが手当の手配をしてたから大丈夫。暗殺者達以外に死者はいない」
「そうか……」
とりあえず暗殺者以外に死者が出なかったのは幸いだが、巻き添えになって怪我をした人には手厚く支援をするべきだろうな。城に帰ったら忘れないように俺が個人的に手配するとしよう。
「こうなると街に出るのも控えるべきかな」
「そんなの気にしてたら何もできないじゃない」
「ん、気にしすぎ」
イフリータとアイラが揃って俺の言葉を否定する。確かに暗殺者の影に怯えて引きこもるってのは負けた気がして腹立たしいけど、一般人を巻き込んでくるんじゃなぁ。いや、待てよ?
「暗殺者の襲撃が問題なら、暗殺者に絶対襲撃されないルートを作ってしまえば良いよな」
「は?」
「なるほど」
イフリータは首を傾げたが、アイラは納得するように頷いた。俺との付き合いの経験差が出た反応だな、これは。
「移動はどうする? 歩くの?」
「レールでも敷いて専用の乗り物を作っても良いんじゃないか。ゴーレムを動力にすれば良いし」
「魔力源は?」
「あれがあるじゃろ?」
「それは危ない。やめるべき。筆頭魔道士としてあんな危ないものをメリネスブルグの地下では知らせるのは容認できない」
魔力結晶を使ってもいいけど、ほぼ無限に魔力を生み出す夢の動力があるんだから使えばいいじゃない。でも確かに事故ったら危ないんだよな。メリネスブルグが地図から消えるのはまずすぎるか。
「???」
俺とアイラの会話をイフリータが首を傾げて聞いている。よしよし、冒険者ギルドに着くまでに計画を説明してやろう。これは画期的な計画だぞ。場合によってはライム達の行動範囲も広げられるかもしれないしな。