第325話~商人組合再訪~
昨日は夜遅くまで複数人で愛し合っていて寝坊しました。
ああ、愛し合って(殺し合って)まして、はい。
違う、俺じゃねぇ。黄色が殺ったんだ! 俺じゃない! ウワァァァァ……_(:3」∠)_(宇宙に放出される
イブに性の六時間ではなく殺しの六時間をやる狂人の集まりでした、はい。
翌日。
俺とイフリータ、それにアイラは連れ立って商人組合へと向かった。メリネスブルグ内の移動に最近よく使用している豪華な箱馬車での移動である。
「なんだか懐かしい」
「懐かしい? あぁ、貴女にとっては二十年ぶりなのよね、こういうの」
「ん。行軍中に乗った馬車はこんなにふかふかしてなかった」
「あー、あの馬車移動はなぁ……尻が痛くなったよな」
解放軍として活動している頃、馬車移動がそれなりに多かったんだよな。道も不整地に近かったし、サスペンションの類も今ひとつだったしで初期の頃は存分に尻を痛めつけられたものだ。それに比べればこの馬車は振動も少ないし、座席もふかふかで柔らかい。質の向上が甚だしいな。
そんな話をしている間に俺達を乗せた豪華な箱馬車は商人組合へと辿り着いた。今回は昨日のうちに商人組合に訪れることを報せていたので、スムーズに奥の応接間へと通される。
「お待たせ致しました」
そして俺達が席についてお茶と茶菓子を出されて少ししてからフロイド氏が現れた。彼の他にももう一人、壮年の――つまり俺より少し年上に見える――男性職員も同伴している。彼は手に分厚い紙の資料を持っていた。
「お互いに初対面の人間がいるわね。彼女の名前はアイラ。メリナード王国の筆頭魔道士よ。魔道士のまとめ役であると同時に、メリナード王国研究開発部の長でもあるわ」
「これはこれは……いつもお世話になっております」
「ん」
フロイド氏が笑顔で会釈し、アイラもまたコクリと頷く。
「あら? 初対面じゃなかった?」
「いえ、こうして顔を合わせるのは初めてですな」
「研究開発部で使う資材や資料の調達のために商人組合は何度も利用してる」
「なるほど。そりゃそうか」
俺も研究開発部に色々と資源を融通しているが、俺が供給する量だけで全てを賄えているというわけではないよな。
「では、こちらも……」
そう言ってフロイド氏が視線を向けると、彼の隣に座っていた男性職員が頷き、口を開いた。
「商人組合のウェルズです。今回、コースケ閣下から商人組合に託された資産の運用、及び冒険者ギルドとの協力体制強化をフロイドより任されております。どうぞよろしくお願い致します」
そう言って頭を下げる。ウェルズ氏はまさに働き盛りという年頃の人間の男性だ。身長は俺と同じくらいだが、身体に厚みがある。鍛えられていると言うか、引き締まった身体って感じだな。今着ているような品の良い服ではなく、鎧などを装備していれば兵士や冒険者と言っても通るかもしれない。
「ウェルズは行商人上がりの叩き上げでしてね。人脈も広く、行商人として活動していた頃には冒険者ギルドによく護衛の依頼などもしておりました。現場の経験が豊富ということで今回の計画を任せることになったのですよ」
「なるほど。納得できる人選ね」
「そうだな。俺は商売に関しては素人だから、その道のプロが役目を担ってくれているということなら安心できる。実際のところ、計画はどんな感じで進んでいるんだ?」
「はい、ご説明致します。まずはこちらの資料をどうぞ」
そう言ってウェルズ氏は紙の資料を手渡してきた。ふむ、紙か。あまり質は良くないように思えるけど、これは多分植物紙だな。羊皮紙ではなさそうだ。しかし文字そのものは手書きのようだ。これ、今日のために用意したんだろうか? 昨日連絡して今日これを用意してあるとか、かなり無理をさせてしまったのかもしれない。
「コースケ閣下の希望は職にあぶれている亜人の働き口を確保し、治安の悪化を防ぐと同時に経済を活発化するということでしたが、商人組合としても組織として露骨に亜人だけを優遇することはできません。なので、コースケ閣下に提供していただいた資産を元手にして従来のものよりも利息や条件などを緩和した新たな融資を始めることにしました」
「なるほど。まぁ納得できる話ではあるな。露骨に亜人を優遇すると、人間が亜人に対して悪感情を抱いてしまう可能性もあるわけだし。場合によってはそれで商人組合全体の信用が下がるかもしれない」
「はい、そういう意味で援助策はあくまでも人間、亜人に関係なく公平にしなければならないと考えました」
ウェルズ氏は頷いてそう言い、実際の融資件数、融資を受けた商人の商売の内容、今後の運用資産の推移予想などをスラスラと説明していく。門外漢の俺には正直に言うとよくわからないこともあったが、順調に計画が進んでいるらしいということはなんとなくわかった。少なくとも説明されている内容においては、だが。
「次に冒険者ギルドとの協力体制についてですが、こちらについても進行そのものは順調と言える滑り出しです。融資によって起業した行商人が増えたため商人の護衛依頼が増加しており、冒険者ギルドにも活気が戻ってきているようです。また、コースケ閣下から提案された装備の貸し出しについても試験的に始まっており、そちらも今の所順調に運用できているようです」
「そうか。そっちについては冒険者ギルドに行った時にあっちで聞くつもりだったけど、商人組合から見ても順調に運用できているようだって見解が出ているのは良いことだな」
第三者からの評価ってのは大事だからな。とはいえ、実際に冒険者ギルドで話を聞いてみたらなにか問題が出ているかもしれないけど。
「運用資産については追加などは必要はないのか?」
「現状でも運用資金には余裕がありますが、元手が大きければ大きいほど大胆な運用をできるのは確かですね」
「なるほど。まぁ、俺が出せるのは宝石の原石かミスリルくらいなんだが。あまり放出しすぎると値崩れを起こすよな」
「ミスリルについては需要に供給が全く追いついていないので、そうそう値崩れはしません。宝石も同様です。多少値は下がるかもしれませんが、値崩れと言うほどに暴落はしないかと。しかし、多少なりとも下がってしまうのは都合が良くないということであれば、他の魔法金属はどうでしょうか」
「黒鋼、魔鉄、魔鋼辺りなら出せるけどな」
「黒鋼は使い所が難しい金属ですが、魔鉄や魔鋼であれば商品としての需要は宝石にも劣らぬ上、いくらでも需要がありますな。特に、今は全国的に武器の売れ行きが良いので」
「武器の売れ行きが良い、ねぇ。良いことなのか悪いことなのか」
武器が売れているということはつまり、武器が必要となる事態が多い――或いは、武器を持つべきだと思っている人が多いということでもある。つまり、治安に不安を抱いている国民が多いという事に繋がるだろう。
「大量の魔鉄や魔鋼は戦略物資。コースケの一存で市場に大量に流すのはやめたほうが良い」
「それもそうか。魔鉄や魔鋼に関しては女王陛下や宰相閣下の判断を仰いでからってことで頼む。一応サンプルとしてどういう品質のものかわかるようにいくつか置いていく」
そう言って俺はインベントリから魔鉄と魔鋼のインゴットを取り出し、テーブルの上に置いた。各十個ずつあれば良いだろう。これで作れるのはそれぞれ剣なら五振りか六振り、短剣や槍ならその倍くらいだ。これくらいの量なら戦略物資とまでは行くまい。
「……」
「気持はよく分かる。では、失礼して……」
何もない場所から突然ゴトゴトと現れた魔鉄と魔鋼のインゴットを見て硬直しているウェルズ氏に苦笑しながら、フロイド氏が魔鉄のインゴットに手を伸ばして観察し始める。どこからか取り出した小さな金属製のハンマーのようなものでインゴットを叩き、音に耳を澄ませたりもしている。アレでインゴットの質がわかるのだろうか。
「ふむ、素晴らしい質ですな。殆どどころか全くムラが見られませんし、この澄んだ音色……不純物が含まれているインゴットではとても聞くことのできない音です」
そう言いながらフロイド氏は全てのインゴットを検品していき、深く頷く。
「一つ一つのインゴットに品質の違いが一切ありません。長い商人生活でこのようなインゴットを見るのは初めてのことです」
「それは俺が特殊なだけだから」
「そうなのでしょうな。それだけに身の回りにはぜひともお気をつけ下さい。コースケ閣下の情報は間違いなく聖王国にも伝わっているでしょうから」
「ご忠告ありがとう。肝に銘じておくよ」
フロイド氏の言葉には素直に頷いておく。とは言え、シルフィもメルティも俺の身の安全については最大限に気を使っているはずだし、今日だって護衛としてアイラが同行している。目視確認はしていないが、恐らくハーピィさんも俺を見守っているだろうし、シュメル達も近くに控えて警護していることだろう。俺自身も油断しているつもりはないから、抜かりはない筈だ。