第322話~天体観測~
一時間くらい遅れてもばれへんばれへん……_(:3」∠)_(ゆるして!
俺がクラフト能力で作った天体望遠鏡は口径が50mmの軽量なものであった。オミクルは元の世界の月よりも遥かに大きく見える天体なので、恐らくこの天体望遠鏡で良い感じに観察することができるだろう。架台もセットになっているし、操作そのものもさほど難しくはないようだ。
と、いうかこれは――。
「随分と慣れた手付きに見えますが。貴方はこれまでにもその道具を扱ったことがあるのですか?」
「いや、初めてなんだけどね。どうも俺の能力は自分が作った道具を『正しく』使うこともその範疇のようでね。俺自身がまるきり扱ったようなことのない道具でも、こうして過不足なく扱うことができるようになるんだよ」
「そうなのですか」
「そうなのです」
そんな会話をしながら身体の動くままに天体望遠鏡を調整し、オミクルへとその筒先を向ける。後は覗きながら微調整をして準備は完了だ。
「さーて、何が見えるかなーっと?」
意気揚々と天体望遠鏡でオミクルを見てみたが、あからさまな人工物らしきものを見つけることは出来なかった。いやまぁ、そう簡単に見つかるものではないだろうし、そもそもそういったものを見つけられるほどの倍率を確保できているかどうかも怪しいのだけども。しかしオミクルの雲の様子や大地や海の色はしっかりと判別できるし、色味の違いからそこが砂漠のような場所なのか、或いは山地なのかは見て取れる。何より、明らかな緑地――恐らく森か何かを見て取れるのは興味深い。
「なるほど、興味深い。アクアウィルさんもどうぞ」
「……では、失礼して」
俺が天体望遠鏡から離れ、手で天体望遠鏡を指し示すとアクアウィルさんもまた俺と同じように天体望遠鏡を覗き始めた。俺が天体望遠鏡を操作するのを見ていたのだろう。彼女は淀みのない手付きで天体望遠鏡の向きを細かく変更し、空の果てにあるオミクルを観察している。
俺はそんな彼女の横顔を眺めながら今しがた天体望遠鏡で見たものについて思いを馳せていた。
天体望遠鏡で覗く前からわかっていたことだが、オミクルには陸地と海が存在する。それだけで生命体が存在するのではないかという期待が高まるところであるが、天体望遠鏡で観察した結果、陸地には森林らしきものが存在するのが見て取れた。森林が存在するということは植物が存在するというわけだ。植物が存在するのであれば、昆虫や動物が存在してもおかしくはないように思えるし、知的生命体が存在する可能性だって十分にあるのではないだろうか?
もしかしたら森林か何かに見えたものは全く別のなにかかもしれないけど。いつかメリナード王国を取り巻く内外の情勢が落ち着いたらオミクルの探索計画なんてものを立ち上げても良いかもしれない。まぁ、そちらに手をつけるとしてもはるか先の話だろうけど。
「何を考えているのですか」
「色々。海と陸地、それに陸地には森林のようなものが見て取れたから、何かしらの生き物は居そうだなぁとか、もしかしたら知的生命体……つまりこの星における人族のように文化と知恵を持つ生物がいるかもしれないなぁとか」
「なるほど。オミクルに関しては古来より様々な言い伝えがありますね。神々が住まっているとか、死後の世界であるとか、凶悪な魔物が蔓延る魔の大地であるとか」
「ああ、シュメル達もそんな事を言っていたな。それで俺も興味を持ったんだけど」
いつかオミクルの探索に手を伸ばしたい、という話はしないでおく。本当に構想段階というか、空想の域の話だし。
「……貴方ならいずれオミクルにも手を伸ばすことができるのかもしれませんね」
アクアウィルさんの言葉は実に唐突なものであったが、丁度そのことを考えていたところだったので俺はいささかならずもびっくりすることになった。そんな俺の感情が伝わったのか、アクアウィルさんは俺の顔をじっと見つめてくる。
「シルフィエル達の奮闘もあったのでしょうが、メリナード王国から聖王国の魔の手を打ち払ったのは実質的に貴方でしょう。無論、貴方一人でできることには限りはあるのでしょうが、それでも貴方が居なければ今のような状況にはなっていなかったはずです」
「確かにその通りだと思う。自惚れでもなんでもなく、俺が居なかったら解放軍はオミット大荒野を越えることも難しかっただろうな」
恐らくはその大半がギズマの大襲撃を生き延びることすらできなかっただろう。ろくな防壁も武具も無くしてあの大群に襲われればひとたまりもなかっただろうし、黒き森の奥に逃げ込んだとしてもやはり生き延びる道は無かっただろう。犠牲を払ってギズマの襲撃を凌いだとしても、やはり大きく頭数を減らした状態ではその後の活動に多大なる悪影響を及ぼしたに違いない。
「その気になれば貴方は周辺各国を尽く平らげてしまうことも可能なのではないのですか?」
「うーん? それはどうだろう。征服して統治するのは簡単なことではないと思うなぁ。ただ滅ぼすだけならできるかもしれないけど」
自重ゼロで魔煌石爆弾とゴーレムを使えば不可能ではないと思う。その結果、人が住むどころか植物も生えない魔力汚染地帯だらけになるだろうけど。
「滅ぼすだけなら、ですか……どちらにしても凄まじい力ですね」
アクアウィルさんは一つ溜息を吐き、もう一脚の椅子に座ってそれに浮かぶオミクルに視線を向ける。
「そんな力を持つ貴方にとって、私などは取るに足らない存在なのでしょうね。どれだけ貴方に反抗的な態度を取っても、貴方にとっては足元で子猫か何かが騒ぎ立てている程度の認識なのでしょう?」
「取るに足らないって……そんな見下したような態度を取った覚えはないぞ。俺としては誠実かつ真摯な態度で接してきたつもりなんだけどな」
アクアウィルさんの物言いに思わず苦笑いする。なんというか、見かけによらず卑屈な性根をしているのだろうか、このお姫様は。
「誠実かつ真摯、ですか……貴方がそう思うならそうなんでしょうね」
「引っかかる言い方だなぁ」
貴方にとってはね、という言葉を飲み込んだような物言いだ。まぁ、確かに嫌われている気配を感じていたからあまり無闇に近づいたりはしないようにしていたけども。ああいや、それが逆にいけなかったんだろうか。
「まぁその、これからはもう少し緊密にと言いますか、円滑なコミュニケーションを心がけていきたいと思います。はい」
「そうですか」
「はい」
その後も会話が弾むことはなかったが、若干ながら俺に対する刺々しさが和らいだように思えた。アクアウィルさんが俺に心を開いてくれる日が来るかどうかはわからないが、今はとりあえずこれで満足しておくとしよう。こういうのは一足飛びにどうにかなることじゃないからな。
鉛玉の飛び交うナイトシティで何故かカタナを振り回しています。
暗黒メガコーポもあるしやはりサイバーパンク2077は実質ニンジャスレイヤーなのでは……?_(:3」∠)_