第320話~働いた後のお風呂タイム~
遅れました! 今日は誕生日だから許してください!_(:3」∠)_
採集そのものは滞りなく終わった。上空でハーピィ三人が監視して、俺の護衛に鬼娘三人がついて、更に採集拠点からグランデが監視し、極めつけに採集拠点に設置したゴーレムタレットに守られているのだから、これでどうにか出来ないような相手がそうそういるはずもない。
「あたしらの護衛、いらなかったんじゃアないかい?」
「うちらが手を出す前に終わってたっすね」
「私達が最後の砦ってことにしときましょう」
結局一度も得物を振るうことがなかった鬼娘達がぶつくさ言っているが、結果的に安全だったんだから良しとして欲しい。
「今日も一日お疲れさんってことで切り上げようか」
「あいよォ」
本日の収穫は大量の石材と粘土、土、それに木材に腐葉土に姿を表した魔物達の素材といったところか。俺の能力を使えばあまり食用に向かない魔物の肉も普通に肉として使えてしまうので、図らずも食肉のストックも増えた。大丈夫、クッソまずいゴブリンの肉も俺の能力でステーキとかハンバーガーのパテにしちゃえば何の問題もないヨ。
「今回も宝石は沢山取れたんすか?」
「金属も宝石もそれなりに取れたぞ。また原石を卓の上にドバーッてやるか?」
「やってほしいっす!」
ベラが鼻息を荒くし、目をキラキラさせる。自分自身が宝石で身体を飾ることにはあまり興味が無いようだが、キラキラピカピカで色とりどりな宝石の原石の山を眺めるのは大好きらしい。
「あんたねぇ……」
「別にタカるつもりはないっすよ。単に宝石の原石の山を見たいだけっす」
「別に一つや二つと言わず三つでも四つでも持っていって良いんだけどな」
俺にしてみれば採掘や採取の主目的は石材や金属や木材、土や粘土などの資材獲得であって、特に素材としての使いみちがあまり多いわけではない宝石の原石類は換金効率が良い副産物というか余録みたいなものだ。わざわざ捨てるほどのものでもないけど、躍起になって確保したいものでもない。魔煌石なんかを作るのにも使うけど、そんなにたくさん必要ってわけでもないしな。
「お疲れさまでした。浴殿の用意を整えておきましたが」
採集拠点に戻ると、レビエラが出迎えてくれた。流石はメイド、そつがない。いや、メイドの格好をしているだけで実際には近衛兵なんだったっけ。
「ありがとう。それじゃあ早速入ってこようかな?」
山の裾野を駆け回り、ツルハシとシャベルで石と岩と地面を掘り返した結果、俺の身体はそこそこに土まみれになっている。汗もかいたし、折角用意してくれたのであれば先にお風呂をいただくとしよう。
「その前に、っと」
適当な場所にゴーレム作業台を設置し、材料となるガラスや金属、機械部品その他をぶち込んで天体望遠鏡のクラフト予約をしておく。これで風呂に入っている間に天体望遠鏡が完成することだろう。
「なにか作るんすか?」
「メシの後のお楽しみさ。愉快なものが見れるかもしれないぞ」
「???」
ベラが首を傾げているが、今ここでネタバレすることもあるまい。
「それじゃあ風呂を頂いてくるよ」
「はい、ごゆっくりどうぞ。夕食の用意を進めておきますので」
「ん? 夕食は俺が用意するけど?」
「昨日そうして頂いたので、今日は私達が腕を振るわせていただきます。折角食材も用意してきたことですし」
「なるほど。それじゃあご馳走になるか」
そういえば沢山持ってきたアクアウィルさんの荷物の中身には食料が入っているという話だったか。俺の出す食事を警戒してということだったようだが、結果的には良かったのかね? レビエラとゲルダの料理の腕は未知数だが、元々アクアウィルさんの食事を作る予定だったのだろうから、きっとそれなり以上の腕なのだろう。
「んじゃ風呂だねェ」
「遠征先でお風呂に入れるのは嬉しいわよね」
「普通は装備つけっぱなしの上に、水場があってもそうそう水浴びとかできないっすからね。危ないから」
「何が潜んでるかわからないからねェ……」
シュメル達が冒険者あるある話をしながらついてくる。当然のように俺と一緒に風呂に入るつもりのようだ。まぁ良いけど。
「水浴びも出来ないんだ?」
「水の中に毒を持った魔物とか魚とかがいるかもしれないし、ヒルとか寄生虫とか色々あってね」
「安全の確認されている水場なら良いんすけどね。そうそう都合よくそんな水場があるとも限らないっすから」
「水魔法を使える魔法使いとかが一緒なら良いんだけどねェ。飲み水の事も考えると水も無駄に使えないし」
「ふーむ、なるほど?」
出先で安全な水を確保できる魔道具とかがあれば冒険者とか行商人にバカ売れしそうな気がするな。金の匂いがするぜぇ。研究開発部に携帯型の水供給魔道具の開発を打診してみるか。
エアボードが普及すれば移動時間が大幅に短縮されるようになるからさほど流通には影響しなくなるかもしれないが、現状でこの世界のロジスティクスを支えているのは馬などの駄獣が引く荷車だ。駄獣には人間よりも多くの水と食糧が必要なので、荷車には少なくない量の水と食糧が積まれている。中でも水はとても重く嵩張るので、それを小さな魔道具で補えるようになれば、商人はより多くの荷物を運べるようになるはずだ。
無論、運用にも導入にもコストはそれなりに掛かるだろうが、トータルで見ればより多くの利益が見込めるようになる……程度の価格に押さえられれば良いな。まぁ、もし民間で使えないほどにコストが掛かったとしても、軍用になら使えるかもしれない。水がそれで賄えるようになれば兵站にかかる負担は大幅に減るだろうからな。
「……うん?」
などと考えていると、いつの間にか俺は湯船に浸かっていた。しかも後ろから誰か――間違いなく鬼娘達の誰かであろう――に抱きかかえられている。後頭部というか側頭部を圧迫してくる柔らかいものの感触が素晴らしい。
「あ、気がついたっすね」
「急に黙って考え込み始めたから何かと思ったわよ」
「あんたも大概変わってるよねェ」
水を出す魔道具の構想を練っている間に鬼娘達に風呂に連れ込まれたらしい。おかしいな、そこまで考えることに没頭していたつもりはないんだが。
「変わっているとは失礼な。ちょっと考え事に没頭していただけじゃないか」
「考え事に没頭して服を脱がされて風呂に入れられても気が付かないのは絶対に変わってると思うけど」
「気が付かなかったわけじゃない。気にしてなかっただけだ。君達相手なら警戒する必要もないし」
流石に見ず知らずの人に同じことをされたら考えに没頭しないで抵抗するぞ。多分。
「つまりうちらに心を許してるってことっすね!」
「あたし達なんて本質的にそこらのチンピラと変わらない冒険者なのにねェ」
「今更悪ぶっても意味ないゾ」
シュメルとはなんだかんだ長い付き合いだしな。ぱっと見では粗野な感じがするけど、これで結構面倒見は良いし仕事に対する態度は真面目なんだよな。
「うっさいよ。そんな事を言う奴はこうだ」
「あー、取っちゃ嫌っすー」
シュメルが後ろからベラに抱きかかえられていた俺の胴を両手で鷲掴みにし、真正面から苦しいほどの力で抱きしめてくる。顔面に襲いかかってくる感触は素晴らしいが、息ができなくて本当の意味で昇天しそうなので腕をタップする。
「ぶはっ! 俺も男としては平均的な体格のはずなんだけど、お前らにかかると人形扱いだな」
「そりゃ鬼族と人間族じゃそうなるわよね」
うずうずとした様子を見せながらトズメが俺に熱い視線を送ってくる。うん、目が大きいから眼力というか圧がすごい。シュメルよ、トズメには引き渡してくれるなよ。どうも俺の体格が彼女の好みに合致するらしく、ちょっとトズメは理性を失いやすいからな。
「トズメが理性を失う前にちゃっちゃと風呂から上がるっす。そろそろ危険域っす」
「むふっ……べ、別に危険じゃないし」
「その荒くなりつつある鼻息をどうにかしてから言うっす。ここはうちに任せて早く上がるっす」
「はィはィ……まったく忙しないねェ。まぁ、羽目を外すとお姫様がへそを曲げそうだから仕方ないか」
「いや、別に抱っこして連れてかんでも良いと思うんだけど」
何故かシュメルにお姫様抱っこされて風呂から連れ出された。しかも何故か頭や身体を拭かれた上にしっかりと服まで着せられた。俺を子供か何かと勘違いしてないかね、君達。
EVE ONLINEにハマりつつある……抜群に面白いわけじゃないはずなんだけどやめられない……( ‘ᾥ’ )