第319話~悶々としながら体を動かす~
ギリギリセーフ!_(:3」∠)_
( ‘ᾥ’ )……!?(予約投稿でなく即投稿してしまったことに気づいた
バカでかいワームや変な魔物の巣とやらを掘り起こさないように戦々恐々としながらソレル山地の一部である名もなき山の山裾をガシガシと掘りながら、チラリと採集拠点へと視線を向ける。アクアウィルさん達は採集拠点に設置しておいたバルコニーでこちらの様子を見守ってくれているようだ。
「あのお姫さんはなかなかに頑なだねェ。何か恨まれるようなことでもしたのかい?」
「そのような記憶は……無いこともないような」
初対面で服が崩れかけたのをチラッと目撃したとか、彼女の母であるセラフィータさんや姉であるドリアーダさん、イフリータと仲良くしてるとか。
「まぁ、一番気に入らないのは彼女のお父さんの立ち位置に俺がすっぽり収まってしまってることじゃないのかね」
「あー、なるほどっすね」
彼女とシルフィ達の父であり、セラフィータさんの夫でもあるイクスウィルさん――メリナード王国の前王陛下はアクアウィルさんを含めたシルフィ以外の家族の命と尊厳を守るため、自らの命と魂を対価として時間ごと全てを凍りつかせて果てた。
一方、俺は黒き森とオミット大荒野の境に迷い出た俺はシルフィと出会い、クラフト能力を駆使して解放軍を支え、最終的にメリナード王国から聖王国の連中を叩き出すことに成功した。シルフィの手によって凍りついていたアクアウィルさん達の時間は再び動き始め、紆余曲折あって俺はセラフィータさんと仲良くなり、ドリアーダさんに気に入られ、イフリータとつるむことになったわけだな。
セラフィータさんにはセラフィータさんの、ドリアーダさんにはドリアーダさんの、イフリータにはイフリータの事情や思惑、様々な思いがあって俺と絆を育むことになったのだろうけど、それは自然の流れみたいなもの――いや、俺の能力が影響している可能性は拭えないのだが――であるはずだ。何かイクスウィルさんに思うところがあっての行動ではないだろう。
俺だってイクスウィルさんの居なくなった隙間に入り込んでやろうという思惑のもとに行動したわけではない。勿論、シルフィの家族なのだから仲良くしようとは思っていたし、セラフィータさんに関してはかなり思いつめて精神的に危うげな感じだったので、色々と踏み込み過ぎてしまったきらいはある。
それでも、別に俺はイクスウィルさんに取って代わってやろうとか、蔑ろにしようとか、そういう意図は一切無いし、無かったのだ。
「お父さんが大好きだったんでしょうね、あのお姫様は」
「そうなんだろうな」
ミスリルシャベルでザクザクと山裾を掘り返しながらトズメの言葉に頷く。
多分だけど、誰も悪くはないんだよな。いや、うーん……セラフィータさんの対応が若干まずかったのかもしれないけど、彼女は彼女で下手すれば自殺しかねない程に精神的に弱ってたからなぁ。
夫を失った上に、多くの守るべき民を失い、苦難に喘がせる羽目になったということに責任を感じて押し潰されそうになっていた彼女を支えることが出来たのは、ある意味で完全なる部外者であった俺だけだったのだろうし、そうしなければ彼女は今頃どうなっていたかもわからない。
「ま、根気よくやっていくしかないな」
「そして旦那のハーレムにまた人が増えるんすね」
「そういう意図で仲良くしようとしてるわけじゃないからね?」
俺の言葉にベラがニヒヒと楽しそうに笑って応える。別にエルフの四姉妹姫全員の攻略を企んでるとかそういう話じゃないから。
というか、シルフィはともかくとしてドリアーダさんが俺を慕ってくれて、それどころかいつの間にか他のメンバーに混ざって俺とそういう関係になっていることのほうが実は大問題と言うか、意味がわからないんだよな。彼女とも一度じっくり腰を据えて話をしなければなるまい。本当に今更だけども。
「モテる男は大変だねェ?」
「おかしいんだよなぁ。俺は元々そんなにモテる性質じゃなかったのに……やっぱこの能力が何か悪さをしてるんだろうか」
相手は時すら停めて俺に干渉してくるような存在だ。俺の能力経由で俺の周囲にいる異性の心を操ることなど造作もあるまい。そう考えると今の状況は恐ろしいな。この能力が突如消失してしまったりしたら、俺や俺を慕ってくれている人達との関係は一体どうなってしまうのだろうか?
「どうしたの? 突然顔色を悪くして」
「嫌な想像をしちゃっただけだ。考えても仕方がないことをな」
何もかも今更だ。もし俺が能力を失い、皆の信頼をも同時に失ってしまったとしても俺は俺にやれることをやるだけだ。いよいよどうにもならなくなるまで足掻くだけだな。
そう言いながらふと採集拠点の方に目をやると、アクアウィルさん達が双眼鏡を空に向けているところだった。何を見ているのかと思ったら、どうやら空の彼方に大きく見える地球型惑星――確かオミクルと言ったか――を見ているらしい。
「あの星にはどんな生き物が住んでるのかね」
「あの星って、オミクルのことかい?」
「神様が済んでるって話っすよね?」
「え? あの世って話じゃなかった?」
「魔物の大地って話じゃなかったかい?」
「バラバラなのかよ」
三者三様の答えが出てきて思わず突っ込む。まぁ、見えるとは言っても雲と海と陸地だけだし、そもそも遠すぎて何があるのかもよくわからない。ふむ、遠くてよく見えないか。
「天体観測なんてのも良いかもな」
「てんたいかんそく?」
「うん。まぁ、夜になってご飯食べてからな」
採集拠点にはこれと言った娯楽もないので、暗くなったら晩御飯を食べて風呂に入って寝るだけだ。護衛対象である俺とアクアウィルさんはともかく、俺達を守るその他の人達は酒を飲んでへべれけになるわけにもいかないので、晩酌をするというわけにもいかないしな。倍率の高い天体望遠鏡でも作って、皆で天体観測をするというのは面白い試みかもしれない。幸い、ここは周りに人家なども無いのでそれはよく星やオミクルやこの世界の月であるラニクルがよく見えることだろう。
「そうと決まればお仕事をしっかり果たすとするかね」
鉱石と土、粘土を十分に採集したら木材も調達しなければならない。どれだけ使うかわからないのだし、インベントリの容量には今の所限界も無いようなので、資材はいくらあっても困らないのだから、重篤な環境破壊にならない程度にごっそりと採集してしまうことにしよう。
今は考えるよりも身体を動かす時間だ。
ライザ2クリアしました_(:3」∠)_