第317話~食が進みづらい夕食~
雪が積もり、夜間は道路が凍結しつつある……本格的に寒くなってきたので、皆様体調などにお気をつけ下さい_(:3」∠)_
「つまりですね、コースケ様の所作は女の心の隙間にスッと入ってくるわけです」
俺の追求を逃れ、話は夕食の席でと言ったレビエラは夕食を取り始めるなりそんなことを言い出した。わけがわからないよ。
「そう言われても……」
俺としては困惑するしか無い。所作が心の隙間にスッと入るとか言われてもピンとこないよ!
しかし、レビエラの言葉に同意して頷く人達が多い。どういうことなの。
「まァ、コースケは見た目で判断しないっていうか……」
「普通の人間の男とは明らかになんか違うっすよね。好みというか」
「普通の人間の男は私達みたいな鬼人族の女を怖がるものね」
「コースケさんは私達ハーピィにも優しいですし」
「旦那様はハーピィを見ても嫌な顔しない」
「わ、私達なんてクソ鳥扱いですもんねぇ……」
鬼娘達とハーピィさん達が口々に俺について語るが、それって……。
「節操がないだけでは?」
アクアウィルさんがそう言って俺にジト目を向けてくる。いやまぁ、うん。俺も同じことを思ったけれどもさ。この世界の男達が様々な容姿を持つ亜人の女性達に対してどのように感じるのかは俺にはわからないしな。俺にはこの世界の常識とか、普遍的な価値観というものが無いわけで。俺からすればシュメル達みたいな鬼人族の女性とか、フロンテ達みたいなハーピィの女性とかはファンタジーな見た目の美人、美少女にしか見えない。
「そういうわけではないと思うがの。コースケは今の姿となる前の竜の姿の妾にも優しくしてくれたぞ」
ここで意外な方面から援護射撃が飛んできた。
確かに、俺はグランデが竜の姿の頃から普通に接してきた。多分、今と殆ど変わってないと思う。
「コースケは竜の姿の妾にも対等に、公平に接してくれたし、優しかった。妾が兄様達に手荒く扱われているのを見て怒り、単身で兄様達に喧嘩を売って屈服させたのじゃ。人の身で、二頭の竜を相手にじゃぞ。竜の姿のままであった妾に対して下心など抱きようも無いじゃろ。コースケも自分でそう言っとったし」
確かに竜の姿のままのグランデ相手に性的にどうこうっていうのは無理だったけどさ。グランデママにも勧められたけど無理ですって断ったし。
「そりゃそうだろうねェ……というか凄いね、コースケ。あたしゃ今の話を聞いて改めてあんたを見直したよォ」
「グランデさんの兄さんってことは、竜の姿の頃のグランデさんよりデカいグランドドラゴンの成体二頭ってことっすよね? それに喧嘩売るって半端ないっすね」
「まぁ、コースケならドラゴン二頭相手でも確かになんとかなるのかもしれないけど……それでもドラゴン二頭に喧嘩売って屈服させるって凄いわね」
グランデと鬼娘達から向けられる尊敬の視線が眩しい。別にそんな大層なものではなく、単にグランデが兄竜達に足蹴にされてて冷静さを失ってしまっただけなんだけど。
「そういう別け隔てのない優しさというものがコースケ様の魅力なのでしょうね」
そう言ってレビエラが俺をじっと見つめてくる。そんなに真剣に見られてしまうと気恥ずかしいんだけど。
「……そそるんですよね」
「ヒェッ……」
なにか危険な雰囲気を漂わせてボソリと呟くレビエラから何か危険な気配を感じる。こ、これは捕食モードの波動……ッ! いや、まだそこまでではないか。しかし一つ間違えばそうなりそうな感じだ。気をつけなければならない。
「それにしても竜を屈服させた、ですか……北方の動乱をほぼ一人で収めたという話も聞きましたが、とてもそうは見えないのですけど」
アクアウィルさんがスープを飲むためのスプーンを口に咥えながらジト目を向けてくる。おひい様。行儀が悪うございますよ。
「む、妾の言うことが信じられぬというのか」
アクアウィルさんの言葉にグランデがムッとした声を出す。どうどう。落ち着け。
「この拠点を作った手際を見ればその力が尋常なものでないということはわかるのですけれど……」
「だったら明日からのコースケの働きっぷりをよォく見ておくことだねェ」
シュメルはそう言って肩を竦め、俺が夕食用に用意した腸詰め肉を口に運び、良い音をさせて噛み千切った。そしてモグモグと咀嚼し、飲み込んでから再び口を開く。
「そうしたらコースケの異常さというものが嫌ってほどよく分かるだろうさァ。コースケの本来の実力からすれば、本当はあたし達みたいな護衛は必要ないくらいなんだからねェ」
「それは流石に誇張じゃないかなぁ。ゴーレムを使えばそりゃそうなるだろうけど、そうでないとそこまで俺自身は強くはないぞ?」
「そうかィ? あたしの見立てだと、あのデカブツを使わなくてもあたし達がコースケに勝つのは難しいと思うけどねェ?」
そう言ってシュメルがニヤニヤと笑う。そしてアクアウィルさんの疑惑の視線が強くなっていく。あまり無闇にハードルを挙げるような言動は謹んで欲しい。余計に疑われてるじゃないか。
「あ、明日になればわかることですから、今日はゆっくりと休んで明日に備えるということで」
食堂の妙に緊張感の漂う雰囲気を吹き飛ばすようにゲルダが慌てて声を上げる。そんな必死なゲルダの姿を見てか、アクアウィルさんは無言で食事に戻り、グランデも不機嫌そうなままではあるが食事を進めることに専念するようであった。
アクアウィルさんとグランデの相性が思った以上に悪い……! 帰るまでになんとか仲良くなってくれれば良いんだが。
☆★☆
特にラッキースケベ的なイベントも無く、一日目は食事の後に風呂に入って就寝ということに相成った。流石に自重してくれたのか、久々にのびのびと一人で風呂に入れたのは良かったな。
夜も特にいつのもようなことにはならず、不機嫌だったグランデが甘えるように添い寝してきただけだった。とても平和。
まぁ、寝室というか宿舎は別棟にして分けてあるが、致せば声は漏れるだろう。今の状態でそんな事になったらアクアウィルさんの視線が翌朝に絶対零度になっていること受け合いなので、自重してくれたのかもしれない。
それよりも問題はアレだ。
ガォォン! ズドドドッ!
うん、ゴーレムタレットくんものすごくうるさいね。
自動で迎撃してくれるのは良いんだけど、大口径銃器の巨大な発砲音は安眠妨害も良いところだ。グランデは全く気にせず眠りこけていたけど、俺は夜中に何度も目を覚ました。シュメル達は最初の一回だけ起きたようだが、あとは寝ていたようだ。流石は冒険者だな。
「コースケさぁん……」
「……(ぶるぶる)」
「こ、こわいですぅ……」
逆にハーピィさんとは相性が悪かったようで、三人ともグランデと俺が寝るベッドに潜り込んできた。発砲音が鳴る度にビクッと体を震わせて起きるので、俺もその度に起こされる。
明日はアクアウィルさんに文句を言われそうだなぁ、と考えながら俺は睡眠と覚醒を繰り返し続けるのであった。




