第315話~採取拠点の設置~
ギリギリ間に合わなかった!_(:3」∠)_
大量に用意されていた木箱を全て俺のインベントリに収納し、エアボードに乗り込むことにした。
今回の乗員は俺(成人男性)、グランデ(子供サイズだけど尻尾がでかい)、鬼娘のシュメル、ベラ、トズメ(全員身長2m超)といういつものメンバーにアクアウィルさん(子供サイズ)、ゲルダ(鬼娘とほぼ同じ体格)、レビエラ(成人女性)というメンバーを加えた形となる。俺専用エアボードは万が一の戦闘に備えて大きく作ってあるが、流石にこの人数で乗るのは無理があった。
ちなみに、ハーピィさん三名は空を飛んで警戒しながら同行してくれることになっているので、乗員としてはカウントしていない。
「ぎゅうぎゅうのすし詰めにすれば乗れなくもないけど……」
「その場合、スペース的なことを考えるとお姫サマはコースケの膝の上にでも座ってもらう必要があるねェ」
「却下です」
アクアウィルさんにノータイムで却下されたので、結局二台に分乗して行くことになった。俺が運転するエアボードにシュメルとトズメ、グランデが乗り、ベラが運転するエアボードにアクアウィルさん、ゲルダ、レビエラが乗るという形になる。
俺としてはアクアウィルさんにこっちに乗って欲しかったのだが、警備上の観点から俺が乗るエアボードにはシュメル達が乗る必要があり、アクアウィルさんの乗るエアボードにはゲルダとレビエラが乗る必要がある。少しでも話をして距離を縮めたいと思っていたのだが、こればかりは仕方があるまい。
「それで、今回の目標は?」
「手に入るものはなんでもだな。建材になる石材、粘土、木材はいくらあっても良いし。腐葉土もあると良い――ああいや、農地ブロックにまですると過剰生産になりかねんかな?」
「沢山収穫できるのは良いことなんじゃないかい?」
「俺の作った農地ってのはな――」
首を傾げるシュメルに俺は説明を始めた。
俺が作る畑にもいくつかグレードのようなものがある。一番良いのは腐葉土などから作った農地ブロックを俺が耕したもので、これは俺が一切手を付けなくとも他の人が種を蒔いて普通に世話をするだけで数週間程度で作物が収穫できるようになる。無論、作物の種類によって必要な生育期間が異なるのだが、少なくとも一月に一回は収穫ができる。冬場に低温に強い作物を育てれば、一年に少なくとも十二回は収穫できるぶっ壊れ農地だ。
次は元からよく肥えた土地を俺が耕したパターン。これは元々農地だった場所や、森林を切り拓いた腐葉土が多い土地などを俺が耕したもので、これも俺が手を入れずとも一ヶ月から二ヶ月ほどで作物が収穫できる。小麦を基準に考えるとこれでも五分の一ほどの期間で収穫できることになるので、凄まじい育成期間の短縮になる。
次は特に肥えてもいない普通の土を耕したパターンで、これでも三ヶ月から四ヶ月で収穫が可能だし、草もほとんど生えないような荒野を耕した農地でも半年ほどで作物が収穫できるようになることが実験の結果わかっている。草もほとんど生えない荒野というのは勿論オミット大荒野のことだ。
普通、小麦は秋に蒔いて次の年の晩夏から初秋辺りに収穫するらしいのだが、俺が耕した農地なら殆ど草も生えないような土地でも上手くすれば年に二回収穫できるわけだ。こうして考えると俺の農業生産ブースト能力やべぇな?
「解放軍の食糧事情と懐事情が異常に良かった理由がわかったねェ……」
「小麦が数週間で収穫可能って……一日畑を眺めていたらにょきにょき作物が伸びるのがわかりそうね」
「流石に全部を特別仕様の畑にするわけはないと思うけどな……まぁ、いくらか腐葉土も集めておくべきだろうな」
まぁ、農業で生産するものは食い物だけじゃない。麻、亜麻、綿、茶、サトウキビなどの商品作物を作るという手もあるのだ。麦とホップからビール、ブドウからワインを作るのも良いだろう。アブラナやオリーブなどを栽培して油を搾っても良い。その辺りに関してはシルフィとメルティが上手く差配するだろうから、俺が口を出す必要はないだろう。
「石材と粘土狙いで、木材はあれば刈るって感じで良いかな。ただ、木材に関しては適当に伐採しまくると災害を起こしかねないから難しいんだよなぁ」
ここはゲームの世界ではないので、当然ながら根こそぎ森林伐採なんぞをやらかした日にはその土地の生態系が崩壊して魔物禍が発生する可能性があるし、単純にその森林で採取や狩りなどをしていた人々がいる場合には生活に直接影響が出ることも考えられる。更に言えば近くの水源が枯れるとか、水害や土砂崩れが起きるなんて可能性もある。森に迂闊に手を出してはならぬとシルフィにもメルティにも言われているので、程良い伐採を心がけなければならない。
「今回はガッツリ採取したいから、できるだけ人里離れた場所で採取をしたいな」
「んー、なら南西方向の平野を抜けてソレル山地の麓あたりが良いだろうねェ。あの辺は魔物も多いからあまり人が寄り付かないから」
「大丈夫かしら? あの辺り、たまにワイバーンなんかも飛んでくるわよ?」
「魔物対策に関しては考えてあるから大丈夫だ」
そう言って俺はシュメルの案内に従ってエアボードを走らせ始める。まずはメリネスブルグ内をゆっくりと安全運転でだな。メリネスブルグから出たらある程度スピードを出すとしよう。
☆★☆
「ここをキャンプ地とする」
「……ここですか?」
エアボードから降りてきたアクアウィルさんが辺りを見渡してから胡乱げな表情を俺に向けてくる。それも仕方があるまい。ここは人里離れたソレル山地の麓。正面には荒涼とした岩石質の山肌が広がっており、右手は深い森。左手は巨岩がごろごろと転がる荒野である。
ソレル山地からはワイバーンが飛来する可能性があり、右手の森からも左手の荒野からも魔物が寄ってくる危険がある。しかも森林や巨岩のせいで見通しが悪く、魔物が襲ってきた場合に迅速に対処ができるかどうかも不安がある。どう見てもキャンプ地に適した場所とは言えない。
「ちょっと待ってな」
そう言って俺はミスリルツルハシをショートカットから呼び出して装備し、まずは周辺に転がる岩を破壊して回る。ははは、人より大きな岩であろうとも俺の振るうミスリルツルハシの前には豆腐も同然よ。
「……えー」
「……噂には聞いていましたが、凄いですね」
「私も直接見るのは久々ですけど、前はもう少し控えめだったと思いますよぉ」
あっという間に辺りの岩場を更地にしていく俺を見てアクアウィルさん達が驚いている。
「いつものことじゃな」
「そうだねェ」
「うちらはもう見慣れたっすよね」
「採集に行くときはだいたい私達が護衛だしね」
対してグランデと鬼娘達は冷静である。俺が整地、建築するのを何度も見てるからな。グランデは何も言わなくても土魔法を使って俺が切り拓いた土地を平坦にしてくれてるし。もはや阿吽の呼吸の領域である。
「ありがとう、グランデ」
「むふふ、つがい同士が助け合うのは竜でも人でも同じことじゃからな」
そう言いながら近くによってきて頭をぐりぐりと押し付けてくるのがとても可愛い。頭を撫でてやると、グランデは嬉しそうに尻尾でドスンドスンと地面を叩く。折角均した地面が凹んでいるが、まぁあれくらいどうということはないだろう。
「かなり広い範囲を更地にしたようですが、これから天幕でも張るのですか?」
「まさか今から簡易拠点を作りますよ」
「簡易拠点」
基本は高床式である。地べたに作っても別に良いのだが、そうなると防壁なり何なりも一緒に作らなければならなくなるのでかえって面倒だ。魔物なんかが襲ってきても簡単には上がってこられないような高さに床を張って、その上に拠点を作るのが一番手っ取り早いし、安全だ。幸いにして俺の能力は空中にブロック固定されるから、万が一支柱を壊されても崩落しないし。
「今採取した岩を素材した石材でポンと」
ブループリント機能を使い、切り拓いて均した土地に高床式拠点の基礎構造――10mほど高さの支柱の上に石材の床を張ったものを作り出す。四隅と中央に柱を備えたオーソドックスな高床式プラットフォームだ。
「なっ!?」
突如現れた石材製の巨大構造物にアクアウィルさんが目を丸くする。
「四隅の支柱に梯子があるんで、出入りする場合はそれを使うように。上がったところにハッチがあるから、上がったらちゃんと閉めてね」
ちなみに、ハッチは鋼鉄製の分厚いやつで、とても頑丈なやつである。メルティ辺りだと素手でハッチをぶち破るけど。恐らくメルティの侵攻を止めるには総ミスリル製の建物とハッチが要るだろうな。ハッチだけミスリルにしても壁が石材だと壁を破ってくるだろうし。
「? どうしたのですか? いきなり黙って」
「いや、魔物相手には鉄壁でもメルティ相手だとこの拠点も紙屑のように破壊されそうだなって」
「……魔神種ですからね」
うん、メルティを想定した防御拠点のアレコレを考えるのは無駄だからやめよう。それよりも拠点作りだ。
サクサクとプラットフォーム上に宿舎と食堂、風呂などを作っていく。既にこの辺りの建造物も最適化して内装も含めてブループリントに登録してあるので設置は一瞬だ。
「はい完成。なにか要望があれば対応するんで、気づいた点があったら言ってくれ」
「お風呂があるのは良いのですが、何故一つなのですか?」
「男が俺しかいないのにわざわざ二つ作るのは無駄だから。時間をずらして入れば鉢合わせることはないから、その辺は話し合って決めておいてくれ」
男女比が半々とかなら二つ作っても良いんだけどね。それに鬼娘達はどうするかわからんけどグランデとハーピィさん達はまず間違いなく俺と一緒に入りたがるだろうしな。食前に俺と入らない人、食後に俺と入る人って感じに別れれば不幸な事故が起こることはあるまいて。
「後は防衛設備を整えたら完成だな」
「防衛設備っすか?」
「うん。今まで自重して使ってなかったんだけど、ゴーレム兵を使った以上は出し惜しみしても仕方ないしな」
器物に高度な自己判断能力を与えられるゴーレムコアと俺が作る銃を組み合わせれば作るのは簡単だったからね。これで対地攻撃も対空攻撃も完璧だよ、ハハハ。