第314話~旧交を温める~
季節の変わり目だからか体調が安定しないなぁ……皆様も体調管理はしっかりしましょうね!_(:3」∠)_(ダルさMAXの身体を引きずりながら
今回の自由採集は二泊三日の予定である。
本日一日目が移動日。明日丸一日をかけて採集を行い、明後日には撤収して戻ってくるという流れだ。メンバーは俺と鬼娘三人、警戒役のハーピィさんが三名、それにグランデとアクアウィルさんという予定であったが。
「王族の娘が世話係も連れずに外出するなど以ての外です。殿方と泊りがけで外出なども言語道断なのですが」
「と仰っております、セラフィータ様」
「なるほど。採集地送りです」
「お母様!」
などという茶番めいたやり取りの末、アクアウィルさんの猛抗議により世話係兼護衛として二名のメイドさんが同行することになった。
で、今は城の駐車場――主に馬車の乗降をする場所だ――で出立の準備をしているわけだが。
「あはは、お久しぶりですぅ」
「本当に久しぶり。元気そうで何よりだよ」
二名の世話係兼護衛役のうちの一人は見覚えのある大柄な女性であった。茶色い毛の生えた丸い耳が彼女の頭の上でピコピコと忙しなく動いているのが見える。
「しかしメイド……メイド?」
「い、一応メイドですよぉ」
首を傾げる俺に彼女――ゲルダは困ったような表情をしながらモジモジと身を捩らせる。確かに地味な色合いのエプロンドレスだけど、胸部分には胸甲を身に着けているし、腕には金属板で補強された篭手も着けている。スカートの中身はどうなっているのか知らないが、歩いた時の音から察するに最低でも金属で補強されている脚絆くらいは装備しているようだ。
何より目立つのが彼女の背に負われた特注の鋼鉄製タワーシールドと、傍らに置かれた鋼鉄製のロングメイスであろう。あれは前に俺が作って彼女に渡したものだな。ところどころに傷や凹みなどが見えるので、間違いなかろう。
そんな彼女の存在を一言で表すならメイドさんはメイドさんでもファンタジーバトルメイドさんであろう。しかも力こそパワーってタイプの。
「俺の知ってるメイドさんと違うんだが」
「い、一応所属は近衛兵なんですよぉ」
「なるほど?」
近衛兵の中でも女性王族を警護する専門の役職みたいなものなのだろうか? というか、近衛兵ってことは……?
「一応栄転ってことになるのかね?」
「あ、はい。元は一般の重装歩兵でしたから、近衛兵として抜擢されるのは栄転ってことになりますねぇ」
「それはおめでとう。でも、城では今まで見かけなかったよな?」
「赴任したのは三日前なんですよぉ。王城の宿舎への引っ越しが終わって最初の任務なんですぅ」
「ははぁ、なるほど」
などとゲルダと旧交を温めていると、もう一人の護衛さんがツカツカとゲルダの背後へと歩み寄り、ゲルダの尻を叩いた。ペチーン、と良い音が鳴る。
「あひんっ!?」
「いつまでも立ち話をしていないで仕事をしなさい、仕事を」
そう言ってゲルダの顔をジト目で見上げているのは俺も城内で何度か見かけたことのある女性だ。名前は知らないけど。彼女は目立つからな。
「コースケ様もあまりうちの新人を甘やかさないようにお願い致します」
「了解。ところで名前を聞いても?」
「そう言えば名乗ったことがありませんでしたね。私はレビエラと申します。近衛兵として主に女性王族の警護と身の回りの世話を致しております。以後、お見知りおきを」
そう言ってレビエラさんは丁寧に頭を下げてきた。彼女は青みがかった灰色の肌とコウモリのような黒い翼を持ち、腰からは先端が鏃のように尖っている細い尻尾が生え、頭にはメルティと同じような捻れた羊のような角を持つ、ステロタイプな悪魔っぽい容姿の女性であった。目は白目の部分が黒く、瞳孔は鮮やかな紅色である。
その特徴的なルックスから、特に関わりが無くとも彼女の存在は俺の頭の中にしっかりと刻みつけられていたのだった。何にせよ、挨拶には挨拶を返すべきであろう。一説によれば古事記にもそう書いてあるらしいし。真偽は知らんが。
「どうぞよろしく。俺は――」
「コースケ様のことはよく存じておりますので」
「ですよね」
「はい」
レビエラさんが頷く。
彼女は特徴的なルックスで目立つ存在ではあるが、城で働く多くの人員の一人である。しかし俺は国のトップの伴侶で、且つ稀人であることを隠さずに振る舞っており、更に言えばメリナード王国奪還の立役者でもあり、竜であるグランデ絡みの件でも北方戦役の件でも目立ちに目立ちまくっている存在なので、城に勤めている者で俺の顔と名前と立場を知らないものは皆無と言って良い。
当然、彼女も俺の事をよく知っているというわけだ。
「なんというか面倒をかけてすみません」
「いえ、これも任務ですから。それと、私にそのようなかしこまった言葉遣いは必要ございません。コースケ様はシルフィエル陛下の王配であらせられ、私どもは王族の皆様をお守りする近衛兵でございます」
「完全にペーペーの一般市民だから、王族としての振る舞いとかそういうのはちょっと苦手で……まぁその辺はおいおいということで見逃してくれると嬉しいです。ハイ」
「早めに慣れられたほうがよろしいかと。無礼を承知で申し上げれば、コースケ様の振る舞い如何によってシルフィエル陛下が軽く見られてしまう、ということも有り得ますので」
「精進致します」
俺の返事を聞いたレビエラさん……レビエラは俺に深く頭を下げ、ゲルダを引き連れて俺達の足となるエアボードが停めてある方へと歩いていった。ゲルダに何か言いながら時折レビエラの尻尾がピシピシとゲルダの尻を叩いている。あの尻尾はかなり自在に動かせるようだ。
「ライバルっす」
「いや、無いんじゃない? だって近衛兵よ?」
「さァてどうかねェ? ゲルダは解放軍の頃からコースケにホの字だったっぽいし、わざわざ近衛に転属してきたのもねェ?」
「追いかけてきたってことっすか。純愛っすね」
「ちょっと待って今衝撃的な情報があった気がする」
ゲルダが解放軍に居た頃から俺にホの字だった? ああいや、なんかそんな話を男連中で集まって駄弁ってたときにちらっと聞いたような気もするけど、本当かどうか分からなかったから完全にスルーしてたわ。
「罪な男よねぇ」
「次はアクアウィル様も狙ってるってことっすよね。王族コンプっすか?」
「レビエラもかもねェ。まァ? メリナード王国の王配としては分け隔てのない種族の融和ってのを体現するのもアリなのかもねェ?」
「そういう意図はない。ないったらない」
俺の宣言に鬼娘達が疑惑の眼差しを向けてくる。
違うんですよ。単にシルフィのお姉さんとギスギスし続けるのも嫌だし、セラフィータさんからも言われたから、少しでもギスギス感を無くそうという意図で今回の採集に同行してもらえるように頑張ったんですよ。王族コンプとかそんな邪悪な意図は一切ない。というか、お前達の中ではイフリータはもう落ちてる判定なのか。
イフリータとも今のところはなんでも……いやなんでもないと言うのは無理がある気がするけど、決定的なことは無いから。ノーカンで。
「ところで、グランデはどこだ?」
「話を無理矢理変えたっすね」
「しゃらっぷ!」
「あうち!」
ニヤニヤしているベラのケツを平手でペシーンと叩いておく。鍛えられた筋肉を奥に秘めたベラの尻は良い叩き心地だな。今度から何かやらかしたらケツを叩いてやることにしよう。
「グランデちゃんならもうとっくにエアボードに乗って寝てるわよ」
「荷物の用意も終わったみたいだし、そろそろ行こうかねェ」
見れば、アクアウィルさんが用意していた荷物の運び出しも全て終わったようであった。一抱えほどもある木箱が大量に積まれているが、もしやアレ全部か? 中身は一体何なんだ。
首を傾げながらも俺達は連れ立ってエアボードへと向かう。問題はエアボードに全員乗れるかどうかだが……あまりすし詰めになるようなら二台出せば良いか。一台をベラに任せて、もう一台を俺が運転すれば問題あるまい。