第311話~奥の会議~
遅れました!_(:3」∠)_(昨日の今日で早速の遅刻である
生産性、という言葉がある。
この言葉を聞いただけで俺なんかは眉間に皺が寄って胸中に苦いものがこみ上げてきたりするのだが、まぁそれを我慢してごく簡単に言葉そのものの解説をすると、より少ない労力と物資の投入でどれだけの価値を創出できるのかという話だ。
世知辛い世の中だと首を切る――無論、比喩的表現だ――指標となったりなんだりとあまりイメージの良い言葉ではないのだが、まぁそれはそれとして本来はそういうリソースとリターン関係性を示す言葉だ。
「やはり開拓地の用意をするために飛び回ってもらうのが一番だと思うのだが」
「それが合理的ではある」
シルフィが俺の処遇について提案し、アイラがそれに同意する。メルティも横で頷いている。まぁ、なんだかんだでこの三人は俺の能力を一番良く把握しているからな。さもあらん。
「合理的ではあるのでしょうが、私としては賛成したくはないですね」
三人の意見に反対の意思を表明しているのはお腹が大きくなってきているエレンだ。アマーリエさんとベルタさんは何のリアクションも取らずに静かにしているが彼女達も基本的にはエレンと同じ意見なのだろう。彼女達は俺の能力――彼女達が言うところの聖人の奇跡を軽々と濫用するのはよろしくないという考えがあるらしい。
「でも、旦那さんにしか出来ない仕事だから……」
消極的に賛成しているのはハーピィさん代表のピルナだ。彼女もまたシルフィ達と同様にほぼ最初期から俺のやらかしたことを目にしてきたので、俺の能力の使い所というものをよく理解している。しかし子ども達も少しずつ大きくなってきていて、俺に懐いてもいる。できれば近くに居てほしいというのが本音ではあるのだろう。
「妾はついていくから何の問題もないのだがな」
「うちらもっすね」
「まァ、どっちに決まっても文句はないねェ」
「何れにせよ務めは果たすわ」
グランデと鬼娘達は俺の護衛として帯同することがほぼ確定なので、どちらでも良いという立場だ。俺が遠出すれば結果的に俺と過ごす時間が増えるので、反対する要素がない。しかし積極的に肯定するのも角が立つので中立といったところか。
「私も……」
「お母様にはこちらでやってもらいたい仕事が山のようにありますので。ドリー姉様もです」
「ぶー」
開拓村を拓く下準備をするために俺を派遣するという方向に話がまとまりそうな気配を機敏に察知し、セラフィータさんとドリアーダさんが俺に同行すると表明しようとしたようだが、速攻でシルフィに釘を刺された。それにしてもドリアーダさん、ぶーて。
「コースケを開拓に投入すれば、五十人が数年間辛い思いをしてやる開拓の作業が半日もかからずに終わる。コースケの生産性もはや暴力」
「暴力」
酷い言われようである。
まぁでもそうね。俺がミスリルツールを振るえばどんな荒野も深い森も半日でそれなりの規模の農村に生まれ変わることだろう。しかも無限水源で生活用水や農業用水の心配もいらないわけで。
「冒険者ギルドと商人組合を利用した冒険者の支援策はコースケが居なくとも進められる。それこそ、他の者が代わりに引き継いでも進められる事業だ。魔力の集積機構に関しては実現すれば国を大きく発展させるだろうが、基礎研究にも実際の運用にも時間が要る。コースケをその開発に投入してもな。更に言えば、アイラやイフリータ姉様、或いは研究開発部で研究を進めなければならない分野の技術もあると聞いた。ならば、やはりコースケには国内の安定のために開拓村を多く拓いてもらうのが一番だろう」
シルフィの言葉を否定できる者は居なかった。こうしてメリナード王国の女王であるシルフィを始めとした女性達――主に俺と関係を持つ女性達だ――が参加する会合において、俺という強力な駒をどこで、どのように運用するのかが決定されたわけだ。
ちなみに、メリナード王国の国家としての方針を決める会議は別に行われている。そっちには女性達だけでなく、各部署の文官や武官なども交えて意見を募り、女王であるシルフィが決定するという流れを取っているらしい。
あくまでこの会合は俺という戦略級のユニットをどのように運用するか、ということを決めるだけの会合で、表向きには女王の『奥の間』のあれこれを決める会合ということになっているそうだ。
まぁ、俺の能力に関しても割とオープンにしているわけだし、この会合そのものが後々には女王であるシルフィの権力を支える一種の基盤となっていくんだろうな。自分で言うのも何だが、今の俺は軍事においても内政においてもこの世界の常識を遥かに超えた能力を発揮する鬼札のような存在であるわけだし。
「むぅ……」
若干マタニティブルーが入っているエレンは不満げだったが、そこはなんとか俺がフォローすればいいだろう。長命種の皆さんは、短命種であるエレンやハーピィさん達にある程度俺がウェイトを割くことに関して寛容であることだし。
無論、長命種の皆さんにもその分のフォローはある程度しなくちゃならないわけだけども。それはうん、あちこちに手を出した自分の迂闊さ――半ば強制的に食われてばかりの気がしないでもないが――ということである程度呑み込もう。なんだかんだで俺も幸せなわけだしね。
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「と言っても、開拓事業というのもそれなりの大事業なわけで」
「勿論、明日からいきなりどこそこに飛んでいって荒野なり森なりを切り拓いてこいという話にはならないな」
俺の『運用』について結論が出た一時間後、俺はシルフィと一緒に昼間からお風呂に入っていた。会合を行なった今日は『お休み』の日にするということで、俺の時間は数時間単位で切り分けられ、家族サービスをするということに相成ったわけである。
ちなみに、この『お休み』はローテーションを組んで数日に渡って開催されることとなっており、今日はシルフィとエレン達、そしてハーピィさん達に割り振られている。その他の人々は今も通常業務をしているというわけだな。特にメルティは突然降って湧いた大規模開拓事業に関して忙しく動き回ることになっており、彼女の番が回ってくるのは最終日である明後日で、担当時間に関しても今日明日と働く分、長めに取られることになっている。
「場所の選定もあるものな」
「そうだな、地方領主達にも通達を出す必要があるし、そういった場所を選定していないならば急遽選定して貰う必要があるし、選定してあっても情報が古いのであれば再調査の必要もある。開拓民も集めなければならん」
新しく開拓村を拓くとなれば、近隣に存在する既存の村や街などとのアクセスや、生息している生物――特に危険な魔物など――の様子も考慮する必要がある。どんなにその他の条件が良くとも、他の村との行き来が困難な辺鄙な場所に開拓村を拓いても仕方がないからな。
「明るいうちからゆっくりと入る風呂のなんと贅沢なことか」
「酒は程々にな」
最初から長湯をするつもりであるらしく、王族用の大きな湯船に満たされている湯の温度はぬるめだ。しかも温度の維持に精霊魔法まで使っているという気合の入れようである。
「では酒の代わりはコースケに務めてもらうとしよう」
「はいはい、マッサージでもなんでもお望みのままに」
シルフィの望むままに明るいうちからお風呂で滅茶苦茶シルフィとイチャついた。最近はシルフィも俺も忙しくてこういう時間もあまり取れなかったから、今日みたいに『お休み』の日を作ってこうして過ごすのは定期的にやるべきだな。