第310話~どうしても仕事の話が多くなる家族団欒~
くっ、封印された右眼が疼く……ッ!_(:3」∠)_(訳:朝二度目したら右眼に異物感があって辛い
大聖堂から帰ってきたら昼食に丁度よいくらいの時間だったので、三人で城の食堂に向かう。
「帰ってきたのか」
「ただいま」
「うむ、おかえりなのじゃ」
「おかえりなさい」
食堂にはシルフィだけでなく、グランデやメルティ、それに鬼娘達なども揃っていた。ハーピィさん達はあまりこの食堂を使わない。なんでも城の兵士や使用人達が使う食堂のほうが落ち着くらしい。
「おかえりなさいませ、コースケ様」
「おかえりなさい、コースケくん」
「……」
セラフィータさんやドリアーダさん、それにアクアウィルさんもいる。アクアウィルさんだけは俺を睨むように一瞥しただけで声はかけてこなかったけど。どうもアクアウィルさんには目の敵――という程ではないけど、あまり友好的な関係は築けていないんだよな。
まぁ、彼女の気持ちもわからなくはないんだけど。彼女にしてみれば俺は家族を次々に毒牙に駆けていっている間男のようにしか見えないに違いないのだろうし。いや、そこまで悪くは思われていないと思いたいけど。何にせよ、家族を引き裂く鼻持ちならないやつという評価なのだろうなとは思う。別に俺もそうしようとしてそうしているわけではないんだけど。
「成果は?」
「方向性は見えた。後はトライアンドエラーを繰り返すだけだな」
「そうか。上手く行けば良いな」
「詳しくは聞かないのか?」
「技術的な話を聞いても私にはサッパリだからな」
そう言ってシルフィは肩を竦めてみせた。まぁ、シルフィはどちらかと言えば体を動かしたりするほうが得意だし、魔法に関しても戦闘系の精霊魔法はともかく、それ以外の魔法についてはサッパリらしいからなぁ。
「魔力の活用方法の話も重要だが、冒険者ギルドと商人組合の方はどうなっているんだ?」
「そっちは丸投げだな。下手に口を出すと良い結果にならなそうでな。でも、アレはあくまでも冒険者を支援する試みだから、あまり根本的な解決にはならないぞ。抜本的な改革は国がやらなきゃいかんと思うが」
「それはそうなんですけど、なかなか手が回りませんね……聖王国との交渉も難航していますし」
「そうは言っても、まずは国内問題を片付けるのが優先じゃないかな。最悪、聖王国とは喧嘩別れしても良いわけだし。うだうだ言うならよろしい、ならば戦争だとでも言って一蹴してやれ」
「そんな滅茶苦茶な……」
話をしている間に城で働いているメイドさん達が俺やアイラ達にも昼食を配膳してくれる。ちなみに、こういう話題の時にはグランデや鬼娘達は非常に静かである。自分達の得手不得手というものを自覚しているからだろう。
「わざと交渉を長引かせて身動きを取れなくしているんじゃないかと思ってな。このタイミングでメリナード王国のトップを釘付けにして身動きできなくさせてしまえば、わざわざ手を下す必要もなくメリナード王国の弱体化を狙えるわけじゃないか。真正面から戦って分が悪いなら、これくらいの搦手は使ってくるんじゃないかね」
「その可能性は私達も考えてはいたがな……」
シルフィが苦虫を噛み潰したような表情で黙り込む。大方俺を戦力として、或いは抑止力として積極的に使うのを気が進まないとかそういうことなんだろうな。
「使えるものは使っていくべきだと思うぞ。シルフィは女王様なんだからな。そこに私情を挟むのは……まぁ、俺としては気を遣ってもらうのは勿論嬉しいが、それはそれ、これはこれだ。気を遣ってもらうのも嬉しいが、頼ってくれるのも同じように嬉しい。俺にできることに関してはどんどん頼ってくれ」
「……うん、わかった。わかったよ、コースケ」
「うん」
シルフィの色良い返事を聞けて俺も満足だ。俺も父親だからな。伴侶と子供達を守るためにもいつまでも後ろに引っ込んでいるというわけにも行くまい。無論、万歳突撃して玉砕するのは真っ平御免だが。
「急にイチャつき始めた」
「むぅ……私もシルフィと一緒に頑張ってるんですけど」
「まぁええじゃろ。一番頼りになるのは妾じゃとコースケも知っておるしの」
「あたし達もいるしねェ」
「最近置いてけぼりっすけど」
「向かう場所が場所だからね……商人組合や冒険者ギルドはともかく、大聖堂は人間サイズだし」
最近ことに出る時に護衛として連れ歩いていないからなぁ。前の商人組合の件は私達だけで良いってイフリータが突っぱねてたし、今日の大聖堂に至っては造りが人間にしか配慮していない建物だから、長身の彼女達では護衛が難しかった。まぁ、それ以上に見るからに威圧的な彼女達の同行は控えたほうが良いだろうというエレンからの忠告があったからでもあるけど。
「……むぅ」
「あら? イフリータちゃん焼き餅?」
「そんなんじゃないし」
「ふふふ」
「……」
向こうではセラフィータさんとドリアーダさんがイフリータをからかっている。というか、それを目にしたアクアウィルさんの視線が痛い。見られるだけで凍てつきそうな視線が俺の頬に突き刺さっている気がする。優秀な水精霊魔法の使い手らしいし、マジで視線が物理的な威力を持ってそうで少し怖い。
「コースケさん、早速ですが何か妙案はありませんかね?」
ズイッとメルティが迫ってくる。やるとなれば早速か。まぁ別に良いけども。
「人を募って開拓をしたらどうかな。家も土地も職もないということなら、そのどれもが同時に手に入って手っ取り早いと思うけど。食料は生産したら生産しただけ加工すればいいし」
そのために各種保存食や缶詰技術の開発にも手を付けたわけだしな。
「開拓村をたくさん作るということですか? 一から原野を開拓するのはとても大変ですよ。畑だって土から作らなきゃならないですし、そもそも耕作地を作るために森とかを切り拓くのは重労働で……」
「コースケがいる」
「いやそれはでき……る?」
アイラの突っ込みにメルティが首を傾げたまま固まる。
「移動時間はエアボードで解決。水源は無限水源を作れるから、開拓村の設営場所は水源に縛られる必要はなし。資材さえあれば住居の用意は一瞬。普通程度の畑で良いならミスリルツールでただ耕すだけでOKだな」
「コースケなら一ヶ月で人さえ入れればいい開拓村を沢山作ることができる」
「初年度の援助に三年間の税優遇を基本として人を募れば良いかもしれませんね」
ドリアーダさんが俺とアイラの言葉に続けて少しだけ踏み込んだアドバイスをしてくれる。
「未経験者にいきなり畑を耕せってのは結構無理だと思うっすけど」
「そこは農村から指導者を募るとか、開拓民の中から農業経験者を指導者として抜擢するとかすれば良いんじゃない?」
「まァ、奴隷として働かされていた連中の中には経験者も少なくはないだろうしねェ」
鬼娘達からも意見が出てくる。一度意見が出始めるとどんどん出てくるのは良い傾向じゃないかな。素人意見だらけだが、的を射たものもいくらかはあるだろう。実際に動くのはメルティやその部下ということになるのだろうが、まぁ参考意見にはなるんじゃないかね。
「そんなわけで戦争でも開拓でもいくらでも手は貸すから、遠慮なく言ってくれ」
「ああ、わかった。頼らせてもらう」
「コースケさんから言い出したことですから、逃げないでくださいね」
「お手柔らかにお願いします」
メルティの言葉には真顔で返しておいた。過労死しない程度で頼むぞ。本当に頼むからな!