第307話~難航するマナトラップ開発~
実験の結果、フィンはとても薄くても問題が無いということがわかった。ミスリル銀合金なら厚さ一ミリでも二ミリでも、それこそアルミ箔みたいに手で破けるくらいペラッペラでも魔力収集効率に差がなかったのだ。
「わかったことは良いことだけど、実用性の上では微妙ね」
「ん。物理的な耐久性が低すぎるのは実用性に乏しい」
「だな。まぁ、それでもこういうマナトラップの部材として使う分には問題ないってわけだ」
どれだけ薄くても降下が変わらないのなら、部材費は薄くすればするほど安くできるわけだ。問題は加工に必要な技術だろうな。流石にハンマーで叩いてこんなにペラペラにすることは出来ないだろう。ああいや、でも金箔は最終的になめし革とかに挟んで木槌で叩くんだっけ……? なんかそんなのを昔テレビで見たことがあるような気がする。
「それじゃあ次は発展型ということで、術式を使った自動収集装置を作っていくか」
「ん、やってみる」
「そう簡単に行くものじゃないと思うけど……」
やる気満々のアイラとは対象的に、イフリータは最初から若干ネガティブだな。何事もやってみないと始まらないもんだぞ。
しかし、これはイフリータの言葉通りに大いに難航した。
ドレイン系の術式魔法の中で代表的なものをいくつかピックアップし、その他に対象の魔法抵抗を抜いて状態異常を与える魔法なども同様にピックアップ。術式の中の共通項目から対象の魔法抵抗を抜くための術式や、対象を指定するための術式を抜いたり改造したりしてみたが、どうにも上手く行かない。
「流石に一筋縄では行かないか」
「あの時の風魔法と違って遥かに複雑な術式だから」
「そう簡単にはいかないわね」
三人で頭を抱える。最終的にはドレイン系の術式をなんとか応用したいが、別のアプローチを考えたほうが良いかもしれない。
初志貫徹も大事だが、最初の構想に拘りすぎて足を止めてしまうのも良くない。まだ始めたばかりなのだから、研究の方向修正はさほど痛くもないし。
「別のアプローチを考えてみよう」
「別のアプローチ?」
「ドレイン系の魔法に拘るのをやめる。あくまでも目的は大気中の魔力を取り出して利用可能なエネルギーにすることなんだから、目的が達成できるならドレイン系の魔法に拘る必要はないと思うんだ」
「なるほど。確かにそれもそうね」
「ん……でも、どうする?」
アイラが首を傾げる。確かに、ドレイン系の魔法に拘るのをやめるのは良いが、次の指針が無ければ計画は頓挫することになってしまうだろう。
「魔力を回復したり、一時的に集めたりする魔法に心当たりはないか?」
「魔力を回復する魔法なんて無いわよ」
「心当たりが無い」
「無いかー。うーん、そう言えば魔晶石に魔力を詰め直す時ってどうしてるんだ?」
「それは直接手に持って魔力を込めるのよ」
「ん。魔力放出」
「なるほど……それって魔晶石から魔力を吸い出すこともできるんだよな?」
「そうね」
「ということは、人間は……というか魔道士は、体内に魔力を吸い取ったり放出したりできる器官を何かしら持っているってわけか」
空気を吸って吐き出す肺と同じように、魔力を吸って吐き出す魔力器官とでも呼ぶべきものを持っているのだろう。何故か二人が俺の視線を受けて一歩後退る。
「解剖ダメ、絶対」
「人体実験はダメよ。禁忌なんだから。ダメなんだからね」
「君等は俺を何だと思っているのか……というかアイラ。初めて出会った頃に俺を解剖しようとしてなかったっけ?」
「あれは魔道士ジョーク」
そう言ってアイラはツイッと俺から視線を反らした。
「ほほう、魔道士ジョークか。じゃあ俺もジョークってことで生きている魔道士を核とした魔道機関とか提案していいかな?」
「ごめんなさい」
「よし」
素直に謝ったので許すことにする。脳裏ではハムスターの回すアレを走って必死に回しているアイラの姿が過っていたが、まぁやめてやることにしよう。どべしゃって転んで滑車ごと回る未来しか見えん。
「魔力操作と、あとアレだ、魔道具関連。魔石とか魔力結晶から魔晶石に魔力を充填する魔道具とか、魔力を貯めたり補充したりする魔道具関連で何か使えそうな技術を調べてみてくれ。俺は俺の世界の知識とクラフト能力を使ってマナトラップの完成に向けて試行錯誤してみる」
「ん、わかった」
「わかったわ」
☆★☆
「というわけでマナトラップというものを開発中なのだ」
「なるほど。ハーピィのところで油を売ったり、他の女と単にイチャイチャしているだけではないと言いたいのですね」
「当たりが強い」
「エレオノーラ様は寂しがりやなんです」
アマーリエさんが繕い物の手を止めてクスクスと笑う。
アイラとイフリータとの魔法授業とマナトラップ開発に一区切りをつけた俺は、城の奥に用意されているエレンとアマーリエさんの部屋へと足を運んでいた。そうして今日はこんなことをしていたのだと話していたわけだ。
「最近コースケは朝と夕方に顔をちょっと出すだけで、あまり構ってくれないですから」
「本当に最近はちょっと忙しくしてたんだ。ごめん」
「む……別に、困らせようとしているわけでは……」
謝ると、エレンの勢いが急に無くなってしまった。なんだか精神的に不安定なんだろうか。お腹に赤ちゃんがいるんだもんな。それも当たり前か。
「エレオノーラ様はただコースケさんに構って欲しいだけなんです。悪気はないので許してあげてください」
「許すも何もない。ごめんな、エレン。俺がもっと気遣わないとな」
「むぅ……謝らなくていいですから」
そう言ってエレンは俺の手をぎゅっと握り、自分の頬に当てた。何かよくわからないが、これが落ち着くのだろうか。
「その、コースケは……私が身重になってからあまり私に触れてくれないではないですか」
そう言ってエレンは俺の手に頬ずりをしながら真紅の瞳でジッと俺を見上げてきた。
「あ、あー……いや、なんだか下手に触れると赤ちゃんが心配というかだね?」
「少々のスキンシップでどうこうなるほど私達の身体も、お腹の赤ちゃんも脆くはないですよ」
いつの間にかアマーリエさんが密着するように俺の隣に移動してきていた。左にエレン、右にアマーリエさんと完全に囲まれてしまっている。
「夫婦らしいスキンシップというものを所望します」
「このティーテーブルじゃアレだから、あっちのふかふかソファに移動するのはどうか?」
「はい♪」
この後滅茶苦茶スキンシップした。具体的にはエレンに膝枕をしたり、アマーリエさんのお胸に抱かれたりした。
「私も居るんですが?」
そうしていたら二人の世話係として部屋に控えていたベルタさんがキレた。ベルタさんも交えて滅茶苦茶甘やかしたり甘やかされたりした。
期待させて悪いがスキンシップの内容は健全だ(´゜ω゜`)