第305話~当然ながら先駆者はいる~
うたた寝してしまった……最近夜更ししすぎてるのが原因だな……_(:3」∠)_(ゆるして
「あぁ……」
「……うん」
俺の構想を語って聞かせると、魔道士二人は互いに顔を見合わせて頷き、俺に何をどう伝えたら良いものか……? という雰囲気を醸し出し始めた。
「二人の反応を見る限り、あれだな? もう研究し尽くされてるとかそんな感じだな? しかも結果があまりよろしくない」
「うん、まぁそうね。誰だって思いつくからね。大気中に無尽蔵に存在する魔素を取り込んで魔力として利用するっていうのは」
「まな? おど?」
「大気中に存在する品質や波長が一定していない魔力をマナ、魔道士の体内にあって自由に行使できる魔力をオドという。普段はどちらも魔力と呼ぶことが多い」
俺が首を傾げて聞くと、二人ともマナとオドについて懇切丁寧に説明してくれた。
「なるほど、やっぱり研究されているのか。まぁ大気中に魔力が無尽蔵に存在することはわかっているんだから、それを利用しようと思うのは当たり前だよな」
「ん。昔から研究されてきた。例えば、魔道士の使う杖もコースケが言うところの一種のマナトラップ。魔道士の魔力を収束させて外部へと放出する焦点具や、放出する際に魔力を増幅させる増幅器としての効果のほうが目立つけど、杖には大気中の魔力を僅かながらだけど収集して所持者の魔力回復を助ける効果がある」
「ただ、効果はショボイのよね。例えるなら霧の中で布を振り回して湿らせて、僅かな水を搾り取ってるようなものだから。コースケが考えたように、ドレイン系の魔法を使って大気中の魔力を効率的に収集する魔道具に関しても昔から研究されてるんだけど、魔力を収集するためにはドレイン系の魔法を行使しなきゃならないわけで、どんなに効率化しても消費魔力のほうが多くなっちゃうのよ」
「なるほど。詳しく聞かせてくれ」
今まで行われてきたマナトラップ関連の研究内容を二人にざっと聞いてみる。二人ともマナトラップ関連の研究を熱心にやった事はないそうだが、今までに読んだ研究資料の内容や、かつてマナトラップ関連の研究をしていた魔道士から聞いた話などを知りうる限りで教えてくれた。
まず、この世界で研究されていたマナトラップは大きく分けて二種類に分かれる。
一つはドレイン系の魔法を魔道具化して大気中に存在する魔力を収集しようというもの。こちらのタイプが抱える問題はドレイン系の魔法の行使難度と、魔道具化した際の消費魔力の増大だ。
というか、そもそもドレイン系の魔法というのも、魔道士が魔道士を無力化する際に使うか、或いは外道魔道士の類が無力な一般人や生贄などから魔力を簒奪する際に使うものであるらしく、行使難易度の割にはあまり効率よく魔力を奪えるようなものではないらしい。無論、魔道士としての力量が隔絶していればその限りではないようだが。
「魔道具化すると一定の強度でしか魔法を行使できないから無駄が多いのよ」
「魔力溜まりとか脈穴で運用すればある程度は効率が上がる」
「そもそもそんな場所ならそんなものを運用する必要もないけどね」
「ん? 待ってくれ。その魔力溜まりとか脈穴の魔力ってのも所謂マナだから、そう簡単に利用できないんじゃないのか?」
イフリータの言い方だと、まるで魔力溜まりや脈穴の魔力は自由に利用できるというような感じだ。それでは大気中に存在する魔力は自由には使えないものであるという前提が崩れる。
「魔力密度が違う。通常の大気中のマナは無尽蔵だけど、とても薄い。コップ一杯の水にほんの一滴甘い蜜を垂らしてもわからないように。でも、魔力溜まりや脈穴の魔力は違う。あれは蜜そのもの湧き出たり、噴出しているような場所。品質は一定していなくとも、すぐにオドとして利用できるようになるだけの密度がある」
「なるほど、密度の問題か……ふむ」
俺が進むべき方向性がまた一つ示唆されたわけだ。俺は大気中の魔力を集めて直接機器や術者に還元するという手法を考えていたのだが、それが上手くいかないなら大気中の魔力を凝縮して所謂魔力スポットのようなものを作るという方法も考えられるわけだな。
魔力スポットを作った上で、その魔力スポットにマナトラップを設置するという合わせ技もアリかもしれないな。
「じゃあ、現状で既にある程度の成功を収めている杖の魔力収集効率について教えてくれ。どういう杖が魔力収集効率が高くて、どんな素材で作られたものがより良い性能を出すのかだな」
「私達も専門じゃないから、間違ってるかもしれないわよ?」
「大丈夫、初動の指針にするだけだから。後は試作と実験を重ねて自分なりにデータを積み上げていくから」
「ん、わかった」
二人から魔法の杖の性能について聞き取りを行なった結果、基本的に長くて大きく、そして魔力伝導性の良い素材で作られた杖の方が魔力収集効率が良いらしい。興味深いのは、杖の頭部分に高純度のミスリルを使った杖よりも、純度が低くともミスリルを含む銀合金や、魔力の通りが良い霊木を杖全体に使った物の方が魔力の収集効率が良いという点か。
「つまり純ミスリル製の長い杖が恐らく一番魔力収集効率が良いというわけか」
「そんなものが作れるならそうでしょうね。そんなものが作れるならね」
「作れるけど」
「コースケなら作れる」
「そうだったわね! でも、そんなもの高価すぎて普及させることなんてできないでしょ?」
「そりゃそうだ」
目指すところは誰もが安価に魔力や魔道具を利用できる世の中というやつである。高価なミスリルをふんだんに使うというのはその目的に反するだろう。
「純ミスリルはやりすぎだけど、ミスリル合金を使うことは検討すべきだろうな。ほんの僅かにミスリルを添加するだけでも魔力の伝導効率は大幅に上がるだろう?」
「ん、ミスリル銅合金は優秀。ミスリル銀合金はもっと凄い」
「少しくらいなら良いかもしれないけど、費用対効果は常に考えなさいよ。私達みたいなお金持ちだけでなく、下々の民全てに恩恵を齎すつもりならね」
「善処する」
純ミスリルの刀剣というのはそれだけで国宝になりかねない価値を持つものなのだから、そんな純ミスリルをふんだんに使うというのは確かに魔道具や魔力利用を広く広めて生活を向上させるという本筋から遠ざかることになってしまうだろうな。
開発中は自重するつもりはないけどな! 自分で掘ってくるなら実質コストゼロだ。
「絶対自重する気ない」
「私も最近こいつの考えている事がわかるようになってきた気がするわ」
そんなバカな。俺のポーカーフェイスが読まれるとは……いや、ポーカーフェイスじゃないわ。全然表情隠す気無かったわ。
「まぁまぁまぁ。とりあえずなんとなくだけど方向性はわかった。もう少し色々聞かせてもらうぞ」
「ん」
「良いわよ」
杖の魔力収集効率について更に聞き込みを続けることによって更にいくつかわかったことがあった。まず、杖は装備していないと効果がない。
いや、冗談とかではなくだね? つまり手に持つなり担ぐなりして身体に接触させておかないと杖は効果を発揮しないということだ。この情報から推測できることは二つ。魔力収集器で集めた魔力は何かしらの『魔力導体』とでも言うべきもので繋がっていないと伝導しないということ。
そしてもう一つ。人体には魔力を引き寄せる性質があるということ。魔法などを使って減った魔力が時間経過で自然回復するということから考えてもわかっていたことだが、この魔力を引き寄せる性質というのが今後のネックになりそうな気がする。
考えてみれば当たり前なのだが、魔力伝導性が高い物質がただそれだけで魔力を引き寄せたりするなら、基本的にそういった素材で構成されている魔道具というものは放っておくだけでバンバン誤動作しまくることであろう。
人工的にこの『魔力を引き寄せる性質』を作り出すことが最初の課題になりそうだな。
「よし、方針は定まった。早速作ってみるか」
「コースケがどんなものを作るのか楽しみ」
「どんなものを作るつもりなの?」
「思うに、ごく原始的なマナトラップの性能に関わるのは魔力伝導性と表面積だと思うんだよな」
「「表面積?」」
アイラとイフリータが揃って首を傾げる。うん、今色々作ってみるから待ってね。多分口で言うより作ってみせたほうが早いから。
そういうわけで、俺は臨時の講義室となっていたイフリータの私室にインベントリから取り出したゴーレム作業台を設置するのであった。