第304話~魔法に想像の翼を広げる~
体調は良くなってきたから調子を取り戻してイクゾー!_(:3」∠)_(しかし遅れる
「ふむ。ふむふむふむ……」
アイラとイフリータに協力してもらい、俺は各種魔法の一覧のようなものを作ってもらった。火、水、風、土の四大属性に加え、それぞれの派生魔法である光熱や溶熱、氷雪や冷気、雷撃や毒煙、岩礫や金属魔法、それに属性付与していない魔力を扱う魔弾系の魔法や浮遊、落下制御等を扱う念力系の魔法、その他にも四属性魔法に属さない数多くの魔法の一覧とその効果などが記された本だ。
言わば俺専用の魔導書とでも言うべきか。
「これは光熱系魔法でしょ?」
「違う、魔弾系。結果的に熱も発生するけど、光熱魔力に変換して放っているわけではない」
「でも――」
イフリータとアイラは魔法の分類や系統づけについて激論を交わしているが、俺はそちらには加わらずにひたすら魔法の一覧を眺めてどんなことに使えるか、どんなことができそうかということに関して想像の翼を広げ続けている。
例えば炎熱系や光熱系と呼ばれる魔法はとても面白い。魔力という大気中には存在するが目に見えず、無尽蔵に存在するエネルギーを高効率で熱エネルギーに変換しているのだ。ああいや、高効率かどうかに関しては議論の余地が大いにありそうだが、薪や石炭、ガスや液化燃料などといった燃料を使わずに強力な熱エネルギーを引き出すことができるというのは非常に興味深い。
これで本当に大気中の魔力が無尽蔵で枯渇することがないというのであれば、夢の永久機関の実現もできてしまいそうだ。大気中に存在する魔力では出力が足りないということであれば、地中から魔力が無尽蔵に湧き出してくる脈穴なんてものもある。脈穴を確保して無尽蔵に湧き出てくる魔力をもっと高効率で使うことができるようになれば、色々と捗るに違いない。
後方拠点でも脈穴から湧き出してくる魔力を利用してはいるが、あれは例えるならば湧き出てくる膨大な地熱と間欠泉のごく一部を入浴や料理に使っている、という程度の利用規模だ。先進的な地熱発電所に相当する魔力機関を開発し、利用できるようにすればメリナード王国発展の大きな力になるに違いない。
「うーん、とは言え軍事方面一辺倒ってのも芸が無いな」
労働や生活に便利なども考えていきたいよな。例えば、魔道具の運用コストを下げる技術なんかがあると良い。この対象から魔力を奪って自分のものとする念力系魔法に属するマナドレインとかはうまくすればソーラーパネル的な魔力収集器――マナトラップとして利用できそうな感じがする。
かなり高度な魔法であるようだが、風魔法に組み込まれていた反動制御術式のように魔力を馬鹿食いする制御術式が組み込まれてそうな気がするんだよな。二人にマナドレインの話を聞いてみた感じ、他者の魔法抵抗を突破して魔力を奪い、更に自分のものとして利用するために魔力の波長やらを調整して取り込むっていうのが魔法の難度を大きく上げるネックになっているようだし。
大気中に漂う魔力を集めるだけなら他者の魔法抵抗を突破する術式は必要ないだろうし、大気中に漂う魔力を集めるだけなら波長の調整も必要ないだろう。
いや、魔力の質を均質化する必要はあるか? どんな魔物の魔石やそれから作られた魔晶石を突っ込んでも殆どの魔道具は正常に動作するみたいだから、そこまで気を遣う必要はないかな?
でもまぁ、できるならやった方が色々と捗りそうではあるよな。後方拠点で作っている魔鉄や魔鋼の質が安定しないのも多分脈穴から漏れ出してきている魔力の質が均質でないのが問題なんだろうし。
でも魔力収集の段階で一つ一つの収集器に均質化回路を組み込む必要はないよな。多数の魔力収集器で大規模に魔力を集めて、一箇所に集約。集約地点に魔力の質を均質化する大規模な調整装置を設置して、利用すべき場所に分配するって方が効率は良いはずだ。均質化した魔力を貯めるキャパシタ的なものもあったほうが良いだろうな。何にせよまずはスケールの小さいものを作って色々と試行錯誤するのが良さそうだ。
「あれは何か色々と面白いことを考えている顔」
「大丈夫なの? 薄ら笑いを浮かべているようにしか見えないんだけど」
「大丈夫、きっと面白いことになる」
「そうだぞ。きっと面白いことになるぞ」
まずは王城のオール電化ならぬオール魔道具化を目指すのも良いかも知れない。当然、最初から確実に安心安全なものが作れるわけもないのだから、発生するトラブルは良いケーススタディになるだろう。
とりあえずは大気から魔力を収集するマナトラップと、魔力を均質化するマナトランス、それに魔力を沢山貯蓄できるマナバッテリーを開発すべきか。それに対応した各種魔道具もあると良いな。照明、冷暖房、調理器、作業台、それに防衛用の武器やトラップなんてのもありだな。魔力が潤沢に利用できるなら、わざわざ金属製の弾丸を発射しなくても魔法そのものを投射してやれば良い。
「ふっふっふっふ……これは腕が鳴るなぁ」
明かりの魔道具は既に存在するが、いちいち魔力を補充してやらないといけないからな、あれは。自動的に魔力が供給されるようになれば城の維持管理をしているメイドさん達の手間も減ることだろう。冷暖房にクーラーのような魔道具を使えるようになれば生活も快適になるだろうし、無段階で火力を調整できる魔道コンロがあれば料理も楽になるだろう。金属製の道具や武器を整備するのにも工作機械や自動で回転する砥石が使えるようになれば捗るだろうし。
俺が使ってるゴーレム作業台は一般に普及させるのは危なすぎるからな。魔煌石を使った魔力機関を搭載してるのは良いんだけど、アイラ達が言うには魔煌石を使った魔力機関は下手に扱えば周辺一帯を吹き飛ばす危険物らしいし。
その点マナトラップを使った各種工作機械は爆発の心配が無い。多分無い。実際安全。というか、マナトラップの出力次第では脈穴を確保せずとも打規模な魔力集積ができるかもしれんな。ただ、大気中の魔力が薄くなることで人体に何らかの影響が出る可能性もあるし、或いは周辺の自然環境になにか大きな影響を与える可能性もある。経過やその影響に関しては注意深く目を向けていく必要があるだろうな。実際のところ、本当に大気中の魔力というものが無尽蔵なのかどうかもわからないわけだし。
「ところで精霊魔法や奇跡に関してはどうなんだ?」
「精霊魔法はこれっていう型がないのよ。勿論、力を借りる精霊の属性によってできることは限られるけど、結局は術者のイメージを精霊に伝えて、精霊がそのイメージを元に現象を引き起こす魔法だから」
「属性魔力を矢のようにして飛ばすようなものから、自然災害レベルの極大魔法まで色々ある。それもこれも全部術者のイメージと、使役する精霊の格と、術者が精霊に渡す魔力量で大きく変わる。精霊魔法使いは感覚派が多いから、精霊魔法の体系を系統づけるのは困難」
「なるほど……奇跡は?」
「奇跡に関してはある程度は系統づけられているけど、あれも精霊魔法に近いわよね」
「ん。私が思うにあれは精霊魔法と同質のもの。ただ、使役する精霊の質が違うだけ。より根源に近い」
「根源?」
聞き慣れないというか、よくわからない言葉を聞いた俺は思わず首を傾げてしまう。
「魔力の根源、魔法の根源、まぁそんな感じのものね。魔力の塊である精霊よりも大きなモノ、つまり魔力の根源にして支配者、精霊達の母、或いは――」
「神、という言い方もできる。それを見た人はどこにも居ない。でもその存在は常日頃感じている。特に、私達魔道士は術式に触れることによってその存在を強く感じている」
「……うん! よくわからん!」
「でしょうね」
「コースケは魔法を使えないし、魔力を感じることができない。仕方ない」
何故か二人がとても優しげな視線を向けてくる。そのアホの子を見るような視線はやめてくれ。心にダメージが入りそうになる。
「どちらにせよ、奇跡の魔道具化は無理よ。精霊魔法と同じでね」
「そっか。なら普通の魔法がやっぱり一番だな。汎用性が高く、使う時と場所を選ばず、工夫次第で如何ようにも弄れるというのは好都合だ」
「ん、さすがコースケ。わかってる」
「私は精霊魔法も嫌いじゃないけどね」
「そのうち精霊魔法にも手を伸ばしてみたいけどな。まずはマナトラップから作ってみよう。二人とも手を貸してくれ」
「「マナトラップ?」」
魔道士二人が首を傾げる。そう言えばまだ口に出して何も説明してなかったな。まずは俺の構想を話してみるとしよう。