第300話~姉御肌?~
お待たせしました! 本日より更新を再開します!
多分暫くは長期の休みは無いです。多分。きっと。おそらく!
早速18時更新に遅れている件は許してね!_(:3」∠)_
「うーん……本当にあれで良かったのかどうか」
商人組合からの帰りの馬車の中で俺はそう言いながら目を瞑って天井を仰いだ。眉間に皺が寄っているいるのが自分でもわかる。
「何よ、文句でもあるの?」
「いや、対案があるわけじゃないんだけど、結局のところ金を渡して仔細良きに計らえ、だろう?」
「あのねぇ……私達は王族とそれに連なる者なの。仕事ができる人間に裁量と予算を与えるのが私達の役割。権力のある私達が下手に横から口を出したら、それが下策でも下々の者は従わなきゃいけないでしょう? 結果として仕事は遅れるし、結果も出なくなったりするわよ」
「ぐぅの音も出ない正論だなぁ……とは言え、俺のメンタルは基本的にその下々の者だから」
「ならもっとエレガントになりなさい。あんたは私の身内になるんだから」
「エレガント、ねぇ……」
隣に座り、俺に向かって意思の強そうな瞳を向けてきているイフリータに視線を向ける。イフリータはプライベートでは楽だからって赤ジャージを着たりするちょっと残念な子だが、こうしてドレスと装飾品を身に着けてキリッとした表情をしていると、確かにエレガントというか、高貴な感じはするな。
「なによ? 文句でもあるの?」
「いえ、イフリータ様から滲み出る高貴なオーラに敬服したところであります」
「何よその話し方は。気持ち悪いわね」
「お前そんな気軽に気持ち悪いとか言うなよ。泣くぞ」
イフリータみたいな美少女にそんなことを言われると俺のガラスのハートに罅が入るのでマジでやめていただきたい。
「やめてよね。あんたを泣かせると色々と後が怖いんだから」
「……確かに」
俺が泣くと、というかイフリータが俺を泣かしたという話になると頭に角を生やしそうな人が少なくとも三人思い浮かぶ。そのうち一人は最初からあくまみたいな角が生えている人だ。あとの二人は妹に見えない妹と、彼女の母だな。ああ、他には今も多分この馬車を警護しているハーピィさん達だ。
ハーピィさん達の俺に対する態度というのは、なんかもう旦那というよりは崇拝対象に近いものになってきているからな……近いうちにどうにかせんといかんかもしれん。
「いや、俺が泣くと怖いとかそう言う話は横に置いておいてだな」
「はいはい、自分が最近蚊帳の外に置かれて暇だからなにかして役に立ちたいって話ね」
「いや違……違くないけどっ」
確かに最近聖王国との話し合いからは蚊帳の外に置かれてやること無いから暇だって話なんだけども! 言い方! もう少し優しさを配合して!
「別にそんなに遮二無二働かなくても良いじゃない。優雅に朝からお酒を飲んで、シルフィでも母様でもドリー姉様でも誰でも取っ替え引っ替え酒池肉林してれば。相手には困らないでしょ?」
「言葉に棘がありません?」
「べつにぃ」
そう言いながらイフリータがツンと顔を背ける。どう見ても別にって感じじゃないんだけど。
「まぁ今はその話は良いわ。つまり、自分で汗水垂らして働きたいわけね?」
「そうそう」
「別に働く必要もないのにわざわざ働きたいなんて、被虐趣味でも持ち合わせてるの? ドン引きなんだけど」
「持ち合わせてねぇから! 何もせずにボーッとしてるのが落ち着かないだけだから!」
「なら武器でもゴーレムでもなんでも開発してれば良いじゃない。聞いたわよ。一国の軍隊を蹂躙できるほどのゴーレムを隠し持ってたんですって?」
「そっち方面は行き詰まっててなぁ」
ゴーレム作業台の先がどうにも見つからないのである。アップグレードすれば更に便利な道具を作れるようになりそうではあるのだが、俺が思いつくレベルの品は大体ゴーレム作業台で作れるようになっているんだよな。問題は素材や発想の方なんだよ。
「どう行き詰まってるのよ?」
「俺が作ろうとしているものを作るのに適した素材が見つからないか、心当たりがあっても確保が難しいんだ。あと、実現しようとしてもそのための知識が足りなくて実現できないものもあるな」
「素材の探索については冒険者ギルドに問い合わせてみたら? 魔物素材や僻地で見つかる特殊な素材のサンプルとか持ってるし、依頼すれば調達もしてくれるわよ。お得意様になれば新発見の素材とかが見つかれば持ってきてくれるし」
「マジで? ちょっと御者さんに冒険者ギルドに向かうようにお願いするかな」
「そうね。仕方がないからこのまま私が付き合ってあげるわ。あと、知識が足りないなら勉強しなさいよ」
「いや、こっちでは勉強のしようがないな」
俺の足りない知識というのは向こうの世界の科学知識や電子工学知識、軍事兵器の知識だし。なんとなくでその存在は知っていても、実際にはよく知らないものなんていくらでもあるからなぁ。例えばレールガンやレーザー兵器の知識なんてのがそういうものの筆頭だな。
レールガンは二本のレールガンの間に弾体となる磁性体を配置して、なんか物凄い電力を使ってローレンツ力がどうにかなって弾を超高速で発射するってくらいのことしかわからないし、レーザー兵器の原理に至っては高出力のレーザーで対象を焼くとか、爆発させるって程度の知識しかない。
そもそも、レーザーという物に関する知識すら曖昧だ。コヒーレンスがどうのこうのって話だったと思うんだけど、そもそもコヒーレンスってなんだっけ? というレベルである。
サバイバル系のゲームに登場した缶詰だの銃だのその弾丸だのの興味を惹かれた知識に関してはネットで色々調べたり、場合によってはちょっと専門的な本を買って読んだりして知識の深度をある程度深めたのだが、SFの領域に入ってくるような知識はそんなに深くはないんだよな。
今だってエアボードやゴーレムの制御に関してはゴーレムコアでかなりズルをしている状態だし。
「あー、カガクとかいう奴ね。でも、それってこっちの魔法とか魔道具でも代用できるんでしょ?」
「それはそうだな」
「なら、魔法とか魔道具の勉強をすればいいじゃない。私が教えてあげるわよ?」
「なるほど……」
イフリータの言うことは理に適っているのだと思う。現時点の俺の知識でどうにもできず、これ以上の躍進が望めないのであれば、新しい知識に手を伸ばすべきだ。
「問題は、俺にはまったく魔力がないという点だな」
そう、俺には魔力がない。全く無い。魔力というものを感じ取ることができないのである。魔法を操り、魔道具を作動させるために必要な魔力に関する素養が完全にゼロ。魔晶石などのエネルギー源を内蔵しているタイプの魔道具以外は俺には使うことができないのである。
反面、魔力に干渉して対象に何か不利益を齎すタイプの魔法や魔道具が効かないという利点もあるのだけれども。
「魔力がなくたって知識はいくらでも深められるわよ。あんたが魔力を扱えない分は私がなんとかすれば良い話だし」
「そういうものか……? それならお願いしても良いかな?」
「任せなさい。一から誰かに教えるっていうのは私にとってもきっと知識を深める切っ掛けになるでしょうしね」
イフリータが得意げに胸を張る。最初は当たりが強い印象だったが、こうして付き合ってみると面倒見が良いというか、何気に姉御肌なのかもしれない。
「そうと決まったらまずは冒険者ギルドね」
機嫌良さげにそう言ってイフリータが馬車前方の小窓を開けて御者に目的地の変更を伝え始める。
科学知識の代わりに魔法知識を使って技術の革新か……前からその発想はあったけど、基本的にアイラ達に丸投げしてたからな。今度は俺自身が魔法知識を得て、色々と応用していくわけだ。
「よろしく、先生」
「先生……うん、先生ね。これからはそう呼びなさい」
先生、鼻の穴が大きくなってますよ。イフリータの見た目は人間で言えば女子高生くらいで、俺から見ると年下に見えるけど、実際には歳上なんだよな。アイラとかアクアウィルさんですら俺より歳上だし。
「何よ、その目は」
「いや、俺より歳上なんだよなぁと思って見てた」
「? 当たり前でしょ?」
何を言ってるんだこいつは、という不思議そうな顔で首を傾げながらイフリータが俺を見上げてくる。いや、俺から見ると完全に年下にしか見えないんだよなぁ。商人組合のフロイド氏はごく自然にイフリータを歳上かつ目上の人として対応してたけど、長命種なんて存在しなかった世界から来た俺にはなかなか難しいな。どうしても見た目で色々判断してしまう。
「それで、具体的にはどんな素材が欲しいわけ?」
「ああ、ええとな……」
それから冒険者ギルドが扱っている素材についてイフリータと話を続ける俺なのであった。