第028話~ ゜+。:.゜(゜д゜)゜.:。+゜~
自由なタイトル付けが楽しくなってきました_(:3」∠)_
「ご無事で何よりです」
「うむ、既に治療は終わっているが負傷者を回収してきたので一度戻った」
里に戻った俺達をダナンが出迎えた。今の所里まで到達したギズマはいないみたいだな。
「実際にギズマと戦ってわかったこともある」
「お聞かせ頂けますか?」
俺達は全員でシルフィとダナンについていく。いつもの会議スペースだ。テーブルと椅子があるだけの場所だけど。
「我々以外に戻った者達は居ないのか?」
「今のところは」
「そうか……一度伝令を出して戻したほうが良いかもしれんな」
「どうしたのですか?」
「うむ、それがな」
俺達は良いペースでギズマ達を狩れていたのだが、それは俺のレンガブロック戦法とシルフィの近接戦闘能力があってのことだ。ザーダ達――先ほど合流したリザードマン達が言うには、クロスボウは確かに効くが、三人では火力不足だという。
通常型のクロスボウを運用する三人曰く、
「奴らの甲殻は問題なく貫ける。だが、場所にもよるが仕留めるには十発以上撃ち込む必要があった」
「三人じゃ確実に先手で撃ち込めるのは一人二発くらいなんだよね」
「その後は逃げながら撃つことになるんだけどさ、他のギズマを引っ掛けるかもしれないから危ないんだよ」
とのことだった。
「なるほど……」
「三人組でなく、六人組で編成し直した方が安全だろうと思ってな」
「確かにそうですね。わかりました、伝令を飛ばしましょう」
「そうしてくれ」
ダナンが伝令を出すために席を立ち、右足を引きずりながら歩き去ろうとする。そこで俺は閃いた。
「ちょっと待った」
「なんだ? 一刻も早く伝令を出さなければならんのだが」
「少しだけ時間をくれ。ちょっと椅子に座って右足を診せてくれ」
「?」
ダナンは訝しげな表情をしながらも椅子に腰掛けた。そのダナンに近づき、俺はインベントリからスプリントを取り出す。
「添え木などで治るわけがないだろう。俺を馬鹿にしているのか?」
「まぁまぁまぁ」
憤慨するダナンを適当に宥めながら右足を注視する。うん、『使用する』のポップアップが出てきたな。すかさず『使用する』を選択して身体の動くままにダナンの足に当て木をして包帯を巻く。
「無意味なこと……むぅ!?」
ピキピキ、ゴリッ、ミシミシッと何か聞こえちゃいけなさそうな音が包帯を巻いたダナンの足から鳴り始めた。暫く眉を顰めていたダナンだが、音が収まると険しい表情が元に戻った。
「一体何をした?」
「治療だな。一応この薬も飲んでくれ」
スモールライフポーションをインベントリから取り出し、ダナンに手渡す。ダナンは少しの間躊躇したが、覚悟を決めたかのように一気に薬を飲み干した。
「思ったより不味くはないな」
「そうか。それで、足の調子はどうだ?」
「……痛みが無くなったな」
ダナンは立ち上がり、悪かった方の足を曲げたり、屈伸したりして調子を確かめる。どうやら問題ないらしい。
「妖精に悪戯でもされたような気分だ」
「治ったなら良かったじゃないか。ほら、仕事仕事」
「む……そうだな。礼は後でさせてもらう」
ダナンはそう言って走り去った。心なしか、後ろ姿が嬉しそうに見える。
「ダナンの足を治したのか……たったあれだけで」
「他にも足や腕を悪くしてるやつを治せるかもな」
捻挫や骨折を治せるからダナンの足の傷にも効くかな、と思ったら効いちゃったからね。不自由をしている人々を癒せるならそうした方が良いよな。戦力アップになるし、好感度もアップするだろう。このコースケ、自分の安全を図るためならいくらでも媚びてみせる……ッ!
「ふむ……キュービ」
「へい、集めておきます」
「頼む。コースケは……どうするかな」
「どうするとは?」
「ギズマ狩りに連れて行って良いものか悩んでいる。万が一コースケを死なすような事になったら救われる者も救われなくなるしな」
「正直に言えば戦いたいな。魔物を倒して強まる力もあるみたいだし」
「そうなのか?」
そういえばシルフィにはレベルやスキル、アチーブメントについては話してないな。チラリとステータスを確認してみるとレベルは9になっていた。おお、3レベルも上がってるじゃないか。
「作れるものが増えるとかじゃなくて、俺の身体能力が上がったりする方向でな」
「ほう……キュービ、人を集めるのにどれくらい時間がかかる?」
「そうですね、そんなに時間はかかりませんぜ。居る場所も大体把握してるんで」
「ふむ……では治療をして、昼食を取ってから再出撃するぞ。その頃には今出撃している者達も帰ってくるだろう。手傷を負っている者もいるかもしれないから、そちらも可能な限り治療して、再編成してからが良いだろうな」
「わかった」
キュービを待っている間にザーダ達と一緒に狩ったギズマの処理をどうするか相談する。俺が解体したほうが多分手間が少ないが、甲殻と肉、毒腺と強靭な腱しか手に入らない。手で解体すれば内臓や爪先なども手に入るから、それはそれで手間分のメリットがないこともない。
「あたし達の取り分が貰えるなら、どっちでも構わないわよ」
「うむ」
「そうだね。あ、でも肉はいいよね? 多すぎるし、ボク達だけで二匹分も貰ってもほとんど全部腐らせるし」
ラミアのリアネスの発言にザーダが頷き、栗鼠獣人のナクルが肉についての提案をする。確かに、一匹分でも一応は難民全員に行き渡るような量の肉を三人で受け取っても大半を腐らせるだけだろうな。ギズマの肉は足が早いらしいし。
「そうね、肉は皆で食べられるようにメルティさんに渡してくれる?」
「わかった」
ということなので、一匹分を俺のインベントリで解体して手に入った分の肉や毒腺、資材を渡すことにした。と言っても、回収してきたのはあの場で倒した三匹と、俺達が倒した八匹、帰り道に倒した二匹だ。彼等が俺達と会う前に倒した二匹については当然回収できていないので、彼女達――ザーダはリザードマンではなくリザードウーマンだったのだ!――の取り分はあの場で倒した三匹と後に倒した二匹のうち、二匹分と話がついている。
「それじゃ、二匹分の甲殻と毒腺、頑丈な腱と触角を出すぞ」
二匹をインベントリ内で解体し、生成された素材を地面に置いていく。毒腺だけは木の皿を二つ出してその上に置く。
「すごい量だなぁ……ボク、荷車を借りてくるね」
「私も行こう」
「私はここで素材を見てるわ」
彼女達は彼女達で素材の運用に動き始めたので、俺達もギズマの肉をメルティに卸しにいくことにする。こういう物資の差配は彼女に任せるのが適当だ。
「キュービの分はどうするかね?」
「十一匹分だったか? キュービに四、我々に七でいいだろう」
「了解」
俺達の取り分の七匹分だけ解体する。これで強靭な腱とギズマの甲殻については困ることが無くなったな。肉もとんでもない量が手に入った。
その肉を有効活用するためにメルティの居場所を難民達に聞いて回ること数分、何か重そうな荷物を運んでいるメルティを見つけた。うん、やっぱメルティさん結構力持ちだなオメー?
「おや、姫殿下。もうお帰りですか?」
「うむ、怪我人を後送してきたのでな。ギズマの肉を大量に獲ってきたから、配分をしてほしくてな」
「大量に、ですか。どれくらいです?」
「とりあえず九匹分かな」
「それは多いですね……塩漬けにしてもあまり日持ちしませんし、困りました」
「コースケのインベントリに入れている間は腐らないから大丈夫だ。今日分配する分は二匹分で大丈夫か?」
「そうなんですか? なるほど……では二匹分だけ頂戴しましょう」
なるほど、ってところでめっちゃ見られた。怖い。俺のご主人様がシルフィで良かった……メルティが俺のご主人様だったら滅茶苦茶酷使されそうだ。
メルティの重そうな荷物(中身はイモだった)をインベントリに預かり、難民達がまとめて食事を作る炊き出し所のような場所に行くことになった。この前もここでギズマの料理をしてもらったんだよな。調理場で料理をしていたおばちゃん達にギズマの肉を山程渡し、今日の昼と晩の炊き出しに使ってもらうことになった。これで今日は難民達もたっぷりと肉が食えることだろう。ついでにここに運ぶつもりだったというイモ入りの箱も置いていく。
「ここにいやしたか。怪我人達、集めましたぜ」
シルフィ達と一緒に調理風景を眺めながらギズマ素材の処遇について話し合っていると、キュービが俺達を呼びに来た。どうやら体の不自由な人々を集め終えたようだ。
「うむ。ではな」
「はい、姫殿下もお気をつけて」
メルティと別れて防壁近くの広場へと向かう。そこに負傷して体が不自由になってしまった人々を集めたらしい。
「待ってた」
現場にはアイラが待ち構えていた。
「治療をするとなれば私も同席しない訳にはいかない。この里にいる人々は全員私の患者」
「なるほど」
頷ける話だ。自分が診た患者に対する責任感のようなものなのだろう。アイラは真面目だな。
「一人目の方、どうぞー」
と、声をかけてもなかなか近づいてきてくれない。それもそうか、難民達に対して敵対的ではないという演説はあったが、それでも自分の傷、つまり弱い場所をいきなり赤の他人に晒せる人間はそうはいない。
「大丈夫、見ての通り私も付き添う。変なことはさせない」
「信用ねぇな」
「当たり前」
と、アイラとやり取りしているとやっと一人目の患者が近寄ってきてくれた。片足を引きずっている獣人の若い女性だ。垂れたうさ耳――ロップイヤー系の獣人だな、うん。
「悪いのは膝か?」
「うん……ギズマの触角にやられたんだ」
「そうか、よし任せろ」
俺はインベントリからスプリントを取り出した。それを見たロップイヤーちゃんとアイラが首を傾げる。
「彼女の膝は細かく砕けた骨が歪な形に癒合して痛みを起こしている。今更添え木なんて意味がない」
「まぁまぁ」
横から口を出してくるアイラを適当に宥めながらスプリントをロップイヤーちゃんの足に使用する。身体が勝手に動いて当て木をして、包帯まきまき。
「これでよし」
「いや、だから――」
「ぁ……んんっ!?」
アイラが更に何かを言いかけたところでロップイヤーちゃんが身体を震わせた。ピキッ、ゴキゴキッと生々しい音が何度か鳴り、収まったところで膝に巻いていたスプリントが砕けるような発光エフェクトを残して消え去る。
「調子はどうかな」
「えっと……ああっ!? 痛くない! 痛くないです!」
立ち上がったロップイヤーちゃんは何度か足を動かし、ザーダと同じように何度か跳ねてから満面の笑みを浮かべた。そこについ先程まで足を引きずっていた彼女の姿はどこにもない。
「……」
静か過ぎるアイラをちらりと見てみると、目をまん丸くして固まっていた。この顔、どこかで……ああ、あれだ。宇宙猫。呆然とした顔の猫の背景がギャラクティックな感じになってるアレ。
「次の方どうぞー」
次の患者さんは右腕を負傷しているリザードマンだった。いや、ザーダの例があるからもしかしてマンじゃなくてウーマンかもしれない。とりあえずササッとスプリントを……と思ったら横から伸びてきた手がそれを止めた。
「待って、私にやらせて欲しい」
宇宙猫状態から復帰したアイラが真剣な表情で懇願してくる。うーん、多分無理だと思うけどな。シルフィが岩に向かって俺の作ったつるはしを振るっても俺みたいにはならなかったし。これもそうなる気がしてならない
「いいけど」
とはいえ、やらせてみて損はない。俺以外が使っても効果があったら儲けものだ。そう思ってアイラにスプリントを手渡すと、彼女は素晴らしい正確さと早さをもって当て木をし、包帯を巻いた。
「どう?」
「……別に何も」
リザードマンは困惑しながらもアイラに答える。なるほど、やっぱり俺以外が俺の作ったスプリントを使っても何の効果もないのか。予想通りではあるな。
「じゃあ俺がやり直すぞ」
リザードマンの腕に巻かれたスプリントを取り外し、ポップアップを選択してスプリントを再使用する。うーん、身体が勝手に動くこの感覚にも結構慣れてきたな。
「お……おぉっ!?」
やはり先ほどと同じくピキピキミシミシと彼(彼女?)の腕から音が鳴り、すぐに腕が完治した。腕が治ったリザードマンはいたく感激し、何度も俺にお礼を言いながらこの場から離れていく。
「????」
アイラがまた宇宙猫みたいな顔になっていた。今度は口が半開きになっているバージョンだな。
その後も負傷者達の傷をスプリントでどんどん癒やしていく。だが、流石のスプリントさんも欠損した部位までは治せなかった。
「仕方ないネ」
左手首から先を失っていた大柄の熊獣人はそう言って笑っていた。うーむ、そのうち何か治せるような手段が手に入れば良いんだけどな。
「――。」
なお、アイラはあまりに理不尽な光景を目撃してSANチェックに失敗でもしたのか、終始宇宙猫状態だった。アイデアロールには成功してしまったんだな……南無。




