表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
戦争に向けてサバイバル!
288/435

第287話~ディハルト公国の使節団~

「やぁ、久しぶりだな。コースケ殿」


 ティグリス王国との話し合いがまとまったその翌日、ディハルト公国の使節団が俺達の防御施設を訪ねてきた。ティグリス王国がちゃんとディハルト公国に急使を飛ばしていたらしい。


「あぁ……確かアントニウス殿だったな」

「覚えていてくれたようで何よりだ」


 幾分ホッとしたような声色でそう言う彼は一番最初にティグリス王国とディハルト公国の軍と対峙した時にディハルト公国軍を率いていた将軍であった人物だ。国境砦を破壊しに行った時には別の人が将を務めていたようだったから左遷でもされたのかと思っていたんだが、どうやらこの交渉に引っ張り出されてきたらしい。俺と面識があるからかな。


「ここまで押しかけてきたのか。ティグリス王国側には話は通ってるんだよな?」

「勿論だ。ところで首が痛くなりそうなんだが?」


 ふむ、防御施設の壁の上から見下ろしながら話し合うわけにもいかないか。


「会談場があるのは知ってるな? あちらで待っていてくれ」

「承知した」


 ディハルト公国の使節団が馬首を巡らせて昨日作った会談場へと向かっていった。


「……まぁ、思惑通り手間は省けたかな。いくらかは」

「そうですね。ゴーレムを使って恫喝したり、ここと同じような拠点を建てたりする手間は省けたのでは?」

「それはどうかな。まぁ、向こうの出方次第だけど、最初はガツンと行かないとだよな」


 結局のところ、相手に言うことを聞かせるには暴力を振りかざすのが一番だからな。実際に行使するかどうかは別として、必要であれば躊躇なく振るうという姿勢は見せつける必要があるだろう。少なくとも相手と対等か、それ以上の相手であると認めてもらわないことには話し合いにすらならないのだから。


 ☆★☆


 俺達は昨日と同じく会談場へと向かった。面子は昨日と同じ――ではなくグランデも同行している。もっとも、彼女は交渉のテーブルに着く気はないようだが。防衛施設に居ても暇なので、俺達がやいのやいのとやっているのを眺めているつもりらしい。いつも通りの格好で。


「会談を始めるために聞きたいんだが、あの子はなんだ……?」


 アントニウス殿がクッションに寝そべりながらあくびをしているグランデを指差してそう聞いてくる。うん、そうだよな。気になるよな。


「ドラゴンだ。信じなくてもいいが、絶対に怒らせないほうがいい。あの防御施設を一瞬で瓦礫の山に変えられるだけの力を持っているからな」

「ドラゴン……? ドラゴンって、あのドラゴンか? 空を飛んで、口からブレスを吐く?」

「そのドラゴンだ。竜独自の儀式魔法で人族に似た姿を取っているだけだ。メリナード王国に加担しているわけじゃなく、俺個人と関係を結んでいる。まぁ、女王陛下とも大層仲が良いから、限りなくメリナード王国に親しい存在だと思った方が良いだろうな」

「なるほど……?」


 アントニウス殿はしばらくのんべんだらりとしているグランデを眺めていたが、最終的には気にしないことにしたようだった。考えても仕方がないと思ったのだろう。もっとも、そう思ったのは彼だけのようで――。


「真面目な会談の場にあのような幼子を連れてくるというのはどういう了見か」

「遊びではないのですぞ……我らと真面目に話し合う気があるのですかな?」


 彼以外の人員は不満たらたらであった。うん、まぁそうなるよね。


「まぁまぁ。彼女がドラゴンで、あちら寄りとはいえある程度は中立性を持ってことの成り行きを見守ってくれるのなら、それはそれで良いことではないですか。それに、彼女がドラゴンであるという話にはある程度信憑性があるでしょう」

「信憑性ですと? あの姿を見てどこに信憑性があると?」


 使節団の一員である身なりの良い中年男性が紛糾するつまらなさそうにクッションに寝そべりながらことの成り行きを眺めているグランデを指差しながら額に青筋を浮かべる。


「ドラゴニス山岳王国がメリナード王国に急接近している話は聞いているでしょう。彼の国が肩入れする事情などドラゴン関係以外で考えられますか?」

「ぬっ……」


 文句を言っていた人々が押し黙る。ほう?


「だとすれば、彼女の機嫌を損ねるのは危険だと思いますが。今、我々はドラゴンの前で彼女はドラゴンじゃない、偽物だと騒ぎ立てているわけで……彼女が証明する気になったら大変でしょうね」

「……」


 遂に文句を言っていた連中が沈黙した。なるほど、彼は口が上手いな。


「面倒をかけたな。まぁちょっと物騒な置物だと思ってくれればいい」

「ハハハ、これ以上物騒な置物は勘弁願いたいな」


 そう言って笑うアントニウス殿の視線がチラリと会談場のすぐ側に屹立しているゴーレム達へと向かう。重武装ゴーレムとゴーレムウォリアー達がこちら側にはズラッと並んでいるからな。威圧感は非常に大きいだろう。


「それじゃあ場も温まったところで本題に入ろうじゃないか。ああ、まずは互いに名乗ったほうが良いかな?」


 ハッハッハ、と笑いながらアントニウスがいち早く席に着く。場は温まったどころかアントニウス以外はほぼお通夜ムードというか、凍りついているように見えるんだが。まぁ、こちらの気にすることではないか。俺達も同様に席に着く。


「さて、では私から名乗らせて頂こうかな。私の名はアントニウス=デルス=ギランザム、ディハルト公国軍の将を勤めている。貫禄が足りないと言われるが、ギランザム伯爵家の当主でもある。よろしく頼む」


 まず最初にアントニウス殿が名乗り、その後にディハルト公国側の外務大臣や内務官という立場の面々が名乗りを上げていく。それが終わったら今度はこちらが名乗る番だ。こちら側で交渉の席に着いているのは俺を含めて四人。セラフィータさんとエレン、そして書記を務める有翼人の文官さんだ。


「これは前王妃殿下でしたか。そうとは知らずご無礼を」

「今はシルフィエル陛下が国主です。私よりも王配のコースケ様の方が身分は上ですよ。それに、今の私は無位無官のただのエルフの女ですわ」


 セラフィータさんはそう言うが、彼女の全身から放たれる高貴な王族オーラは些かも衰えていないんだよな。なんというか、気品があるというかなんというか。最近まで単独で森を駆け回っていたシルフィには明確に足りていない部分である。まぁ、シルフィの場合はその代わり武人というか支配者としての威圧感にも似た威厳があるらしいんだけれども。俺には全く感じられないんだよな。


「それにアドル教の聖女様が臨席なされるとは、全くコースケ殿はとことん我々を驚かせるのがお好きなようだ」

「充実した人生を送るためには刺激が必要だろう?」

「面白いジョークだ。できればもう少し控えめにしてくれると助かるな、ハハハ」

「残念ながらこれも性分でね。なかなかやめられそうにないな、ハハハ。とりあえず、こちらからの要求は書面にしたためてある。まずはこちらを読んでいただこうか」


 俺はそう言ってインベントリから要求内容が書いてある文書を取り出し、テーブルの上を滑らせてアントニウス殿へと渡した。文書を受け取ったアントニウス殿が文書の内容に目を通し、眉を潜める。


「やはりこの内容ですか」


 どうやらティグリス王国から俺達がどのような要求をしたのかは聞いていたらしい。基本的にディハルト公国に対する要求もティグリス王国と内容は同じである。賠償金の額などに多少の違いはあるが、基本的には賠償金に加えて留学生という名の人質を要求、不可侵条約と通商条約の締結という点は変わらない。もっとも、ディハルト公国は聖王国と国境を接している上に王家に聖王家の血が入っているので、交易で富ませてしまうとその財や物資が聖王国へと流入する恐れがある。通商条約の内容に関してはティグリス王国よりも格段に条件は悪くしてあった。それ以外にも全体的な条件がティグリス王国より厳しめに設定してある。

 つまり、メリナード王国はティグリス王国を優遇し、ディハルト公国と敢えて扱いに差をつけようと考えているのだ。どちらとも仲良くできるのが理想だが、現実はそう上手く行かない。敢えて両者の扱いに差をつけることによってティグリス王国とディハルト公国との間に亀裂を入れようと考えているのである。聖王国からの扱いもディハルト公国のほうがティグリス王国よりも良いらしいので、そこも利用しようというわけだ。


「……少々条件が厳しくないか?」

「当然ながら条件に差はつくさ。理由は言うまでもないだろう?」


 聖王家の血を王家に受け入れ、聖王家の分家扱いとなっているディハルト大公家が聖王国に半期を翻すのは難しいだろう。つまり、余程のことがない限りディハルト公国と聖王国は道を共にするだろう――と俺達は考えている。


「さて、私には見当もつかないが……」


 と、アントニウス殿が発言したところでエレンがちょんちょんとこっそり俺の膝をつついてくる。これは事前に話し合っていたサインだ。つまり、見当もつかないという発言は嘘だということである。

 ティグリス王国のネルソン殿は終始こちらにペースを乱されていたせいで言葉を偽る余裕も無かったようだが、アントニウス殿は全くこちらの脅しに屈服していないらしい。これは気をつけてかからないといけないようだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 実際問題としてディハルト公国とは直接戦闘を行った訳でもないのだよね。 実際に戦闘を行った(それも二回も)ティグリス王国への対応と比してディハルト公国にコースケがどれだけ強く出れるかがポイント…
[気になる点] >半期を翻す 反旗~ [一言] コーちゃんのおつむが試される!
[一言] マジメモードが続いている(;・∀・) しかしそろそろ国の位置関係とかもう少し大きいスケールで知りたい感じですね 各国の技術レベルとか読み取れる範囲で判るけど、各国の差異がわかると面白い感じ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ