第286話~休戦~
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文官を交えて細かい部分を話し合い、ある程度条件が出揃ったところで一度互いに会議場を離れて身内だけで話し合いをすることになった。俺達は砦に戻り、向こうはブリニョルフから急遽持ってこさせた幕舎を設営してそこで話し合いをするらしい。
「なんか弱腰じゃないっすか? こっちが勝ったんすから、もっとこう……」
「厳しい条件を押し通したほうが得に思えるか?」
「っす」
ベラが素直に頷く。まぁ、路地裏のチンピラ同士の喧嘩ならそれで良いのかもしれない。ボコって有り金から何から全部巻き上げてポイ。後は野となれ山となれって感じで。
「国同士の場合はそうもいかない。仮に厳しい制裁と賠償を課した場合、最悪相手国は潰れる。そうすると賊が跋扈するようになる、そうなると困るってのはさっき言ってたの聞いたよな?」
「そっすね。でも潰してしまったほうが後腐れはないんじゃないすか?」
首を傾げつつもそう言うベラに俺は首を横に振った。
「それがそうとも言えない。メリナード王国がティグリス王国の領土を併合して統治するなら話は別だが、そうでないならティグリス王国全土が無法地帯と化す。暴力が全てを支配するようになるだろうな」
「私みたいなのには生きやすい土地っすね!」
ばちこーん☆ とベラが下手くそなウィンクをしてみせる。その横でシュメルとトヅメが『せやろな』という顔をしているが、お前達もそっち側だからな?
「そうかもしれないけど殆どの人は大迷惑だよ! でだな、他の国もそんな場所は要らんと手を出さなかった場合、いずれそういった無法地帯を纏め上げる人物が現れる。賊の頭領のような奴かもしれないし、旧王国の尊い血筋かもしれない。で、だ。そんな風に再びティグリス王国が纏め上げられた場合、相手からのこっちに対する印象はどうなると思う?」
「最悪っすね! 絶対ぶっ殺してやるって感じになると思うっす!」
「だろう? しかも大半の人は自分の土地を捨てて他所に行こうとはなかなか決断できないものだからな。つまり、メリナード王国に対する恨みを持ち続ける人々がこの先もずっと隣人であり続けるわけだ。それはこちらとしても避けたい」
「なるほど、そうならないために緩い条件で懐柔しようってわけっすね」
「懐柔なんて言葉を知っているのですね」
「聖女様酷いっす!」
エレンの毒舌にベラが文句を言うが、そう言われても仕方がないと思うぞ、今の流れは。
「ベラさん、私達は争いを収めるために来たのです。幸い、こちら側に出ている被害は恐ろしく軽微なので、譲歩できるところは譲歩してティグリス王国を聖王国から離反させたいのですよ」
「そんなことができるんすか? ティグリス王国は聖王国の属国っすよね?」
「できなくはないと思ってる。ティグリス王国内での聖王国の影響力は相当落ちてると思うんだよな、俺は。聖王国はメリナード王国奪還に失敗し、ティグリス王国とディハルト公国を焚き付けて自分達が勝てなかったメリナード王国にぶつけ、大被害を出させた。聖王国の判断を後押ししてこの状況を作り出した連中も槍玉に挙げられているだろうな」
「そもそも、ディハルト公国と違ってティグリス王国が聖王国の属国となったのは単純に聖王国の圧力に屈しただけですから。隣国メリナード王国は実質上滅ぼされて占領状態になり、ディハルト王国は王家に聖王家の血を迎え入れることを強いられ、王家を大公家とされて属国とされた。そんな隣国の状況を目の当たりにしたティグリス王国は自ら聖王国に下って国体をなんとか安堵されているという状況なわけです」
「難しくてよくわかんないっす!」
セラフィータさんの説明にベラが真顔で答える。
「ティグリス王国は聖王国の属国として従ってるけど、心の底では聖王国の支配から逃れたいと思っているんじゃないか? というのが俺達の読みってわけだ。いざとなれば聖王国よりも俺達のほうがティグリス王国に近い。西には中立の少国家群が存在し、その更に西には俺達と友好関係にあるドラゴニス山岳王国がある。つまり端的に言うと、俺達につけば聖王国に顎で使われるよりも良い目を見られるかもしれないぞ、というわけだ。ティグリス王国がこっちに着くなら、聖王国に軍事的にちょっかいを掛けられそうになれば援軍を送ることもできる、という切り札もある。まだ切ってないけどな」
「なるほどっす。ディハルト公国は聖王国に頭をすげ替えられてるけど、ティグリス王国はそうなってなくてただ従ってるだけだから、裏切らせることができそうってことっすね」
「ああ……まぁそんな感じだ。うん」
もう少し複雑な事情がありそうだが、簡単に言うとそんな感じである。俺達としてはティグリス王国とディハルト公国に後背を脅かされないようにしたい。ティグリス王国がこちらに着けば、国力で拮抗しているディハルト公国はおいそれとこちらに手出しはできなくなる。
聖王国とティグリス王国は物理的に距離が遠いから、何かあればこちらから支援をすることもできる。ついでにティグリス王国が大陸北方への交易窓口になってくれると俺達もティグリス王国も幸せになれる。良い事尽くめだな! 全て思惑通りに行けばだが。
☆★☆
一時間ほど後、俺達とティグリス王国の使節団は再び俺の作った会談場で向かい合った。
「お時間を頂き感謝しますぞ、コースケ殿」
「それで後半の話し合いが有意義なものになれば幸いだな。それで、そちらの答えはどうなった?」
最終的な条件としては賠償金が亜人奴隷の引き渡しを条件として、ティグリス王国の国家予算の50%を十年払い。これは頭数による+αを無くした代わりに、亜人奴隷引き渡し後にまだ秘匿されていた亜人奴隷が発見された場合のペナルティを免除した。
ただし、もし発覚した場合には無条件で引き渡すこととし、更に亜人奴隷を秘匿していた者に対しては厳しい処罰を下すこととするという事になった。これに関してはメリナード王国側が希望すれば調査管を派遣することができるという条件もつけた。
そして王族や貴族の子女を留学生としてメリナード王国に迎え入れるという条件に関しては、希望者は年に一回か二回の里帰りを認め、メリナード王国からティグリス王国に帰国する際の護送はメリナード王国が、ティグリス王国からメリナード王国への護送はティグリス王国がその一切を執り行うという条件を提案した。
ただし、留学中の教育内容に関しては基本的にメリナード王国側で決めることとし、ティグリス王国は希望を述べることはできるが決定権はあくまでもメリナード王国側が持つという取り決めにしてある。
また、講和が結ばれた場合の相互不可侵に関してはとりあえず賠償金の支払いが終わる十年後という形に落ち着いた。その後に――あるいはその前に別の関係を構築するかどうかは今後の両国の交流次第という形になるだろう。
関税自主権を認めないという内容も盛り込んだ通商条約に関しては、基本的にメリナード王国側の立場が強い内容で提案してある。関税率に関しては一見両国の話し合いによって決めるという内容になっているが、意見が対立した場合にはメリナード王国側の意見が尊重される。もっとも、我々としてもティグリス王国から一方的に利益を搾取するつもりはない。こちらは五年毎に条件を見直すための話し合いをするという一文を盛り込む事によってティグリス王国側に一定の譲歩をしている。
「ティグリス王国は提案内容を大筋で受け入れようと思います」
「大筋で?」
「はい。賠償金や亜人奴隷の引き渡し等に関しては問題ありませんが、留学や通商条約に関しては王家だけでなく多くの貴族にも影響のあることです。国内の調整も必要となるので、基本的に受け入れるつもりだ、という返事しかできませぬ」
「なるほど?」
「今回の戦役でティグリス王国軍は大変な損害を被りました。今日結んだ講和内容を無調整で強行すれば、場合によっては国が割れる可能性すらあります」
「わからないでもない話だな」
メリナード王国に跡継ぎを留学させるなんて以ての外だ、と考える貴族もいるだろう。自分の領地を通る荷に好きに関税をかけられなくなって反発する貴族もいるだろう。そういった連中に対して強硬策を取った場合、ティグリス王国が割れる可能性があるというのは頷ける話だ。
「履行されなかった場合にはそれなりの対処を取らせてもらうことになるが……」
俺の発言にネルソン殿の顔色が途端に悪くなる。
「腹を割って話すとな、俺達としてはティグリス王国とはよろしくやっていきたいんだ」
「……は?」
ネルソン殿とマクリト殿、それにその他のティグリス王国側の人々が意味がわからないという表情をする。散々武力で脅しておいてこいつは何を言っているんだ、と思っているのだろう。更に言えば、ティグリス王国は聖王国の属国なのだ。
「メリナード王国がどんなに強い力を持っていると言っても、まずはその目で、その身で実力を味わわないことには信じることもできないだろう。ティグリス王国はこの段に至ってもなおメリナード王国の実力を疑えるか?」
「い、いや、それは……無理ですな」
ネルソン殿がそう言い、マクリト殿も苦い表情で同意するように首を横に振る。
「敵とよろしくやるつもりは毛頭無いが、同志となるのであれば話は別だ。意味はわかるよな?」
「そ、それは……!」
ネルソン殿が目を大きく見開いて身体を震わせる。
「同志が危機に陥れば俺達は直接的にも間接的にも支援をする用意がある。俺達は奴らとは違うからな。同志に矢面に立てなどとは言わない。少なくとも、共通の危機に対して肩を並べて戦うだけの気概は持っている。まぁ、俺達が期待するのは後背を脅かされないよう睨みを効かせて欲しいということで、一緒に奴らと戦って欲しいということではないからな」
「……」
ネルソン殿が沈黙して汗を垂らし、マクリト殿もまた同じく押し黙ってしまった。踏み込み過ぎたか?
「ま、とりあえずは大筋で双方が合意したという結果は出たわけだ。この時点でメリナード王国としては休戦が成立すると考えるが、そちらはどうか?」
「あ、ああ! 勿論、勿論そうだとも。ティグリス王国も休戦に同意する」
「では、この休戦が正式な講和に繋がることを願うとしよう」
ネルソン殿に手を差し出し、彼は俺の手を握った。
双方がサインした休戦協定及び講和条約の内容は細々とした部分を合わせると非常に複雑な内容となった。
ざっと大雑把に言うと、休戦期間は今日から三ヶ月とし、ティグリス王国は休戦期間中に本日大筋で合意に至った講和条約の履行を目指す。もし、休戦期間中に講和条約に定められた内容が履行されなかった場合、或いは双方どちらかの軍事的行動によって休戦が破られた場合は即座に戦闘を再開することとする。
このような内容でメリナード王国とティグリス王国の間には休戦協定と講和条約が結ばれることとなり、とりあえずの戦争状態は終了することとなった。
「次はディハルト公国か……面倒くさくなってきたぞ」
「コースケ様、シルフィのためにも頑張りましょうね」
セラフィータさんがそう言って励ましてくれたが、心が折れそうだ。おうちにかえりたい。
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