第283話~ダラダラと過ごす十日間~
短めでサーセン!_(:3」∠)_
十日という期間はなかなかに長い。基本的に砦に篭るばかりでやることもないので、適度な運動をするとか、武器防具や道具の手入れをするとか、特に意味もなくバーベキュー大会をするとか、エアボードの運転講習会を開催するとか、そういった感じで時間を潰している。
え? 夜の生活? それはホラ、セラフィータさんもいるし控えめだよ。
「他の女の匂いがします……」
ゴーレム作業台の前に立つ俺に背後から抱きついてセラフィータさんが怖いことを言う。
「どこで覚えてくるんです? そういうの」
「宮廷恋愛小説とかではよくある表現ですよ」
そう言いながら俺に抱きついてスンスンし続けるのやめません? というかグリグリと頬をこすりつけるのは何なんですか、それは。マーキングか何か? こわい。
「というかですね、コースケ様に聞きたいのですが」
「はい」
そう言えば、いつの間にかセラフィータさんが俺を呼ぶ時にさんじゃなくて様をつけるようになってるな。前にお互いにさん付けにしようねって話をしたと思うんだけど。
「どうして私には手を出してくださらないのですか?」
「ド直球で来たなぁ……」
クラフトメニューをいじる手を止めて天を仰ぐ。今まで危ないこともあったが、どうにかというところでセラフィータさんとは一線を越えてはいない。というか、シルフィの家族には手を出していない。それは何故かと言えば、まぁほぼ死にかけの前の世界の倫理観が「それだけはアカンやろ」と強く主張して最後の一線を守っているからなのだが。
「正直に言うと特にこれといって深い理由はないんですよね……俺の故郷の倫理観的にそれはどうなのか? と思っているだけで。それがブレーキになっているといいますか」
「ああ、それはシルフィエルからも聞いています。コースケ様の故郷では一夫一婦制が普通であったとか。伴侶がいながら他の異性とも通じるのは不義としてきつく糾弾される行為であったと」
「ええ、まぁ、はい」
「今更では?」
「ですよねぇ」
セラフィータさんは実に痛いところを突いてくる。これで俺がシルフィにしか手を出していないならまだしも、アイラ、ハーピィさん達、メルティ、グランデ、エレン達、鬼娘達と散々手を出しておいて、セラフィータさんはダメというのは理屈が通らないではないかと彼女はそう言っているのだ。ぐうの音も出ない正論である。
「煮え切らないねェ」
「じれったいっす」
「細かいことなんて考えなければいいのに」
少し離れたところで俺が特別に作ってやった「鬼を駄目にするソファ」に埋もれている外野がやかましい。
「いっそガーッと押し倒してしまえば良いのじゃ」
「そうやねぇ。旦那はんは押しに弱いですぇ?」
俺が押し倒すんじゃなくてセラフィータさんが俺を押し倒すのかよ。
「いつまでこの茶番を見ていれば良いのですか?」
「エレオノーラ様、ここは静かに見守るところですよ」
エレンとアマーリエさんはテーブルについてお茶を飲みながら俺とセラフィータさんを見守っている。というか、二人きりじゃない時点で色々とハードルが高いんだよな。
「わかりました。本当はコースケ様から行動に出て欲しかったのですが、こうなっては仕方がありません。実力行使をさせていただきます」
「わかりましたじゃありませんから。煽られて暴挙に出んでください!」
セラフィータさんが背後から俺に抱きついてぐいぐいと寝室に引っ張っていこうとするので、ゴーレム作業台にしがみついて抵抗する。というか、そんなに思い切り抱きつくと背中が幸せで力が抜けそうになるじゃないか。
「セラフィータ様が亡夫に操を立てているならともかく、そうでないなら気前よく貰ってやりゃいいだろォ?」
「そうっすよ。今更一人や二人どころかもう何十人か増えても余裕で養えるじゃないっすか」
「何十人とか干からびて死ぬわ!」
「私達三人を同時に相手してピンピンしてるなら何人いても大丈夫よ」
鬼娘達がニヤニヤと笑いながら必死に抵抗している俺に声をかけてくる。お前ら後で覚えてろよ。普通のソーセージと見せかけた激辛ソーセージをご馳走してやるからな!
「仕方がありません……光の精霊よ」
「ちょっ」
なんか光ってる! 後ろが光ってる! あっ、急に力が強くなった!?
「ウワーッ!?」
俺はゴーレム作業台から引き剥がされた。
☆★☆
何も語るまい。総合的な身体スペックで俺はこの世界の女性の大半に劣る。それが証明されただけである。俺の心の平穏が少し乱される代わりにセラフィータさんは心の平穏を手に入れた。
「ふふふ……♪」
あれからというもの、セラフィータさんのご機嫌は常に最高潮である。殆ど全員がその様子を生温かく見守っているが、一人だけそうでない人が居る。
「くっつき過ぎでは?」
「この前人を不幸にした分、他の人を幸せにしなさいって言ってたじゃないか」
「むぅ……それはそれ、これはこれです」
エレンが唇を尖らせながら俺の腕にギュッと抱きついてくる。反対側にはセラフィータさんがニコニコしながら抱きついている。うーん、両手に花なんだけど落ち着かない。
「なんでまたセラフィータさんには対抗心を剥き出しにしてるんだ」
「光っぽくてキャラが被っています」
「キャラ被りってお前」
確かにセラフィータさんは光系統の精霊魔法を得意としている。対してエレンはアドル教の聖女として神の奇跡を起こすことができる。有り体に言って光っぽい。確かにそういう意味ではキャラ被りかもしれないが。
「そこ以外は全然被ってないと思うけど」
「それを口実にコースケに甘えたいだけじゃろ。素直にコースケに甘えているセラフィータに嫉妬してるだけじゃな」
「エレオノーラはんも可愛らしいなぁ」
「うるさいですよ」
がるる、とエレンがグランデとカプリを威嚇する。グランデ相手にこういう態度を取る辺り、エレンは大物だよな。これくらいで怒るグランデじゃないけど。
こんな感じで俺はダラダライチャイチャと十日間を過ごした。
そして、あちらと接触してきっかり十日後の昼過ぎ。遂にティグリス王国の外交使節団が俺達の前へと現れるのだった。
Skyrimも一段落したからまたFallout4を……導入MODを選んでいる時間が一番楽しい気がする_(:3」∠)_