第277話~全てまるっとお見通しっす~
生活リズムが……戻らない!_(:3」∠)_
三体の重武装ゴーレムでティグリス王国軍の待ち伏せ部隊を粉砕した俺達は戦場をそのままにして防御施設を撤去し、すぐに移動を再開した。
そしてティグリス王国の国境砦に到達し、ディハルト公国の国境砦にしたのと同じように魔煌石爆弾を搭載した自爆ゴーレムで日没とともに砦を消滅させた。
砦には若干名のティグリス王国軍の兵が詰めていたが、俺達が現れたのを見るなり馬に乗って北側の門から全速力で撤退していった。どうやら事前にそのような指示がされていたようだ。
「終わったねェ」
「そうだな」
「これで全部目論見通りっすか?」
「目論見?」
ベラの不思議な発言に思わず首を傾げる。
「だって旦那が最初から本気を出していれば何の面倒もなかったわけじゃないすか。基地を作る必要も、銃士隊を作る必要も無かったっすよね?」
「むっ……」
「それに、今日のティグリス王国軍の待ち伏せを敢えてゴーレムで叩き潰したのもわざとっすよね? 二週間も猶予を与えて、ディハルト公国軍の砦を吹っ飛ばした後にティグリス王国軍の砦を吹っ飛ばしに行くってわざわざ言って明らかに誘ってたっすよね?」
「むぅ……」
俺が答えに窮してシュメルに視線を向けると、彼女はただニヤニヤと笑ってこちらを見ていた。彼女がベラのこの発言に驚いていないということに驚きを覚える。
「貴方がベラのことをどう思っているのかは何となく分かるけど、平常運転よ」
「マジで?」
「どういうことっすか、それは」
俺の反応にベラが憤慨する。いやだってお前、今までどちらかというとアホの子キャラだったじゃないか。急にそんな『全てまるっとお見通しっすよ!』みたいなこと言われても反応に困るわ。
「結局、何がしたかったんすか? メリナード王国は」
「あ、そこはわからないんだ」
「そりゃそうっすよ。あたしは旦那の力についてはよくわかったっすけど、メリナード王国の軍事的な機密情報とかはわかんないっすから」
「うーん……つまりだ、今回はメリナード王国としても色々と欲張ったわけだよ」
俺が中心となって行った今回の一連の動きは、メリナード王国としての思惑と俺の思惑が複雑――とまでは言わないが、まぁそれなりに絡み合ってのものではあった。
まず第一に、北方二国からの侵略はなんとしても跳ね返さなければならなかった。
ここで北方二国――ディハルト公国とティグリス王国からの侵攻を許し、メリナード王国北部を荒し回されたり、あるいは領土を切り取られてしまった場合、メリナード王国は与し易い相手として周辺諸国から侮られてしまう恐れがあった。
国家として侮られるというのは、基本的に百害あって一利なしである。国家として侮られれば周辺諸国からの更なる侵攻を助長しかねないし、直接侵攻するような地理条件にない国との外交交渉などにおいても軽んじられる恐れがある。
メリナード王国としてはなんとしてもそういった事態は避けたい。そういうわけで、俺が北方侵攻を跳ね返すためにわざわざ足を運ぶことになったわけだ。
「なんでわざわざ基地を作ったり、魔銃兵を育成したりしたんすか?」
「そこは軍と研究開発部の意向が大きく反映された形だな。北方に睨みを効かせる軍事基地の設立は必要だったし、新開発の魔銃という武器の実戦テストも必要だった。基地の運営のために亜人を多く受け入れることになったのは副次的効果だな」
「もし魔銃が想定通りの威力を発揮しなかった場合、最初から貴方がどうにかする予定だったわけね」
「大丈夫だとは思ってたけど、まぁ保険としてな。で、だ。ティグリス王国軍の攻撃を退けた時点で魔銃の実用性に関して十分だと判断された。簡易的な防御陣地だけで二十倍の軍を一方的に粉砕したわけだからな」
「確かにありゃァ一方的だったねェ。ちょっと冒険には使えそうも無いけどねェ」
「あれは数を揃えないといまいちっすよね。音もデカいから狩りにも向かないっす」
なるほど。サプレッサーの開発を提案しておくべきかな? 音が出なければ良いんだから、魔法的な手段も検討してもらえばいいだろう。
「それじゃあ、その後の砦の破壊やゴーレムを使った攻撃は?」
「純然たる示威行為だな。魔銃だけでも十分な脅威だろうが、それだけじゃインパクトに欠けるだろう? メリナード王国は新型武器だけでなく、砦を一瞬で消滅させる手段や、一軍を容易に蹴散らす黒鉄のゴーレムも持っている。迂闊に手を出せば火傷では済まない……ってことを見せつけたわけだ。目撃者や生き残りを敢えて見逃したのは、その情報を広く知らしめるためだな」
「なるほど? なんとなくわかったような気がするっす。つまり、今回の一件はメリナード王国にとっては実のところピンチでもなんでもなかったってことっすね」
「まぁ、そうね」
形振り構わずどうにかするなら軽機関銃を装備した銃士隊のエアボードで一方的に蹂躙することもできたからな。エアボードは日々増産してるから、今なら大量のクロスボウ兵を短時間で移送し、戦力を展開することもできる。
レオナール卿は聖王国のある東に睨みを効かせるために銃士隊を東に配置したいと言っていたが、エアボードの機動力とゴーレム通信機の情報伝達能力をもってすれば徒歩と馬車と馬で移動し、詳細な情報を伝える手段が早馬しかない軍の裏をかくことなどいくらでもできるのだ。
「なんか、国と国の争いってアレっすね。思ったよりも高尚じゃないっていうか、路地裏のチンピラ同士の喧嘩みたいなんすね」
「それは……そうなのか?」
「そうっすよ。つまり今回は聖王国ってボスに言われて喧嘩を売りに来たディハルト公国とティグリス王国って下っ端を、メリナード王国が盛大にぶっ飛ばして周りの国に舐められないようにしたってことっすよね」
「……そうね」
ザッケンナオラー! スッゾオラー! みたいな概念に落とし込まれても反応に困るが、大筋では合ってるんだよなぁ。
「それじゃあ、そろそろメリネスブルグに帰るんすか?」
「そろそろな。ディハルト公国もティグリス王国もこれ以上戦闘を継続する能力はないだろうし、メリナード王国は今の所領土を拡張しようという考えはない。だから今回の戦争はこれで終わりで、俺達もお役御免。後はシルフィ達の出番だな」
賠償金なりなんなりを両国からふんだくって手打ちってとこじゃないかね。向こうが断固として条件を呑まないって話になればまた俺達の――というか俺の出番があるかもしれないけど。
「ま、結果が出るまではしばらくのんびりすることになるんじゃないかね」
「いいねェ。じゃあ今日は帰ったら酒盛りだ」
「その前に留守番してくれてるグランデの機嫌を取らないとな」
そんな話をしながら俺達は北方基地へと帰還するのであった。