第273話~Xday-1~
今日は短め! ゆるして!_(:3」∠)_
結局、ディハルト公国軍とティグリス王国軍の両軍指揮官はとりあえず負傷者と戦死者の引き上げ、撤退するとだけ約束して話し合いの場から去っていった。
「良かったのか?」
「良かったのさ。今回の侵略行為に対しては強硬姿勢で臨むってことになってるから。あと、捕虜を取っても面倒だし」
「なるほど」
実際の所、今回捕虜を取らなかったのは管理が面倒というだけでなく、北方基地の人員では千人単位の捕虜を管理するのが難しいという面もある。メトセリウムから人を出してもらったとしてもそんな数の人員を管理するのは大変だ。騎士階級や貴族を人質にできればそれなりの身代金を期待できるかもしれないが、まぁ今回はパスだな。
「それで、砦の破壊とやらも本当にやるのか?」
「ああ、やるよ。それは俺がやるから、魔銃大隊の出る幕は無いけどな」
「そうなのか?」
「文字通り跡形もなく吹き飛ばす予定だからな。まぁ、遠くから見る分には構わないと思うけど」
一応随伴として精鋭魔銃兵とハーピィ爆撃隊の半数、それに護衛のシュメル達を連れて行くつもりだったが、ウォーグと中隊長のうち一人くらいは連れて行ったほうが良いかもしれない。
「そうだな、希望者は見学可。ただし、エアボード一台に乗り切れる人数で、いざとなったら即逃げられるようにな。あと、基地機能を維持できるように指揮官は残せよ」
「ああ、わかった。二週間後だな」
「二週間後だ」
一応前日にハーピィさんに偵察に行ってもらって、まだ居るようなら警告文を投下してもらうかな。それで撤退してくれれば良いんだが、さて。あのディハルト公国の指揮官はなんだかんだ上手くやって逃げそうだが、ティグリス王国の爺さんはどうかな。どうもあっちは吹き飛ばすことになりそうだな。
☆★☆
ディハルト公国とティグリス王国による侵攻を撃退して十三日。明日が国境砦破壊のXデイだ。ディハルト公国の砦は明日正午に、ティグリス王国の砦は明日の日の入りと同時に爆破する予定である。
破壊方法は魔煌石爆弾を内蔵したロックゴーレムによるものだ。三体のロックゴーレムを護衛に就かせて魔煌石爆弾ロックゴーレム共々砦に突撃させ、門を打ち破って砦内に入ってから自爆させる。
魔煌石爆弾ロックゴーレム――長いな、自爆ゴーレムでいいか。自爆ゴーレムには爆破に至る条件をいくつか設定してあり、一つは目標地点への到達。もう一つは脚部の破壊などによる擱座。そして最後の一つはゴーレムコアを破壊された場合である。
魔煌石爆弾そのものをピンポイントで物理的に破壊された場合は無力化される恐れがあるが、堅固なロックゴーレムの胴体を一撃で破壊して魔煌石爆弾を破壊するのは事実上不可能に近いので、防がれる心配はほぼない。
グランデかメルティならワンチャンできるかもしれないが、失敗すると自爆に巻き込まれるからまぁ無理だろうな。多分俺でも止められない。最新式の主力戦車でもあればもしかしたらなんとかなるかな? 或いは強力な航空爆弾で一撃で破壊するとか? かなり厳しいな。
対戦車榴弾でも破壊はできると思うけど、対戦車榴弾で魔煌石爆弾を狙撃するのは無理ゲーに近いし、対戦車榴弾の間合いで失敗して自爆されたら助からないだろうなぁ……うん、無理。
ちなみに、魔法攻撃で破壊すると多分炸裂する。多分なのは、危険すぎて実際に試すことができないからだ。アイラが言うには、理論上はそうなるらしい。グランデのブレスなら長距離から破壊できるし、今度やってもらおうかな。実験は大事だ。
「ただいまー」
作業部屋に篭もって色々と考えながらクラフトを進めていると、偵察と警告のためにディハルト公国とティグリス王国の砦に飛んでもらっていたペッサーが現れた。今日の彼女のお洒落着(重爆装化フレーム)には金属製の筒に入れられた警告文がセットされていた筈なのだが、それが全て無くなっている。つまり、そういうことだろう。
「まだ居たか」
「うん、居たよ。でもティグリス王国の砦は殆ど空っぽだった。ディハルト公国の砦には沢山兵士が居たけど」
「む、そうか。あの指揮官なら上手くやるんじゃないかと思ったけど、駄目だったかな。或いは、頭がすげ替えられたか……」
窓から入ってきてトテトテと近づいてきたペッサーの頭をモフモフしながら考える。ティグリス王国の方は実際に大被害を被ったから、本当にやると思われて、実際には一切被害を受けていなかったディハルト公国の方では上層部にハッタリだと思われたかな? あの戦闘を目の当たりにした兵達の心はポッキリと折れていたと思うんだが……やれやれ。
「悲しいけど、戦争だからなぁ」
「旦那さんは優しいねー。向こうから攻めてきた上に、二週間も猶予をあげたんだから気にしなくても良いと思うけど」
ペッサーが大人しく俺にモフられながら過激なことを言う。小型種のハーピィであるペッサーはまるで子供のように小柄だけど、これでちゃんと成人してる大人の女性だからな。しかも解放軍の一員として最初期から戦ってきた古参兵でもある。普段は無邪気な様子を見せているが、戦争に関する発言はかなりシビアだ。
「もう少し穏便かつ仲良くできないもんかね」
「難しいと思うなぁ。聖王国とその仲間相手には」
小柄なペッサーが椅子に座っている俺の膝の上によじ登って俺の膝の上に収まる。うーん、羽がモフモフで気持ち良い。あと物凄く軽い。グランデなんかは小柄なのにかなりずっしりとしてるんだけど、ハーピィさん達は皆見た目よりも軽いんだよな。骨の構造とか密度とかが違うんだろうか?
「落ち込んでる?」
「落ち込んでるという程でもないけど、テンションは下がってるな。できることなら人死には少ないに越したことはないし」
「うん、そうだね」
頷きながらペッサーが翼状の腕で俺の頬や頭を撫でてくる。うーん、身体の小さなペッサーにこうやって慰められると絵面がヤバそう。いや、やることやってるわけだし今更か。
「とりあえず関係各所に連絡するか。ペッサー、ついてきてくれ」
「うん」
ゴーレム作業台にクラフト予約だけは入れておき、膝の上から下ろしたペッサーと連れ立ってクラフト部屋から出る――前にまずはクラフト部屋の隅っこに置いてある鬼族専用ソファで眠りこけているベラを叩き起こすか。こいつは護衛という言葉の意味をわかっているんだろうかね?