第267話~悩むコースケ~
魔煌石は大量にあるので、俺は手持ちの銃で使い勝手が良く、弾薬コストが高いものを中心に強化を施した。具体的には銃士隊に配備されている軽機関銃と六連装グレネードランチャー、有名な対戦車榴弾発射器、自動擲弾銃、重機関銃などである。
「やべぇよ……やべぇよ……」
「なんか急に顔を青くして頭を抱えて悩みだしたっす」
「情緒不安定ねぇ……」
「もう少し様子を見ようかァ」
鬼娘達が俺を心配してコソコソを話し合っているのが聞こえる。いや、でもお前、無限弾ですよ? 兵站問題に真っ向から中指をおっ立てる暴挙だよ! しかも自動修復のせいでフルオートで撃ちまくっても故障もしないし熱の問題も解決されてるときた。お前、こういう安易なクソ強化はゲームの寿命を縮めるんだぞ! 馬鹿! この馬鹿!
アイラにこの強化された銃器群を見せたら白目剥いて卒倒しそうだな……いや、研究開発部に持ち込んで徹底的に分解と解析を行いそうだ。
「どうしたものか……」
これを大量に配備すれば一気に無敵の軍団ができあがる。壊れず、弾切れも起こさない強力な武器を持つ軍団が誕生するのだ。戦場では武器というものはすぐに壊れる。一見丈夫そうに見える金属製の剣や鎧も、酷使すれば簡単に刃毀れを起こし、折れ、割れ砕けるものだ。だから、大量に用意される補給物資の中には当然ながら武器も含まれる。その手入れのための道具も。
だが、武器の補給が必要なくなればどうなるか? 補給物資の量は圧倒的に少なく済むようになる。しかも、強力な武器による一方的な蹂躙のせいで戦闘時間もごく短いものとなるだろう。
というか、現代兵器というか火薬式の銃火器というものはあれでなかなかの精密機器なのだ。そりゃ地面に一回取り落したくらいでぶっ壊れるほどヤワな作りではないが、日々の点検整備は欠かせないし、修理用のパーツや大量に消費する弾薬を考えると兵站に与える負担は非常に重い。剣や槍、弓の比ではない。その必要が無くなるだけで強い。強すぎる。
「あの野郎……」
どうもさっきの謎の声からはもっと俺の力を十全に使って場を引っ掻き回させたいという意図が透けて見えた。確かにこんなものが作れるのなら、俺が作り出す銃火器の配備数を大幅に増やすことができるようになるだろう。銃本体を作るのに必要な素材も加工時間もたかが知れている。魔煌石だって作ろうと思えばいくらだって作れる。
俺が作った銃の大量配備ができないのは補給と整備の問題があるからだ。魔煌石と付与作業台でそれが解消できるなら、いくらでも配備数を増やすことができる。無論、敵に鹵獲されたりしたら大変なので、今よりも一層取り扱いに気をつける必要が出てくるが。
「やっぱりなんか様子がおかしいわね」
「うーン? どうしたもんかねェ?」
「悩んでる男にはこれが効くってかーちゃんが言ってたっす!」
馬鹿がそう言って悩んでいる俺の背中に抱きつき、重くて柔らかいものを俺の頭の上に乗せてきた。くそっ、マーベラス!
「三人で囲んで押し付けるっすよ」
「そうすると私達が正面になるじゃない」
「まだ恥ずかしがってるんすか? 今更じゃないっすか」
「そうだよねェ。おぼこでもあるまいにいつまでもウブな子だよォ」
近寄ってきたシュメルが俺をぐいっと抱き上げ、正面から顔に胸を押し付けてくる。後ろからはベラが。今、俺は大きなおっぱいに挟まれている……ここが俺の理想郷だっt――いや待って普通に息できない。苦しい、苦しいから。ペシペシとシュメルの腕をタップして解放してもらう。
「死ぬかと思った」
「そんな大げさな」
「ベラもシュメルのおっぱいに埋もれてみればわかるぞ」
そう言ってベラをそっとシュメルの方に押し出すと、シュメルはニヤニヤと笑いながらシュメルの顔を自らの胸に抱え込んだ。しばらく耐えていたベラだったが、すぐに腕をタップして降参する。
「これはヤバいっすね。柔らかくて気持ちいいけどあの世が見えるっす」
「だろ」
「何をやってるのよ、貴方達は」
そんな俺達にトズメがジト目を向ける。そうは言うがな、トズメ。大きなおっぱいは良いものだが、流石にあのボリュームを顔に押し付けられたら本当に危ないんだよ。色々な意味で昇天するわ。
「……とりあえず、俺の一存でどうこうするもんでもない。後でゴーレム通信機で相談しよう」
「結局何があったんすか?」
「俺が前に遺跡で使ってた武器を覚えてるよな?」
「ああ、あのなんか凄いやつっすね。勿論っすよ」
「強化したら威力が上がった上に弾切れも故障も起こさす無限に撃てるようになった」
「……ヤバくないすかそれ」
「マジヤバだ」
「それって、さっき出してた武器全部?」
「全部だ」
「それは……うん、ヤバいねェ」
シュメル達は以前行ったオミット大荒野のアドル経典探索行で俺が使う銃器の威力を目の当たりにしている。その時に大きなデメリットとして弾薬の消費や加熱や部品の摩耗などによる故障についての話をしたのだ。それが解消されればどれだけ恐ろしい武器になるのか、彼女達はそれを知っている。
「他言は……しないと思うけど一応無用と断っておくぞ」
「しないよ。そもそも説明しても理解できるやつがどれだけいるものかねェ?」
「あー、なんでしたっけ? 秋頃に吊るされてた狐獣人のあいつならわかるんじゃないっすか?」
「ああ、いたわねそんなの。まだ生きてるの? あれ」
「多分生きてるぞ。立場が立場じゃなければぶっ殺して――いやぶっ殺されてたと思うけど」
その時は縄が胴体じゃなくて首に掛かって身長を伸ばされてただろうな。
「やっぱこの作業台は封印したほうが……いやいや」
どうも縛りプレイというか、俺が全力を出さないことに不満を持っているような感じだった。下手に奴の機嫌を損ねるとどんな手を使ってくるかわかったもんじゃない。奴に変な行動を起こさせない程度に色々とやっていったほうが良さそうだ。
「ゴーレムまでバレてたしな……」
これが一番の悩みの種である。正直に言えば、聖王国や北方の国々など俺にとっては敵でも何でも無い。単に滅ぼすだけならエアボードと同じ機構で移動するゴーレムに魔煌石爆弾を乗せて聖王国の都市に突撃させて一つ一つ吹き飛ばせば良いだけの話だ。三つか四つ都市を更地にしてやれば聖王国も俺達に土下座をして許しを請うことだろう。そのために数万人から数十万人の無辜の民を吹き飛ばすのは流石にどうかと思うからよほどのことがなければやる気は無いが。
「うーん……争いのない平和な世界を目指すってのは難しいな」
「急に変なことを言いだしたねェ」
「姐さんのおっぱいで死にかけておかしくなったんじゃないすか?」
「んなわけあるか」
「そりゃそんなことを言い始めたら心配もされると思うけど」
「そっすよね。そんな難しいこと考えるくらいなら外の空気でも吸って気分転換したほうが良いっすよ」
そう言ってベラがひょいと俺を抱き上げて歩き出す。うーん、この圧倒的な体格と膂力の差。俺だって男としては平均的な身長だし、体格だってさほど悪いってわけでもないのにベラにかかれば子供扱いだ。
「そう言えば今日はメトセリウムから商人が来る日っすよ。酒保になにか面白いものが入ってるかもしれないっす」
「そうさねェ、飲んだことのない酒でもありゃァ良いねェ」
「次、私に抱っこさせてね」
こうして俺は一歩も歩くことなく、鬼娘達に抱っこされたり肩に担がれたりしたまま基地内を練り歩くことになるのだった。気分転換にはなったな。うん。