第265話~指摘~
さて、ハーピィさん達の強化を上手く成し遂げた俺であるが、根本的な問題が解決していない。
「武器弾薬の量産がネックだよなぁ」
魔銃はともかくとして、銃士隊の使う火薬式の銃の弾丸やハーピィさん達の使う航空爆弾は俺が作らないと補充ができない。これは大変問題のある状態である。
「とは言ってもなぁ」
銃弾を今のこちらの技術だけで作るのは不可能に近い。まず火薬や雷管を調合するための化学知識が圧倒的に足りないし、薬莢を大量生産する工業力が無い。
爆弾はワンチャンあるかもしれないが、こちらも火薬と信管がネックだ。まぁ、火薬は比較的製造の容易で黒色火薬でなんとかやってみるとして、信管がな……起爆剤に点火できれば良いだけだし、魔道具式にしても意外と安く作れるかもしれないが。航空爆弾の製造に関しては研究開発部に開発案を投げておくか。
黒色火薬の大体の配合比率は覚えているから、試行錯誤でそれなりのものが作れるだろう。確か木炭が一割から二割、硫黄は木炭より少し多めで一割半から二割半、そして硝石が六割から七割って感じだったはずだ。
何故こんな事を覚えているかって? 中学生の時に覚えたりしなかった? え? しない? そう? そうか……いや、良いんだよ。俺はホラ、中学生特有のあの病の影響で心に深く刻みつけられてただけだから。ハハハ。
とにかく、火薬は黒色火薬を使うとして、弾殻は鋳造でも作れるはず。信管はクズ魔石を使った発火回路で良いはずだから、割となんとかなるかもしれない。魔石や魔力結晶を使って爆裂魔法を発動させる形式にすれば威力も上げられるかな? コストが高くなりすぎるような気がするが。
問題は硫黄と硝石の調達だと思うが、この辺で採れる場所あるのかね? 火山や温泉の話はそういや聞いたことがない気がするな……硝石はコウモリが住み着いている洞窟にグアノがあれば、そこから抽出できると思うが……まぁ、錬金術師の領分かな? この辺は。
別にわざわざコウモリのグアノ――ウ○コから抽出しなくても、普通に硝石を採掘できる場所があるならそれに越したことはないし、硝石が生成できるならコウモリのグアノに拘る必要もない。
一応俺の能力で生成した硝石と硫黄のサンプルも添えておくとしよう。同じものを作れるなら問題ないってことで。同じくサンプルとして能力で生成した黒色火薬も添付しておく。今まで火薬を作ろうとすると『火薬』という雑な分類の謎のパウダーができていたが、アイテムクリエイションを使って純粋な黒色火薬も作ることができるようになったのだ。
まぁ、使い勝手は『火薬』の方が圧倒的に上なんだけどさ……銃の装薬にも爆薬にも使えるし。ホントなんなんだこの火薬。
爆弾と火薬に関する提案は全部紙に書いてメリネスブルグの研究開発部に送っておくことにする。黒色火薬式にするか、魔石や魔力結晶式にするかはコストを考えてアイラ達に判断してもらったほうが良いだろう。この国の資源のみで生産できることが肝要なので、他国からの輸入に依存するような事態は避けるべきだとも書いておく。
「グランデー」
「むん? なんじゃ?」
「これ、機密性が滅茶苦茶高い文書なんだ。悪いが、シルフィかメルティかアイラに直接渡してきてくれないか?」
「ふむ、良いじゃろう。一つ貸しじゃぞ?」
「OK、なんでも一つ俺にできる範囲でお願いを聞こう」
「よし。その言葉、忘れるでないぞ?」
ニヤリと笑みを浮かべ、グランデは文書とサンプルの入った箱を抱えて俺の開発室から出ていった。グランデが飛べばすぐに文書とサンプルはメリネスブルグに届くことだろう。情報の流出もまず考えられないので、ある意味一番安全な輸送手段だ。
「はぁ……さて、お次はっと」
迫撃砲は結局のところ弾薬を大量消費して面制圧する武器だから、兵站への負担が大きい。大量の補給を必要とする現代兵器ってのはこれが問題だよな。機械化工業を前提として大量生産された弾薬をブンブン消費して威力を発揮するようにできてるもんだから、弾薬生産を俺に依存する火薬式の武器を標準装備とするのは些か問題が大きすぎるんだ。
その点、魔銃はこの世界の技術のみで作られた上に消耗品は発射薬に当たる魔石魔晶石、魔力結晶と鉛の弾丸だけだから、補給が比較的用意だ。兵器としては明らかにあっちのほうが有用なんだよな。俺の作った火薬式の武器は俺の能力が使えなくなったら鈍器にしかならないわけだし。
「はー、やめやめ」
最近どうも時間があると人殺しの武器のことばかり考えてしまう。ある意味病気だな、これは。何か物凄くくだらないものの研究開発とかをして脳味噌をリセットしないとマズい気がする。鬼娘達の身体を小さくするビームを放つ杖とか、逆に俺の身体が鬼娘達より大きくなるスープとか、息子の大きさをエクステンドさせる軟膏とか、そういうジョークグッズ的なサムシングでも作ろうかな。
「なんかヤバいことを考えてる顔っす」
「禍々しさが凄いわね」
「ちょっと散歩にでも行ってこようかねェ……」
「あっ!? ずるいっすよ!?」
なんか鬼娘達が騒がしいが、今考えたような不思議アイテムは俺の領分じゃなくて錬金術師とか魔道士の領分だからなぁ。俺の能力ってどうもそういう理不尽系のアイテムを作ることに向いてない気がする。俺の想像力が欠如しているせいだろうか? 付与作業台とかを活用すれば面白アイテムも作成できるのかね? あんまり触ってないからな、付与作業台。
そうだな、付与作業台を触ってみるか。なにか面白いものができるかもしれないし。
俺は徐に付与作業台を取り出し、研究室に設置した。
基本的にこれはアイテムを作るというよりは既に存在するアイテムに素材を足して何らかの効果を付与するって感じなんだよなぁ。しかも割と壊れた性能のアイテムを作り出すので、多用するとバランスが崩壊してヤバい系のやつ。神様調整ミスってんよー、って事になりかねない。
「なんすかそれ?」
「付与作業台。色々なものと魔石や魔晶石、魔力結晶やその他魔力のあるものを組み合わせて、何らかの魔法効果を付与できるんだ」
「何らかのって、選べないの?」
「検証の結果では選べない。元のアイテムの性質によってある程度の方向性は決まってるみたいだけどな。例えばハンマーに切れ味上昇みたいな効果がついたりはしない」
「ふゥン……じゃあ刃物なら切れ味とかが上がって、鈍器なら破壊力が上がったりするわけだ」
「そうなるな」
手持ちの魔力結晶はあまり多くないな。魔煌石は安全な保管場所が無いからって俺のインベントリに突っ込んでるけど。
「じゃあ、旦那さんの持ってる銃? に付与したらどうなるんすか?」
「えっ?」
「えっ」
言われてみるとその発想は無かったな……魔法的な付与って剣とか槍とか鎧とか盾とかそういうものにってイメージがあったせいで、試してすらいなかった。
「試してなかったんすか?」
「……うん」
やめろ、三人してそんな目で俺を見るな。その視線は俺に効く。
「違うんだ。これには深いわけがあるんだ。研究開発部で最初にこいつを使って色々と壊れ性能のアイテムとか世に出すとマズいアイテムとかが量産されたから、使っちゃダメなヤツっていうカテゴライズがされてしまってだな?」
「使えるもんは使わないっと損っすよ」
「手段なんて選んでも仕方ないでしょう?」
「うだうだ考えるよりもやっちまうのが早いと思うねェ」
「はい、仰るとおりです」
くっ、さすがは冒険者……常識なんて放り捨てて生きている奴らは伊達じゃないな。いやうん、実際のところ魔煌石を量産してしまって、それは心臓に悪いから二度と使わないようにという無言の圧力をみんなから受けたから……うん、言い訳だな。はい。使います。
実験の結果、より強い触媒を使ったほうが強力な効果がつくことはわかっているので、わざわざ弱い触媒を使う意味はない。最初から魔煌石をぶっこんでいこうと思う。
「ベースは何にするかなー……」
今手元にある銃は……まぁいっぱいあるんだけども。やっぱりここは安心と信頼の世界で一番多く作られたアサルトライフルかな。俺のは直銃床になってマズルが斜めに切ってある改良型だけど。
「よし、君に決めた」
アサルトライフルと魔煌石を付与作業台にセットし、付与を開始する。これでエラーとか出てクラッシュしたら面白――いや面白くねぇな? エラー吐いてクライアントがクラッシュとか考えただけで怖いわ。
頼むぞ、MODの干渉でエラー吐いてヤバいことになるとかはやめてくれよ。




