第264話~ハーピィさん重爆装化計画~
ハーピィ用の強化装備――特に風魔法の障壁を利用した矢避けの魔道具に関しては既に研究開発部で開発案が出されていた筈なので、春までに予備を含めて五十個を配備してもらえるようにメリネスブルグへと連絡をしておいた。
その他の重爆装化や装甲化に関しては俺が一人で開発するのは流石に手にあまるので、案を書き留めた書類をメリネスブルグの研究開発部に送り、後方で研究してもらうことにした。
重爆装化に関してはいくつかのアプローチがある。一つは航空爆弾の小型化と、足や胴体に装備する爆弾の支持具――パイロンの開発だ。今はハーピィさんの脚に直接爆弾を持ってもらい、信管に繋がった紐を脚に巻き付けることによって透過と同時に信管が作動し、炸裂するというタイプの航空爆弾を使用している。
脚で直接掴むという性質上、同時に装備できるのは片足に一発ずつの二発が限界だ。だが、爆弾を小型化してパイロンに複数の爆弾を懸架して出撃できるようになれば出撃一回あたりの火力投射量が飛躍的に向上することになる。もしも爆弾一発あたりの攻撃力を落とさずに小型化に成功し、左右の脚で三発ずつの爆弾を携行できるようになったら一人あたりの火力投射量が三倍になるわけだ。
「というわけで、新型爆弾とそれを支持するパイロンを作るために協力して欲しいんだ」
「「「はーい!」」」
集まってくれたハーピィさん達が元気に返事をしてくれる。してくれるのは良いんだが、流石にちょっと多すぎる。十人くらいいるぞ。ま、まぁサンプルは多いに越したことはないか?
「ええと、まずは脚を見せてほしいんだ。足の形って皆同じなのか?」
「ん? どうだろ? あんまり気にしたこと無いね」
そう言って茶色羽ハーピィのペッサーが自分の脚に視線を向ける。うん、俺が知ってるのよりもはるかにデカイけど、正に鳥の足って感じだな。彼女達ハーピィは四本の趾で身体を支えている。前に三本、後ろに一本の趾があり、物を掴む時はこの四本の趾を使うわけだ。
「それって器用に動かせるのか?」
「うーん? まぁこんな感じに?」
ペッサーがワキワキと趾を開いたり閉じたりしてみせる。本物の鳥がどうなのかは知らないが、少なくとも彼女達の趾は一本一本自由に動かせるようだ。結構器用に動かせるみたいだな。
「ふーむ、なるほど? ちょっと俺の腕を握ってくれるか?」
「いいよー」
彼女の足元にしゃがんで腕を差し出すと、彼女は翼を広げてバランスを取りながら器用に片足で立ち、もう片方の足で俺の腕を掴んだ。
「少しずつ力を入れてくれるか?」
「うん。痛くなったらちゃんと言ってね?」
ペッサーが趾に力を込め始める。おお、結構握力が強いんだな。まぁ、そうじゃないとそれなりの重さがある航空爆弾を掴んで飛ぶことなんてできないか。
「よし、それじゃあ今から指に触るから、その指だけ力を強くすることができるかどうか試してくれるか?」
「うん、わかった」
俺の腕を掴むペッサーの趾を一本ずつ触っていく。ふむ、一本ずつ個別に力を強めることも可能、と。
「よし。ちなみに一本だけ指に力を込めるとしたら、どれが一番楽なんだ?」
「この指だね」
ニギニギと俺の腕を締め付けてくるのは身体の中心側にある趾であるようだった。内趾とでも言うべきか。
「皆同じかな? いや待て、何故取り囲む」
皆に両腕を掴まれてニギニギされるという謎の儀式を終えてわかったことは、ハーピィさんの脚は意外と器用かつ握力が強いということである。まぁ、木の枝とかに掴まったまま一晩明かしたりすることもできるらしいし、当然と言えば当然なのか。
「うーん、そうなると機構的にはトリガーを引くような形で良さそうだな」
ハーピィさんが趾でトリガーを引けるなら、撃発装置というか投弾装置はトリガー式で良いだろう。あとは形状だが……。
「単純な作りなのはこう」
「なんかかっこわるい」
「ペッサーの何気ない一言が俺を傷つけた……」
俺が紙に書いたのはトリガーのついたグリップを金属製のフレームで四角く囲み、そのフレームに四発の小型爆弾をつけたものだ。グリップとフレームを上から見ると『日』みたいな形だな。この上下左右に一発ずつ爆弾をつけ、トリガーを引くごとに時計回りに爆弾が投下されるようにする。
「まぁ、やるとしてもガーターベルトみたいな装具で腰と脚両方で支えるようにするとかかなぁ。いや、足元に爆弾を多数搭載して重量が偏るとトップヘビーならぬアンダーヘビーになりかねないか? 投弾装置はトリガー式にして、太腿につけるようにしたほうが良いかな?」
「太腿に? どんな感じやの?」
ペッサーと同じく茶色の羽を持つハーピィであるカプリがそう言って首を傾げる。カプリは育ちが良いのかそれとも遠方の出身なのか、関西弁っぽい話し方をするんだよな。それもなんとなく上品というか、京都っぽい感じの。いや偏見だけど。同じ関西弁でもなんか違うじゃない? 俺は詳しくないけど。
「俺としてはこれくらいの大きさの爆弾をこう、太腿の外側にぽんぽんぽんと三つか四つつけるのも良いんじゃないかと」
カプリの太腿に500ml入りの水のペットボトルを充てがう。
「こっちの場合はここにこう、四つつけるんだよね?」
「そう。どっちのが運びやすい?」
「うーん、ボクは太腿に付けたほうが飛びやすいかも?」
「そうやねぇ、重いものを足の下にぶら下げるよりは太腿にぴったりくっついてたほうが飛ぶのは楽そうやわぁ」
他のハーピィさん達も概ね太腿に付けたほうが飛びやすいという意見であった。
「そうなると腰のベルトから金属フレームというかレールをぶら下げて、それを更にベルトで太腿に固定、レールにこんな感じで三発ないし四発の新型爆弾を取り付けて、脚でトリガーを引いて一発ずつ投下、と。風魔法を使った矢避けの魔道具をこの腰ベルトに装着するようにすればなおよしってところか」
風魔法の魔道具の大きさや仕様がどうなるかわからないが、ハーピィに装備させる以上そんなに大きなものにはならないだろう。ベルトの前――お腹側か、後ろの腰側に装備することはいくらでも可能な筈だ。
「うんうん、こっちのほうがカッコイイよ」
「まぁ、生産性はそんなに変わらないか?」
一つのトリガーで三つないし四つの射出機構を作動させるよりも、三つないし四つのトリガーで一発ずつ投弾できるようにした方が構造は単純で済む。金属の使用量もそんなに変わらないし、何より折り曲げや溶接などをする必要が無いものな。寧ろこちらのほうが生産性は上かもしれない。
「よし、パイロンの方向性はこれで良さそうだな。あとは新型爆弾か……」
これがまた非常に悩ましい。基本的に爆弾の威力というのは炸薬量に依存する。つまりデカければデカいほど威力が高くなるというわけだ。普通は小さくするとそれだけ威力が低くなる。威力を落とさずに小型化するというのはなかなかに難しいものなのだ。
「一発の威力が多少低くなっても、搭載量が六倍から八倍に増えれば総合火力は増えるよな」
今は二つしか爆弾が装備できないからできるだけ大きくて威力の高い爆弾を使っているのであって、対人用途と考えると現行の航空爆弾は少々オーバースペック気味なんだよな。
そりゃ対物用に今使っているような大型爆弾は有用なんだが、対人用としては跡形もなく十人を消し飛ばして二十人を負傷させる爆弾二発よりも、三人から四人を即死させて十五人を負傷させる爆弾八発の方が制圧力としては上なわけだ。
「新型航空爆弾のデザインはこんな感じかなー」
「なんだか今までのとは随分違うね?」
「他の新兵器の砲弾を流用することを今思いついてな」
そう。こいつは先日作っていた歩兵用の迫撃砲弾の改良品である。迫撃砲弾から推進薬を抜き、弾頭信管の作動をより単純化して弾頭部のピンを抜くだけで撃発可能にし、ハーピィさんが空中から投下し、弾頭部が地面なり目標なりに接触した瞬間炸裂するようにしたものである。迫撃砲弾のパーツを殆どそのまま流用できる。
この発想は我ながら冴えてるんじゃないか?
「ええと、今までの航空爆弾は改良に改良を重ねて一発辺り4kg近くあったのか。この新型爆弾は一個あたり1.3kgくらいだから、片足に三つ装備しても今までと重さは同じくらいだな。パイロンも含めると総重量は少し上がるけど、下半身全体で支えるようになる分、今までよりも負担は少ないと思う」
「なるほど。今までのよりちいちゃいけど、その分沢山持って飛べるのはええねぇ」
「今までの三倍か四倍も持てるのはいいね! それで、いつから使えるの?」
「え、いや、まだ計画段階だから……」
とは言っても、ハーピィ用の航空爆弾に関しては基本的に俺が全部開発から製造までやることになるからな。やろうと思えばすぐにでも作れる――というのをハーピィ爆撃隊の古株と言えるペッサーやカプリは知ってるんだよなぁ。
「わかったわかった。すぐ作る。作るから」
「わぁい! 楽しみ!」
「うちとペッサーは小型種やから無理やけど、中型種や大型種の皆さんならもっと積めるんと違います?」
「そうだね、中型種用と大型種用も別に作ると良いと思うよ。みんないっぱいドカンドカンしたいからね!」
はいはい。投弾装置の改良が要るだろうけど、精々一つのトリガーで二つのハードポイントを交互に作動させるくらいで済むだろうからさしてコストはかからないね。レールは延長すれば良いだけだし。やりますよ。
こうしてハーピィ爆撃隊北部方面部隊に新型対人航空爆弾と重爆装化フレーム――ハーピィ内での通称:お洒落着――が配備されることになり、ハーピィ一名辺りの対人火力が二倍から三倍に跳ね上がることになるのであった。
ハーピィさん達「横並びになって爆弾落としたら敵さんを漏れなく倒せるんじゃないかな? あと爆発するのも良いけど燃やすのも良いんじゃないかな?」
コースケ「絨毯爆撃……焼夷弾……!(白目」