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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
戦争に向けてサバイバル!
263/435

第262話~穏やかな日常(迫真)~

 この基地を設営してから今日で一週間。最初はガランとしていた基地も徐々に活気づいていて来ている。最初に来たのはハーピィさん達だった――基地を設営した翌日にはもう何人か飛来した――が、その後はメトセリウムから、そして今は周辺の町から徐々に人が集まり始めている。


「コースケ様、お散歩ですか?」

「ええ、引き篭もってばかりだとこの子達に良くないんで」


 基地を歩けば働く人々に声をかけられる。その殆どが若い亜人の女性達で、彼女達の中にはお腹が大きな人もいる。今は笑顔を浮かべてくれているが、三日ほど前にこの基地を訪ねてきた時の彼女達は肉体的にも精神的にもボロボロの状態であった。

 生臭い話だが、アドル教主流派の連中ってのはどうして亜人を生まれながらの罪人だのなんだのと差別するくせに、亜人の若い女性を欲望の捌け口にするのを好むのかね?

 え? お前が言うな? 失礼な。俺は手を出した以上は責任は取るし、誠意を持って接するよ。というか、どちらかというと俺が……うん、この話をこれ以上考えるのはやめよう。俺の心にダメージが入る。

 とにかく、俺にできることは彼女達の心の平穏のために仕事を提供し、温かい寝床と十分な食事、十全の医療体制などを可能な範囲で整備してやることくらいだ。今は訓練に出ているからいないが、ここには亜人の男性達も募兵に応じて参集している。俺としては彼らと温かい家庭を築いてもらうことを祈るばかりだ。

 さて、そろそろお気づきかもしれないがこの基地に参集した人々の大半は亜人である。まぁ、理由というのは単純で、聖王国の支配下から脱したメリナード王国では亜人奴隷の扱いが大きく見直されることになった。亜人奴隷を使って阿漕に儲けていたような連中は駆逐、淘汰され亜人奴隷は過酷な奴隷労働から解放された――と子供向けのお伽噺ならこれで綺麗に終わるのだろうが、現実はそうは行かない。

 阿漕な奴隷使役者や奴隷商は大鉈で根切りにしたが、そうして解放された亜人奴隷達がそれだけで幸せになるかというと、決してそんなことはない。人間だって亜人だって食うためには働かねばならないのだ。元奴隷だった亜人達は解放されたことによって自由を得たが、代わりに職を失うことになった。

 働き口を失くした亜人の元奴隷達への雇用対策はメリナード王国最大の懸案事項なのである。まぁ、つまり今回の基地設営も一種の雇用対策を兼ねているというわけだな。この基地が創出する働き口なんてものは極々限定的なものだけども。こういうのは小さな一歩の積み重ねだからね。


「あ! にーちゃん! 猟犬ごっこしようぜ! 猟犬ごっこ!」

「もう少し基地を見回ってからな。広場に皆を集めとけ」

「やったー! やくそくだよ!」


 基地には子供達もいる。彼らはまぁ、つまり先程の若い亜人の娘達の子供だったり、弟妹だったり、今は訓練に出かけている見習い兵達の弟妹だったりする。ここに来て一日二日はおどおどとしていたが、俺がハーピィちゃん達を引き連れて散歩する際に一緒に散歩しようぜと誘い、その後はすぐに仲良くなった。

 ちなみに猟犬ごっこというのはつまり鬼ごっこのことである。身体能力の高い亜人のお子様達を相手にした鬼ごっこはなかなかに難易度が高い……本物の猟犬に追われているかのような感覚に陥る。足が早すぎるんだよ君達。

 まぁ、あの子供達も実は一日中遊んでいるわけでもない。この世界では子供も立派な労働力なのだ。午前中は兵士や見習い兵士達の洗濯物を回収して回ったり、基地の片隅で作られた農地のお世話を手伝ったり、自分達よりも小さな子供達の子守をしたりとそれなりに忙しいのだ。

 遊べるのは午前中しっかり働き、お腹いっぱいご飯を食べてお昼寝をしてからということになっている。

 走り回る子供達と別れた後は畑へと足を向ける。当然ながら、この畑は俺が農地ブロックで作ったものだ。成長が早く、味も良い作物がすぐに出来上がってくる。今植えている分の野菜は俺が自ら畑に植えたものなので、そろそろ収穫時期である。明日には収穫かな? この農地の収穫物で基地内で消費されることになっており、基地内の人員が持ち回りで世話をすることになっている。

 とりあえず最初は栄養豊富で料理にも色々と使えるトマト(トメル)とキャベツ(ギャベジ)にしたが、次回以降はどうするかね? 子供も多いし、なんだかんだで保存も効く林檎とかの果樹にしようかな? レーズンやワインに加工することもできる葡萄なんかも良いかも知れないな。

 そんな事を考えながら散水用のポンプに不具合がないかを確かめ、二段ジャンプで空中水路に上がって異物などが混入していないかチェックしておく。


「おーィ、あんまあたし達の手が届かないとこにいかないでおくれよォ?」

「相変わらず気持ち悪い動きっすね……」

「しっ、聞こえるわよ」

「もう聞こえてるよ!」


 ベラの今日のおやつはこっそり量を減らしてやろうか。いや、大人げない真似はすべきじゃないな。食い物の恨みは怖いし。こうして見回りを終えた俺は約束通りに子供達――いつの間にかグランデも交じっていた――と遊び、おやつを食べさせ、今日も穏やかな一日を終え――。


「酒盛りっす」

「付き合ってくれても良いわよね?」

「まァ、観念しな」

「別に良いけども」


 その夜、夕食を終えた後に風呂に交代で入り、寝ようかな? と思ったところで鬼娘達に酒盛りに誘われた。まぁ、誘われたと言っても酒や肴を出すのは俺なのだけれども。

 ちなみに、この基地には既に酒保が設営されており、文官や元商人の亜人などを中心にすでに運営が開始されている。酒保には生活雑貨だけでなく、嗜好品として酒やお菓子なども置かれていたりするのだ。

 まぁ、今の所この基地にいる人々の大半は手元不如意なので、売上はあまり上がっていないのだけれども。基地司令のウォーグや文官達と相談して最初の給金は週給として早めに現金を渡していこうかと相談しているところである。


「なーんか拍子抜けっす。わざわざうちらを護衛にするくらいだから、もっと頻繁に命を狙った刺客でも来るのかと身構えてたんすけど」

「そんな頻繁に命を狙われてたまるか。いざという時なんてできれば一度もこないに越したことはないだろ」

「そりゃァご尤も。まぁ、あたし達としちゃァ命を張らずに美味い酒と飯が出てきて、その上報酬も出るってんだから美味しい仕事さね。でも、だからって気を抜きすぎるんじゃないよォ?」

「そりゃもちろんっすよ。しくじって兄貴に何かあったら大変っすからね」

「兄貴って俺のことか」

「そっすよ。それとも旦那様の方が良いっすか?」

「別にどっちでもいいけど……そういうやつ?」


 そう聞くと、シュメルとベラは互いに顔を見合わせて頷いた。トズメ? トズメは酒盛りが始まる前からガッチガチに緊張して固まってるよ。いや、だからこそ勘付いたわけだけども。


「まァ、あたしらに雰囲気を作れなんてのは無理な注文だよねェ」


 そう言ってシュメルが俺に向かって両手を伸ばし、むんずと掴んで自分の膝の上に俺を座らせる。今日も彼女は大変ラフな格好をしているので、後頭部の感触が素晴らしい。でかい。


「そっすね。特にあたしはそういうのよくわかんないっす。男なんて気に入ったやつがいたらそこらに茂みに連れ込んでヤッちまえって感じだったんで」

「なにそれこわい」

「あ、そうは言いつつも実際にヤッたことはないっすよ。新品っす」

「もう少しオブラートに包んでどうぞ」

「おぶらーとってなんすか?」


 そうだよね、オブラートなんてものはこの世界には存在しないよね。通じるわけもなかったよ。


「トズメは大丈夫なのか」


 緊張して大きな瞳がぐるぐるしてしまっているぞ。あれはダメなやつでは?


「あー……これはダメかもしれないねェ。あたしらが元気なうちに押さえつけてヤッちまうかァ」

「そっすね。じゃああたしは右手と右足押さえつけるんで」

「んじゃァあたしは左側を……」

「待て待て待て待て。会話の内容がヤバいし絵面が犯罪的になる」


 固まっているトズメの前に立って二人を押し止める。なんだその発想と会話は。会話だけ聞かれたら山賊か何かと勘違いされ――。


 グワシッ、と唐突に後ろから腕が伸びてきて俺の胴体に巻き付いた。


 そして俺の身体に巻き付いた腕が恐るべき力で俺を引き寄せる。


「うおーっ!?」


 後頭部にまたもやとても柔らかい感触が! やったぜ! なんて言っている場合ではない。俺を締め付ける腕の力が強すぎて息苦しい。ガッチリとホールドされていて藻掻くことすらできない。


「フーッ……! フーッ……!」

「ヒェッ……」


 荒く、熱い鼻息がうなじにかかって思わず身を震わせる。今の状況下で俺を後ろから抱き竦められる人物は一人しか居ない。


「あーァ……だから押さえつけるっていったのにさァ……」

「あちゃー……」

「おいちょっと待ってやめっ、服を破るな!? おい落ち着け! 話せば――」


 振り向くと、大きな瞳いっぱいに俺の顔が映っていた。その大きな瞳の奥にハートマークを幻視したような気がする。うん、これは駄目なやつですね。わかります。


「諦めなァ」

「無理っす。下手すると兄貴の身も危ないっすから」


 助けを求めてシュメルとベラに視線を送ったが、無慈悲な答えが返ってきた。


 はい、諦めます。優しくしてください。

い つ も の_(:3」∠)_

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― 新着の感想 ―
あーあ、タガが外れちゃった…
[一言] まぁ、デバフというか呪いに近いスキル複数持ってるからねぇ。アキラメロw
[一言] 今更かもしれませんが… 甲斐性のある主人公に女性が寄ってくる、というのは分かるんですが、他に女性を引き受けられるようなのは居ないんですかね?ダナンとかレオナール卿だけでなく。
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