第253話~冬の挨拶と軟禁~
4/30に四巻発売!
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「旅に出ようと思います」
「却下だ」
夜の生活が夜だけでなく昼にまで侵食してきて命の危険を感じた俺はシルフィに旅に出ることを申し出たが、一瞬で却下された。
「だがな、シルフィ。皆で愛してくれるのは嬉しいが俺にも限界というものがあるぞ。具体的に言うと色々なところが痛いし辛い、色々と」
そりゃ回復魔法や賦活の奇跡、各種錬金薬やグランデの血など限界を超えて頑張るための方策は色々とあるが、限界を超えるということはつまりどこかに負荷がかかっているということだ。このままだと早々に枯れるか腎虚で死ぬかしそうなので本当になんとかして欲しい。
「まぁ、確かにその、冬だからといって最近ちょっとやりすぎだなとは……」
「このままのペースが続くならライム達を頼って地下に潜ることも辞さない」
「まもるよー」
「まぁ、頼られたらね」
「私達の本気を見るのです?」
今回の交渉にあたって、スライム娘達をこの場に引き連れてきている。彼女達は彼女達でまぁ、俺が寝ている間に色々としていたようだが、少なくとも無理はさせない。今の状況よりはマシだ。
「コースケ……」
ライム達まで持ち出してきた俺にシルフィが悲しげな表情を向けてくる。
「いや、夜だけにしてくれれば良いんだよ。せめて晩飯食べて風呂入ってさっぱりした後からなら。真っ昼間から始まって気がついたら翌日の朝ってのはどうにかして欲しい」
日の高いうちから美女や美少女を侍らせて取っ替え引っ替え酒池肉林ってのは男の夢の一つだと思うが、物事には限度というものがある。ハーピィさん達の一部がおめでたになったからと全員で猛攻をかけられるのは死ぬ。
「わかった、皆に言って明るいうちは控えるように言う。それと、話し合ってコースケに負担をかけないようにする」
「そうしてくれると凄く助かる。やっぱり最初にシルフィに相談して良かったな」
「コースケ……」
最初に相談したという俺の言葉を聞いてか、シルフィが嬉しそうな顔をする。
ライム達を連れては来たが、事情は説明していなかった。最初に相談したのがシルフィなのは本当だ。ライム達は俺が声をかければだいたい言うことを聞いてくれるからな。
その夜、淑女会議が開かれて俺の訴えは無事認められた。俺は久しぶりに穏やかな夜を過ごした。
☆★☆
俺に冬に入る前の穏やかな……まぁ夜以外は穏やかないつも通りの日々が戻ってきたころ、メリネスブルグの王城に多くの来客が訪れた。新生メリナード王国に恭順した主要な街の代表者達である。
意外に思うかも知れないが、街の代表達の凡そ七割ほどは聖王国統治下の頃から変わらない顔ぶれであるらしい。彼らは聖王国の勢力をメリナード王国領から叩き出した解放軍――つまり新生メリナード王国に恭順の意を示して街の長の地位を安堵された人々なのである。
まぁ、地位を安堵するとは言っても、あくまでも一時的なものだ。今後、新生メリナード王国の統治方針に従わないとなればその首はすげ替えられることになる。場合によっては物理的に。
「で、俺は部屋から一歩も出ないように言われるわけか」
「何があるかわからんと言っていたの」
グランデと一緒にクッションの山に埋もれながらぐでーんと伸びる。シルフィの伴侶として代表者達に挨拶をしなくても良いのかと聞いたのだが、今回は部屋に篭もって絶対に出てくるなといわれてしまった。どうも俺が多くの伴侶を娶っているということは割と広く知られているらしく、俺に親族の女性をあてがって自分の地位を確保しようと考えている人達が一定数いるらしい。
「さしずめコースケは餓えた獣に狙われるお姫様じゃの」
「姫という言葉の定義について考えさせられるな」
ちなみに王城に集まった代表者達は何をしに来たのかと言うと、シルフィの率いる新生メリナード王国がメリナード王国領全土を遂に掌握したということで、改めて臣下の礼を取りに来たのだそうだ。
今後、新生メリナード王国はシルフィを女王とした君主制を敷くことになる。俺はその伴侶としてシルフィを支えることになるわけだな。
で、ここで問題になってくるのが地方の統治である。本来ならばシルフィの信頼できる配下を地方に配置して支配を絶対的なものにしたいところだが、新生メリナード王国の統治に恭順の意を示してきた地方都市の長が非常に多い。
今回地方の実力者達が集まってきたのも、逆らいませんから殺さないでくださいお願いします。なんならうちの子を人質として差し出します。旦那さんの妾にでも召使いでもなんにでもしてください。どうぞよろしくおねがいします。という意図があってのことだ。
シルフィとしては街の統治を上手くやって税をちゃんと収めて、聖王国統治下の亜人差別を撤廃し、有事の際に兵や人手をちゃんと出してくれるのであれば今の代表者にそのまま街の統治を任せるのも吝かではないという考えであるようだ。とは言え、地方の統治を完全に任せて野放しにするわけには当然行かないので、メリナード王国領をいくつかのセクターに分けて総督を置くような形にするつもりである。
アーリヒブルグに南部総督としてダナンを置き、東部の聖王国との国境付近には東部総督としてレオナール卿を置く。西部にはザミル女史を西部総督として配置するつもりらしいが、ザミル女史は俺の護衛ができなくなるということで渋っているらしい。
西部は少国家連合と接しており、その先にはドラゴニス山岳王国がある。ドラゴニス山岳王国にはリザードマンが多く住んでいる土地なので、彼らと接する機会が多くなるであろう西部総督にはザミル女史が最適だと俺も思うんだけどな。
北部に関してはシルフィが中央から直接統治するという形を取る。北部の先には聖王国の属国や同盟国が存在しているので、今後戦場となる可能性があるんだよな……今は聖王国との国境がある東部に防衛戦力を展開できるように準備を進めているところだが、近く北部にも戦力を配置できるようにしなければならないだろう。
「うーん……」
「どうした?」
「いや、これから大変だなぁって」
「そのようじゃの。妾にはあまり関係ないが」
「グランデを人族同士のいざこざに巻き込むつもりはないからな。まぁ、でもシルフィの伴侶としては何か手助けをしてやりたいなぁと思う次第でね」
「ふむ……」
俺の言葉にグランデは何かを考えこみ始めた。
まぁ、目下の懸案事項は北部の守りに関してだろう。東部の守りに関しては目処がついたので、今度は北部に目を向ける時期だ。メリナード王国の実力を確かめるために聖王国がメリナード王国の北に位置する属国や同盟国をけしかけてくる可能性がある。
俺が北部総督に名乗りを上げるのはどうかな? と考えているが、シルフィ達はきっと反対するだろうな。俺を一人で送り出して暗殺されたり拉致されたりしたらメリナード王国は詰みかねないわけだし。そうなると、ううむ……シルフィの姉妹の誰かを北部総督として送り出すということも考えられるか。信頼性という意味ではレオナール卿やダナン、ザミル女史にも劣らないものな。
アクアウィルさんやイフリータはわからないが、長女のドリアーダさんは年齢的にも立場的にも王族としての教育をしっかりと受けているだろうしな。国民の支持という点でもメリナード王国を取り戻したシルフィが抜擢したという形であればなんとかなるんじゃないだろうか。
「妾はコースケが言ってくれればなんでも助けるからな。少しくらいなら面倒に巻き込まれてやっても良いぞ」
「ありがとう。グランデは可愛いなぁ」
「えへへ……そうじゃろうそうじゃろう」
隣で俺と同じく大量のクッションに埋もれて伸びていたグランデを抱きしめて頭を撫でてやる。グランデをいざこざに巻き込むつもりはないが、こうして気を遣ってくれることは素直に嬉しい。
「コースケ、妾は腹が減ってきたぞ」
「それじゃあおやつでも食べるか」
「うむ!」
元気に返事をするグランデと一緒にクッションの山から脱出してテーブルへと向かう。さて、今日はおやつに何を食べさせようかな。呼び方で大戦争が起きるアレにしようか。あんことかカスタードとか色々な中身のバリエーションがある丸いやつ。ちなみに俺はおやき派だ。
「こーすけー」
「はいはい」
グランデに手を引かれながらインベントリを操作する。とりあえずは目の前のはらぺこドラゴンをなんとかするとしよう。