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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
戦争に向けてサバイバル!
244/435

第243話~外交使節の目的~

「さて、キリーロヴィチ殿は確かメリナード王国との友好と親善のために遠路はるばる参られたという話だったな」

「ええ、その通りです」


 ハーピィさん達によってキュービが連れ去られた応接室でそのままキリーロヴィチと話を進めることになった。キリーロヴィチの顔色がとても悪いように見えるが、きっと気のせいだろう。


「我々に対するヴァリャーグ帝国の工作に関しては、先程の一件でとりあえず水に流そう。お互いにアレに関しては今後言及しない、ということでいいな?」

「ははは……その、一応返していただきたいのですが。お預かりした人員なので」

「その点に関しては承知した。殺しはしないでおくし、最終的にお返しすることも約束しよう」

「使い物にならなくされては困りますので、その点もご配慮ください」

「承知した。それで、来国の目的は親善と友好ということだったが、具体的にどのようなことを考えているのかお聞かせ願えるか? メリナード王国とヴァリャーグ帝国の間には広大な聖王国の領土があり、また聖王国とヴァリャーグ帝国の係争地になっているアマガラ大平原がある。それらを避けて普通に移動すれば片道で半年ほどもかかる距離なのだが」


 シルフィの言葉になるほどと思う。一日で大量の荷物を抱えながら長距離をひとっ飛びできる大型旅客機どころか、陸路をゆくトラックすら無い世界だ。この世界における交易というのは馬車を使った交易か、或いは船を使った交易のどちらかだろう。ただ、メリナード王国には海がない。つまり交易手段は徒歩や馬車に限られる。そんな距離にある国同士が直接貿易をするのは難しいし、情報のやり取りをするにしても届くのは半年後だ。友好を結ぶのが簡単とは到底思えない。

 無論、グランデの飛行能力や輸送用のエアボードが普及すればその限りではないが、今の所ヴァリャーグ帝国とのやり取りのためにグランデに働いてもらうつもりは無いし、エアボードをそちらに回す余裕もないし、技術供与をするつもりもない。


「差し当たっては外交官をここメリネスブルグに置かせていただけないかと考えています」

「ほう、外交官を。その外交官というのはこのメリネスブルグで何をするのかな?」

「基本的には情報収集と分析に当たり、それを本国に伝えるのが役目になります。また、本国から齎される情報を貴方達に伝えるのも役目になりますね」

「それはつまり堂々と置かれる密偵ということではないかな?」

「ははは、確かに外交官のことを名誉あるスパイと呼ぶ方もいらっしゃいますね。ですが、貴方達にも当然メリットがありますよ。我々の目や耳はとても良いのです」

「……なるほど」


 それはつまり、ヴァリャーグ帝国の諜報員が手に入れた聖王国の情報を外交官経由でこちらに流すことも可能だということだろう。

 前線の情報収集に関しては優秀な斥候を持つメリナード王国の人員で事足りるが、聖王国本国の政治、経済の動きなどに関しては今の俺達には情報収集をする方法がない。密偵を送り込もうにも、メリナード王国の中核をなす解放軍の主だった人員はほぼ亜人である。いずれ人間の人員も増えてくるとは思うが、それが何年後になるかはわからないし、確度と重要度の高い情報を得られるようになるには更に時間がかかるだろう。


「ふむ……どう思う?」

「俺? 俺はこういう場には殆ど参加してないし、俺が意見を言うのはどうかと思うが」

「良いから、率直な意見を聞かせてくれ」

「うーん……」


 実際にヴァリャーグ帝国の目と耳とやらが必要なのかどうなのか、という観点で考えると俺は微妙だと思っている。それらの情報は聖王国の動きを知る上では大変なアドバンテージを得ることになるだろうが、少なくとも現時点ではそのような情報など無くとも前線に敵が現れれば急行して撃滅するだけの力を俺達は有しているから。

 ただ、政治、経済という観点において考えればヴァリャーグ帝国とのラインを確保しておくのは有用だ。相手はこの大陸で聖王国と勢力を二分する大国である。当然国際的にも政治的な影響力は大きい。その大国の外交官が滞在しているということはつまり、ヴァリャーグ帝国が外交官を置く必要があると判断するほどの力を新生メリナード王国が有しているということの証左になる。

 これはメリネスブルグを訪れた他国の人間に一目置かれる要因となるだろう。それはつまり、解放軍とその頭目であるシルフィが再興した新生メリナード王国が国際的に正当な国家であると認められる大きな助けとなるに違いない。


「……と思う。だから、外交官の滞在に関しては前向きに考えるべきなんじゃないか」

「なるほど、メルティはどうだ?」

「コースケさんにだいたい言われてしまいましたね。加えて言うなら、ヴァリャーグ帝国に私達というか、コースケさんの力を見せつけることは必要なことかと思います」

「危険だと思うのである。ヴァリャーグ帝国への略取や暗殺を誘発する恐れがあるのである」


 メルティの意見にレオナール卿が慎重論を唱える。確かにその危険性はあるよな。


「そこは身辺警護をしっかりして対応すれば良いでしょう。差し当たっては私やグランデさん、ザミルさんが常に傍につくようにすれば良いかと。あと、暗殺はともかく略取はかなり難易度が高いと思います」

「実績があるが?」

「コースケさんが中身を全部出すようなことをしなければ大丈夫ですよ」

「反省してます」


 以前キュービに拉致られた時のように武器も資材も全部吐き出す、なんて真似をしていなければなんとでもなるだろう。実際のところ、あの時だってレンガブロックや石ブロックとツール類、それに武器があればいくらでも逃げ出せたと思う。


「あの、一応外交特使である私の前であからさまにそういう話は……」

「「「は?」」」

「なんでもありません。はい」


 お前んとこのクソ狐がやらかしたんやろがい? という目で女性三人に殺気を放たれたキリーロヴィチが両手を挙げて全面降伏する。不憫な。


「コースケもああ言っていることだし、外交官の受け入れについては前向きに検討させてもらう。こちらとしてもこの場で即断はできかねるので、返事については数日お待ちいただきたい。その間の宿や食事に関してはすぐにこちらで手配するので、それまでは城内でゆるりと過ごして旅の疲れを癒やしてくれ」

「はい、ご厚意に感謝します」


 ☆★☆


 キリーロヴィチ率いるヴァリャーグ帝国からの使節団はその後、王城に近い場所にある屋敷へと逗留することになった。その屋敷は解放軍がメリネスブルグへ侵攻する直前に夜逃げした聖王国の貴族が住んでいた屋敷で、解放軍がメリネスブルグを占拠した後に接収した物件である。ヴァリャーグ帝国の外交官を受け入れるということになった暁には、そのまま屋敷が大使館になる予定だ。

 ちなみに、屋敷の敷地は王城から丸見えである。つまり、何かあれば王城に大砲を設置していくらでも砲撃できる場所ということである。銃士隊なら小銃による狙撃も可能かもしれない。まぁ今はそんなことはどうでも良い。重要な話じゃない。


「美味しいですね、コースケ様。次はそちらの料理を食べさせてください」

「えーと……」


 久しぶりに帰ってきたのだからとセラフィータさんから夕食にお呼ばれされ、俺がインベントリから出した食べ物でジャンクフードパーティーをすることになったのだが……セラフィータさんが俺にべったりである。何事? と思うくらい露骨にべったりな上、もの凄く甘えてくる。何なのだ? これは。一体どうすれば良いのだ!?


「寂しかったんじゃろ」


 俺達を眺めながらグランデがそう言ってハンバーガーを頬張る。冷静な意見ありがとう。しかし寂しかったからといってこれはいかがなものか? というかそれにしたって何かおかしいだろう。


「お母様……」

「不潔」

「母様……?」

「母上……」


 シルフィを含めたエルフのお姫様四姉妹から羨ましそうな声やら驚いたような呟きやら呆れたようなぼやきやらが聞こえてくる。若干一名俺を罵倒するやつもいたようだが、聞き流しておく。


「コースケさん……」

「流石」


 メルティの引き攣った笑みはわからないでもないが、アイラの流石ってのはちょっとわからないぞ。それはどういうアレなんだ?


「あのですね、こういうのは色々と不味いと思うのですが」


 俺にピッタリとくっついて甘えてくるセラフィータさんにそう言うと、彼女は目に涙を浮かべて。


「お嫌ですか?」


 などと言ってくるので。


「お嫌ではないです」

「良かったです」


 セラフィータさんが涙を引っ込めて輝くような笑みを浮かべる。はは、俺の意志の弱さをいくらでも罵倒するが良いさ。でもこれは無理だろう。これで突き放せる男はよほどの冷血漢か何かだと思う。


「一体これは何事なんだろうか……?」

「寧ろ聞きたいのは私達の方なのだが」

「何か怪しげな薬でも使ってるんじゃないでしょうね?」

「天地神明に誓ってそんなことはしていない」


 これは本格的にカウンセリングが必要なんじゃないだろうか。いくら俺のアチーブメントが作用しているとしてもこれは異常だ。俺はセラフィータさんのことを深く知っているわけではないが、他人の目を一切考慮せずにこんな振る舞いをする人とは思えない。そうでなければ何か外的な要因があるんじゃないかと思う。


「アイラ?」

「魔法的な観点では異常らしい異常は見当たらない。身につけている装飾品にも魔法の働きは感じられない。正常」

「うそぉん……ドリアーダさん?」

「はい、なんでしょうか?」


 羨ましそうな表情をしていたドリアーダさんが表情を取り繕って笑顔を浮かべる。いや、何で羨ましそうなんですか貴女も。


「エルフの生態的な意味で何か心当たりはありません? ほら、獣人にあるっていうアレみたいな」

「発情期ですか?」

「折角ぼかしたのに!」

「うーん、エルフに発情期があるという話は聞いたことが無いですけど……」

「黒き森の長老からも聞いた覚えがないな」


 ドリアーダさんとシルフィが俺の推測を否定する。となると、他には……?


「ライム」

「なーにー?」


 にゅるんっ、とどこからかライムが現れる。呼ばれるまで出てこない感じにしなくても、普通に居て良いんだぞ?


「最近セラフィータさんとポイゾが接触してなかったか?」

「んー? どうだろー?」

「ベス」

「知らないわよ。でも、最近ポイゾは楽しそうだったわね」

「ポイゾ?」


 ポイゾは呼んでも出てこなかった。

 犯人は決まったようなものである。


「ライム、ベス、ポイゾを連れてきてくれ。場合によってはちょっと本気で折檻するから」

「わかったー。けどあとでライムたちにもかまってねー?」

「任せろ」


 翌日、ライムとベスによって捕獲されたポイゾがセラフィータさんの相談に乗って『素直になれる薬』を処方したことを白状した。なお、解毒――中和剤を作るよりも薬の効果が切れるほうが早いとのことだったので、都合三日ほど少し精神的に幼い感じになったセラフィータさんにベタベタされることになった。


 なお、効果が切れた後、正気に戻ったセラフィータさんは一週間ほど部屋に引きこもった。

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― 新着の感想 ―
キツネを連れてきたのはなぜだろう。 置いてくれば、もっと外交交渉がスムーズだったでしょうに。
[良い点] 帝国に実質的に国として承認されたのでかいな
[一言] コースケ「おや、こんな物まで作れるようになったか…」 女性向けの化粧品?美容品?だけど…キリーロヴィチさんの「命に関わらないのであれば」という許可も得たことだし、治験者(試験者)になってもら…
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