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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
戦争に向けてサバイバル!
234/435

第233話~翌朝の三人と御使い活動~

同じ思いの人が多くて僕は安心しました。

いつか爆発させてやろうと想います_(:3」∠)_

 長い戦いだった。戦いの経験は俺が圧倒的に上だったが、相手は三人。しかも三人ともが回復持ちで、一人を倒してももう一人と戦っている間に残りの一人が倒れた仲間を回復するのだ。しかも相手は少しずつ学習して強くなっていく。俺にとっては絶望的とも言える消耗戦であった。

 最終的に一番回復能力の高いエレンを常に最優先で倒すことを徹底することによってなんとか勝利をもぎ取った形だ。総合力はエレンが一番高く、アマーリエさんはタフで、ベルタさんは攻撃力が高かった……同じ状況に陥ったら、次は多分勝てないだろう。


「……」

「……」

「……」


 軽く身支度を整えて皆で朝食を取っているのだが、会話がない。悪い意味でなく、三人ともまだどこかぼーっとしているというか、ふわふわとしているというか……刺激が強すぎたのかもしれない。三人ともどこか上の空で俺がインベントリから出したホットケーキとミルクという朝から甘くて重めの朝食を口に運んでいる。


「腸詰め肉食べる人ー、はい挙手」


 三人の視線が俺に集まり、全員の手が挙がる。ちゃんと外部からの声は聞こえているらしいし、食欲も問題ないようだ。まぁ放っておけばそのうち元に戻るだろう。俺は取皿をインベントリから取り出し、フランクフルトのような大ぶりの腸詰め肉を二本ずつ盛り付け、彼女達の席にそれぞれ置く。

 三人はその腸詰め肉を何故かじっと見つめたかと思うと、急に顔を真赤にして激烈な反応を見せた。エレンはフォークを取り落して両頬に手を当て、アマーリエさんは両手で顔を覆い、ベルタさんはモジモジとしながらお腹の辺りをさすっている。何を連想したんだね、君達。まぁちょっとだけ狙ってはいたけれども。


「三人とも、おはよう」

「……おはようございます」

「……す」

「おはようございます」


 アマーリエさんの声が蚊の鳴くような声で殆ど聞こえなかったが、三人とも正気を取り戻してくれたようで何よりだ。


「腸詰め肉、残さないでね」

「ええ、食べますとも」


 エレンがやけくそ気味にテーブルの上に取り落したフォークを拾い、腸詰め肉に突き立て、がぶりと齧る。何故だかヒュンッとなる光景だなぁ、ははは。ベルタさんも微妙な顔をしながら腸詰め肉をもぐもぐと食べ始めた。アマーリエさんはそれどころではないようで、両手で顔を覆ったまま固まっている。耳まで真っ赤だな。

 再び無言の時間が始まる。しかし今度は決して上の空だからということではなく、意識的なものだ。若干一名顔を両手で覆ったまま蚊の鳴くような声で神様に対する祈りだか懺悔の言葉だかわからないものを呟いている人がいるが、エレンは気恥ずかしさから、ベルタさんは……なんだろう。妙に色っぽい表情だな。俺の視線に気づいたベルタさんが恥ずかしそうに笑みを浮かべる。


「正直に言うと、私は所謂女の幸せというものを半ば諦めていましたので」

「なんでまた」


 ベルタさんは美人だし、その気になれば男なんていくらでも捕まえられそうに思うけど。


「私はエレオノーラ様の側付きで、護衛も兼ねた審問官ですから。審問官というだけで、男性は引いてしまいますからね」

「そうなんだ」

「興味無さそうですね」

「ベルタさんはベルタさんだし、今更かなぁ。肩書きは所詮肩書きでしかないでしょ」


 そもそも審問官なんて肩書きも昨日知った話だしな。


「泣く子も黙る審問官もコースケにかかったら形無しですね」

「はい」


 ベルタさんが嬉しそうに頷く。審問官がどんなに剣呑な肩書きだとしても、解放軍司令官とか、新生メリナード王国女王とか、黒き森の魔女には敵わないと思うよ。そんなことで引くことはないから今後も気にしないでほしい。


「で、アマーリエさんはいつまでそうしているので?」

「うぅ……だってぇ」


 顔を覆った両手の指の隙間を少し開けて、隙間越しに目が合う。


「わ、わたし、あ、あんなことを……うああぁぁぁ……」

「アマーリエは……」

「底なしでしたね」

「言わないでー!」


 アマーリエさんが叫んでテーブルに突っ伏す。俺の作戦に拠るところも大きかったが、ダウンした順番はエレン、ベルタさん、アマーリエさんの順である。アマーリエさんは全く堪える様子が無いというか、ベルタさんの言う通り底なしというかとにかくタフであったので最後にじっくりと攻略することにしたのだ。あのタフさは正直メルティと良い勝負だと思う。


「それに付き合いきったコースケもコースケですが」

「逞しいですね」

「アマーリエはともかく、私達では一人では太刀打ちできそうにありませんね。というか、あの時はだいぶ手加減していたのですね」


 あの時というのはエレンと初めて夜を過ごした時の話だろう。


「手加減というかなんというか、別に激しい必要は無いと思うんだよね……というかこの話いつまで続けるんだ?」


 俺の突っ込みにエレンは今までの自分の発言を省みたのか、コホンと一つ咳払いをした。朝っぱらから淑女がする会話ではないと思い至ったのだろう。


「アマーリエさんも立ち直って」

「無理ですぅ……」


 アマーリエさんはテーブルに突っ伏したまま情けない声を上げた。これは重傷だな。


 ☆★☆


 出来ることなら一日中三人とイチャついていたいものだが、世の中そう甘くはない。俺達はハネムーンを過ごしに来たのではなく、メリナード国内を平定するためにメリネスブルグからここまで来たのだから、あまりイチャついてばかりもいられないのだ。彼女達と仲良く過ごすのもある意味では俺の仕事と言えば仕事なんだけどね。


「聖女様と神の御使い様による施しを行います」

「静粛に」


 アドル教の神官さん達が施しを受けに来た人々を先着の列順に俺が用意した長椅子や木箱の椅子などに座らせていく。俺はそれを横目に見ながらエレンと一緒に人々に施しを与える。


「お、おぉ……痛くない。痛くないぞ!」

「あ、歩ける! 歩けるよ!」


 俺達の行う施しとは、つまりグライゼブルグの住人に対する治療行為であった。エレンは奇跡で、俺はインベントリに入れてあるライフポーションやキュアポイズンポーション、キュアディジーズポーション、それにスプリントなどを使って彼らをひたすら治療していくのである。

 アドル教による治療の施しというのは度々行われているそうだが、それは基本的に何かの祭事の時だとか、高位の聖職者が訪れた際に気まぐれにだとか、そういう感じなのだそうだ。普通はアドル教の教会にそれなりの額のお布施をして奇跡による治療をしてもらうものであるらしい。

 今回の施しに関して言えば、これはこの街を訪れた俺達がグライゼブルグの人々に対して害意がないことをアピールするためのものであり、同時に俺という存在がエレンという聖女の隣に立つ神の御使いであるということをアピールするためのものでもあった。


 何もないところから怪我や病気、中毒症状などをたちどころに治す薬を取り出し、何の変哲もない布と当て木で魔法や奇跡では治癒の難しい障害を抱えた四肢などを治す。なるほど、演出の仕方によっては十分に神の御使い――かどうかはわからないが、普通ではない特別な存在に見えるだろう。

 そして、彼ら聖職者というのはそういった演出のプロである。説法や儀式を通じてただの人間を聖なる存在に昇華する手際に関しては彼らの右に出るものはいないのだ。俺は黙って彼らの作ったシナリオに従っていればいい。具体的に言えばちょっと高級そうな聖職者の衣装を着て、にこやかにグライゼブルグの住人達に治療を施せば良いわけである。


 立つことも難しいような病人や怪我人が運び込まれてきて、それを俺が施したライフポーションやキュアディジーズポーションで完治させる。当然、完治したのだから今まで苦悶の声を上げて横たわって人もケロッとした顔で起き上がったりする。そうでなくともスッキリとした顔で病気が治った! もう苦しくない! 痛くない! と興奮した声を上げる。

 本来、こういう時には実は病気でも怪我でもなんでもないサクラを使うこともあるらしいのだが、今回に限ってはガチである。グライゼブルグというのはそれなりの規模の街ではあるがアーリヒブルグには劣る規模で、街の中に長年難病や怪我で苦しんでいるという人がいればその事情を知っているという人も多い。そんな人を俺がバンバン回復させていくのである。


「神の御使いと言っても正直眉唾だと思っていたけど、これは……」

「魔法というか奇跡っぽくは見えないけど、あれは本物だな」

「俺は少し魔法を齧ってるからわかるけど、あれは魔法でも奇跡でもないと思う……もっと凄い何かだ」


 何か大規模な催しがあると聞いて見物に来ているような人も大勢いる。というか、いつの間にか食い物を売る屋台なんかもできてちょっとしたお祭り騒ぎになりつつある。そして、その見物人というか野次馬の中から俺をヨイショするような声が聞こえてくる。あれはアドル教のサクラだろう、多分。

 そういうわけで、俺とエレンは衆人環視の中グライゼブルグの怪我人や病人を次々に治療していくのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「魔法というか奇跡っぽくは見えないけど、あれは本物だな」 「俺は少し魔法を齧ってるからわかるけど、あれは魔法でも奇跡でもないと思う……もっと凄い何かだ」 → 奇跡は「法則を越えた何か」…
[一言] ええと、メリナード王国の宣撫工作(?)は順調のようですが、聖王国の動きは如何なって居るんですかね? その辺りの偵察は、レオナール卿が担当しているのだろうか?
[良い点] 鬱展開が嫌いと言うことで、ストレス無く読めるのが嬉しいです。 チート物に求めるのは、やはり爽快感ですよね。 [一言] 60過ぎのおっさんですが、楽しんで拝読させていただいております。とりあ…
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