第232話~食後のお風呂~
こういう話を書いている時は筆の進みが良いなぁオイ!_(:3」∠)_
焼きたてのパンとちょっと固めのチーズ、それにキャベツの酢漬けのようなものと干し肉と干し野菜入りのスープという質素なのだか豪華なのだかよくわからない夕食をエレンとアマーリエさん、それにベルタさんとの四人で終えた俺は風呂に入っていた。
グライゼブルグの領主館の風呂は中々に広く、施設も充実していた。浴槽は広く、恐らく五人くらいはゆったりと浸かれるくらいであるし、高価な魔導具によってお湯は潤沢かつ贅沢にじゃんじゃんと供給されている。同じ魔道具から供給されたお湯はシャワーとしても使えるようになっており、お湯の供給元が魔道具であることを除けば日本の風呂と遜色ない使い心地であった。
食事を終えた俺が何故そんな贅沢な作りの風呂に入っているのか? それは食事の後にこんなやり取りがあったからだ。
『さて、食事を終えましたが……シルフィとはこの後はいつもどのように過ごしているのですか?』
『んー、大体は風呂に入ってから長椅子に座ってお酒でもちびちびやりつつ話したりとかしてるかな』
『ではそうしましょう。一番風呂は貴方に譲ってあげます』
と、このような感じだ。
エレンはエレンなりに俺との過ごし方というのを確立しようと色々と考えているらしい。まずは先人のやり方を模倣してみるのが良いでしょう、とアマーリエさんとベルタさんに説いていたのを風呂に向かう俺の後ろで話していたのが聞こえていた。
正直に言えば、俺自身もまだエレンを含めたアドル教の三人とどう接すれば良いのかわかっていないからな。エレンと出会ってからはそれなりに時間が経っているが、一緒に過ごした時間はまだごく短い。出会った直後の密度は濃かったと思うが、その後は長く離れ離れであったし、再会してからもシルフィ達への遠慮もあってか、一緒に過ごした時間はあまり多くなかった。アマーリエさんとベルタさんに至っては、そんなエレンよりも接した時間が短いのだ。
そのような事情があって、俺も彼女達もお互いの距離を測りかねているというかなんというか……見ようによっては初々しさのあふれるもどかしい状態なわけだ。俺とシルフィだともう普通にベッタリというか、色々と遠慮がいらない関係になっているからな。エレン達とのこんな関係も新鮮といえば新鮮で、考えように少し楽しいのかも知れない。
と、そう思っていたのだが。
「失礼します」
「ブフォッ!」
軽く身体を流してまずは身体を温めようと湯船に浸かっていたところ、一糸まとわぬ姿を申し訳程度に手ぬぐいで隠したエレンが浴室に突入してきた。
シミひとつ無い透き通るような白い肌、全体的にはほっそりとしているのに、必要なところにはしっかりと肉のついている芸術品のような肢体、そして入浴のために頭の上にまとめられた金髪と、普段は下ろしている髪と聖女のヴェールに隠れていたうなじ……なんというか、あまりに綺麗な身体で言葉が出なかった。
「……何をそんなに食い入るように見ているのですか」
「ごめん」
顔を赤くして自らの身体を抱きしめるようにして恥じらうエレンから慌てて視線を逸らす。裸を見るのは初めてじゃないだろうって? いやいや、こんあ明るい中でじっくりと見るの初めてだから。というか、結局エレンとはあまりタイミングも合わなくてそんなにスキンシップは取れていないし。
視線を逸らし、目を瞑っていると感覚が研ぎ澄まされてエレンの一挙一投足を肌で感じられるような気がしてくる。しかしこれはなんだ? 一体どうすれば良いのだ? いや待て落ち着け、落ち着くんだ。女性と風呂に入るのなんて今まで何度もしてきたことではないか。
シルフィやアイラ、ハーピィさん達にメルティ、それにグランデとも何度も一緒にお風呂に入ってきただろう? 今更エレンと一緒にお風呂に入ることに何を動揺することがあるのか?
第一、裸体の美しさなんて言い始めたらシルフィやメルティだって凄いし、アイラやハーピィさん達だって――。
「……別に、見るなとは言っていませんが」
エレンのそんな声に思わず目を開けてエレンに視線を向けてしまう。軽く身体を流して濡れたエレンの肌は先程よりも艶めかしさを増して――俺が馬鹿だったよ。女体の神秘や美しさというのは普遍的なものではないんだ。シルフィやアイラの身体を見慣れたからと言って、エレンの身体を見慣れたわけじゃない。
女性の身体というものは多分宝石と同じなのだ。一つ一つの宝石が全く違う輝きと美しさを持つように……俺は何かよくわからない心理の一端を見出そうとしているのかもしれない。
俺の視線に顔を赤くしつつ、エレンは俺と同じ湯船へと入ってくる。そして肌が触れ合いそうなほどの至近距離で腰を落ち着けてしまった。湯船は広いんですよ! どうしてそういうことをするんですか!?
「随分と動揺していますね? 女性の裸体など見慣れているのでは?」
「そうだと思い込もうとしているが、そういうわけにもいかないみたいだ」
「……そうですか」
エレンの紅い瞳は他人の言葉の真実を見抜く。当然、今の俺の発言が真実であることもだ。それを気恥ずかしく感じたのか、エレンもまた俺から視線を逸らしてしまった。なんとなく双方無言bになってしまう。
「しかし、今からそんな様子で大丈夫なのですか?」
「何がだ?」
俺が聞き返すと、エレンはその紅い瞳を風呂場の入り口――つまり脱衣所の方へと向けた。その瞬間、湿気に強い塗料の塗られた木製の白い扉が小さな音を立てて開く。
「お、お邪魔致します」
「……」
この状況でこのお風呂に乱入してくる女性が誰なのか、ということは論ずるまでもない。エレンと同じく申し訳程度に裸体を手ぬぐいで隠したアマーリエさんとベルタさんである。
蜂蜜色の豊かな髪の毛に、メルティもかくやという立派なお胸、そしてエレンよりも明確に肉感的な肢体。女性らしい色っぽさ全開といった風情のアマーリエさん。
ベルタさんはアマーリエさんとは対象的にスレンダーな印象だが、それは彼女の背がアマーリエさんよりも拳一つ分くらい高いせいでそう見えるだけだろう。程よく鍛えられた長い足はまるでカモシカのようにスラッとしていて美しいし、何より身体全体のバランスがとても良い。所謂モデル体型というのは彼女のような人のことを言うのだろう。
「あ、あの……」
「そんなに見られると流石に恥ずかしいのですが」
二人が小さな布で大事なところを隠しながらモジモジと身を捩らせる。これはいけない。素数でも数えて落ち着かないと理性を飛ばしてしまいそうだ。
今まで風呂に乱入してくる女性と言えば完全に肉食系というか、むしろ向こうから身体を晒すばかりか色々な場所をこう、こちらの身体に押し付けてくるような対応ばかりだったのでこの三人のように恥じらいを見せるような反応は逆に新鮮だ。ちょっと湯船から上がれない。
「そろそろ湯船から上がって身体を洗ってはどうですか」
「いやちょっと今は都合が悪くて」
「……なるほど」
紅い視線がお湯の中に注がれる。なるほどじゃない。やめたまえ。
「しかしそのままだとのぼせて倒れるのでは? ああ、なるほど。のぼせて倒れたところを私達三人にお世話させたいと? 流石に身体を張り過ぎだと思いますが」
「別にそういうプレイを望んでるわけじゃねぇから! わかったよ観念するよ!」
ザバッ! と音を立てるくらい勢いよく立ち上がろうとしたが、そうするとエレンにお湯がかかってしまうので静かに湯船の中で立ち上がり、アマーリエさんとベルタさんの待つ洗い場へと向かう。勿論何も隠すことはしない。隠しようもないからね! 開き直るよ!
「え、ええと……お背中、お流ししますね」
アマーリエさん、視線が物凄い速度で移動してます。そんなにチラチラ見ないでも良いのよ。
「……なんだかこうしてお世話をするのはあの時を思い出しますね」
洗い場に座った俺に桶でお湯をかけながらベルタさんが呟く。
あの時というのは俺がエレンを庇う形となって毒の短剣で刺された時の事だろう。あの時はろくに身体を動かすことができなかったから、食事や身体を拭くのは勿論、トイレの世話まで全部見てもらってたからな。
「それでは、あの時のように面倒を見てあげるとしましょう。三人で」
俺に続いて湯船から上がってきていたエレンがピトリと俺の背中にくっつく。当然、俺とエレンの間を隔てるものは何もない。とても背中が幸せだ。
「はい」
「お世話、しますね」
左右の腕にアマーリエさんとベルタさんもくっついてくる。ははは、もうどうにでもなーれ。
爆ぜろ_(:3」∠)_(真顔