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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
戦争に向けてサバイバル!
225/435

第224話~聖女様と写本~

めりーくりすます。

おひるはちきんれっぐをぐりるでやいてたべました_(:3」∠)_

「随分と疲れた表情ですね?」


 翌日。朝食を済ませてフラフラと中庭に向かって歩いていると、ばったりとエレンに出会った。今日も聖女様らしい白地に金糸の装飾が映える聖衣に身を包んでおり、なんというか眩しく感じるほどの神々しさだ。


「ああ……うん」


 しかし、朝っぱらから身体のダルい俺は力なくそう返すことしかできなかった。何せ最大体力と最大スタミナが三分の一以下になっているのだ。それはもうヘロヘロなのである。


「まったく、私を差し置いて何をしているのですか、何を」

「ナニかなぁ……」


 エレンがぶつくさ言いながらも俺に向かって手を翳し、光を放ちはじめた。あぁ~、なんか知らんが気持ち良い。ふと視界の隅に表示されている体力とスタミナのゲージに意識を集中すると、なかなかの勢いで最大値が回復していっている。これはあれだな、前にかけてもらった賦活の奇跡とかいうやつだな。


「助かった」

「普通の人なら五人は重傷状態から完全に癒せるくらいの賦活をしたのですが」

「そうなのか」

「相変わらず油虫並みの生命力ですね」

「ゴ○ブリ扱いはやめないか。でもありがとう」


 完全に復活した俺は素直にエレンに感謝の意を表明した。あの状態から回復するのには半日くらいはかかるからなぁ。ちゃんと食って安静にしてれば徐々に回復するんだけど、半日も身体がダルいのは単純に辛い。


「そう言えば、昨日はドラゴニス山岳王国の特使と面談したそうですね」

「ああ。何か思うところがあるのか?」


 なんだか少し含むところのありそうな口調だったのでそう聞いてみたのだが、エレンは首を横に振った。


「いいえ、特には。彼らの奉じる竜信仰の主な信仰者はリザードマンやラミアなどの亜人の方々なので、私達のアドル教とはあまり層が被りませんしね。お互いに尊重、悪くても不干渉でいられれば良いと思います」

「それにしては深刻そうな様子だったけど」

「あちらでも貴方が聖人扱いされてしまうと、我々と取り合いにならないかと」

「なるほど。まぁ、大丈夫じゃないかな? 俺やグランデの行動を制限しようとかそういうことは考えてないみたいだし」


 あくまで彼らはあるがままの俺達をただ尊重したいって感じだったものな。彼らにとって俺達は正しい意味で偶像アイドルなのだろうな。


「それならば良いのですが……それで、旅の準備は進んでいるのですか?」

「まぁそれなりにかな。エアボードの改修は終わってるし、こちら側の人員は既に慣熟訓練を始めてるよ。そっちの方はどうなんだ?」

「人員の選定は終わっています。今は全員で新しい経典を読みながら、その教えを吟味しているところですね」

「なるほど……って経典の数は足りてるのか? 皆で読むだけでなく、配布とかもしなきゃならないだろう?」


 何にせよ新しい(実質的には旧い)教えを広めるのであれば、その教えが書かれている経典を広く配布する必要があるはずだ。現行の主流派の教えが書かれている経典をどうするか、新しい教えに従おうとしない者達をどうするか、という問題もあるだろう。


「そうですね、正直に言うと数を揃えるのが少々難しいです。写本も進めてはいますが、どうしても手書きですと限界というものがありますので。木版で印刷するにも時間が足りませんし」

「そりゃそうだろうなぁ」


 この世界でも木版による印刷はある程度進んでいるようだが、ほんの数週間で分厚い経典を大量生産できるほどの生産力は発揮できないようである。まず印刷用の木版を大量に作らなきゃならないし、木版ができたとしても印刷と製本にはそれなりに手間がかかる。無論、それでも手で書き写すよりはずっと早いに決まっているが。


「そういや遺跡で見つけた写本の一つがインベントリに入ったままだったな」

「そういやって……貴重な本なのですけれど」

「まぁまぁ」


 ジト目で見てくるエレンを宥めながらインベントリから取り出した写本を片手にテクテクと歩いて中庭にある作業小屋へと向かう。ここは中庭の片隅に建てさせてもらった俺の作業小屋で、中には各種作業台を設置してあるのだ。


「何をするつもりですか?」

「作業台でこれを量産できないかなと」

「そんなことができるのですか?」

「わからんから試してみるのさ」


 ゴーレム作業台のメニューを開いて作業台のインベントリに写本を入れ、植物の繊維で量産した大量の紙と煤や炭、油等からクラフトした黒インクも同様に作業台のインベントリに入れる。


「むむむ……唸れ、俺の小宇宙……!」

「こすも……?」


 怪訝な表情をするエレンはとりあえず置いておいて、アイテムクリエイションに集中する。集中すると言っても、クラフトアイテム欄に追加されろ、されろー、と念じるだけなのだが。未だに正しい作法はわからないんだよな、アイテムクリエイション。なんとなく念じたらできるみたいな感じなんだよこれ。


「唸っているだけで何かがあるんですか?」

「あることもある。ないこともある」

「なんですか、それは」


 若干呆れた様子のエレンをよそに、俺はゴーレム作業台のクラフトアイテム一覧をスクロールして目的のものが追加されていないか探した。


・アドル教経典オミット王国歴109年度版写本――素材:インク×2 紙×10


「できたよ! 経典の写本が!」

「本当ですか?」


 エレンがずいっと身を乗り出してくる。あ、なんかいい匂いがする。


「どこにあるんです?」


 赤い瞳が不機嫌そうに至近距離から見つめてくる。Oh……せっかちだな。


「まだリストに追加されただけだ。今から量産するから、ちょっと待ってくれ」


 とりあえず百冊をクラフト予約する。一冊辺り三分でできるようだから、百冊で三百分。全部できるまで五時間か。たったの三分でちゃんと製本された状態で一冊の本ができあがってくるとかもの凄く早くない?


「とりあえず百冊量産したから、少し待ってくれ。一冊辺り三分かかる」

「百冊? 一冊三分ということは、たったの五時間で百冊の写本ができあがるのですか?」

「そういう計算になるな」

「……凄まじい力ですね。直接的に食料や武器を作るよりも、ある意味で凄まじい力です」

「そうか……? そう言われるとそうかもな」


 知識は力である。しかも武器や防具、それに金銭などとは違って、生きている限り絶対に奪われることのない力だ。そして、書物はその知識を得るために最適なツールの一つだ。これを量産できるということは、決して奪われない力を持つ人々を大量に生み出すということなのかもしれない。


「ただ、俺の力は考えなしにバンバン使うと他の人の生活を脅かすからなぁ。俺一人の力に頼る生産体制ってのも歪だし、あんまり多様はできないし、するべきじゃないと思うよ」

「それも道理ですね。世を乱さない程度に足りない部分を補うように使うのが良いのでしょう」


 そんな話をしているうちに一冊目が出来上がった。出来上がってきた写本をゴーレム作業台から取り出し、エレンに渡す。


「……ものすごく読みやすい文字ですね」

「どれどれ? おお、確かに。活字っぽい感じになってるな」


 文字の大きさや形が揃っていてとっても読みやすい感じになっている。完全に活字だな、これは。


「奥付の発行年月日がオミット王国歴109年のままですね」

「複写だからな。悪いが、そこは手作業でなんとかしてくれ」

「はい。これくらいなら手間でもありませんね」


 どうするのかはわからないが、まぁ手書きで複製した年月日を書き加えるとかそんな感じだろう。


「それで、これは貴方にしか取り出せないのですよね」

「そうだな」

「今から五時間……」

「いや、ここに張り付いてる必要はないからな?」


 あとは自動で作ってくれるのだから、五時間後に回収しに来ればいいだけの話だ。その間は他の作業をしていればいい。


「……そんなに私と一緒にいるのは嫌ですか」

「いやそんなことは全然ないけれどもね? 忙しいんじゃないかなぁと」

「大丈夫です。少しくらい行方を眩ましても、写本を百冊持っていけば問題ありません」


 そう言って赤い瞳が至近距離からジッと俺の顔を見上げてくる。俺の今日の予定も、まぁ誰かに会わなきゃいけないようなものは入っていなかったはずだ。そりゃ遠征に備えてやらなきゃならないことはあるが、この作業小屋でできることも多い。


「……よし、それじゃあゆっくりじっくりと写本作業をするとしようか」

「はい」


 わずかに頬を赤く染めてエレンが小さく頷く。さて、それじゃあ今すぐ使わない作業台を片付けて、テーブルと長椅子でも設置しますかね。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] あの状態から回復するのには半日くらいはかかるからなぁ [一言] そこまで疲弊するのを放置するかな?と思いました。 疲れるけどハツラツ!ってのがハッスルしまっくても許される理由だと思うの…
[一言] ゲーム的ステータス表現だと、HP等のパラメーターは「現在値/最大値」といった表記をするのが普通だと思いますが、作中の「最大スタミナが三分の一以下に~」という書き方だと、例えば100/100(…
[一言] さては耳なし芳一プレイだな羨ましい!・・・か?
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