第215話~はいめでたし! とはいかない。~
ご主サバ3巻は明日11/30発売!
見どころはスライム三人娘とエレンの初登場、そして増量したメルティとのイチャつき成分……!
ぜひ買ってね!_(:3」∠)_
邪悪な敵国を追い払い、平和な時代が訪れた!
とは行かないのが現実というやつである。戦争で勝ったらそれでそれで万事丸く収まるのは子供向けの物語の中だけだ。戦っている時間よりも、戦いが終わった後の後始末のほうが何倍も手間がかかるというのが実際のところだ。
「まぁ、それでもこっちは勝ったほうだし、死者どころか負傷者もいないから戦後処理は楽な部類だよな」
「聖王国との戦争に関してだけはな。それよりも今は国内の平定が急務だ」
「それだよなぁ」
討伐軍との決戦が終わったその夜。風呂から上がってまったりとくつろぎながら俺は天井を見上げた。
今回、メリネスブルグを聖王国の討伐軍に押さえられる前に奴らを迎撃するために俺達解放軍はかなりの強行軍をした。アーリヒブルグからメリネスブルグに至る道中にある街や砦の聖王国軍を急襲して撃破し、迎撃準備がろくに整っていないメリネスブルグを占領したのだ。
おかげで解放軍の補給線は伸びに伸びきって──。
「補給線が伸びに伸びきってるわけじゃないんだよな」
「コースケがここにいるからな」
「コースケは動く補給基地。しかもごく短期間で補給基地を作る能力まで持っている。いわゆるズル。コースケの世界の言葉でちーと、というやつ」
お風呂上がりに俺が出したフルーツ牛乳を手にアイラが呟く。
「まぁ、確かにズルだわな」
一日で広大な面積の畑を作り、早ければ三日で作物を収穫できるようにするとか兵糧の心配イズどこ? みたいな感じになるよね。俺が手を入れなくても、俺が畑さえ作ってしまえば一週間二週間で山程の作物が収穫できるのだ。武具や住居などの類も材料さえあれば俺が大量に生産できるし、資金に関しても岩場に行って岩をガンガン掘るだけで簡単に宝石の原石やミスリルがごろごろと手に入る。
軍レベルの集団に必要な食い物と武具と金の問題を一人で解決し、また解決しうる施設をいくらでも設置できる俺は紛れもなく『チート』な存在だろう。シミュレーション系のゲームで言えば仲間にしているだけで食料、資材、金を生み出し、更に拠点の生産能力を上昇させ続けるチートユニットってところだろうか。しかも既存の軍事技術を完全に無視した超強力な兵科を作り出せるようになるというおまけ付き。
「いや、本当にズルだな?」
味方からすれば頼もしい限りだろうが、敵からすれば「そんなんチートや!」って言いたくなるような存在だな? 俺が敵ならなんとしても奪い取るか、ぶっ殺すかするわ。
「城の外には極力出ないように。もし出るなら、可能な限りグランデかメルティ、或いは私を連れて歩け。ザミルやアイラだけでは不安だ」
「むぅ……」
アイラが不満げな声を上げるが、それ以上は文句を言わない。アイラは強力な魔法使いではあるが、身体能力はさほど高くない。真正面からの戦いであれ大抵の敵を魔法で打ち砕けるが、不意打ちには弱いのだ。
その点、グランデはなりこそ小さいがグランドドラゴンなだけあって規格外の頑丈さとパワーを持っているし、空も飛べる。メルティは魔神種という突然変異種のような存在で、そのパワーとスピードは単体でグランデすらをも下すスペック。そしてシルフィはエルフの戦闘特化種のような存在で、メルティと同格レベルの戦闘能力を持つ、という。俺はシルフィが戦っているところを個の目で見たことが殆どないのだが、伝え聞くにはそうらしい。
つまり、この三人のうちの誰かを連れていなければ城の外に出るのは危険だと、シルフィはそう判断したのだろう。
え? 城の中なら良いのかって? 城の中にはメルティとほぼ同格の戦闘能力を持つスライム娘が三人いて常に俺やシルフィ、そしてシルフィの家族である王族の警護についているので何の心配もない。彼女達は契約によって城から出られないが、逆に言えば城の中では無敵である。
物理攻撃の効かない身体、魔法で消し飛ばしても再生する能力、岩をも破壊する物理的破壊力、複数の魔道士による合唱魔法に対抗できる魔法能力、そして密閉空間で毒ガスを発生させる能力など、城という限定された空間の中では対処が難しく、実に厄介極まりない能力を彼女達は持っているのだ。
「じょうないの、けいごはおまかせー?」
「城の中にいれば安全は保証するわ」
「私達の目をかいくぐってコースケに何かをするのは不可能なのですよ」
三人のスライム娘が部屋の隅や天井、棚の隙間などからにゅるんと現れる。
悪意ある侵入者にとって多くの厄介な能力を持つ彼女達であるが、中でも一番厄介なのはこれだろう。彼女達は複体と呼ばれる分身のようなものを城の各所に配置しており、常に多方面の監視と警備を行っている。言うなれば生体警備システムのようなものである。つまりSLACOMである。いや、SLASOKだろうか? どっちでもいいか。
「もどりましたー、ってもうお風呂入っちゃったんですかぁ」
「残念ですっ」
「しゃあないなぁ。埃っぽいまんまで旦那さんに近づくのも良くないさかい、まずはお風呂行きましょ」
「うん」
ピルナを先頭にどやどやとハーピィさん達が戻ってきた。このところ働き詰めの彼女達であったが、流石に大規模な討伐軍を追い払ったのだから少しは気が抜けるだろうということで、今晩から交代で三日間の休養を言い渡されているのである。今帰ってきたのはハーピィさん達のまとめ役である青羽ハーピィのピルナと茶色羽ハーピィのペッサー、同じく茶色羽ハーピィのカプリと黒羽ハーピィのレイの四人だ。
他のハーピィさん達も順次戻ってくるだろう。俺にできることは身を粉にして働いてくれた彼女達を最大限もてなすくらいのことであるので、これからの三日間はできるだけ彼女達の希望に沿っていきたい。最近ハーピィさん達はずっと忙しく飛び回っていて、一緒に過ごす時間がかなり減ってしまっていたからな。
「俺ももう一回お風呂に行ってくるわ」
「のぼせないように気をつけるんだぞ」
「ん、あまりお風呂に入りすぎても毒」
「気をつける」
シルフィとアイラに手を振って俺はお風呂場に向かい、ピルナ達と一緒に再びお風呂に入った。ハーピィさん達の華奢な背中とか、細身の体のラインとか、濡れた羽の手触りとか色々と堪能しました。はい。良いものだったよ。
☆★☆
次々に戻ってくるハーピィさん達に加えてメルティまで乱入してきて、最終的に風呂でのぼせてぶっ倒れてしまったその翌日。
「まずは消費した弾薬の補充と軽機関銃の整備か」
中庭の片隅に作った作業小屋でゴーレム作業台と鍛冶施設にそれぞれクラフト予約を詰め込んでいく。
エアボードと軽機関銃で武装した銃士隊は強力だが、無敵ではない。彼らが一度に携行できる弾薬には限りがあるし、全力戦闘後はこのように補給と整備が必要だ。消費する弾薬もとんでもない量で、現状ではこんな戦闘を三日も続ければ弾薬の供給が追いつかなくなってしまう。
今回の討伐軍くらいの規模であればどんなに上手く兵を用いられても撃退は出来たと思うが、こちらの補給能力を凌駕するほどの物量をけしかけられていたらと思うとゾッとする。
「その時はドカンと一発食らわせてやるしかなかったな」
インベントリに入っているパラシュート付きの魔煌石爆弾を確認しながら溜め息を吐く。今回は幸いなことにこいつを使う必要がなかったが、次はどうかわからない。計算上、この魔煌石爆弾はアーリヒブルグをまるごと吹き飛ばすくらいの威力があるとアイラは言っていた。こいつを食らわせれば何万の軍隊だろうが一撃だ。
「でもさすがにこいつはなぁ……」
こいつを使えばこの世界のどんな国の軍隊だってイチコロだろう。この魔煌石爆弾を使えば一切の生き残りを出さずに数万の兵士を一撃で吹き飛ばせる。目撃者が文字通り全員消えるのだから、対策のとりようもない。だが、これを使うには並々ならぬ覚悟がいると俺は思っていた。
「何がさすがになのですか?」
「うおぉっ!?」
突如背後から聞こえてきた声に俺は思わず叫び声を上げてしまった。振り返れば、そこにいたのはエレンであった。今日も防御力高めないかにも聖女って感じの豪華な僧衣を着ている。
「な、なんですかそんなにビックリして」
「いや、完全に油断していたところに急に声をかけられてびっくりした。朝のお勤めか?」
「はい、終わらせてきました。それで、何がさすがにこいつはなんですか?」
ジッとエレンが俺の顔を見つめてくる。
アイラによると彼女の目は一種の魔眼で、彼女が見ている人間が嘘を吐くとわかってしまうものであるらしい。実際、彼女はその能力を使って聖王国では真実の聖女として民衆からは崇められ、逆に摘発された不良神官や貴族達には恨まれていたのだという。
まぁ何が言いたいかというと、つまり彼女を相手に下手な誤魔化しは意味がないということだ。
「切り札を使う羽目にならなくて良かったと思ってな。今回はこいつを使って2万の聖王国軍を追い払ったけど、本当はもっと凶悪で、一撃で何もかもを吹き飛ばしてしまえるようなモノも俺は持っているんだよ」
そう言って俺はインベントリからヘビーバレル仕様の軽機関銃を取り出してみせた。
もとより11kg以上もある軽機関銃だが、銃身や機関部をこの世界独特の金属である黒鋼で作った結果その重さは実に三割ほど増えて15kgを越しているこれに50発装填のドラムマガジンをつけると更に重量は増える。
「持ってみても良いですか?」
「良いけど、重いぞ」
「ちょっとだけですから」
「気をつけろよ」
そう言って軽機関銃をエレンに手渡す。
俺はレベルが上がったせいかLV20突破で貰ったアチーブメントのせいかこれくらいのものなら苦労なく扱えるようになったが、細身のエレンではこいつは重かろう。
「むっ……確かに重いですね。解放軍の兵士はこんなものを振り回せるのですか」
軽機関銃をなんとか抱えたエレンがその重さに顔をしかめる。聖女様に軽機関銃という絵面はなかなかに強烈なインパクトだな。そういえばシスター服に拳銃とか短機関銃って組み合わせも良いものだよな。あれに通ずる良さがあるように思える。
「殴打する武器じゃないけどな。まぁ問題なく反動制御もできているみたいだし、これくらいなんでもないらしい」
「凄いですね。私はこんなものを抱えて歩くのも難しいです」
「だろうな」
エレンの手から軽機関銃を取り上げてインベントリに再びしまい込む。いまエレンに持たせていたのは俺のインベントリにしまっておいた保管用の一品だ。未稼働のまっさらな新品である。
いや、使うかどうかはともかくとして、作った武器を一つは使える状態で保管しておきたくなるのもサバイバーのサガ的なアレでね?
「それで、切り札というのは?」
「一撃で万単位の軍隊を全滅させられる危険物だよ。詳細は秘密だ」
「秘密ですか」
「秘密だ。こんなことは知らないほうが良いよ。解放軍でも知ってるのはほんの一部だからな。俺としては積極的に使いたいというようなものでもないし」
そう言うと、エレンは首を傾げた。
「そのようなものがあるのであれば、積極的に使えばいちはやく聖王国を屈服させられるのではないですか?」
「聖王国という存在を絶滅させるつもりならそうしただろうけどな。そこまでは俺もシルフィも考えてないんだ」
「そうですか……積もり積もった恨みもあるでしょうに」
「恨みのままに力を振るって一族郎党尽く滅ぼすなんてのは非現実的だし、そうするには聖王国はあまりにも大きすぎる。シルフィ達の恨みは深いけど、それでも現実を見据える目が濁るほどではないってことだな」
「それは聖王国の民にとっては幸運なことでしたね」
「なんだかこうして話していると、エレンの方が聖王国に恨みを持っていそうに聞こえるな」
俺の言葉にエレンは俺に視線を向け、ぱちくりと瞬きをする。まるで俺の言葉がストンと胸に落ちたような表情だ。
「そうですね。きっと私は聖王国が嫌いなんです。滅びて欲しいと思うくらいに」
「穏やかな話じゃないな」
「コースケもきっとそう思いますよ。あの国の実態を色々と目の当たりにすれば」
エレンは溜息を吐き、視線を床に落とした。エレンは聖女としてアドル教や聖王国の中枢に近い部分をいくらでも目の辺りにしてきた筈だ。その彼女がこうまで言うとは、聖王国中枢の腐敗は俺が思っていたよりも酷いのかもしれない。
「まぁ、聖王国を積極的に滅ぼしにいくことは多分ないから、そのつもりでいてくれ。降りかかる火の粉は払うことになると思うけど」
「それは残念ですね。あのクソ教皇やクソ聖王が泣いて命乞いをする姿をぜひこの目で見てみたかったのですが」
「おい聖女様、どす黒いオーラが出てるぞ」
「あらあら、うふふ」
エレンが極上の聖女スマイルを浮かべて滲み出るどす黒いものを押し隠す。エレンがこれだけ恨みを持つとか、アドル教の教皇や聖王国の聖王はエレンに一体何をしたと言うのだろうか? 聞いてみたいが、怖くて聞けないな。今度デッカード大司教にでもそれとなく聞いてみるか。
「コースケはこの後は?」
「うーん、特にこれといって昼までは決まった予定はないな。メルティやシルフィから何か仕事が回ってくればそっちに注力することになると思うけど」
とりあえずメリネスブルグの掌握は終わっているし、昨日の戦闘で獲得した捕虜はメリネスブルグを占領した際に作った捕虜収容所にぶちこんで世話をしているはずなので、俺が緊急で何かしなければならないことはないはずだ。聖王国軍の怪我人の処置や死者の埋葬なんかは昨日のうちに終わらせたしな。ハーピィさん達も昼間では寝て過ごすという話だったし。
「なら、午前中は私に付き合って下さい。コースケは少々足りないものが多いですし」
「足りないってなんだ。なんかよくわからんが失礼なことを言われている気配がするな?」
「じきにわかります。さぁ、行きますよ」
そう言ってエレンは俺の後ろに回ってぐいぐいと俺の背中を押し始める。なんだかよくわからないが、午前中はエレンに付き合うことになりそうだ。