表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
戦争に向けてサバイバル!
213/435

第212話~屍山血河~

遅れました!(´゜ω゜`)(ゆるして

 たっぷり一刻ほどかけて準備をした後、聖王国軍は侵攻を開始した。

 一応聖王国軍が境界線を越え、戦端が開かれるその瞬間を俺達も見ておこうということで、俺達は境界線から2kmほどの地点に俺が即席で築いた監視塔の上から境界線を監視中である。


「コースケ殿の力は正に神威そのものですな」


 俺がごく短時間で石材でできた立派な監視塔を作り出したのを見たことで、デッカード大司教は俺に対する態度を大きく改めた。

 そういえばエレンには食べ物を出すところくらいしか実際には見せていないし、デッカード大司教もまた俺の話でしか俺の能力がどのようなものかは知らないはずだ。恐らく、彼が思っていた以上に俺の能力は彼にとって驚異的なものだったのだろう。


「この力の出処は不明なんですけどね。まぁ、超常の存在ではあると思いますよ」


 俺はと言うと、監視塔に自動擲弾銃を設置して聖王国軍の動きを監視中である。

 メリネスブルグの城壁上に配置してあったのだが、そのままにしておいて誰かが触っても大変だろうということで一時的にインベントリに回収しておいたものだ。こいつの最大射程はおよそ2200mあるので、ここからでも境界線を越境した聖王国軍を攻撃することができる。


「なんの躊躇いもなく進んできているのであるな」


 腕を組み、仁王立ちしたレオナール卿が少し目を細めて遥か彼方に視線を向けている。彼はこの距離でも裸眼で聖王国軍の姿が見えているようだ。


「ん。このままだともうすぐ境界線の立て札に到達する」


 アイラもまた裸眼で聖王国軍を視認できているようだ。大きなお目々は見た目通りに高性能であるらしい。何も言わないが、アイラ達と同じ方向に目線を向けているメルティとザミル女史も裸眼で聖王国軍の動きが見えているようである。


「君たちの視力は凄いな。俺には裸眼じゃ見えんわ」


 と言いつつ、俺は双眼鏡を取り出した。倍率とピントを調整すると、確かにこちらへと向かってきている聖王国軍が確認できた。うわぁ、確か凡そ2万だっけ? 凄いなこれ。人の津波だよ、津波。こりゃすごい。


「あれだけの戦力をどうにかできるのですかな?」


 俺が貸した双眼鏡を使って聖王国軍を見たデッカード大司教が深刻そうな表情で聞いてくるが、俺は肩を竦めて答えた。


「まぁ、見ていればわかりますよ」


 と、そう言った瞬間ゴーレム通信機に通信が入る。


『こちら斥候、敵前衛の境界線の越境を確認しました。オーバー』

「だそうだ」

「なら、攻撃開始であるな。初撃はハーピィ達による爆撃である。後衛、できれば輜重部隊を狙うのであるな。それと同時にコースケが敵前衛に攻撃を仕掛けるとのことなので、それが終わり次第銃士隊も攻撃開始である。情けは無用なのであるな。蹂躙するのである」


 レオナール卿によって攻撃指令が下される。さぁ、攻撃開始だ。 


 ☆★☆


 失笑ものの会談を終えて一刻ほど。私達は前進を開始していた。

 会談の内容に関しては、まぁ簡単に言えば戦の前のお約束だ。捕虜の取り扱いや和睦の使者を送る際の意思表示の方法などを決め、最後は互いに宣戦布告を行った。

 本来であれば賊軍である解放軍とやらとそのような戦時規約など結ぶ必要も無いのだが、懐古派所属とは言え大司教を連れ出してこられてはこちらとしても最低限の交渉には応じる他なかった。

 本国からの指示は賊軍の殲滅と秘密裏に懐古派の連中を始末することの二つである。多くの兵の目があるあの場では大司教を始末することはできなかったが、戦闘中の混乱の中であれば如何様にでも始末することはできるだろう。

 聖女に関しては可能な限り生かして捕らえよということであったが、さて。可能な限り手は尽くすが……と考えながら行軍していると、前衛から伝令が走ってきた。


「斥候が奴らの残した立て札を発見しましたが」

「境界線というやつか? 構わん、踏み潰せ」


 奇妙な乗り物に乗っていたが、奴らの数は精々20人かそこらだった。空にはさっきから便所鳥が飛んでいるが、奴らは精々汚物を撒き散らす程度の嫌がらせしかできない連中だ。頭の上を飛び回られるのは鬱陶しいが、何かできるわけでもない。

 そうして更に少し進んだ時だった。便所鳥どもの動きが変わった。

 普段であれば気にすることもないようなことだったのだが、何故だか私は奴らの動きが変わったことが妙に気になった。胸騒ぎがしたとでも言えば良いのか。上空で大きく円弧を描いて我々を見下ろすように飛んでいた便所鳥はどうでもいい。あの、まるで突撃する騎兵のように隊列を組んで飛んでいる便所鳥だ。あれはなんだか危険だ。根拠はないが、そう思えた。


「弓兵……いや、届かんか」


 奴らの飛んでいる位置は高い。あそこまで届く弓を我らは持っていない。

 嫌な予感が加速していく。


「魔道士隊に防御障壁の準備を──」


 支持を出しかけたところで『ひゅるるるる』と調子外れの横笛のような音が後方から聞こえてきた。何の音だ? と振り返ったその瞬間である。まるで雷鳴のような轟音が連続で鳴り響いた。それと同時に押し寄せてくる衝撃、そして降り注ぐ土砂と雨。乗っていた馬が轟音に驚いて竿立になり、危うく落馬しそうになる。


「な、何事だ!? うわぁあぁぁっ!?」


 突然降ってきた土砂と雨を拭った手を見て私は思わず悲鳴を上げた。私の顔に降り注いだもの。それが血と肉片の混じった泥だったからだ。


「な、なんだっ!? 何が起こっている!?」


 次は前衛の方からドンドンドンドンと連続して爆発音のような音が聞こえ始めた。そちらに目を向けると、実際に前衛のいる方向で何度も爆発が起こり、その度に兵が吹き飛んでいるようだった。


「一体なんだというのだ!? 魔法攻撃か……!? どこから撃たれている!?」


 混乱の中、私の声に応えるものはいない。


 ☆★☆


 ドウッドウッドウッドウッ! と自動擲弾銃の発砲音が響く。


「もう少し右奥」

「はいよ」


 アイラの指示に従って照準を若干修正し、再度発砲。連続して発砲音が響き、遅れて遠くから炸裂音が聞こえてくる。


「当たった。距離はそのまま、掃射して」

「了解」


 自動擲弾銃の仰角はそのままに少しずつ左右に首を振って多目的榴弾を連続発射し、敵前衛を蹂躙していく。この自動擲弾銃の照準は1500mまでしか目盛がないので、それ以上の距離は目測による射撃になるのだ。それにしてもアイラは目がいいな。単眼族は狙撃の観測手としても優秀な能力を持つのかも知れない。


「凄まじい威力であるな。銃士隊にもこれを配備すれば良かったのである」

「弾の消費が激しくて継戦能力が今ひとつでな。一発がこの大きさだぞ? それに弾がクソ重い」


 そう言って俺はベルトリンクを使って自動擲弾銃へと吸い込まれていく直径40mmの多目的榴弾を指差す。単純に一発の大きさが軽機関銃弾とは違いすぎるし、このペースでバンバン撃つとすぐに弾切れする。俺だってこいつの弾は900発ほどしか用意していないのだ。

 ちなみにこいつの弾薬を収める箱には最大48発ほどの弾薬が入り、その重量はおよそ30kgである。俺でもないと大量に弾薬を持ち運ぶことはそもそも不可能なのだ。


「大混乱であるな」

「そりゃそうでしょうね」


 遠方を眺めながらレオナール卿が呟き、メルティがそれに同意する。デッカード大司教は双眼鏡で戦場の光景を目の当たりにして顔を青くしていた。


「デッカード大司教。無理に戦場を見ないほうが良いのである」

「し、しかし……」

「ここは戦場は戦場でも、貴殿の立つべき戦場ではないのであるな。自分の為したことを見届けようとする心意気は立派であるが、それは無用な苦労というものである。これは我々の戦いであって、貴殿の戦いではない。もし貴殿がここに居なくとも、聖王国軍がメリナード王国に兵を差し向けた以上この戦いは必ず起こったのであるからして」


 そう言ってレオナール今日はデッカード大司教の震える手から双眼鏡を奪い、自分で覗き込んだ。


「おお、これはなかなか良い道具であるな。ははは、あの鼻持ちならない自称聖騎士がわけも分からず大慌てしているのである。痛快痛快」


 ハーピィさん達による航空爆撃と俺の自動擲弾銃による攻撃で地獄絵図になっているであろう戦場を見ながら、レオナール卿が愉快そうに笑い声を上げる。なかなか良い性格してるよな、このおっさんは。色々な意味で。


 ☆★☆


 不快な笛の音のあとに起こる大爆発と、どこからともなく飛来する何かによる爆発攻撃がやっと止んだ。どうやらあの笛の音に伴う大爆発は便所鳥が落とす何かよって引き起こされているということはわかったが、前衛を蹂躙した攻撃の正体はまったくわからない。斥候から行く手にいつの間にか監視塔のようなものが出現していたという報告があったが、関連があるのだろうか?


「部隊の再編成を急げ。手当は軽症者を後回しにして重傷者からだ。だが、四肢を失ったもの、助かりそうにないものは見捨てろ」

「はっ」


 軍の侵攻を止め、状況の把握に努める。今の攻撃だけで多数の死傷者が出た。まだ接敵もしていないというのにだ。


「便所鳥の落としてくるあの武器、魔法障壁で止められるか?」

「魔道士団全員での合唱魔法を用いた障壁であればあるいは……しかし、それで守れるのは魔道士団とその周囲だけです。とてもではないですが、2万の兵全員を守ることなど不可能です」

「では奴らを叩き落とせないか?」


 私の質問に魔道士団を率いる魔道士団長は首を横に降った。


「高度が高すぎて合唱魔法でも届きません」

「クソッ! ならば奴らにこのまま嬲られるしかないというわけか!?」


 思わず激昂して叫び声を上げてしまう。このまま同じように攻撃を続けられれば我々は敵と相見える前に全滅してしまう。便所鳥どもも今は偵察役らしき個体しか我々の上空には残っていないが、いつあの編隊を組んだ便所鳥が戻ってくるかわかったことではない。

 恐らく、あの笛の音の鳴る爆発する武器が尽きたのだろうが……もし、メリネスブルグに戻って補給しているとすると、また戻ってくる可能性が高い。まさか一撃だけということはあるまい。

 更に最悪なことに、もしあの武器が大量に蓄えられているとしたら、メリネスブルグに近づけば近づくほど奴らの攻撃は激しくなるということになる。補給地点が近くなれば近くなるほど攻撃頻度が高くなるのは自明の理だ。

 既に捕捉されているのだから、今更逃げてもよほど遠くまで逃げない限りは便所鳥どもは攻撃をやめないだろう。その間にどれだけの被害が出るのかと考えると気が遠くなる。私達は地を踏みしめて進むが、奴らは空を飛んでくるのだ。逃げるのは容易なことではない。


「短期決戦を仕掛けるしかないか」


 メリネスブルグまでは徒歩でも半刻ほど、駆け足行軍をすればもっと短い時間で到達することができる。奴らはメリネスブルグに立て籠もるだろう。我々は攻城兵器の用意がないが、城門なら近づきさえすれば魔道士部隊の合唱魔法で吹き飛ばすこともできる。

 敵の数は少ない。便所鳥どもの攻撃は脅威だが、城門さえ破ればあとは数で蹂躙できるはずだ。便所鳥の攻撃も補給地点を潰してしまえば止まるはずである。


「全軍にメリネスブルグへの突撃を通達しろ。魔道士部隊は損耗を出さないように気をつけてくれ。メリネスブルグの城門を合唱魔法で破壊してもらう」

「わかりました。それしかありませんね」


 魔道士団長も私と同じ結論に至ったらしい。この勢いで死傷者を出し続けると、士気も保てなくなる。奴らの攻撃は正体が不明で、苛烈だ。直撃した者は死を免れず、その周囲も重傷者だらけになる。この攻撃に長時間晒され続けるのは危険だ。

 その時、前衛の方向からブゥーン、という不快な虫の羽音のような音のようなものと、兵達の悲鳴が聞こえてきた。今度は何だ!?


 ☆★☆


「行軍が止まってる」

「状況の把握のために行軍を停止したのであろうな。正体不明の攻撃で大打撃を受けたのである。当然の成り行きであるな」


 双眼鏡を覗きながらレオナール卿が牙を剥く。笑っているのだろう。


「そろそろずらかるぞ」


 用意した弾薬の半分ほどを撃ち終えた俺は自動擲弾銃を回収し終えていた。半分ほど残したのはメリネスブルグの防衛戦で使うことになるかもしれないからである。ここで全部撃ち尽くしても無駄にはならないと思うが、万一に備えて撃ち尽くすのは避けたかったのだ。弾丸を撃ち尽くすのに恐怖を覚えるのはサバイバーのサガである。仕方ないね。


「その前に銃士隊に攻撃指示を出すのである。足を止めている今ならやりたい放題なのであるな」


 そう言ってレオナール卿はゴーレム通信機を使ってエアボードに乗った銃士隊に攻撃指示を出した。


『了解。奴らに目にもの見せてやります、オーバー』


 ゴーレム通信機の向こうから銃士隊を指揮するジャギラの声が聞こえ、それと同時に10台のエアボードが文字通り滑るように街道を進んでいった。少しするとブゥーン、と電動ノコギリのような轟音が遠くから鳴り響き始める。


「圧倒的であるな。聖王国軍がばったばったと薙ぎ倒されているのである」

「ん。まるで草刈り」

「それじゃああの軽機関銃はさしずめコースケの草刈り鎌であるな」

「やめろ」


 ちょび髭さんの電動ノコギリ改め俺の草刈り鎌とか本気でやめて欲しい。

 しかし、こうなるともう聖王国軍は行軍どころの騒ぎじゃないだろうな。何せ足が止まっているところを10丁の軽機関銃で掃射されているのだ。彼らに銃の知識などあるわけがないので、取れる防御行動など精々盾を構えるくらいのことだろう。しかし、残念ながら軽機関銃の銃弾は木や革、あるいは精々薄い鉄板程度の盾や鎧では防げない。


『こちら銃士隊のジャギラ。聖王国軍から白旗が上がりました』


 まぁ、そうなるよな。うん。

誰だよ剣と槍と弓で戦う世界に軽機関銃なんて持ち込んだの_(:3」∠)_

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] え~、もう白旗上げちゃうの もうちょっと近代兵器TUEEEEしてほしかったよ
[気になる点] この指揮官は返還された捕虜から話聞いてなかったの?無能なの? 情報聞いて理解も勝てたとも思わんけど、突っ込んで立ち往生しての降伏ってことにはならんかったろうに 賊軍相手と思って舐めてた…
[一言] >>誰だよ剣と槍と弓で戦う世界に軽機関銃なんて持ち込んだの 忘れているかもしれないけど 「死の荒野」を作った広域殲滅魔法(魔晶兵器)の在る世界でもあるからね 「相手が少人数である」と数で押…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ