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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
戦争に向けてサバイバル!
203/435

第202話~コースケへの興味:長姉の場合~

みじけぇ! けどゆるして!_(:3」∠)_(ぽんぽんぺいんなんです

「ハーピィ達の動きが慌ただしいなぁ」


 王城の広大な中庭の片隅。そこで薬草園を作るべくミスリルシャベルで土を掘り起こしていた俺は空を見上げて呟いた。 


「そうなのですか?」


 そんな俺に問いかけてきたのは蒼い瞳を持つ美女である。金糸のようなゴージャスな金髪の間から覗く尖った耳が彼女がどのような種族なのかを声高に主張していた。


「ええ。もしかしたらエレン──聖女の上司とやらが捕捉されたのかもしれませんね。当初の予定よりも遅い到着のようですが」

「なるほど。馬車での長距離移動は大変ですものね」


 そう言って金髪の美女──ドリアーダさんが納得したようにコクコクと頷く。

 この世界で長距離移動の手段といえば基本的に馬車である。ただ、馬車の移動というものはトラブルが多い。魔化された木材などを使ってなかなか壊れないように工夫しているようだが、車軸なんかは折れる時は折れるし、車輪が車軸から外れて破損することだってある。魔物や盗賊の襲撃で時間だけでなく命まで失うこともある。

 そういうわけで、遠距離移動の旅程に遅れが出たりするのは割と普通のことであるらしい。まぁエレンの上司は聖王国で立場が急激に悪くなっている懐古派の首魁なわけで、恐らく敵対派閥である主流派からの妨害なんかも色々あったんだろう。


「それにしても、コースケさんは不思議な人ですね」

「まぁ面白人間に片足どころか両足突っ込んで肩くらいまでどっぷり浸かってる自覚はありますね」


 シャベルの一振りで広範囲の土を掘り返したりできるようになっている今、ドリアーダさんの言葉を否定することは全くできそうにない。


「その不思議な力は精霊から授けられたのですか?」

「正直言ってよくわからないんですよね。気がついたらこっちの世界にいたんで。特に精霊だか神様だかと会話した記憶も無いですし。生き残るために目の前にあった森に入って、ふとした拍子に能力を自覚して、その矢先にシルフィに出会いましたから」

「そうなんですね……そうだ、シルフィとはどのように出会ったのですか? 私、興味があります」


 ドリアーダさんが頬を上気させてワクワクした様子で聞いてくる。シルフィとの出会い。シルフィとの出会いねぇ……。


「視界も効かない朝方に寝床から叩き落されまして」

「?」

「わけも分からず落下した衝撃に喘ぎながらも手元に武器を取り寄せようとしたら、こう、手の甲から手の平まで貫通するようにナイフか何かを突き立てられて」

「??」

「痛みに混乱していたところに顔面キックを食らいました。ブーツの底で」

「???」

「それで倒れ込んだところを踏まれましたね。頭をブーツで。頭蓋骨がミシミシ言うくらい」

「あの、シルフィとの出会いの話ですよね……?」

「そうですけど」


 今思い出しても背筋がゾクリとするなぁ、あの状況。シルフィが俺を殺すつもりだったら目覚めることもなく寝首を掻かれて終わってただろうし。


「出会いはもの凄くバイオレンスだったんですよ。本当に」

「……」


 恐らくロマンチックな出会いを期待していたであろうドリアーダさんが片手で目元を覆い、深い溜め息を吐いた。


「それでその後はまぁ、なんとか殺されずに済んで情報交換に成功して、エルフの里に連れてってもらって、当時は解放軍ですらなかった難民の皆にリンチされかけたところをシルフィに助けてもらって、隷属の首輪を嵌められてシルフィの奴隷になりました」

「……ちょっとシルフィちゃんと話してきますね」

「あーっ! あーっ! 大丈夫です大丈夫です! シルフィが俺を奴隷にしたのは人間を憎んでいる難民やエルフ達から俺を守るためでしたから! ちゃんと優しくしてくれてましたから!」


 にこやかにそう言って恐ろしげなオーラっぽいものを放ちながらこの場を去ろうとするドリアーダさんを必死に引き止める。このままドリアーダさんをシルフィのところに行かせると何かとんでもないことが起こりそうだ。


「出会いはそんな感じだったんですけど、一緒に過ごしているうちに可愛い面も沢山見せてくれましたし、というか暴力的に振る舞ったのは本当に最初の一日だけでしたから。その後の奴隷扱いも結局俺を守るためのものでしたから、不可抗力です不可抗力!」

「……当のコースケさんがそう言うならシルフィちゃんのおいたは私の胸にしまっておきます」


 どうにも納得しきっていなさそうな表情だが、一応はシルフィへの突撃をやめてくれることになったらしい。良かった、終わったかと思ったよ。


「というか素朴な疑問をよろしいですか」

「はい?」

「ドリアーダさんは何故こんなところで俺の作業風景を観察していらっしゃるので?」


 農業ブロックを置く範囲を指定しながらそう聞くと、彼女は俺の質問に素直に答えてくれた。


「シルフィちゃんの良い人っていうのがどういう人なのか知りたいと思ったんです。身体は十分に育ったみたいですけど、私やお母様にしてみればシルフィちゃんはまだ子供ですから」

「なるほど」


 彼女達の認識で言えばシルフィはまだ成人年齢前のお子様である。エルフの特異な生態のせいでシルフィの身体はとても子供とは言えないほどに育っているし、その精神も過酷な状況のせいで大分大人びているのだろうが、エルフの感覚から言えば間違いなくシルフィはまだ子供なのだ。四姉妹の長姉であるドリアーダさんや、その母であるセラフィータさんからすればシルフィの伴侶として振る舞っている俺がどのような人物なのか気になるのは当然のことだろう。


「まぁ、俺の評価は自分からはなんとも言えませんけど……俺はシルフィを愛していると断言できますし、シルフィもきっとそう思ってくれていると思います。アイラとかハーピィさん達とかメルティとかエレンとかグランデに関しては……まぁ彼女達の同意があったということで」


 思わず遠い目になる。こうして口にすると自分の節操の無さに嫌気が差してくる。でも、今更言い訳もあるまい。全員俺の大切な人だ。元の世界の倫理観で言えば最低のクズ発言だが、この世界の倫理観では違うのである。


「ふふふ、そんなにたくさんの女性を相手にして平然としているのは素敵ですよ。もう何人か増やしませんか?」

「ヒェッ……シルフィ達に言ってください」


 この城に来てからというもの、神出鬼没で文字通り底なしのスライム三人娘にまで狙われているのである。これ以上増えたら命の危険がある。生存本能がドリアーダさんの危険度をビンビンと感じ取っているのだ。


「わかりました、そうしますね」


 そう言ってドリアーダさんは足取りも軽く中庭から去っていった。え? マジ? マジで聞きに行くの? どうすれば角を立たせずに断れるんだ? どうすれば良い?


「……シルフィに期待しよう」


 頭から湯気が出そうなほど考えた結果、俺は思考を放棄して仕事に打ち込むことにした。薬草畑を作らないとね。死者を一人でも少なくするためにね、必要だからね。あとは過剰生産にならない程度に畑も作ろうかなー。果樹も良いなー。

 ああ、そのまま食べてよし、ワインにしてよし、干してレーズンにしてもよしのブドウにしようかな? よーし、頑張っちゃうぞー。

 俺は都合の悪いことと訪れるかも知れない過酷な未来への不安を忘却すべく畑仕事に精を出すのであった。

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