第192話~呆気ない陥落~
短いけどユルシテ!_(:3」∠)_
「やっと着いたな」
「そうだな。流石に一筋縄では行きそうにもないが」
今日も今日とていくつかの防衛拠点を破壊しながら進むこと数時間。遂に俺達高速打撃部隊はメリネスブルグの手前まで到達した。アーリヒブルグを発ってから今日で三日目だが、道中の防衛拠点を尽く破壊して進んできたということを考えると驚異的なスピードだと思う。もっと多くの兵員を輸送するに足るエアボードが用意できていれば道中の防衛拠点を潰す必要もなかったんだが……兵員の大量輸送に関しては今後の課題だな。もっとお手軽な手段があれば良いんだが。
「それにしても多いなぁ……何人居るんだ?」
「さてな、1000以上、2000未満だとは思うが」
俺とシルフィが揃って目を向けた先には揃いの鎧兜を装備した兵士達が整然と並んでいた。前衛はがちがちに鎧を装備した重装歩兵、その後ろには長い槍を突き出した長槍兵、更にその後ろには弓矢を装備した弓兵。その集団の左右には更に馬に乗った騎兵が展開している。
それに対する俺達の数はきっかり500名。斥候のハーピィさんから報告が入らないとわからないが、人数だけで言えば彼我の戦力差はおよそ二倍から三倍である。まともにぶつかりあえばこちらに勝機はない筈なのだが。
「普通に考えれば絶望的な戦力差なのだがな……」
「……カモにしか見えない」
敵軍の陣容を目にしたシルフィが苦笑をうかべながら呟き、その隣でアイラがボソリと身も蓋もないことを口にする。
「一応します? 降伏勧告」
「まぁ、そうだな。形式的に一応な。まず応じないだろうが」
「だよな」
基本的に剣や槍などを用いたこの世界の野戦というのは数が物を言うものだ。数が多いほうが数が少ない方の降伏勧告で降伏するということはまずありえないと言って良い。
妙な乗り物に乗ってはいるものの、俺達の数は彼らに比べれば半数以下である。いかに身体能力に優れる亜人相手の戦闘だとしても、平原での野戦ということであれば数の多い彼らのほうが有利だ――と彼らは考えているに違いない。
「やるか」
「ほい」
シルフィに外部スピーカーのマイクを手渡すと、シルフィは何度か咳払いをして喉の調子を調整してからマイクに向かって語りかけ始めた。
『私はメリナード王国解放軍の指揮官、シルフィエル=ダナル=メリナードだ。メリナード王国領に展開する聖王国軍に告ぐ。武装解除し、降伏せよ! さもなくば諸君らはこの場で躯を晒す運命となる。武装解除し、降伏すれば本国まで無事送り届けることを約束しよう』
スピーカーからシルフィの声が響き渡る。すると、少しの沈黙の後に敵陣から笑い声が上がった。俺の耳では正確には聞き取ることはできないが、なんとなく馬鹿にしているようなニュアンスは伝わってくる。
「降伏しそうな感じではないな」
「そうだな。仕方があるまい──銃士隊、攻撃開始。折角の広いスペースだ、存分にかき回してやれ。ハーピィ爆撃部隊は敵後衛を壊滅させろ。歩兵部隊は待機。お前達の出番は野戦を挑んできた愚か者どもを殲滅した後だ」
通信機の向こうから了解、という返事が多数返ってくる。それと同時にハーピィ達が俺達の後方から飛び立ち始め、銃士隊の面々が乗るエアボードが滑るように加速を始めた。
それに合わせて聖王国軍は長槍兵を前に出して鈍色に光る穂先をハリネズミのように突き出した。どうやら聖王国軍はエアボードを戦車の類だと判断したようだ。残念ながらそんな生温い存在ではないんだよなぁ。
遠くからガァァァァァン、ガァァァァァン、と断続的に発砲音が聞こえ始めた。それと同時に歩兵部隊の前面に展開していた長槍兵が薙ぎ倒され、槍衾が瞬く間に崩壊していく。
「お、敵の弓兵が射ってきてるな」
「停止結界の前には無意味」
アイラの言葉通り、降り注ぐ矢の雨は銃士隊のエアボードに届く前に勢いを失って落下しているようである。エアボードに乗り込んでいる魔道士がアイラが新しく編み出した結界魔法を使って屋を防いでいるのだ。俺には仕組みがよくわからないが、飛んでくる矢の運動エネルギーを奪う特殊な結界魔法であるらしい。なんでも対象の指定と条件付けに苦労したとかなんとか。
そうやって銃士隊のエアボードが敵兵をゴリゴリと削り取っていると、今度は敵陣の後方で断続的に爆発が発生した。敵陣の上空に到達したハーピィ爆撃部隊が矢の届かない高度から航空爆弾を次々と投下し始めたのだ。
「何度見ても酷いな、これは」
「一方的な蹂躙だよなぁ」
既に聖王国軍は混乱の極致である。
それはそうだろう。前も後ろもズタズタにされているのだ。前衛の兵は未知の攻撃に晒されて半ば恐慌状態に陥っているし、後方は後方で航空爆弾に蹂躙されてミンチ祭りだ。指揮系統もクソもあったものじゃないだろう。密集しているのも良くなかったな。
程なくして聖王国軍のメリネスブルグ防衛部隊は壊滅した。銃士隊20名による機関銃掃射とハーピィ爆撃部隊による執拗な航空爆撃にかかればおよそ1000名から1500名の聖王国軍がたった十数分で物言わぬ躯に早変わりである。あまりにもえげつない。
「生存者の救出、するか?」
「さて、どうしたものかな」
そう言うシルフィは鋭い視線をメリネスブルグに向けていた。何かを警戒しているような雰囲気だな。
「敵に魔道士部隊が見当たらなかった。救出作業中に合唱魔法を撃ち込まれたりする危険性がある」
「ああ、なるほど」
それは確かに迂闊に前には出られないか。聖王国軍が布陣していた場所はメリネスブルグの城壁から割と近い。100mは無いかな。普通の魔法だと多分届かないが、聖王国の魔道士部隊が使うという合唱魔法なら十分に射程圏内なんだろう。
どうしたものか、と考えていると城壁にいくつもの白旗が上がり、閉じられていた城門が音を立てて開き始めた。突然の展開に車内に緊張が走る。
「何が起こっている」
シルフィがゴーレム通信機で斥候ハーピィさんと銃士隊に呼びかけると、銃士隊のエアボードから困惑したような声が返ってきた。
『ええっと……白旗を掲げたアドル教の神官達が城門から出てきました。どうしますか?』
神官、神官ね。このタイミングってことはエレンが上手くやったのか?
「どうする?」
「白旗を掲げているならとりあえず話はできるだろう」
そう言ってシルフィは肩を竦めた。とりあえず、これでメリネスブルグ攻略戦は終わりか? 随分と呆気なかったな……それだけエレンが上手くやってくれたということだろうか。
とにかく、警戒を怠らないように対処するしか無いな。ホイホイと応じて一網打尽にされたらかなわん。




