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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
戦争に向けてサバイバル!
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第190話~魔煌石爆弾~

『敵拠点の抵抗、なくなりましたー』

「レオナール、歩兵を突入させろ」

『承知』


 高速打撃部隊を運用して二日目。今日も今日とてメリネスブルグへの道すがら、聖王国軍の拠点潰しである。昨日潰した聖王国軍の防衛拠点は合計四つ。今日は二つ目だ。高速打撃部隊の手際は回を重ねるごとに良くなってきてきている。

 警告及び降伏勧告をしてジャギラ率いる銃士隊が即座に出入り口を封鎖。ハーピィの斥候部隊と連携しながら伝令その他情報伝達手段を潰し、同時にレオナール卿率いる精鋭兵部隊が突入準備を開始。

 基本的に聖王国軍は降伏せずに籠城の構えを取ってくるので、ハーピィ爆撃部隊が拠点を執拗に爆撃。敵の抵抗を無力化してから精鋭兵が敵拠点内に突入。制圧。制圧確認後、俺が護衛を伴って敵拠点に入り、瓦礫の撤去と戦利品の収奪を迅速に行う。その間にアイラ達魔道士部隊が敵の生存者を魔法で治療。そして速やかに次の戦場に移動。概ねそんな感じの流れで俺達は着々と敵拠点を制圧していた。


「敵拠点の抵抗が無くなったというか、殆ど崩れてない?」

「建築士がヘボだった?」

「見た限りでは石材をケチっているようには見えませんが……」

「そりゃ石を高く積んどるんじゃから爆発で横から崩されたらひとたまりも無いじゃろ。そして一箇所崩れたら後はガラガラと連鎖的に崩れるわけじゃな」

「「「なるほど」」」


 流石土や石の扱いに関しては一家言あるグランドドラゴンである。グランデの解説に首を傾げていた俺とアイラとザミル女史は深く納得した。


「あれじゃ、あのハーピィどもが落としておる爆弾な。あれに対応するなら高く城壁を築くのではなく、縦横にたくさん堀を掘ってその中で戦うべきじゃろうな。落ちてきた爆弾が地表で爆発しても、堀の中なら衝撃波を浴びることも破片を浴びることもない。堀にすっぽりと爆弾が入ったら直撃したやつは死ぬじゃろうが、被害範囲は少なくなるじゃろ。銃の攻撃からも身を隠しやすいじゃろうし」


 塹壕戦なんて概念を知るはずもないグランデが爆撃と銃撃に対する有効な防御方法として塹壕を掘ることを考えつくとか凄いな。ドラゴンの知恵、侮りがたし。


「流石はドラゴン。賢い」

「そうですね。感服しました」

「そうじゃろうそうじゃろう」


 アイラとザミル女史に褒められてグランデがこの上なく機嫌を良くする。でもビッタンビッタンとエアボードの床をその強靭な尻尾で叩くのはやめようね。揺れるし床が壊れるからね。

 若干ほのぼのとした雰囲気だけど、今も戦闘中なんだぜ。別に俺達はふざけているわけでもなんでもないんだ。なんというかこう、感覚が麻痺しつつあるんだろうな。


「コースケ、次の砦型敵拠点で例のものを使うぞ」


 それに対してシルフィはずっと難しい顔をして気を張った様子だ。果たして感覚が麻痺しつつある俺と、緊張感を維持し続けているシルフィ。どっちがマシなのかは全くわからないな。


「……あまり気が進まないけど、実験は必要だよな」


 そう言って俺は昨晩作り上げた特殊な航空爆弾をインベントリから取り出した。

 大きさは普通の航空爆弾とあまり変わらない。しかし、この航空爆弾には折り畳んだパラシュートがつけられている。起爆装置などもゴーレムコアを利用した信頼性の高い仕様のものだ。

 何故爆弾にパラシュートが取り付けられているのか? それは投下したハーピィさんが投下後に爆発に巻き込まれないようにするためである。

 そして、この爆弾だが……この爆弾には爆薬は入っていない。その代わり、標準サイズの魔力結晶が一つと、ごく小さな魔煌石の欠片が二つ封入されている。

 そう、これは投下用の魔煌石爆弾なのである。

 魔法の仕組みを理解していない俺にはその作動原理を完全に理解することは出来なかったのだが、バラして解析したアイラが言うには魔力結晶の魔力を二つの魔煌石の欠片の間で循環させながら増幅させ、最終的に二つの魔煌石の欠片が蓄えられる許容量を大きく越える魔力を生み出す事によって大爆発を起こすということらしい。

 なるほど、わからん。


「計算上は小規模の砦一つを吹き飛ばす程度の出力」

「計算上はな」


 万が一計算で一桁間違えていたとかいう事態が起こると砦ごと俺達が吹き飛びかねない。だから運用には万全を期す必要があるわけだ。


『制圧完了である。回収と救護を』

「よくやった。魔道士隊、砦へ。コースケも頼む」

「ん、わかった」

「はいよ」


 シルフィの指示に従って俺は航空魔煌石爆弾をインベントリにしまい込み、運転席から降りた。続いてアイラと武器を携えたザミル女史も降りてくる。シルフィやメルティは留守番、グランデはそもそも降りる気ゼロのようであった。賢いけど基本ぐうたらなのである。ドラゴンなので。


「さーて、お仕事お仕事……」

「ん」


 念の為いつでも武器を取り出せるようにショートカットを確認しながら崩壊した砦に向かう。

 俺達が今やっているのは血で血を洗い、敵の命を塵芥のように扱う戦争行為だ。だが、それでも自分達が守るべき一線というものは一応こさえてある。

 聖王国が俺達解放軍を賊としてしか認識していない手前、本来俺達解放軍と聖王国の間には一切の戦争法規というものは存在しない。生き残りを嬲り殺そうが、盾に貼り付けて人の盾にしようが誰にも咎め立てられることはないのだ。本来は。

 勿論問題がないわけではない。あまりに残虐な所業を行うと民衆の支持は得られないし、後々の政治的な交渉に響く。それに、降伏が無意味だと知れば敵は死兵と化してそれこそ言葉通りに死物狂いで頑強に抵抗してくるようになるだろう。それは俺達にとっては大きなマイナスだ。今のところは抵抗の余地もなく撃滅してるけど、良いことではない。

 まぁ、身も蓋もなく言ってしまえば後々に聖王国と交渉する際のアリバイ作りみたいなものだな。

 一応俺達としては大きく三つのスタンスを採用している。


『攻撃前に通告と降伏勧告をする』

『負傷して戦闘能力を喪失した敵兵には手当てを施す』

『死者の遺体は放置せずにまとめて荼毘に伏す』


 という感じだ。本当は戦争法規も何も無いんだから俺達は無警告で容赦なく敵を攻撃しても構わないし、負傷兵の救護なんてする必要もないし、敵兵の遺体をわざわざ処理する必要も無いんだけどね。

 ただ、今回の戦いの内容を後々聖王国側の口撃材料とされてしまうのは業腹だ。だから俺達は自らある程度の節度を持って聖王国軍に接してるってわけだな。別に善人ぶっているわけでもなんでもなく、ただ必要だからそうしているのだ。

 なんてことをつらつらと考えながら歩いていると、ちょんちょんと脇腹を突かれた。突いてきたアイラに目を向けると、大きな瞳がじっと俺の顔を見上げていた。うーん、可愛い。


「魔煌石爆弾を使うのは気が引ける?」

「ちょっと色々あってな。心理的抵抗感が無いとは言えない」


 別に魔煌石爆弾は深刻な放射能汚染を引き起こしたりもしないし、放射性降下物が広範囲に降り注いだりもしないんだけど、どうにもあの驚異的な破壊力を見ると心理的なアレルギーめいたものがね。

 大量の航空爆弾で砦一つを瓦礫の山に変えるのも、一発の魔煌石爆弾で砦一つを瓦礫の山に変えるもの同じことと言えば同じことなんだけどもさ。


「本国から来てる本隊に投入するって時に、ぶっつけ本番ってわけにもいかないからな。まぁやるしかないだろう」

「ん、必要」


 そうやって話しているうちに崩壊した砦に辿り着いた。アイラは俺に手を振って負傷者の集められているエリアにテクテクと歩いて行ってしまったので、俺はザミル女史を引き連れてそこら中に散乱している瓦礫や敵兵の肉片を片っ端からインベントリに収納していく。

 瓦礫を片付けている間に埋まっている生存者を見つけたり、それはもう酷いことになっている遺体を見つけたりもする。鼻の良い兵が瓦礫に埋まっている生存者を見つけた場合、ダッシュで底に向かって瓦礫を撤去したりもする。半ば重機のような扱いである。

 まぁそれは良いとして、この作業の何がキツいって言うとやはり死体をたくさん見ること。これに尽きるだろう。体の一部が欠損しているくらいの死体はまだいい方で、下手すると上下に真っ二つとか、上半身や下半身が見当たらないとかって感じの死体が普通ゴロゴロしている。もう慣れたからゲロを吐くことは無くなったが、気分の良い仕事ではない。

 片付けが終わったら俺が穴を彫りそこに集めた死体を入れて魔道士部隊が火の魔法で一気に焼き払う。そして遺灰を埋め、石碑に今日の日付とこの世界の鎮魂の言葉を彫って俺のお仕事は完了だ。

 砦にあった物資は武器防具、食料に資金、資材、崩れた砦の残骸に至るまで全て俺のインベントリに収納である。今回の砦は爆撃で砦全体が崩れたので、ほぼ更地だ。慰霊碑だけがここに砦があったことを証明するかのように佇んでいる。


「んじゃ、次に行くか」

「そうであるな」


 そう言いつつ、俺が慰霊碑を立てるのを近くで見守っていたレオナール卿は今度は寄り集まって呆然としている聖王国兵の生き残り達に視線を向けていた。

 治療した聖王国兵は砦の備蓄から近くの村や街に行くのに必要なだけの物資だけを渡して放逐である。ギリギリ歩けるくらいまでは治療したので、後は自分で頑張れという処置だ。正直彼らの面倒を見ている暇は俺達には無いので。


「思うところが」

「フン……あんな腑抜けどもはどうでも良いのである。次に行くのであるな」

「そうか。そうだな」


 肩を竦めて歩き去っていくレオナール卿の背中を追う。尻尾の先の毛が微妙に膨らんでいる辺り、何かと思うところはあるようだが、自制しているみたいだな。流石は百戦錬磨の武将といったところだろうか。


「次は魔煌石爆弾を使う予定だから」

「アレであるか。実験で吹き飛ばされる聖王国軍が少しだけ哀れなのである」


 そう言いつつレオナール卿の背中が小刻みに揺れた。魔煌石爆弾で聖王国軍が砦ごと吹き飛ばされるのを笑っているのだろう。

 普段はお気楽食道楽のおっさんであるレオナール卿だが、二十年前の戦争では奥さんを聖王国軍に殺されたって話だからな。しかも酷く名誉を傷つけられて。言葉では同情しても恨み骨髄の本心は少し気が晴れるような感じなんだろう。


 ☆★☆


「とまぁ、そんな感じでな」

「あれでレオナールも相当丸くなったのだがな。ここ数ヶ月は解放軍の将軍としてあちこちで聖王国軍の残党狩りをしていたし、古傷が疼いてきているんだろう」


 俺とアイラ達魔道士部隊が協力して作った塹壕から顔を出し、砦の方に視線を向けながらシルフィがそう言う。

 本日三つ目の敵防衛拠点に着いた俺達は早速降伏勧告を行い、今は相手の出方を待っているところである。到着時には全く迎撃の用意ができていなかったので、まだ俺達は敵の情報よりも早く攻略を進めることが出来ているらしい。


「相手も困惑しているだろうな」

「そうだろうな。見たこともない乗り物に乗って突然現れたと思ったら、四半刻後に砦を破壊する、だもんな。しかもそう言った相手が遠巻きに砦を取り囲んで堀を掘ってその中に隠れてるわけだし」


 聖王国軍側からするとわけがわからないだろうな。

 だが、彼らはわけがわからないなりにも防衛準備を進めているようで、全く降伏するような気配が無い。


「シルフィ姉、そろそろ時間」

「そうだな……コースケ」

「へい」


 インベントリから風魔法式拡声器を取り出してシルフィに渡す。エアボード用の拡声器を作った時に一緒に作ったやつだ。所謂トランジスタメガホンの魔法版である。

『砦に立て籠もっている聖王国軍に次ぐ。即刻降伏せよ! さもなくば砦ごと貴公らを破壊する!』

 シルフィが呼びかけるが、聖王国軍からの返事はパラパラとまばらに降り注いでくる矢であった。屋の有効射程外なので、殆ど矢が届いていない。


「まぁ、こうなるな。ピルナ、作戦実行だ」

『了解。魔煌石爆弾、投下開始します』

「総員耐衝撃防御。飛んでくる砦の破片に気をつけろ」


 無線越しに各部隊の隊長達から返事が返ってくる。

 ちなみに、エアボードはインベントリに収納済みだ。爆発の衝撃で壊れたりしたら大変だからな。


「ん、ピルナが飛んでる」

「ああ。投下したな。隠れるぞ。シルフィもだ」

「ああ」


 爆発の瞬間を見届けようとするシルフィの袖を引っ張り、塹壕の中に身を隠させる。

 

 まだかな? と思った次の瞬間、目の前が真っ白になって音が消えた。


 塹壕の中に身を隠していたはずなのに、平衡感覚がおかしい。立っているのか座っているのかすら判然としない。耳からキーンという音が聞こえている気がする。鼓膜がやられたのだろうか?


「コースケ、アイラ、無事か?」

「ん、大丈夫」

「俺はまだクラクラする」


 地面に両手を付き、目を瞑っているうちになんとか回復してきたので、立ち上がって塹壕から顔を出してみる。


「Oh……」

「跡形もないな」

「ん、威力は概ね計算通り」


 離れた場所に存在したはずの砦は基礎部分すら残さずに綺麗サッパリ吹き飛んで消えていた。生存者は恐らく一人も居ないだろう。


「これを濫用するのは危ういな。最終手段に留めるべきだろう」

「どうかな。まぁその辺りは今夜の軍議で決めるとしよう」

「ん、それが良い」


 俺の慎重論にシルフィとアイラはその場では同意してくれなかった。

 最終的な製造とか、原料である魔煌石の供給に関しては俺に頼る部分が多いわけだから、もし俺の意見が通らなかったとしてもコントロールはできると思うが……注意しなきゃいけないな、これは。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後の手段という内容の意味合いはその時その時で違うから大丈夫でしょ。
[気になる点] 敵との距離が近付いたら使えないのに、最後の手段とはこれいかに。
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