第186話~帰還と準備~
天狗の仕業でうたた寝をしてしまったので短いです。ゆるしてね!_(:3」∠)_(責任転嫁
アーリヒブルグへの帰路はすこぶる順調であった。高速で飛翔するグランデに追いつける魔物はソレル山地には存在しないからだ。向こうを出るのが少々遅かったのでグランデもちょっと本気を出して飛んだらしい。
それでもアーリヒブルグへの到着は日が落ちるギリギリの時間で、滑り込みセーフって感じだったけど。解放軍の本拠地と化しているおかげで比較的治安の良いアーリヒブルグ近辺であるが、流石に夜間は門が閉められるからな。まぁ閉まっても俺とグランデはいくらでも入れるけど。権限的な意味でも物理的な意味でも。
「よく戻った」
「ああ、ただいま。危険なことは……そんなに無かったぞ」
「嘘をつけ」
「いひゃいれす」
俺を出迎えてくれたシルフィがジト目で俺を睨みながら俺の両頬を引っ張ってくる。彼女が本気を出すと冗談でもなんでも無く俺の両頬の肉が引き千切られてもおかしくないので、恐らく多分に手加減をしてくれているのであろう。
「おかえり」
「ああ、ただいま」
頬を抓られている間にいつの間にかアイラが俺に抱きつき、胸元からジッと俺を見上げてきていた。丁度良い位置にあるその頭を撫でてやると、彼女は大きな一つ目を気持ちよさそうに細める。
こんなに小さいけど歳上なんだよなぁ。
「無事なようで何よりです。聖女様とはどうでしたか?」
少し離れた場所でにこにことそれはもう満面の笑みを浮かべていらっしゃる角の生えたあくまがそんなことを聞いてくる。
「どうもこうもないだろ常識的に考えて」
「獣のように襲いかからなかったんです?」
「ないです」
寧ろ押し倒されそうになった。押し倒されなかったけど。
「というかだな、無事を喜んでくれるのは良いけど、時間がないからおふざけもこの辺りでな」
「「「えーっ!?」」」
今か今かと出番を待っていたハーピィさん達が盛大にブーイングを始める。君たち十人以上もいるんだから、一人一人ネタを披露してたらそれで一日潰れちゃうでしょ?
☆★☆
この期に及んで話し合うことなどそうそう無い……というか俺は話し合いに使う時間を装備の生産に回して、その他の調整はシルフィ達に任せたほうが何倍も効率が良いのだ。
とは言え、俺がやらねばならないことはモノを作ることだけではない。
「非常に大きな音が鳴るから、音に敏感な人は注意するように……いいな? じゃあ撃つぞ」
そう言ってからトリガーを引き、銃弾を発射する。
ズガーーーッ、とまるでまるで布をでも切り裂くかのように途切れること無く銃声が響き、発射され続けた弾丸が射撃場に並べられた鎧付きのターゲットを横一閃に薙ぎ倒していく。チョビ髭さんの電動のこぎりと呼ばれるこの機関銃は発射間隔が非常に短いのだ。
そう、俺がやらなければならないことというのは、このようにこの世界に存在しない『あっちの世界』の武器の使い方を然るべき連中に教えることである。
「この武器はボルトアクションライフルの延長線上にある武器だ。機関銃――マシンガンってやつだな。威力は見ての通りで、鎧を身に着けていようが盾を構えていようがお構いなしに相手を紙屑のように引き裂ける。使用している弾薬は皆が使っているボルトアクションライフルと全く同じものだ」
そう言って俺はインベントリから弾帯でひと繋ぎにされた小銃弾を取り出す。まぁこうなっていたら小銃弾というよりは機関銃弾と称したほうが良いかも知れないが。
「こいつは毎分1200発という凄まじい連射速度で銃弾を発射する。無論、そんなスピードで銃弾を撃ち続けたら銃身が加熱してとんでもないことになるから本来は頻繁銃身の交換をしなきゃならないんだが、こいつは銃身を黒鋼で作っているから、多少マシだ。それでも予備銃身は必要だけどな」
言いながら俺は空冷式銃身カバーの横にあるハッチを開いてずしりと重い銃身を取り出してみせ――。
「あっつ!」
火傷しそうになって慌てて銃身カバーの中に戻した。手袋でもしておくべきだったか。
「何やってるんだい」
その様子を見ていた銃士隊の隊長──豹獣人のジャギラが苦笑を浮かべてみせた。そんな彼女の耳はぺたりと伏せられており、そうやって騒音を防ぐのかと俺は感心する。獣人ってのは色々と便利だな。俺なんてまだ耳が痛いぞ。
「なんというか……その、凄い武器だけど」
ジャギラは耳をぺたんと伏せたまま歯切れの悪い様子を見せる。
「人間相手に使うには強力過ぎる?」
「ん、まぁ……」
ジャギラは俺の言葉に頷いた。銃士隊の他の面々も同じような表情だ。
「うん、まぁそう思うのは尤もな話だな。ボルトアクションライフルはあくまでも弓やクロスボウの延長にあるものだ。個人が個人を殺すための道具で、まぁ『武器』と称しても良い範疇のものだと思う。それに対してこのマシンガンは少数で大集団を一方的に蹂躙し、掃討するために作られた『兵器』と言うべきものだ、と俺は思っている」
ジャギラ達は俺の言葉を真剣な表情で聞いてくれている。それを確認した俺は言葉を続けた。
「正直、ボルトアクションライフルもそうだけど俺が持ち出すこういう武器っていうのは、この世界に本来あってはならないものなんだとは思う。これを使った戦いはもはや戦いと呼べるようなものではなく、一方的な蹂躙となるだろう。それでも俺はこいつを戦場に投入するし、お前らにこの武器を使って敵を殺させる。何故なら、それがどうしても必要だからだ」
これから先の戦いで必要になるのはエアボードの持つ機動性だ。ただ、機動性だけがあっても仕方がない。敵の足を止めるだけの攻撃力が要るのだ。それも、圧倒的な戦力を物ともせずに確実な損害を与えられる攻撃力が。
「銃士隊の今後の任務については追ってシルフィかダナンから伝えられる。ただ、その任務を果たすためにこの武器は必ず必要になる。だからとにかくこいつの扱い方を覚えてもらう」
「わかった。皆も良いね?」
ジャギラの問いかけに銃士隊の面々が頷く。
もしこの世界にも地獄なんてものが存在するなら、ジャギラ達も道連れになっちゃうかな。できれば俺とシルフィだけで勘弁してもらいたいところだ。ジャギラ達は俺達に強要されてのことなんだから、情状酌量の余地があると思う。
「何呆けてるのさ。さぁ、そいつの扱いを教えてよ」
「ああ」
ジャギラの声に返事を返して俺は弾薬の装填方法や銃身の交換方法などを教え始める。
一応、こいつを使って聖王国軍を攻撃する前に退去勧告なんかはするつもりだけど、きっと無駄だろうな……爆弾で数千人を吹き飛ばした挙げ句、その他にもあの手この手でメリナード王国領内の聖王国軍を散々痛めつけておいて今更か。とにかく、暴発や事故でこいつを扱う銃士隊に被害を出さないように頑張ろう。
武器を持って迫ってくる敵まで救うなんてことは、それこそ全知全能の神様でもないとできやしないんだろうからな。ゲームなら敵キャラが倒れてフッと消えるだけだから気楽なもんなんだが……ままならないよなぁ。まったく。




