第183話~追跡者~
なんで二十年と三十年を取り違えたんだろう……(´゜ω゜`)(修正しました
今日はちょっと短めです。ゆるして_(:3」∠)_
「衝撃を受けたか」
「それはそうですね……おぞましいという思いが強いです」
そう言ってエレンは深く溜息をついた。魔力持ちの子供を増やすためにエルフの多いメリナード王国を属国化し、その意志を無視してエルフ達を捕らえ、子供を作らせている。その可能性が高いということを示唆されたエレンの表情は暗い……というか、蒼白である。
「力を得るためにそのようなおぞましい行為に手を染めるなんて……彼らに人の心は無いのでしょうか? 拐われた人々にも家族や、恋人がいたはずなのに」
「主流派からすれば人間でないものは人間に奉仕するべき家畜ってことなんだろう。家畜に神はいないって考えなのかもな」
俺の言葉にエレンが絶句する。主流派と懐古派という違う教派に属しているとはいえ、同じアドル教の信徒同士でそこまで倫理観の乖離があるとは考えたくなかったとかかな。
「実際に聖王国統治下のメリナード王国で様々な迫害に遭っていた亜人達から話を聞いて、俺はアドル教の連中がそういう風に考えていると思っていたよ。エレンと出会って、懐古派なんて人々が居るって知る前はな」
「そう、ですか……やはり、そうなると私達は亜人の方々からは深く恨まれているのでしょうね……」
「そりゃあそうだろうな。話したっけ? 俺なんて黒き森のエルフの里に初めて入った時、人間だってだけで何十人もの亜人に取り囲まれてボコボコにされそうになったんだぞ。人間=アドル教徒=囲んで嬲り殺しに値する敵、って図式が彼らの中にできるくらい恨まれてたってことだよ」
エレンが再び絶句する。自分達がどれだけ嫌われて恨まれているかなんて話をされたらそりゃこうなるよな。でも、黙っててもそのうち知ることになるわけだし、早めに教えておくのも悪いことではないだろうと俺は思っている。
「まぁ、心配するな。上手くやるから」
「……大丈夫なのでしょうか」
「大丈夫大丈夫、なんとかなる。任せておけ。俺だって集団リンチにされるような状況から理解を得ることができたんだから。やりようはきっといくらでもあるさ」
今回の件で表立って懐古派と協力できるようになれば、懐古派の人達を受け容れる土壌が多少なりともできるだろう。アドル教主流派と聖王国っていう共通の敵もいるわけだしな。外に共通の敵が居れば手を取り合うことはさして難しくない筈だ。多分。
「とりあえずだな、エレンには身辺に気をつけてくれていれば良い。あとは怪我人が多く出る可能性があるから、その対策を進めておいたほうが良いだろうな。医薬品の手配とか、他にも保存食の手配とかも進めておいたほうが良いかもしれない」
「わかりました。もう行ってしまうのですか?」
エレンが不安に揺れる瞳を向けてくる。そんな目で見られたら置いていくのが心苦しくなるからやめてくれ……。
「ああ、もう行くよ。早く動けば動くだけ人死にを減らせる可能性が高くなるからな」
「そうですか……」
少ししょんぼりするエレンが可愛すぎて悶えそうだが、ここは心を鬼にしてベッドに腰掛けたままのエレンに手を出しだす。
「さぁ、戻ろう」
「……はい」
エレンが俺の手を取り、立ち上がった。そしてそのまま抱きついてくる。
「これくらいは良いですよね?」
「……少しだけだぞ。我慢できなくなると大変だからな。ギャラリーもいるし」
俺はそう言って部屋の隅でニヤニヤとしているポイゾを一瞥する。何か怪しげなピンク色のガスで作られた泡を作り始めたので俺は急いで抱きついたままのエレンを連れて寝室から飛び出した。絶対碌なことにならないやつだ、あれは。
「ポイゾ、しっかりとあの怪しげなガスは処理しておけよ」
「仕方ないのです。別に一発や二発どどんとやっても良いと思うのですよ?」
「女の子が一発とか二発とか言うんじゃありません」
扉の隙間からにゅるんと出てきたポイゾをぴしゃりと牽制しておく。ポイゾはやっぱり三人の中で一番危ないな。あらゆる意味で毒性が強いわ。
「俺は兵法というか、戦術というか、そういうのに関しては素人だからな。エレンはシルフィ達と緊密に連絡を取って事を進めてくれ」
「わかりました」
「またすぐに会える。身辺には重々気をつけてな。ポイゾも、護衛をしっかりと果たしてくれよ」
「わかりましたのです。ベスとライムにもしっかり言っておくのですよ」
「そうしてくれ。それじゃあ……な」
「はい……また」
そうして俺はエレンの執務室を後にし、アマーリエさんとは別のシスターに案内されて装備を返してもらい、城の外へと出るのだった。
☆★☆
さて、事ここに至ってはゆっくりしている暇など一瞬もない。既に敵が動いているとなると、一刻も早く機動部隊の組織やその装備の製造、それに最低限の訓練などをする必要がある。戦略・戦術に関しても早急に詰めていく必要があるだろう。
俺は自分の作るものを使った様々なアイデアを出すことはできるが、それを実際にやるとなると専門家によるブラッシュアップが絶対に必要だ。俺の能力を使えば整備や兵站なんかはゴリ押しでなんとかできてしまうが、それだけで突っ走るわけにも行かないのが組織というものだろう。兵一人一人の命がかかっているわけだしな。
残念だが門の近くでたむろしていた例の案内少年との約束は守れそうにないな。
メインストリートに出た俺はまっすぐ門へと向かい、軽いチェックを受けてメリネスブルグの外へと出る。俺のように手荷物程度しか持っていない傭兵風の男となるとチェックも緩いものだ。一応人を斬ったりしていないかどうか、武器だけは検められたけど。
暫く街道を歩き、お目当ての森が見えてきたところで街道を外れて森へと向かう。そこでふと後ろを見て気づいた。
三人組に着けられている。
なんだろう、エレンと接触したのが原因だろうか? それとも、単に一人だから追い剥ぎにでも狙われているのか? もしエレンと接触したのが原因だと言うなら、奴らは主流派の回し者かもしれない。
さて困ったぞ。どうしたものか。
撒くのは多分難しくないと思う。森に入ってストレイフジャンプを使って高速で移動すればきっと奴らは追いつけまい。ただ、それだと草木を盛大に追ったり踏みつけたりして移動することになるから、追跡に長けた奴がいたらライム達の住処まで追跡される恐れがある。
ではしゃがんでのスニーク移動で隠れるか? やり過ごせる可能性は高いが、確実性には欠けるな。多分俺の体質的に探知魔法的なものには引っかからないとは思うが、普通に見つけられる可能性は十分にある。
一番確実性が高いのは銃を使って一網打尽にして死体をインベントリに収納し、その他の証拠も全て俺の能力で跡形もなく隠蔽してしまうことだが……俺は引き金を引けるだろうか? ギズマヤゴブリン、コボルドにワイバーン、それにグールやリッチに対しては問題なく引き金を引けたが、人間相手にはどうだろう? 行けそうな気もするが、さて。どうしたものか。
俺は森に向かいながら謎の追手に対してどう対処するか頭を悩ませるのであった。