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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
異世界の森でサバイバル!
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第017話~視線の圧力が半端ない~

短め。ゆるして! 昨日はちょっとした仕事に忙殺されたんです!_(:3」∠)_

 俺の言葉を聞いても難民の代表者達は暫く口を開かず、マジマジと俺を見つめていた。真意を図っているのだろうか? それでもおかしくはないな。この人達にとってみれば俺はあくまでも憎い人間でしかないわけだし。

 でもなぁ、俺だって人間だ。当たり前だが。いくらシルフィに恩を返そうとは思っていても、こちらを目の敵にしてくるような奴にいつまでも気持ちよく力を貸し続けることなどできるはずもない。シルフィに対する恩だけでモチベーションを維持し続けるのは難しいだろう。

 だから、どこかで向こう側にも俺という存在をある程度は受け容れてもらわないと困る。俺から彼らへの恨みなんてのは初日に囲まれて嬲り殺しにされかけたことくらいだ。実際には怪我一つしていないし、水に流せと言われれば何の問題もなく水に流せるものである。

 それに、モチベーションだけが問題ではない。場合によってはこれから先の戦いで俺の背中を彼らに任せる場面だって出てくるはずだ。いざという時に安心して背中を任せられないのは致命的だし、そんな相手にクロスボウのような強力な武器を使わせることなんて出来るはずがない。ギズマの甲殻を撃ち抜く威力のボルトを背中に撃ち込まれでもしたらたまらん。


「……わかった、ひとまずは信じよう。姫殿下が信じるというなら俺も信じるまでだ。だが、もし裏切ったらその時は覚悟しておけ。たとえ首だけになったとしてもこの角でお前の心臓を突き殺してやる」

「わかった」


 俺が頷くと、ダナンもまた厳しい表情で頷いた。


「俺達も改めて自己紹介をしよう。俺の名はダナン、メリナード王国の近衛騎士だ。騎士団では副団長を務めていた」


 ダナンはそう言って右手で握り拳を作り、胸を叩くような仕草をした。もしかしたらメリナード騎士の敬礼のようなものなのかもしれない。ダナンは筋骨隆々の大男だ。燃えるような赤い髪の毛の間から太く鋭い水牛のような角が二本生えている。

 今は粗末な服だけに身を包んでいるが、この巨体が金属鎧を身に着けていたらさぞや威圧感があっただろうな。武器はハルバートとかが似合いそう。


「次は私が。私はメルティと申します。メリナード王国では内政官の一人として働いておりました。以後、お見知りおきを」


 そう言って頭を僅かに下げたのは羊のような巻角を頭から生やした女性である。どこか知的な雰囲気を持つ妙齢の婦人である。顔立ちは美人の部類だと思うが、少し地味。どうも髪型や服装が野暮ったい感じだ。これはあれだな、表立ってはモテないけど同僚に隠れファンがいそうなタイプ。

 お胸はシルフィといい勝負である。ばいーん。一瞬しか見ていないのに凄く冷たい目で睨まれた。

 女性はこういう視線に敏感って言いますよね。申し訳ない。でも男の性ってやつなんだ、許して欲しい。


「じゃあ、次は私。アイラ。メリナード王国宮廷魔道士団の団員だった」


 アイラと名乗った小柄な女性は言葉短かにそう言って俯いた。被ってた三角帽子を目深に被って、自分の顔――というか多分目を隠すようにである。

 帽子を目深に被っていたので髪の毛の色についてはよくわからなかったが、彼女はとても特徴的な女性であった。所謂、単眼少女だったのである。彼女の顔の半分ほどを占めるのは大きな一つ目だ。ほとんど見ることができなかったけど。自分の見た目に何かコンプレックスを感じているらしい。なんだか仕草が可愛いのでちょっと覗き込みたくなったが、今は我慢しておく。


「俺はキュービだ。他の三人みたいに大層な肩書きはないが、すばしっこさには自信があるぜ。腕っぷしは……ま、普通の獣人並みだな。目端は効くほうだと思うぜ」


 最後に自己紹介をしてきたのは狐面の獣人だ。というか、顔が完全に狐である。ケモ度高めの獣人だな。

 体格はひょろっとしていて頼り無さそうに見えるが、いかにも身軽そうな感じだ。所謂細マッチョとも少し違う感じに見える。研ぎ澄まされた感じ、とでも言えば良いのか。なんとなくだが、気が合いそうな感じがする。


「よし、自己紹介が終わったところで話を進めよう。先程も言ったが、我々の命運はコースケが握っている」

「大量に色々なものを作れる、でしたか。具体的にはどのような?」

「実際に見たほうが早いだろうな。現場に行くぞ」


 メルティの疑問にそう答え、シルフィはさっさと椅子から立ち上がってスタスタと歩き始めた。幹部達は互いに顔を見合わせ、次に俺を見てくる。


「俺もシルフィの言う通りだと思う。実際に見て判断してもらった方が俺としても好ましい」

「何をしている! 早く行くぞ!」


 少し離れた場所でシルフィが声を張り上げた。俺と幹部達は互いに顔を見合わせ、腰を上げる。ああ、アイラだけは俺と顔を合わせてくれなかったな。残念だ。


 ☆★☆


「ここでいいか」

「んー、そうだな。良いと思うぞ」


 拡張区画に人影は殆どなかった。みんな炊き出しの方に行っているんだろう。俺もちょっと腹が減ってきたな。まぁ、今はそれよりも工事現場である。


「姫殿下、モノを作れる能力と工事現場に何の関連が?」

「まぁ、見ていろ」


 シルフィがニヤニヤとしたいつもの笑みを浮かべる。うん、ダナン達の驚く顔を想像してるんだな、それは。俺にも少しだけシルフィの事がわかってきたぞ。


「なぁ、少しだけ崩していいか?」

「構わん、お前の思うようにやってみろ」

「アイアイマム」


 シルフィからのお墨付きも貰ったので、つるはしをインベントリから取り出す。

 何をしようとしているのかと言うと、中途半端に壁が作られている部分を整地しようと思ったのである。基本、俺が置ける建築系のブロックは1m×1m×1mの立方体の形状だ。しっかりと穴の無いように壁を作るなら、しっかりと平坦な場所にブロックを置いたほうが良い。


「本当は1mくらい掘り下げて基礎を打つんだけどな」


 ぼやきながらつるはしを振るい、出来かけの防壁を破壊していく。お、破壊したら干し煉瓦がアイテム欄に追加されるな。これはこれで後で使えるかもしれん。


「こ、これは……」

「つるはしを振るっているだけで防壁が消えている……?」

「魔力の働きは視えない」

「よくわかんねーけどスゲーな!」


 整地が終わったら今度はレンガブロックを設置していく。厚さは2m、高さは2.5mみたいだが、上部はちょっと形状が複雑だな。まずは厚さ2m、高さ2mの壁を作っていくか。

 昨日、小屋を建てたりしている間にレンガブロックは作れるだけ作っておいたから、まぁなんとかなるだろう。


「ほいほいほいほいほい」


 ドドドドッドドドドッとリズミカルにレンガブロックを積んで防壁を作っていく。ブロックさえあれば真っ直ぐな防壁を作ること自体は単純作業だ。五分もかからず全長30m、厚さ2m、高さ2mの防壁を作り終える。


「まだ建材はあるけど俺の能力を確認するってだけならこれくらいで十分か?」

「そうだな。だが、高さが足りんぞ?」

「ああ、一番上は高さ的にハーフブロックにしなきゃならないし、形状が平坦じゃないだろ? だから他の部分の作りを見てから一気にやろうと思ってな」

「なるほど、納得できる理由だな。見ているだけでは納得できまい? 実際に触れて確かめてみろ」


 シルフィに促されて幹部達が俺の作ったレンガの防壁に近づき、触ったり撫でたりし始める。


「姫様ぁ、蹴っても大丈夫ですか?」

「ギズマの突進を受け止めるつもりの防壁だぞ? 蹴り程度で壊れたら大問題だろう。壊すつもりで本気で蹴りまくれ」

「うっす!」


 キュービがガシガシとレンガの防壁を蹴り始める。それに触発されたのか、ダナンも強く押したり、相撲取りのつっぱりみたいなものをかまし始めた。メルティはその様子を見て納得したのか何もしていないが、アイラはその大きな目でじっと防壁を見つめていた。


「総出でも二週間は掛かりそうな防壁をこの短時間に、ですか。確かに、姫殿下の仰る通りの力を持っているようですね」

「でも、何の代償もなしにこんなものを作れるわけがない。道理が合わない」


 メルティは感心したように腕を組んで頷いたが、そんなメルティとは対称的にアイラは首を横に振ってこちらに視線を向けてきた。吸い込まれそうなほど大きな瞳が俺をじっと見つめてくる。


「どんなペテンを使ったの? 魔力の働きは一切なかった。まるで最初からあそこに防壁があったみたい。あんなのはこの世の理に反している。ペテンでないなら、神の奇跡か悪魔の悪戯としか表現のしようがない」

「俺にだってこの力の原理なんてわからんよ。まるでインチキみたいな能力だって意見には心から同意するけど。質量保存の法則とかそういう類の世界のルールを完全に無視してるよな」

「不条理」


 ズイっと大きな瞳が一歩分近寄ってくる。


「わかる」

「詳しく教えて」


 ズズイッ、と更に大きな瞳が近寄ってくる。気分はカラスよけのアレに睨まれたカラスである。つまり、威圧感が半端ない。思わず仰け反る。ついさっきまで人見知りしてた筈なのに随分と距離を詰めてくるな?


「シルフィ?」

「クク……出来る限り教えてやれ。アイラはそうなると納得するまでテコでも動かんぞ。私も防壁の耐久力を試してくるとしよう」

「えぇ……」

「はやく」


 既にアイラは限界まで俺に接近し、ほとんど真下から見上げてきているような状態だ。小さな両手が俺の胸ぐらを掴んでいる。絶対に逃がすつもりはないらしい。


「わかった、わかったから落ち着け。腰を落ち着けて話そうじゃないか」


 木材に加工する前の丸太を取り出し、椅子の代わりとして地面に置く。一応メルティの分も置いておく。


「先ずはだな――」


 と、俺は自分のクラフト能力についてアイラに説明を始めるのだった。


 ☆★☆


「理不尽、不条理。入力と出力でそもそもの目方が違い過ぎる。しかもよくわからない材質の容器までついてくるとか意味がわからない」

「わかる」


 1リットルの水が入った木の水筒から1.5リットルの飲料水が入ったペットボトルが出来上がるのを見てアイラが不満を零し、俺は相槌を打つように深く頷き返す。


「インベントリの中でズルをしている?」

「いや、してないから。本当にこの焚火で作ったから」

「そもそも焚き火で木の水筒に入った生水を安全な飲料水にするというのがおかしい。一度煮立ててるというのなら鍋とかが必要。木の水筒に入れたまま火に投入したら木が燃えて中身が漏れるはず」

「うん、そうだよな。でも、できてしまうんだ」

「不条理にも程がある。それに、そのインベントリというのも非常識。入っているものの時間を止めるなんて普通ありえない。魔法で同じことをしようと思ったらメリナード王国の領土を半分消し炭にするくらいの魔力がいる」

「いいじゃないですか、アイラ。増える分には困ることなんて一つもありません。彼を通すだけで生水が保存の利く飲料水になり、しかも五割増える。素晴らしい」


 不満げなアイラに対してメルティは非常に上機嫌である。難民達を養うために日々少ない物資をやりくりしている彼女にとって、クラフト能力の不条理さは寧ろ歓迎するべき点でしかないようだ。目がギラギラと輝いている。こええ。


「そのクラフト能力とやらでは食料も作れるんですね?」

「あ、ああ、あまり試したことはないんだが」

「試しましょう。すぐに試しましょう。水のように五割増しになれば儲けものです。さぁ、今すぐ試しに行きましょう」

「不条理を解き明かすきっかけになるかも知れない」


 二人が俺の両腕を取ってどこかに連行しようとし始める。


「へるぷ! へーるぷ! ご主人様へーるぷ! さらわれる!」

「ははは、随分と仲良くなったな」

「おお、モテるなあいつ。いやーうらやましいなー」


 シルフィとキュービがニヤニヤと笑いながら俺を見送る。台詞が棒読みだぞこの狐野郎。ダナンは俺をガン無視して壁を観察中だ。見捨てられた! シルフィのうそつき!


「確か道具が増えると出来ることが増えるんでしたね。では調理器具や食料の加工器具を片っ端からインベントリとやらに入れてみましょう」

「話を聞く限り単純なもの、つまり原材料に近ければ近いほど効率が良い。この男に穀物を挽かせたら出来上がる穀物粉が普通の五割増しになる可能性がある」

「それは素晴らしい。是非やらせましょう」


 この後アイラの予想通りの結果が出てしまい、俺は小一時間ほど拘束されて石臼で粉を挽く機械にされた。勿論昼飯抜きで。ひもじいぜ……。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり芋だろ
[良い点] 一気に爽快感が出て、正直大好きです!
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