第169話~帰還と報告~
ちょっとだけ遅れました。
ゆるしてネ☆_(:3」∠)_(腹を見せて無条件降伏
翌日である。
えー、本日の体力・スタミナゲージの上限値は五割減、五割減となっております。回復するまで数時間かかると思われますので、皆様俺を労るようにお願い致します。特にアイラとグランデとハーピィ達な。
というか君達、何か俺から吸ってはいけないものとか吸ってない? 大丈夫? これレベルが上がってなかったり、色々なアチーブメントとかスキルで増強してなかったら死んでない?
「ちゃんと見極めている。実際安全」
「おっ、そうだな」
そういうことにしておこう。なに、今日はエアボードでメイズウッドからアーリヒブルグに帰るだけだ。その後はシルフィに会って、後方拠点から預かってきた物資を倉庫に出して、研究開発部にエアボードと試作型魔銃と魔力結晶を納品して色々説明して、ゴーレム通信機を使ったエレンと解放軍の会談に立ち会って……割とすること多いな?
ま、まぁ、ちゃんと飯食ってれば徐々に最大値は回復するから……飛んだり跳ねたり走ったりしない限りはなんでもないから……自分をどこまで騙せるものか、チャレンジ中です。
皆で朝風呂に入り、朝食を済ませて臨時宿泊所を撤去する。その光景を見て俺のやることなすことが初見の解放軍兵士が唖然としていた。恐らく解放軍がメリナード王国領を占領した後に入隊した人なんだろう。すみませんね、お騒がせして。
メイズウッドの解放軍駐屯地の人々に別れを告げ、今日も今日とてエアボードで発進だ。メイズウッド-アーリヒブルグ間は流石に通行人の数が多いが、少し高度を上げて路肩の草原を突っ走る。
商隊の馬車をごぼう抜きし、その際に商隊の護衛の人々に滅茶苦茶警戒されたりしたが、二時間足らずで俺達はアーリヒブルグへと辿り着くことができた。
え? 道中のトラブル? メイズウッドもアーリヒブルグも解放軍の最前線だぞ。当然解放軍の巡回も多いし、その際に魔物も駆除している。盗賊なんかが寄り付くこともない。トラブルなんて商隊や行商人の馬車の車軸や車輪が壊れたくらいしかまず無いよ。
エアボードで入市検査の列が並ぶ門の前に乗り付け、エアボードをそのままインベントリに仕舞って華麗に入市検査を顔パスしてアーリヒブルグへと入る。エアボードの存在やそのエアボードを一瞬でどこかに消したことの驚きが勝ったのか、顔パスで順番を抜かしてアーリヒブルグの市内に入っても並んでいた人達に文句を言われることがなかった。
え? 順番を守らずササッと中に入ることに対して罪悪感は無いのかって? 無いです。俺達の経典探索は一応解放軍の重要な作戦行動でもあるわけだしね。一刻も早くこれをシルフィに届けなければならない、という名目もあるし。
というかエアボードでド派手に登場してそのまま普通に並んだら目敏い商人に囲まれるよ。間違いなく。そんな暇は無いのだ。
アーリヒブルグに入ったらハーピィさん達とグランデ達には空から領主館へと先行してもらう。俺達が到着したのを伝えてもらうためだ。ついでにグランデに関してはここで俺との同行もとりあえず解散である。暫く寛ぐと言っていたので、領主館のリビング辺りでクッションに埋もれて過ごすのだろう。
アーリヒブルグの街は実に栄えていた。ここには羽振りの良い解放軍の本部があり、あーリヒブルグにはヒト、モノ、カネが集まっているからだ。まぁ、その資金源は俺の作った畑の作物や、俺が採掘した宝石の原石やその加工品、それにミスリルなどの希少金属、エルフの蜜酒などのエルフの産品などであるわけだが。
「景気が良くなっているように見えるなぁ」
「メルティは中々苦労しているようですが」
「苦労してるだけの成果はあるってことなんだろうな」
エルフの産品は特に高く売れるらしいからな。前にレオナール卿やダナンに聞いた話だと、元よりエルフの蜜酒は普通のエールの百倍の値段だったそうだ。それがメリナード王国が属国化されてからはエルフの産品が入ってこなくなり、エルフの蜜酒は幻の酒という扱いになってしまっているらしい。今ではその価値が更に百倍、つまりエールの一万倍の価格になっていてもおかしくないとか。
この話を聞いた時は震えたね。毎日何の気なしに飲んでいた酒がそんな高級酒だったとは夢にも思わなかった。まぁ結局今も飲んでるんだけどさ。量産できるようになったし。
ザミル女史とそんな話をしつつ、道行く顔見知りの解放軍兵士に挨拶などをしながら解放軍の本部でもある領主館に向かう。領主館の前では既に先行していたピルナ達が待っており、俺達を会議室へと案内してくれた。
「戻ったか。本当に早かったな」
会議室にはシルフィだけでなく、ダナンとメルティもいた。レオナール卿は居ないようだ。どこかにパトロールにでも出ているのかもしれない。
「ただいま。オミット王国時代のアドル教経典の探索は無事に終わったぞ。これが原本で、この二冊が写本、そしてこれが俺とアイラで訳したものだ」
そう言って俺は合計四冊の本を会議室の机の上に置いた。
「シュメル達はなんの問題もなく俺の護衛と遺跡の探索をしてくれたよ。遺跡の調査というか、地下にある遺跡の場所特定に関してはグランデも大いに活躍してくれた。活躍に見合う報酬を渡してやってくれ」
「それに関してはお任せください」
メルティがそう言ってニッコリと微笑んだ。大丈夫だろうか……? まぁ大丈夫か。メルティは締めるところは締めるけど、評価は正当にするタイプだと思うし。念のために後でシュメル達に確認しよう。
「その他にも多数の書籍を発見したから、こっちは専門家に回すほうが良いだろうな。俺が手伝えばかなり作業も早くなると思う」
本の題名と目次の内容を翻訳するだけでも作業が随分と捗るだろう。
「わかった。経典に関しては後で私も内容を確認させてもらう。書籍の解析に関してはアイラに任せても大丈夫か?」
「ん、適切に処理する」
「頼んだぞ。聖女との通信による会談は昼過ぎの予定だから、昼までは自由に過ごしてくれ。シュメル達も解散してくれて構わない。報酬はギルドで受け取れるようにしてある」
「はいよォ。またなんかあったら声かけておくれ」
「ああ、また近い内に護衛任務を頼むかもしれない。その時は直接か、ギルド経由で連絡する」
「了解。んじゃァ、またなァ」
「それじゃコースケさん、またっす」
「じゃあね」
そう言って三人は去っていった。身体の大きい三人が居なくなると、なんだか急に寂しくなったような気がするな。あの三人は性格的にも付き合いやすいし、これからも仲良くしていきたいところだ。
「それで、聖王国の方はどうなってるんだ?」
「それが、聖女の話だと我々を攻撃して奪われた領土を奪い返す方向で話がまとまってきているらしい。懐古派は和平を呼びかけているらしいが、主流派に完全に押されてしまっているようだな」
「まぁそうだよな。そうしない理由は聖王国には無いよなぁ」
俺達はメリナード王国領の南半分を奪取し、平定した。しかし、その広さというのは聖王国本土の広さや、聖王国の他の属国の領土の広さからすると大した広さではない。らしい。
実際のところ、聖王国は数十万人規模の軍を有しているという話だからなぁ……確か今の解放軍の戦闘員は全部合わせても五〇〇〇人足らずだったはずだ。数の上で行けば三万人も派兵すれば俺達を押し潰せる、と考えているだろう。
実際にそんな数で攻めてきたら押し潰されるだろうな、普通なら。解放軍に関しては俺が居る以上絶対にそうはならないと思うが。いざというときの奥の手は日夜生産しておりますので。
「そして、聖王国内で懐古派の立場が悪くなってきているらしい。まぁ、主流派からすれば自分達の教義を否定して、亜人と仲良くするような連中は異端の売国奴なんだろうな」
「動きが急過ぎないか?」
「真実の聖女が聖王国内にいないのをいいことに主流派が急速に勢力を拡大しているらしい。物騒になりすぎて聖女も聖王国に帰るに帰れないそうだ」
「いつの間にそんなことに……」
ということは、エレンは今この瞬間も主流派の連中に命を狙われているんじゃないか? 俺が刺されたあの時みたいに。おいおい、こんなところでまったりしている場合じゃないぞ。早く助けに行かないとマズいんじゃないのか。どうする? グランデに運んでもらうか? その後は? エレンのいるところに乗り込んで攫ってくるのか? どうやって? どうやってでもだ。
実際、俺の能力を駆使すればあの城に忍び込んで、エレン一人を拉致するくらいわけないだろう。エレンを連れ出すことさえできれば、後はエアボードで騎兵の追跡をぶっちぎることだって可能だ。
というか、そんな状況になっているってことを何故俺に伝えないんだ。もっと早く知ってさえいればなんとでもやりようがあったはずだ。
「聖女の言う通りになったな」
シルフィは溜息を吐き、素早い動きで俺の頬に両手を添えて真っ直ぐに俺の目を見つめてきた。シルフィの琥珀色の瞳がじっと俺の目を真正面から見据えてくる。
「実はな、聖女本人に口止めされていたんだ。自分の窮状を聞いたらきっとじっとしては居られなくなってしまうだろうとそう言ってな」
「くっ……」
完全に読まれていた。脳裏に「ふっ、予想通りですね」と鼻で俺を笑うエレンの表情が過る。
「でも、どうするんだ。そんな状況じゃ懐古派を勢いづかせて聖王国をひっくり返してやろうっていう計画が水の泡じゃないか」
「それはそうだな。だからその話し合いを今日の昼過ぎからやるわけだ」
「ぬぅ……シルフィはどうしようと考えているんだ?」
「聖女と懐古派を見捨てても何にもならん。敵の敵なのだから、味方に引き入れても良いのではないかと私は思っている。実際、懐古派の主張する『正しいアドル教』の教義というのは聖王国に対する良い武器になるだろうしな」
聖王国というのは宗教国家だ。その拠り所である宗教の教義が実は間違っているのだということを大々的に喧伝すれば、聖王国という枠組みを支える屋台骨であるアドル教を大いにぐらつかせる事ができるだろう。更に、その『正しいアドル教』を支持する本物の聖女がいれば効果は更に上がる。
中立的な立場の第三国から研究者を招いて経典の内容や、経典そのものが本物であると証明することができればより効果的になるかもしれない。
「聖女と懐古派には使い途がある。多少のリスクを覚悟の上で味方に引き入れるだけの価値があると私は考えている。聖王国よりの人間の反発を抑える効果も期待できるかもしれんしな。我々はあくまでも解放軍だ。構成員の大半は亜人だからな。今もそうだが、メリナード王国の領土を取り戻した暁にはアドル教を信仰するより多くの人間と付き合っていかなければならない。その時に聖女と懐古派は大いに役立ってくれるだろう」
そう言ってシルフィは俺の両頬に添えていた手を離した。メルティやダナンに視線を向けると、メルティは頷き、ダナンは眉間に皺を寄せて溜息を吐いていた。メルティは賛成、ダナンは消極的反対って意見みたいだな。
「メリナード王国領を回復した後に、アドル教の信者の人間を一人残らず国外に追放するとか、皆殺しにするとかはあまりに現実的じゃありませんから。既にメリナード王国領に根付き、この地で生まれた人間だっているんです」
「それはそうだが……」
ダナンは理屈では納得できていても、感情面で納得し難いところがあるのだろう。ここには居ないが、レオナール卿もそんな感じなんじゃないかと思う。彼も聖王国の連中に妻を殺されているらしいからな。
「とにかく、私はそう考えている。異論はあるだろうが、現実的にはお互いのどちらかが滅びるまで戦い続けるなんてことは不可能だからな」
「コースケがいれば聖王国を残らず焦土にすることもできる」
「そんなことをしたら世界中の他の国から袋叩きにされるだろう……」
「ん、現実的かどうかという話に一応突っ込んだだけ。私もそんなことをして良い結果になるとは思っていない」
物騒なことを言ったアイラがシルフィに突っ込み返されて素直に頷く。
「でも、コースケはやろうと思えばそういう選択肢を取ることもできてしまう。それも、やろうと思えば多分たった一人で。だから、コースケは元より私達も十分に気をつけなければならない。大きすぎる力は身を滅ぼす」
アイラが大きな瞳でじっと俺を見つめてくる。俺はその視線に神妙に頷き返しておいた。今までは幸い我を忘れるほど聖王国の連中に怒りを抱くようなことはなかったが、この先そうならないとも限らない。その時にやりすぎないように自制しろとアイラは言っているんだろう。
「わかった。気をつける。会談は昼食を取ってからだよな?」
「ああ、そうだ」
「じゃあ、ちょっと頭を冷やしがてら、研究開発部に行ってくる。色々渡してこなきゃいけないものがあるし」
「ん、私も行く」
アイラがとことこと俺の側まで歩いてきて、服の裾をしっかりと掴んだ。まかり間違っても今からまっすぐエレンのところに向かうような真似はさせないぞという強い意志を感じる。
「……また後でな」
「ああ、昼食は腕によりをかけて作っておく」
シルフィはそう言って微笑み、俺とアイラを送り出してくれた。昼飯までに少しでも落ち着きを取り戻しておけるように努力するとしよう。こういう時は何かに没頭するのが一番だ。
やりたいゲームが多い……!_(:3」∠)_